#インタビュー

株式会社大麦俱楽部|六条大麦で自然と触れ合う機会を人々に与える

株式会社大麦倶楽部 重久さん インタビュー

重久 弘美

1965年3月12日、福井県福井市生まれ。1985年仁愛女子短期大学幼児教育科卒業、同年4月雪印乳業株入社、15年間営業事務OL生活を送り退社。2001年その当時子供が通っていた社会福祉法人岡保保育園(現岡保こども園)に保育士として勤務。しかし2004年脳腫瘍を発症し退職、術後自宅療養を送る。その間、2010年1月夫 典嗣が起業した福井大麦倶楽部の立ち上げから参加する。2011年より福井大麦倶楽部代表、2020年9月に法人化し株式会社大麦俱楽部代表取締役。福井産六条大麦に特化した商品づくりに取り組んでいる。2021年より一般社団法人広域連携事業推進協議会(RPA)理事。

introduction

全国生産高1位を誇る福井県産の六条大麦を活かし、さまざまな製品を生み出す株式会社大麦倶楽部。大麦倶楽部では、栽培から製造まで、環境や消費者に寄り添った工夫がなされています。そして、本来は捨てられるはずの麦の茎を使った、麦ストローを開発しています。
今回は株式会社大麦倶楽部代表取締役である重久さんに、福井県が誇る六条大麦の特徴や、SDGsの取り組みの一環である麦ストローについてお話を伺いました。

地域の特色を活かした大麦

–今日はよろしくお願いします!はじめに、株式会社大麦倶楽部について教えてください。

重久さん:

弊社では、福井県産の六条大麦に特化した食品の製造販売業を行っています。

具体的には、麦茶やご飯に混ぜ込む用の麦、製粉した大麦粉を使ったパンケーキミックスやカレーのルゥなどです。それから、小麦アレルギーの方や食物繊維をとりたい方、糖分をおさえたい方などにも配慮した商品も展開しています。

大麦倶楽部の食品

また、最近では弊社の商品「おおむぎママの麦ストロー®」に注目いただくことが増え、麦ストローに関連したイベントやワークショップに顔を出すことが増えました。

–六条大麦を使ってさまざまな商品を開発しているのですね。六条大麦の特徴やほかの麦との違いについてお伺いしたいです。

重久さん:

美しさと食べやすさが一番の特徴だと思います。北陸で作られている麦はとても白いんですよ。例えば、六条大麦の品種であるファイバースノウは、その名のとおり、雪のように白い大麦として知られています。

また、六条大麦のもち麦は、ほかの地域で作られる品種とは異なり、麦が白くて粒が細かい。なので粒がボコボコと表に出ず、食べやすいこともあり、コンビニのおにぎりにもよく使われています。

–生産過程にも違いはありますか?

重久さん:

ほかの地域では行う「麦踏み」をしない点が挙げられます。麦踏みというのは、麦の茎の数が増え、麦が霜に強くなる効果が得られます。ですが、北陸では麦の芽が雪に覆われるため、自然にその効果を得られるのです。

それから北陸は、麦と米の二毛作にとても向いている地域です。雪に埋もれた麦の芽は、3、4月あたりからぐんっと伸びていき麦秋を迎えます。田植えが終わってひと段落した後、麦刈りをはじめ梅雨入りまでに収穫します。麦がこの地域にふさわしい植物といえる秘密は、麦作と稲作のサイクルがうまく合致する点にあります。

安心安全な大麦を提供

大麦倶楽部の安心安全な大麦

–では、収穫時に気をつけていることはありますか?

重久さん:

大麦の場合、福井では赤カビ防除のために必ず2回農薬を使います。一般的には雨で農薬が落ち切ると言われていますが、それでも収穫してから残留農薬の検査は欠かさず行っており、安心していただける品質のものだけ加工販売しています。

–何重にもチェックしているのですね。品質にはかなりこだわっているのですか?

重久さん:

いくら健康に良いとか、ハラールでもヴィーガンでも食べられると言ってもおいしくないと食べ続けていけないと思うんですよね。なので、衛生的な面はもちろんのこと、おいしさや品質的な部分にこだわって、どこに出しても恥ずかしくない商品を提供しています。

本来捨てられる麦の茎をストローに

大麦倶楽部の麦ストロー

–麦へのこだわりが伝わってきました。そのこだわりの麦をストローとしても活用しているんですね。

重久さん:

麦ストローは麦の実ではなく、茎の部分を利用したものになります。麦はコンバインで刈り取るため、茎の部分は細かく裁断され粉々になってしまいます。そのため収穫した後は、茎を捨てられることが多かったのですが、堆肥以外に何かに活用できないかと。

–そこからストローにたどり着いたんですね。

重久さん:

はい。私は、麦が金色に輝く素晴らしい麦秋の風をお客様に届けられれば良いなとの想いを持っていました。そこで何が一番良いのか考えたところ、麦の原点に立ち返ろうと。

–麦の原点ですか?

重久さん:

麦は英語でストローといいます。なので、本来の姿に戻してあげるという意味でも、麦の茎に手を加えストローにすることで、自然からの素敵な贈り物になるのではないかと。そこから茎が粉々にならないよう、手刈りして麦ストローの制作を始めました。

大麦倶楽部の麦ストロー1

–それはいつ頃のお話でしょうか?

重久さん:

始まりは10年ほど前です。当時は1,000本ほど作ってノベルティとしてお渡ししていました。麦茶を購入していただいた際のおまけにしたり、買い物に来られたお客様に麦茶と一緒にストローをつけたり。

その後、麦ストローだけ欲しいとの声をいただくようになり、2017年に背中を押される形で販売企画を立て始め、2019年から売り出しました。

–どのくらい購入いただいているのでしょうか?

重久さん:

初年度は5万本ほど購入いただきました。2020年はコロナの影響で飲食店様のご利用が減ったこともあり、3万本くらいですね。2021年は生産がまだ続いているのですが、去年を少し上回る量となります。

–多くの方が購入されているんですね!サスティナブルとかエシカルの取り組みが注目されつつあることも関係しているのでしょうか?

重久さん:

そうですね。最近ですと、プラスチックストローを紙ストローに変える取り組みが増えていますが、紙の味が苦手という方もいると思います。その点で麦ストローは麦の味もせず、口当たりが柔らかなので、飲み物本来の味を楽しめるんです。また、重さも軽いので持ち運びにもぴったりで、テイクアウトにも向いています。この辺がご採用いただいている理由なのかなと。

大麦倶楽部の麦ストロー2

–紙の味が苦手な方にとっても、脱プラスチックの取り組みを無理なく続けられそうですね。今後さらに広まっていきそうです。

重久さん:

現在は国内以外にも、福井県・(一社)福井ガストロノミー協会の後押しで、ロサンゼルスでの販売も決まっています。アメリカはプラスチックストロー廃止の動きは大きいですし、麦ストローのことも覚えてもらい、どんどん広まると嬉しいですね。

人々の手に自然からの贈り物を届ける

大麦倶楽部の講演会

–県からの後押しは心強いですね。

重久さん:

はい。これまでは私たちだけで細々とやっていましたが、最近は福井県のような自治体に加え、企業や団体の方々から声をかけていただけるようになりました。例えば2021年に、アサヒビールホールディングスさんとSDGs関連の企業の方が中心となって始められたコンソーシアムに参加し、一般社団法人広域連携事業推進機構(RPA)の設立後理事を引き受けることとなりました。

社団では「ふぞろいのストロープロジェクト」を展開しています。そこでも、今まで一社のみで行ってきた生産加工のノウハウが全国の生産者の方に共有することで、麦ストローが教育機関や企業の方に広がってきたのだと感じております。

–この団体はどのような活動をされているのでしょうか?

重久さん:

主に麦ストローの生産加工販売と、麦ストローをはじめとしたSDGsを広めるための活動をしていますね。2021年には、東京ビッグサイトで開催されたエコプロにアサヒビールHDのブースに社団として参加しました。実際に麦ストローを作るワークショップを行いましたが、多くの小中高生に参加していただきました。

–どのようなワークショップだったのでしょうか?

重久さん:

都内の子どもたちは、そもそも麦というものを見たことがないので、まずは福井から実物を持って来て、実際に触れることから始まりました。そしてみんなで麦ストローを作って持ち帰ってもらいました。

大麦倶楽部のワークショップ

–実際に体験することって大切ですよね。

重久さん:

この体験をきっかけに、子どもたちが実際に見た六条大麦が、普段口にする食べ物やストローになることを知ってもらえたら嬉しいです。

当たり前のように普段触れているものが、自然によって作られていることを知ってもらうことに意味があるのだと信じています。

今後の展望

大麦倶楽部1

–今後目指していることはありますか?

重久さん:

2つの視点から社会に貢献できる企業になっていきたいと考えています。

まず1つ目が、地元の農産品を無駄にすることなく、この土地に根付く方々のお役に立てるものを提供する企業でありたいということです。福井県の六条大麦は、日本一のシェアを誇る特産品なので、それを扱う企業として、食べる以外に「使う役目」も提供できたらいいなと考えています。

大麦倶楽部2

2つ目に、これからさらにSDGsの広がりを増やしていきたいと考えております。麦ストローで雇用を生んだり、企業さんや教育機関の後押しを原動力に、エシカルな取り組みが地域の大きな力になったりすることを目指しています。

–少しずつでもいい影響が広がっていくといいですね。

重久さん:

そうですね。プラスチックのストロー一本を変えるだけだと、小さなスタートにみえるかもしれません。ですが、これが次につながり、すごろくのサイコロのように転がっていけばいいなと思っています。なかなか大きなことをするのには勇気がいりますが、そのきっかけが麦ストローだったら嬉しいですね。

–本日は、ありがとうございました。

インタビュー動画

関連リンク

>>大麦倶楽部

>>ふぞろいのストロープロジェクト