#インタビュー

大阪大学|社会との共創で理想の未来を目指す大阪大学〜「SDGs」は大学と社会を繋ぐキーワード

大阪大学理事・副学長 河原さん インタビュー

河原 源太

1987年 大阪大学基礎工学部卒業

1989年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期課程修了

1994年 博士(工学,大阪大学)

2005年10月  大阪大学教授大学院基礎工学研究科

2013年8月 大阪大学大学院基礎工学研究科長・基礎工学部長(2017年3月まで)

2015年8月 大阪大学総長参与(2017年3月まで)

2017年4月 大阪大学総長特命補佐(2017年8月まで)

2017年8月 大阪大学理事・副学長(グローバル連携担当)

※専門は熱流体工学。学内では全学、部局の国際交流における委員等を歴任2019年8月より理事・副学長としてSDGs、2025年日本国際博覧会も担当。大阪大学SDGs推進委員会副委員長、大阪大学2025年日本国際博覧会推進委員会委員長代理、関西SDGsプラットフォーム運営委員。

introduction

昨年に創立90周年を迎えた歴史ある大学であり、現在も各分野で最先端の研究を進めている大阪大学。「地域に生き世界に伸びる」という理念のもと、「地域や社会の課題の解決」と「生きがいを育む社会の実現」を目指しています。

理念の実現へ欠かせないのが、「共創(Co-Creation)」。今回お話を伺った大阪大学理事・副学長の河原源太さんは、この言葉を何度も強調されていました。

「SDGs」を通して理想の未来の実現へ邁進する、大阪大学の取り組みに迫ります。

先進的な研究を社会課題の解決に繋げる「共創」

–大阪大学の歴史と理念について教えてください。

河原さん:

大阪大学の精神的な源流は、江戸時代に大阪の豪商によって設立された町人の学問所である「懐徳堂」と、緒方洪庵が開設し藩の垣根を越えて開かれた私塾である「適塾」にあります。

江戸時代の高等教育機関といえば、幕府の「学問所」や藩の「藩校」が中心で、幕府や藩で働く役人の人材育成が主な目的でした。それに対して、市民性の強い「懐徳堂」と「適塾」は、非常に稀有な学校であったといえます。

「懐徳堂」や「適塾」の市民精神を受け継ぎつつ、大阪の財界や市民、当時の地域行政機関の多大な尽力により、大阪大学の前身である「大阪帝国大学」が設立され、現在の大阪大学となりました。

本学の理念は「地域に生き世界に伸びる」です。研究型の総合大学として、世界最先端の教育研究を担いつつ、常に社会と共にあるという概念を凝縮しております。

現在は、この理念のもと、社会との「共創(Co-Creation)」を掲げています。

人文社会科学系、医歯薬系、理工系といった、大阪大学の様々な教育研究の場で創出される「知」の部分。この「知」を社会課題の解決へ繋げる活動と組み合わせ「共創」することで、社会と共に発展していく大学を目指しています。

–SDGsに力を入れるようになった経緯を教えてください。

河原さん:

大阪大学の理念はもともと、最先端研究の成果を社会課題の解決に生かすことです。そのため、2015年にSDGsが国連で宣言された際も、何かを立ち上げるというよりは、今まで取り組んできたことを引き続き推進していくスタンスをとっていました。

ですが、「社会との共創」を進める活動の中で、「SDGs」は大阪大学の活動にとって切っても切り離せないキーワードであると考えました。

そこで、2020年の9月に「大阪大学SDGs推進委員会」を立ち上げました。より重要な社会課題に、多くのステークホルダーの皆さんと連携して取り組む上で、共通認識としての「SDGs」を明確に意識して、活動を展開することになりました。

学生たちを惹きつけるSDGsへの取り組みとは

–大阪大学で、学生たちが注目しているSDGsへの取り組みはありますか?

河原さん:

全学共通科目の「カーボンニュートラルと私たちの未来」という講義は、多くの学生が受講してくれています。

まず、若い皆さんはSDGsについて強い関心を持ち、その中でも特に関心が高いのは、やっぱり気候変動に関することだと思います。学生の皆さんと話してみますと、カーボンニュートラルの問題は最も深刻な課題の1つとして捉えていることが多いんです。そのため、この講義が多くの学生を惹きつけているのかなと思います。

彼らは、真剣に地球の持続可能性について危惧しています。COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)でも同様に、若い人たちが主体的に参加して国に関わり積極的な活動をすることを推奨しているんですよ。

ただ、入学前から関心を持っている学生が確実に増えている一方で、全学・全入学生に対する比率では決して100%に近いわけではありません。本学のSDGsに関わる内容や活動を知ってもらい、最初は興味がなかった学生にも徐々に広げていこうと思っています。

–授業以外に、カーボンニュートラルの観点で取り組んでいることはありますか。

河原さん:

目標として、大阪大学全体の温室効果ガスの排出量については、2030年度までに、政府目標の達成を目指しています。

この目標を掲げた上で、施設建築の計画段階から、カーボンニュートラルの様々な取り組みを行っております。

例えば、昨年開学した箕面キャンパスや薬学研究科の新築の研究棟では、カーボンニュートラルを意識しZEB(※1)化に取り組み、それぞれ「ZEB Oriented(※2)」「ZEB Ready(※3)」の認証を受けた施設となっています。また、今後新築予定の施設につきましても、同様にZEB Readyの達成を推進します。

ZEB(※1)

Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)の略称で、快適な室内環境を維持しながらも、建物で使うエネルギーを削減すること(省エネ)に加えて再生可能エネルギーの導入などでエネルギーを生み出し(創エネ)、従来の建物で必要だったエネルギー換算での収支をゼロ以下にする考え方。

大阪大学HPより)

ZEB Oriented(※2)

延べ面積10,000㎡以上で用途ごとに規定したエネルギー消費量削減(従来の建物で必要なエネルギーの30%以上や40%以上)を実現し、さらなる省エネに向け効果が高いと見込まれる未評価技術を導入した建物。

大阪大学HPより)

ZEB Ready(※3)

省エネで、従来の建物で必要なエネルギーの50%以上の消費量削減を実現した建物。

大阪大学HPより)

さらに、箕面キャンパスでは、日本の大学では初となる世界的な環境性能認証「LEED-ND(※4)」のゴールド認証を取得しました。

LEED-ND(※4)

米国のグリーンビルディング協会(USGBC)が運営する、国際的な環境性能認証制度「LEED(リード)」の街づくり部門「ND(Neighborhood Development:近隣開発)」の計画認証のこと。

(参考:柏の葉スマートシティ

世界180カ国以上で採用されており、グリーンビルディングとして備えるべき必須条件を満たし、環境性能の評価ポイントの取得の加算によってプラチナ・ゴールド・シルバー・標準認証の4つのレベルが決められる。

(参考:大阪大学HPグリーンビルディングジャパン

この国際環境性能認証(LEED)というのは、建物だけではなく、建物を取り巻く環境自体に認定されるものですので、キャンパスを設置する時にも、環境への配慮を大前提に行っていることが認められたものです。

すでに実社会で活躍中!大阪大学の研究成果

–カーボンニュートラルの課題解決へ向けた、大阪大学ならではの取り組みはありますか。

河原さん:

冒頭でもお話したように、本学の理念は「地域に生き世界に伸びる」です。

この理念を実現するためには、世界最先端の研究成果を、実社会に実装して社会課題の解決へ繋げていかなければなりません。

ここからは、本学の理念をまさに体現している大久保敬教授の研究と取り組みをご紹介いたします。

大久保教授の研究では、メタノールを常温常圧で合成することに成功しました。これは今まで不可能と思われていた画期的な成果です。

これまでメタノールは、およそ50から100気圧で240℃から260℃という高温高圧で生成しなければならず、合成の過程で多大なエネルギーを投じなければなりませんでした。当然、合成の過程では大量の温室効果ガスも排出されます。

それに対して、大久保教授は、温室効果ガス(二酸化炭素)の排出無しで、メタノールを合成することに成功しました。具体的には、二酸化塩素に光照射をすることにより、メタンガスと空気を作用させています。こうすることで、ほぼ100%の収率で、メタンガスを液体燃料であるメタノールとギ酸に変換することが可能になったのです。

これは、合成化学の分野では最も難しい化学反応であると言われてきました。これはもうノーベル賞級の研究だと言っていいと思います。

–CO2を出さずに、液体燃料を作り出すことが可能になったのですね。それは素晴らしいです。

河原さん:

素晴らしいのは研究成果だけではありません。

同僚として誇らしいのは、大久保教授が、その成果を社会課題の解決に用いたいと活動を行っていることです。

大久保教授の技術は、酪農業で得られるメタンガスを使ってカーボンニュートラル社会に活用できるのです。

既に、北海道の興部町で企業と連携してプロジェクトを行っています。

このプロジェクトでは、原料となるメタンガスを家畜の糞尿から採取します。

そして、大久保教授の技術により、メタンガスと空気から、液体燃料のメタノールとギ酸を生成します。

メタノールは乳業工場や地域の燃料として活用され、副次的にできるギ酸はなんと、家畜の飼料になるのです。家畜の糞尿が原料となり、地域の燃料と家畜の飼料に生まれ変わる、環境に優しく、持続可能な循環構造が出来上がるのです。

ゆくゆくは、この技術で興部町のエネルギーの大部分を担っていくことを見据えています。

–大阪大学の研究成果を、企業と連携し地域社会に還元しているのですね。

若い世代が未来について考え、提言する万博へ

–「2025年大阪・関西万博」に向けて、大阪大学が取り組んでいることはありますか。

河原さん:

本学の西尾章治郎総長が、2025年日本国際博覧会協会のシニアアドバイザーとして、「2025年大阪・関西万博」に参画しています。万博構想の初期段階で、経済産業省に出向きヒアリングに応じました。

その際に、本学の理念も踏まえて提案させていただいたのが、「未来について考える万博にしたい」という点です。

1970年に開催された大阪万博は、未来を”体感する”万博だったと感じています。未来の技術を予想させるような展示を行い、その際に人々が体感した未来は実現されたと言えるでしょう。

それに対して、2025年に開催される今回の万博は、未来について”考える”万博であると考えております。

SDGsについてはもちろん、持続可能な未来社会というものを、どう実現していくのか。万博の展示や体験を踏まえて、みんなで一緒に考える。そういう万博にすることが重要だと発言させていただきました。

–”体感する万博”から、”考える万博”へシフトしていく必要があると発信されたのですね。

そうですね。そのためには、まずはみんなで議論する必要があります。

実際に未来を生きるのは若い人たちなので、若い世代が主導し積極的に関わって、未来へのメッセージを発出してもらう。これが実現すると、未来への指標になる宣言が出されることになり、またその過程で若い人材が育成されるという点で、今回の万博のレガシーになるのではないでしょうか。

提案したからには大学独自でもやろうということで、万博に向けて、みんなで未来について”考える”場である「いのち会議」事業の計画を進めています。既に動き出していまして、関西SDGsプラットフォーム内に大学分科会が立ち上がりました。また、このメンバーを中心に「万博大学連合イニシアティブ」も立ち上がっており、SDGsと万博に向けての活動をキックオフしております。

また、大学の活動をSDGsと関連づけて深く知ってもらうために開催した「SDGs@HANDAI2022」でも、のべ700名以上の高校生が2回の講演会と1回のワークショップに参加しました。ワークショップでは、「フューチャーデザイン」を用いてディスカッションを行いました。「フューチャーデザイン」とは、本学の原圭史郎教授が提唱しているもので、未来の自分が未来社会の一員となったと想定して、未来をよくするために、現在をどう変えるべきか議論する手法です。万博のテーマへのアプローチも、このフューチャーデザインの考え方に近いものがあります。

大阪大学はどこまでも社会との共創を目指す〜生きがいを育む社会の実現に向けて〜

–2030年に向けて、今後の展望を教えてください。

河原さん:

「地域に生き世界に伸びる」大学として、「社会との共創」をより一層進め、社会貢献から社会創造へと繋がる活動を推進していきたいと思います。

具体的には、「生きがいを育む社会」を創造する活動を展開しようと考えています。

これはどのような社会かと言いますと、福祉安寧に富む社会であり、世界の平和が実現され、人類と自然環境の調和が実現され、そのような中で、一人一人のみなさんが社会の中で生きがいを感じられるという社会です。万博に重ねて申し上げると、「いのち」が輝く状態と言えるでしょう。

その観点から、日本の大学としては初となるサステナビリティボンド※「大阪大学 生きがいを育む社会創造債」を発行いたしました。先ほど申し上げた「生きがいを育む社会」の提案内容にご賛同いただいたみなさまから、300億円の資金的なご協力をいただきました。調達した資金は「知性あふれる人材育成環境の整備」や「自由な発想が芽吹く研究環境の整備」等の取り組みに充当させていただき、人材育成や研究環境の整備を通して、生きがいを育む社会の実現を目指してまいります。

サステナビリティボンド

調達資金の全てが、グリーンプロジェクトやソーシャルプロジェクトの初期投資又はリファイナンスのみに充当されることを目的とした債券のこと。

(参考:グリーンファイナンスポータル

さらには、「大阪大学感染症総合教育研究拠点(CiDER)」を立ち上げました。

これは、感染症研究と情報発信・政策提言、さらに感染症教育を一体に担う文理融合的な拠点です。日本財団との間で10年間・230億円規模の大型プロジェクトを実施し、感染症に対して強靭な社会の創造を目指した活動を展開してまいります。

こちらの拠点は、SDGsの観点で申し上げますと、目標3の「すべての人に健康と福祉を」に関連します。今後また、新たな感染症が蔓延した時に、単に医学的な対応だけでなく、ポリシーメイキングも含めた社会科学-経済学や心理学など-の観点からも迅速に対応できるように準備を進めます。

現在も、新型コロナウイルス感染症による課題が山積しておりますが、この経験を通して得られた知見や問題認識を活かし、然るべき教育も実施して、適切な対応が取れる人材を育てていきたいと考えております。

–感染症に負けない社会というのも、目指していらっしゃるのですね。最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

様々な方面から活動を展開していく予定ではありますが、「共創(Co-Creation)」で一緒に連携して、本当に社会を変えていくような取り組みを実施していきたいという一貫した想いがあります。

ただ、実際に社会を創造するのは、大学の力だけでは限界があります。

2030年に向けて、「生きがいを育む社会」の創造を目指し、社会の幅広いステークホルダーのみなさまと共に第一歩を踏み出していけたらと思います。

–本日は貴重なお話をいただきありがとうございました。

関連リンク

大阪大学HP:https://www.osaka-u.ac.jp/ja