#インタビュー

PEEL Lab株式会社|植物性皮革と次世代スーパーフードの販売で目指す〈食品ロスのアップサイクリング、動物虐待の回避、地球温暖化の防止〉

PEEL Lab株式会社 Jim Huang(ジム・ファン)さんインタビュー

Jim Huang(ジム・ファン)

PEEL Lab株式会社の設立者であり、CO-CEO(共同最高経営責任者)。
コーネル大学を卒業後、ファイナンスの分野で働き、現在は起業家であり、投資家。SDGsとweb3(次世代の分散型インターネット)に関連するベンチャーへの関心が深い。

Introduction

動物の皮を本革に加工する際に発生する化学物質が、地球環境を大きく損なうことを知ったJim Huangさん。のちにJimさんが設立したPEEL Lab株式会社(日本法人本社/大阪)は、植物性皮革やスーパーフードとして注目されるスピルリナ製品の販売などを通じ、地球温暖化の防止や循環型経済の確立などに大きく貢献しています。

今回は、Jim Huangさんに、地球環境の改善における植物性皮革の役割などを中心に、お話を伺いました。

廃棄される葉や果実の皮が「植物性皮革」にアップサイクル

-早速ですが、PEEL Lab株式会社の事業について、ご紹介ください。

Jimさん:

PEEL Labは、食品ロスを抑制しアップサイクルすること、動物への虐待を抑制すること、そしてCO2排出量を削減し地球温暖化を防止することの大きな三つの目的を掲げて事業を展開しています。

具体的には、廃棄されるはずのパイナップルの葉などから「植物性皮革」を作って販売しています。いくつかのオリジナル製品については、オンラインショップで一般消費者にも販売しますが、メインは、植物性の皮革を企業に卸すB2Bです。

子供が笑顔になる「パイナップルの葉からできたランドセル

-植物がどのような過程で皮革となるのか、簡単に説明して頂けますか?

Jimさん:

現在は、パイナップルの葉と竹のみを使用しています。パイナップルの葉の場合、まず繊維をとりだして布地とします。これは、カーテンやジャケットなどに使用されます。そして繊維以外の部分をパウダー状にしていて、これが植物性皮革の素材となります。

-パイナップルの葉からランドセルも作っていますよね。

Jimさん:

はい。商品名は「パイナセル」です。先日、子供たちにこのランドセルを見せる機会があったんです。彼らは、パイナップルの葉がランドセルになることにとても驚き、ディズニーランドで遊んでいるようなとびきりの笑顔を見せてくれました。また、このランドセルには、軽いという利点もあります。牛革のランドセルはとても重たいですからね。

-軽い利点もあるのですね。作られる製品の特性に合わせて植物選びをしているのでしょうか?

Jimさん:

皮革には耐久性が要求されますから、それに適する植物を選びます。強い皮革を作り、家具や車のシート、ダッシュボードなどにも使用できる、用途の広いものにすることが目標です。今はココナッツの殻や繊維、廃棄木材チップなどの開発を進めているところです。

植物性皮革の低価格化を目指し、循環型経済システムを確立する

-次に、価格のことを伺わせてください。他の皮革と比べて、植物性皮革の価格はどのような状況なのですか?

Jimさん:

皮革の中で基本的に最も高価なのは動物性皮革です。植物性皮革に関しては、使う植物によって大きな価格差が生じます。例えば、ある植物から少しの皮革しか生産できない場合、動物性皮革を上回る価格にもなりえるわけです。

-植物性皮革自体がまだ珍しいですし、希少なものは価格も高くなりがちなんですね。

Jimさん:

ただし、PEEL Labは可能な限り大量に生産し、少しでも安く販売できるように努力しており、現在は、本革価格の半額ほどです。同業他社と比べても、当社は安価ですね。

-植物性皮革は発展途上ですから、廃棄物とのマッチングなどがうまく進めば、もっと安価になるかもしれませんね。そうなれば、農家も消費者もメーカーも皆がハッピーです。

Jimさん:

まさに、それが私たちのゴールです。作ろうとしているのは、循環型経済誰もが利益を得られるようにしたいんです。また、本革への購入行動に変化を促すためにも、植物性皮革を低価格にしてゆくことは必須です。

-顧客の反応はいかがでしょうか?

Jimさん:

一般消費者の反応はとても良く、関心を持ち続けてくれています。また、B2Bでの顧客においては、工場で働く方々なども、どのようにしたらもっと使えるだろうか、と常にアイデアを出しあっています。様々な企業やメーカーが、購入を希望してくれています。

-タイに現地法人を作られたとのことですが、さらに世界にビジネスを拡げるためですか?

Jimさん:

アジアにはパイナップルやココナッツがもったいないほどたくさんある、ということが進出理由の一つです。また、レポートによると、東南アジアの消費者がもっとも革を使いたがっているので、その市場をターゲットにした結果でもあります。

-環境問題に取り組む選択肢はたくさんありますが、なぜ植物性皮革だったのでしょう?

Jimさん:

動物由来の皮革は、加工の過程で環境を汚染しています。最も環境に悪影響を及ぼす石油関連の次の原因となる存在です。植物性皮革が動物性皮革に代わることで温暖化を防止できると考え、参入を決めました。

動物の皮を皮革に加工する際の問題点

-本革加工の際の問題点を教えていただけますか?

Jimさん:

伝統的な本革の加工過程におけるCO2排出量は、1mの本革にあたり107㎏にも及びます。我々の植物性皮革を加工する過程では、わずか4㎏です。

-本革の加工過程でCO2が排出されること自体、まったく知りませんでした!

Jimさん:

107㎏から4㎏に減る事実は、インパクトありますよね。植物性皮革が温暖化防止に貢献できる所以です。また、本革産業全体が一年間に使用する水の量は、約830億ガロン(1ガロン=3.785412リットル換算で約3,142億リットル)。しかもその水が化学物質で汚染されているため、問題点は大きいんです。

-汚染されたままで川や海に流されるのですか?

Jimさん:

すべてが完全に処理されているわけではないため、場合によっては、そのまま流されることがあります。たくさんの化学物質が入った水を普通の状態に戻すのは、大変な作業なんです。

-貴社のSDGsの取り組みに「海の豊かさを守る」も挙げられていましたが、その意味が今わかりました。

Jimさん:

もうひとつの問題は、本革加工に携わる労働者の健康被害です。つねに化学物質に触れているため、癌を発症する確率が普通の人に比べて35%高い、というデータがあります。

-地球環境にも人間の健康にもこれほどの影響があるとは思いませんでした。合成皮革、人工皮革の加工においても有害なことはあるのですか?

Jimさん:

双方ともに、プラスチックを多く使います。プラスチックもまた、きわめて地球の環境によくない素材です。PEEL Labが植物性皮革を加工する場合は、リサイクルされたPETを用い、その量も多くありません。

-動物への影響もありますよね。

Jimさん:

はい。毎年5,000万頭以上の動物が、皮革製品を作るために犠牲になっていると同時に、はぎとられた動物の皮の80%が廃棄されているという事実も植物性皮革を用いている理由です。

-早速ですが、PEEL Lab株式会社の事業について、ご紹介ください。

Jimさん:

毛皮や皮革製品がステイタスシンボルのような時代がありましたが、人々の意識も大きく変わりましたね。近年はハイブランドさえも積極的にフェイクを使っています。

Jimさん:

植物性皮革を、優れた特質を持ちつつ地球環境の改善につながるものとして広めていきたいです。また、この皮革に関心をもったもう一つのきっかけは、べジミートが人気を集め出したことです。そのトレンドにあわせ、植物で出来た革の様々なアイデアもひらめきました

スピルリナ製品で地球の温暖化抑制を目指す

-次に、フードビジネスについて伺います。2022年初頭に、NEXT FOODSプロジェクトとしてスピルリナ製品の販売を始めたきっかけをお聞かせください。

Jimさん:

これも、地球の温暖化防止と関係があります。食肉牛を飼育するには、たくさんの水、土地、飼料、時間がかかります。飼育にまつわるCO2の排出量も多く、それらを削減するためには、タンパク質の豊富な植物性食物が必要です。スピルリナは理想的な食品です。

-だから「スーパーフード」と称されているのですね。

Jimさん:

スピルリナは、30億年以上前に誕生した藍藻類の一種で、タンパク質、アミノ酸、ミネラルなど70種類以上の栄養素を含みます。NASAやJAXSAも宇宙食として研究をしているほど優れた食品なんです。当社はタイにプラントの拠点をもち、安価な販売が可能です

-商品は、スピルリナパウダーやスピルリナ・パスタですね。どんな味がするのですか?

Jimさん:

かすかに塩気を感じる場合もありますが、ほぼ無味無臭です。パウダーは、コーヒーや味噌汁ほか、様々な料理に栄養補助として加えることができます。

将来の展望のひとつは、日本の女性不平等是正への貢献

-最後に、将来への展望をお聞かせください。

Jimさん:

目標の一つは、事業のサステナビリティをもっと推進し、今の取り組みを続けていくことです。もう一つは、将来的に当社に女性のCEOを誕生させること。男女の平等を広めていきたいですね。

-現在、日本のSDGs達成の評価が下がり続けていますが、なかなか目標に届かない一つが、ジェンダー平等の実現です。世界レベルでのご活動の中、日本の男女不平等の現状に気づかれたのですか?

Jimさん:

それもあります。日本は女性の活用が遅れていますね。先日もSDGs関係のイベントがあったのですが、発表者はすべて男性で、当社のみ、女性が発表しました。女性のCEOを目標とする一番のモチベーションは、女性の意見や仕事ぶりが会社のトップに着くにふさわしいからです。

-昔は、女性の仕事はお茶入れやコピー取り、という時代がありました。女性が窓口に出ると「男を出せ」となることもよくありました。そのなごりを今も感じることがあります。

Jimさん:

笑ってしまいますね。力がある女性はたくさんいます。製品や売上のことも大事ですが、同時に、企業や組織の文化も大事です。その部分も、とても大切に考えています。

-地球温暖化や動物虐待防止の取り組みのみならず、女性の不平等にまで目を向けていらっしゃることに感動しています。今日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

Peel lab 公式サイト https://www.peel-lab.com/ja