#インタビュー

新潟県佐渡市|自然と共生のシンボル トキと共生する佐渡島

新潟県佐渡市

新潟県佐渡市 総合政策課 丸山さん インタビュー

丸山 祐一
1972年、新潟県長岡市生まれ。1995年、日本電信電話株式会社入社。主に企業、自治体への法人営業に従事。2022年7月より佐渡市総合政策課に従事。

introduction

佐渡市は、一度野生絶滅したトキを繁殖と放鳥を繰り返すことで、野生復帰に成功しました。また、農薬を減らし水田の生物多様性を維持することで、トキの良質な餌場を確保しています。

このように豊かな自然や佐渡金銀山などの歴史と文化を誇る佐渡市ですが、現在は過疎化による経済の縮小や担い手不足が深刻です。今回は佐渡市役所の丸山さんに、持続可能な佐渡を実現するための取り組みについて詳しく伺いました。

豊かな自然と文化に恵まれた佐渡。人口減少がもたらす課題とは

−まずは、佐渡島についての紹介をお願いします。

丸山さん:

佐渡島は日本海上にあり、5万人が暮らす日本最大の離島です。暖流の対馬海流が流れているので、寒ブリなどの水産資源に恵まれています。

自然に恵まれており、国際保護鳥のトキや美しい棚田も見られます。文化面では伝統的な農文化が評価され、2011年6月に日本で初めて世界農業遺産(GIAHS:ジアス)に認定されました。

佐渡金銀山の開発によって各地から移住してきた人々の文化や、北前船(きたまえぶね)が運んできた西日本の文化などが融合し、佐渡独自の文化が発展してきた歴史があります。

–市としてSDGsに取り組むようになった背景を教えていただけますか。

丸山さん:

自然や文化が豊かな佐渡市ですが、大きな課題は人口減少による経済縮小と担い手不足です。美しい自然や歴史文化をきちんと後世に残すため、そして、SDGsに掲げる持続可能な社会の実現に向けてSDGsの取り組みを市の総合計画に関連付けていくこととなりました。

まずは「持続可能な島づくり」をテーマに2021年にシンポジウムを開き、地域の様々なステークホルダーの方に参加していただきました。そこで市長が「ローカルSDGs佐渡島宣言」をして、課題解決先進地域を目指し様々な取り組みを進め、2022年5月には国からSDGs未来都市に選定されました。

SDGs未来都市として掲げたのは、5つの「島」の姿の実現です。

①トキの舞う美しい島
②笑顔と長寿の明るい島
③文化の薫るおけさの島
④働く汗の光る島
⑤人情と優しさのあふれる島

また、エネルギー面では離島ならではの課題もあります。本土と電気系統が接続されていないため、島内で発電しなければなりません。

現状、9割以上を火力発電で賄っているので、CO2を大量に排出してしまっています。加えて災害が起きた場合、燃料を島外から移入していることもあり、復旧に時間がかかることも想定されます。

その対策として、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを導入し、自立・分散型のエネルギーシステムを構築していきます。 将来的には、小規模な水力発電やバイオマス発電も検討し、エネルギーのベストミックスを目指して取り組んでまいります。

トキが暮らす美しい島を守り、地域に根差した文化の継承をめざして

−「トキの舞う美しい島」「文化の薫るおけさの島」とありますが、佐渡の豊かな自然や文化を守るために具体的に取り組んでいることを教えて下さい。

丸山さん:

国ではトキの飼育繁殖と放鳥に向けた野生順化訓練を行いつつ、佐渡市としてもトキが住める環境を整備することで人とトキが共生できるまちづくりを進めています。

トキの歴史を少しお話しすると、もともと日本全土でよく見られる鳥でした。しかし明治頃から乱獲され、その後は農薬の使用、生息地の改変・消失・開発などの環境破壊によって激減し、2003年には日本産のトキは絶滅してしまいました。

しかし絶滅直前の1999年、中国から贈呈されたトキのつがいから人工増殖に成功し、2008年から野外への放鳥が行われています。現在では毎年数十羽の元気なヒナが育っています。 このような背景があるため、島民にとってトキは生活に密着した愛着のある鳥です。野生に返すことは、自然共生のシンボルになるのです。

将来に渡って「トキの舞う美しい島」であるためには、良質な餌場など生息環境の整備、すなわち多様な生きものが生息できる環境が必要です。

そこで、江の設置などの生きものを育む農法を含む水稲栽培に着手しました。加えて、「朱鷺と暮らす郷」認証米の生産者は、農薬や化学肥料を削減したり、生きもの調査を行ったり、除草剤を使わずに草刈りをしたりなどの方法で水田を維持しています。

また3つ目の目標である「文化の薫るおけさの島」については、佐渡島の金山の世界文化遺産登録を目指して取り組んでいます。世界文化遺産になることで、地域の誇りや愛着を島の人々が持てるようにしていきます。

佐渡は金銀山の開発で栄え、北前船が寄港していた港もあったので、町人文化・武家文化などが融合して佐渡独自の文化が育っています。例えば能楽や座敷唄から盆踊り唄化した佐渡おけさ、家内安全を祈りながら家々の厄を払う鬼太鼓(おんでこ)などです。

他にも様々な文化があるので、それらをしっかりと守り、後世へ継承できるよう取り組んでいます。

住民の健康増進。担い手不足解消には「観光から定住へ」をキーワードに

人口減少に伴う担い手不足に対しては、どのように取り組んでいらっしゃいますか?

丸山さん:

まずは住民の皆さんの健康を大切にする取り組みとして、

S:佐渡で I: 一緒に Z:ずっと E:笑顔で S:住みたいな 

のSIZE S(サイズエス)を合言葉に「みんなで進める食と運動こころのあったか大作戦」を進めています。

佐渡は車社会で、大人も子どもも運動不足の傾向があります。新潟県の中でも肥満率が高く、30代から糖尿病と高血圧の医療費が高くなっています。10代・20代の生活習慣が影響して、69歳以下の若い世代でも要介護者認定される人もいて、若いうちから生活に支障が出てくるケースもあります。

そこで5つの取り組みを掲げて、市民の方に実践してもらっています。

  1. 1日1回は心と体の休息時間を見つける
  2. ご飯の量とバランスを考えて腹八分目を心がける
  3. 毎日10分大股で歩く
  4. 毎年検診を受けて自分の体と向き合う
  5. 地域の人との繋がりを大切にする

世代別での取り組みも行っています。

育ち盛り世代では以下の3つです。

  1. 幼児期のむし歯有病率を下げる
  2. 早寝・早起き・朝ごはんなどの生活リズムを整える
  3. 体を使った遊びや運動をすすめる

働き盛り世代では以下の2つです。

  1. 生活習慣予防と生活習慣病重症化予防
  2. 地域活動を促す

この作戦により、毎朝朝ごはんを食べている児童の割合は1歳半、3歳ともに9割を上回ったり、運動習慣が県・全国平均よりも高い数値を誇ったりと成果が出ており、今後も継続していきたいですね。

車社会という点では、運転が難しくなったお年寄りが多いことも課題となっています。その一方で、公共交通機関である路線バスは過疎化で本数が減ったり、廃線になったりしています。そこで2021年10月に小型電動車を活用したグリーンスローモビリティの実証実験を行いました。市民の方には概ね好評で、商店や市役所までの移動手段として有効だったようです。この実験は今後も続けていく予定です。

また、島の外から人を呼び込む仕組みづくりも大事だと思っています。

4つ目の目標である「働く汗の光る島」に掲げているのが、地域の活力と賑わいあふれるまちにするために注力していきたい「サステナブルツーリズム」です。

新しく観光施設を作るのではなく、野生のトキ観察や原生林エコツアー、レンタルサイクル、ナイトシーカヤックなど、大事に守っていきたい佐渡の自然をそのまま感じられる観光を重視しています。

こうした観光から定住に繋がるような工夫もしていて、集落と連携して空き家をリノベーションし、気軽に佐渡暮らしが体験できるお試し住宅として活用しています。ここで、移住に興味を持たれている方に島での暮らしを体験してもらっていますが、実際に引っ越すとなった場合は引越し費用の補助や若者向けの家賃補助も用意しているので、興味のある方はぜひ市移住ホームページの補助支援項目に一度目を通していただけるとうれしいですね。

「新しい企業を誘致する取り組みでは、民間事業者と連携し、加茂湖湖畔にトレーラーハウスを設置して島外から佐渡に進出するベンチャー企業の事務所を整備しています。この取り組みは2021年度から始めていますが、6台整備したトレーラーハウスには既に8社から利用いただいており、今後も島外から佐渡へ気軽に進出してもらえるよう働く場所の整備を進めていきます。

こういった大人の方向けの定住施策だけでなく、若い方向けにも施策を行っています。島留学といって、小学1年生〜中学3年生とその保護者を対象に、松ヶ崎小中学校に通ってもらう取り組みです。自然と地域に見守られながらコミュニケーション能力の向上を目指し、四季を感じる暮らしを送れると好評をいただいています。

最後に「人情と優しさあふれる島」につなげる取り組みとして、子どもたちの成長過程に応じたサポートをし、多様な働き方を選択できる環境の整備を進めています。

市民や企業との連携が今後のカギ。SDGsの取り組みをパートナー制度で後押し

−自然や文化を保全して地元住民の愛着を深めてもらうと同時に、外から人を呼び込むことで地域の活性化を目指して、さまざまな取り組みをされているのですね。最後に今後の展望をお願いします。

丸山さん:

佐渡市の中長期的な目標を定めた総合計画がありますが、これをいかに企業や市民の方々と一緒に進めていけるかが重要だと思います。

そのためにSDGsパートナー制度で島内の企業や各団体と連携しながら、SDGsの啓発活動や持続可能な取り組みを進める仕組みづくりを検討しています。

市民の方への呼びかけに関しては、SDGsの特設サイトを立ち上げ、情報発信していく予定です。またSDGsの取り組みをガイドブックにまとめ、身近なことでできる例を紹介する企画も進んでいます。

島外からの人の誘致に力を入れつつ、もとから佐渡に住んでいる方に向けた施策も充実させ、佐渡全体として盛り上げていきたいと思います。

−本日はありがとうございました!

関連リンク

佐渡市HP:https://www.city.sado.niigata.jp/