#インタビュー

【SDGs未来都市】沖縄県|県民の声を取り入れた「沖縄らしい」SDGs推進へ

沖縄県 企画部企画調整課 SDGs推進室長 島津さん インタビュー

島津 典子

沖縄県那覇市生まれ。1994年に沖縄県に入庁。2019年度に企画部企画調整課副参事として県庁内のSDGs推進に携わる。2020年度は子どもの貧困対策を所管する子ども生活福祉部子ども未来政策課長を経て、2021年4月から企画部企画調整課SDGs推進室長として着任。2021年5月に、沖縄県はSDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業に選定される。全県的なSDGSの推進を図るため、2021年9月に県民と共に目指す沖縄らしいSDGsの推進の方向性を示した「沖縄県SDGs実施指針」を策定。現在、県民みんなで目指すSDGsの目標やアクション等をまとめた「おきなわSDGsアクションプラン」の策定に向け取り組んでいる。

introduction

東西約1,000Km、南北約400Kmの広大な海域に160の島々があり、独自の文化を育んできた沖縄県。2021年には「SDGs未来都市」に選定されました。今回は沖縄県SDGs推進室に所属する島津さんにインタビューを行い、SDGsの取り組み内容やステークホルダーとの連携、さらに今後の展望を伺いました。

「沖縄21世紀ビジョン」に基づいたSDGsへの取り組み

沖縄県環境部提供:サンゴ礁

–はじめに、沖縄県がSDGsに力を入れるようになった背景を教えてください。

島津さん:

沖縄県のSDGsの取り組みのベースにあるのが、2010年に策定した「沖縄21世紀ビジョン」です。これは県民の参画と協働のもと、2030年の沖縄の「あるべき姿」、「ありたい姿」を「5つの将来像」として定め、取り組み内容や県民、行政の役割を明確化した基本構想です。

実はこの「5つの将来像」とSDGsの間には重なる部分が非常に多くありました。そのため「沖縄21世紀ビジョン基本計画」を基本としつつSDGsの要素を加えることで、新たな時代に対応した持続可能な沖縄の発展を目指すことにしました。(下図参照)

–この取り組みはどういった組織がメインで進めているのですか?

島津さん:

2019年11月に県庁内部に新たに設置した「沖縄県SDGs推進本部」が主となり活動を進めています。知事を本部長、副知事を副本部長とし、全部局長で構成され、全庁体制でSDGsを推進しています。

2019年11月に「沖縄県SDGs推進方針」も策定し、ステークホルダーとの連携やSDGsの普及に力を入れてきました。

ステークホルダーとの連携を強化する「SDGs普及パートナー登録制度」とは?

–ステークホルダーとの連携とは具体的にどういった活動ですか?

島津さん:

SDGsへの取り組みや普及啓発、情報発信を積極的に行っている大学や企業、NPO法人などを「おきなわSDGsパートナー」として登録する「沖縄県SDGs普及パートナー登録制度」を進めております。登録団体の取り組みについては、沖縄県SDGs特設サイトで紹介しており、団体同士の繋がりに発展することも期待しています。

2019年度から開始し、2022年2月時点で407団体にご登録をいただいています。

–かなり早いスピードで登録数が増えていますね。

島津さん:

2021年5月に沖縄県が「SDGs未来都市」や「自治体SDGsモデル事業」に選定されたことが追い風になったのではないかと感じています。

また、県が運営する広報番組や広報誌を活用したPR、県民の方に向けた県政出前講座(出張講座)の実施なども登録推進の一助になっているのではないかという印象です。

–素晴らしいですね!パートナー登録制度を導入したことで、どんな効果を感じていますか?

島津さん:

やはり一番は、県民全体にSDGsを普及啓発していくうえで大きな力になっていることですね。団体ごとの繋がりが生まれるだけでなく、新聞社やテレビ局にSDGsの活動を取り上げていただいたり、学校の先生方が子供たちへSDGsの教育をする際に、沖縄県SDGs特設サイトに掲載された団体の活動を参考にしてくださっているという声も届くようになりました。

2022年度中には県内の企業・団体同士が交流できる「ステークホルダープラットフォーム」の設置も考えており、様々な企業・団体がタックを組んで新しい事業や取組を生み出していくような流れが生まれることを期待しています。

全庁で取り組む組織横断的なSDGs推進

–沖縄県が推し進めるSDGs推進活動の特徴を教えてください。

島津さん:

一番の特徴は、組織横断的な推進体制を構築している点だと思います。縦割りに実施するのではなく、県政出前講座(出張講座)で講師を務める「沖縄県職員SDGsマスターズ」が各部局にいたり、全課に「SDGs推進リーダー」を配置するなど、横の連携も大切にしています。(下図参照)

沖縄県職員SDGsマスターズに関しては、現在約50名の登録があり、県政出前講座(出張講座)など精力的に活動してくださっています。約190名ほどいるSDGs推進リーダーには、各課でSDGsの普及活動を進めてもらっています。

こういった取り組みが、SDGsの達成に向けて頑張っていこうという雰囲気づくりに繋がってほしいと考えています。

沖縄県立美里工業高等学校での県政出前講座(出張講座)の様子

–SDGs推進室だけが取り組むのではなく、全ての課を巻き込んで全庁的に進められているのですね。

島津さん:

はい。最初は「SDGsって何?」といった雰囲気があったと思いますが、現在では各分野の計画にSDGsの要素を取り入れたりと、庁内においてもかなり浸透してきた印象です。

保健医療部を例に挙げると、健康長寿沖縄の復活を目標に掲げ、SDGs目標3の「すべての人に健康と福祉を」を意識しながら、SDGsの達成に取り組んでいます。

–沖縄県では恩納村や石垣市も「SDGs未来都市」に選定されていますね。SDGsへの取り組みにおいて、県と各市町村とではどういった役割の違いがあるとお考えですか?

島津さん:

市町村では、17の目標のうちどの目標に当てはまるかを考えたうえで、地域ごとの課題解決に特化した取り組みができる点が魅力なのではないかと思います。

一方で県の取り組みとしては、17の目標すべてを網羅した形が理想だと考えます。なぜならば、一つの課題を解決するためには、様々な目線からのアプローチが必要となるからです。

例えば沖縄県は子どもの貧困問題の解消を最重要施策と位置付けていますが、根本には社会、経済、環境といった複雑な要素が深く絡み合っています。SDGsの17の目標を意識しつつ、各市町村と連携を取りながら取り組んでいきたいと考えています。

官民一体で進めるSDGsへの取り組み事例

子どもの貧困解消に向けた「子どもの居場所」づくり

–子どもの貧困問題の解消を最重要施策にされているとのことですが、どのような取り組みを行っているか具体的に教えてください。

島津さん:

2016年6月に、「沖縄子どもの未来県民会議」が立ち上がりました。社会の一番の宝である子どもたちの将来がその生まれ育った環境に左右されることなく、夢や希望を持って成長していける社会の実現を目指した官民一体となった県民運動を展開しています。

沖縄子どもの未来県民会議の案内
沖縄子どもの未来県民会議 令和元年度第1回総会の様子

–この中で特に力を入れている取り組みはありますか?

島津さん:

県民会議では、児童養護施設等を退所し、大学等へ進学する子どもたちへの給付型奨学金や子どもの居場所への食支援活動を行なっております。

「子どもの居場所」は、食事支援に限らず生活や学習支援を行っている団体や行政が介入しているもの、ボランティアで運営されているものなど、様々な運営形態のもと多くの取り組みがなされています。

小学校区に一つ以上「子どもの居場所」があれば、地域の中で子どもたちが安心して過ごすことができると考えています。全国の調査において沖縄県は子ども食堂の充足率が1位となっていますが、これからも官民一体となって子どもたちを支える社会づくりを進めていきたいです。

>>こども食堂全国箇所数調査2020結果のポイント

EVカー普及に向けた実証実験

–沖縄県は「自治体SDGsモデル事業」にも選定されていますね。現在進められている事業について詳しく教えていただけませんか?

島津さん:

はい。循環型社会モデルの構築を目指し、再生可能エネルギー導入促進事業や、生活困窮家庭への食支援活動をシステム化するフードネットワーク事業など沖縄県が課題として抱える問題を解消するために様々な取り組みを行っています。

具体的にはSDGs推進室で「EVカーシェアリング実証事業」を行っているところです。(下図参照)

これは、自動車関連メーカやカーシェアリング事業者と連携して、県が平日使用しているEV車両を、カーシェアリングとして土日限定で一般の方に利用いただき、走行時の二酸化炭素排出量の削減やシェアリングエコノミーの促進等による循環型社会の構築を目指すというものです。

また、EVカーを実際に体験してもらうことで環境に対する意識やSDGsの認知向上も狙っています。将来的には市町村や県内企業・団体が所有するEVカーのシェアリングの展開を目指したいです。

県民のSDGs認知度が向上

–県をあげてSDGsへの取り組みを行うなかで、県民の皆さんの変化などは感じていますか?

島津さん:

少しずつSDGsの認知度が上がっていると感じています。2020年8月にSDGsの県民認知度調査を行ったところ、「SDGsという言葉を聞いたことがある、またはなんとなく聞いたことがある」と回答された方は、33.4%でした。現在も着実に増えていっているのではないかと感じています。(下図参照)

–地域や世代で認知度の差などはあるのですか?

島津さん:

地域別で見ると、SDGs未来都市に選定されている八重山地域周辺で認知度が高くなっていました。また、世代別では10代の若い世代での認知度が最も高いというデータが得られています。(下図左側参照)

「誰一人取り残さない」社会に向けた取り組みや活動への意向を聞いたところ、学生さんが一番意欲が高いという結果が得られたことは、大変嬉しかった点の一つです。(下図右側参照)

県民の声を大切に。沖縄から世界へ貢献する

–最後に、2030年に向けた今後の展望を教えてください。

島津さん:

今後も引き続き、県民の皆様の意見を汲み取ったSDGs活動を進めていきたいと考えています。

2021年9月に「沖縄県SDGs実施指針」を策定しました。これは、県民の皆様とともにSDGsを推進するための指針を示したものです。

さらに現在は、具体的な目標やモニタリング指標などを盛り込んだ「おきなわSDGsアクションプラン」策定に向けて取り組んでいます。

–「沖縄県SDGs実施指針」を行動ベースの目標に落とし込んだものが、「おきなわSDGsアクションプラン」ということですね。

島津さん:

そうですね。実施指針には12の優先課題がありますので、アクションプランの中で沖縄らしいSDGsへの取り組みをかたちにしていきたいです。(下図参照)

県民のSDGsへの認知度が高まってきているとは言え、やはり「自分にできること」を認識し、行動に移してもらうことが最も大切だと考えています。

これからも県民の方の意見を広く取り入れ、身近で取り組みやすいものとしてSDGsを捉えていただき、沖縄県だけでなく、日本、さらには世界に貢献できるようなSDGsへの取り組みを行っていきたいと思います。

–本日はありがとうございました!

取材 大越 / 執筆 永瀬

関連リンク

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