#インタビュー

【SDGs未来都市】愛媛県西条市| 地域ポイントサービスプラットフォームでSDGsの取り組み推進と地域活性化を実践

【SDGs未来都市】愛媛県西条市

西条市 大久保さん 曽我部さん インタビュー

大久保 武

2001年4月西条市役所入庁これまで主に産業振興や地方創生関係事業などを担当し、2021年4月からSDGs未来都市を担当2023年4月から一般社団法人SDGs推進協議会に派遣され、現在に至る

曽我部 智弥

2002年4月西条市役所入庁これまで主に産業振興や市議会事務局などを担当し、2023年4月から現在の未来共創課に配属され、現在に至る

introduction

愛媛県西条市は、水道水を引く必要がない世帯があるほどの地下水に恵まれ、はだか麦や愛宕柿、春の七草の生産量は全国で1位です。

そんな西条市は、宝島社が出版している「住みたい田舎ランキング」では、3年連続で若者が住みたい街1位に選ばれるなど、特に若者世代から選ばれるまちづくりを進めてきましたが、昨今は他の地方都市と同様に人口減少が課題となっており、自治体をどのように維持するかという点が課題となっています。そのような中、持続可能なまちづくりのため、令和3年度よりSDGsの取り組みを進めています。

今回は、西条市の取り組みについて大久保さんと曽我部さんに伺いました。

人口減少の課題に向き合いSDGsの取り組みをスタート

–まずは、西条市のご紹介をお願いいたします。

曽我部さん:

愛媛県東部に位置する西条市は、北は海抜0mの瀬戸内海から、南は1,982mという西日本最高峰の石鎚山を有しています。2023年10月末時点の人口は約10万4,600人、面積は約509平方kmです。

この地域は水に恵まれており、地下水が自噴する「うちぬき」が各地に点在しています。そのため、多くの世帯では地下水で生活ができ、水道水が引かれていません。

また、製造業がかなり盛んで、2018年度の統計では製造品出荷額ベースで四国第3位となっています。一次産業に目を向けますと、2020年時点で約4,000ヘクタールの経営耕地面積を誇り、これは四国1位の面積です。生産量では、愛宕柿や春の七草、大麦の一種である「はだか麦」は全国1位。品種改良されていない在来品種の「絹かわなす」も地域の伝統野菜として有名ですね。

このように経済に関しては、一次産業から三次産業までバランスよく集積しているのですが、人口減少が地域の課題となっています。

–SDGsに力を入れて取り組むようになった背景についてお伺いできますでしょうか。

曽我部さん:

西条市が、人口減少という課題にどのように取り組むかを検討するため、市の人口将来予測をしたところがスタートでした。

人口減少の要因には、「転出入による社会増減」と「死亡数と出産数の差による自然増減」があります。西条市の場合、社会増減はおおむね均衡しているため、「出生率が死亡率を下回る自然減」が人口減少の要因になっているんです。

2013年から2017年の統計になりますが、西条市の合計特殊出生率は1.75です。これは四国で一番高い数値になります。しかし、既に西条市では人口減少が進んでいる状況にありますので、たとえ現在の状況から合計特殊出生率を上昇させたとしても、人口減少を食い止める、または維持することは非常に難しいとわかりました。

さらに明らかになったのが、人口構成が変わってしまうことです。生産年齢人口が減っていき、老年人口が少しずつ増えていくという傾向が、2050年まで継続します。

出典:西条市総合計画 後期基本計画

その結果、2050年になると老年人口指数が94.7となり、生産年齢人口と老年人口がほぼ同じになるといった状況になってしまいます。ただ、2050年以降は老年人口指数が安定するんです。

つまり、人口減少に加えて社会的な人口構造も激変する2050年までの間、どのように自治体を持続的に運営していくのかが西条市の課題となります。そこで、持続可能な地域社会を構築するべくSDGsの観点で各種政策を進めていくことが大切だという考えに至りました。

大久保さん:

そして令和3年5月に内閣府からSDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業の選定を受け、SDGs未来都市計画を策定しました。また、令和元年に策定した第2期西条市総合計画後期基本計画には、未来予測の結果をふまえ、全国に先駆けて「SDGsの達成に向けて取り組むこと」を明記しました。

公民連携でSDGsを推進するために作成したコンセプトブック

出典:西条市×SDGsコンセプトブック

–具体的にどのような取り組みをすすめていらっしゃるのでしょうか?

大久保さん:

軸となる考え方を「西条市×SDGs コンセプトブック」として取りまとめています。これは、なぜ西条市がSDGsに取り組んでいかなければならないのか考え方を整理し、市民の方々がSDGsを自分ごと化することを目指して作成したものです。水に恵まれた西条市の歴史と、どのようにSDGsに取り組めばいいのかを伝える内容となっています。

このコンセプトブックは、公民連携の場として「西条市SDGs推進協議会」を立ち上げる過程の中で誕生しました。同協議会を設立する過程では、持続可能なまちづくりを進めていくために、「西条市が2050年に向けてどうあるべきか」「2050年に向けて人口減少のスピードを軽減させるためには、どのような課題があるのか」などに関して議論を交わしました。そして、出た課題を解決するためにはどうしたらいいのかを検討した結果、「市民総参加でSDGsに取り組まなければならない」と結論づけ、コンセプトブックの作成に至りました。コンセプトブックのキャッチコピーである「LOVE SAIJO Action!SDGs いっしょにやろや ちょっとずつ。」にも、その思いが込められています。

出典:西条市

現在、同協議会は、パートナーとして参画いただける団体が500を超えており、令和5年2月に「一般社団法人西条市SDGs推進協議会」として新たなスタートを切りました。

–では、具体的なSDGsの取り組みについてお伺いできますか?

曽我部さん:

西条市は、「移住の取り組み」にかなり力を入れております。西条市は、宝島社が出版している「住みたい田舎ランキング」で3年連続で若者が住みたい街1位に選ばれており、実績としても移住者が増加しています。

特徴的な取り組みの1つに「移住ツアー」があります。ツアー自体は他の自治体もしていると思います。しかし、西条市が異なるのは、ツアーに参加される方へ事前にきめ細かいヒアリングをする点です。

家族構成から始まり、移住した後に何を実現したいか、移住で気になるポイント、不安な点などをヒアリングし、内容に応じて当日の訪問場所を決めています。他にも、地域のキーマンに「実際に住んでみるとどんな生活になるのか」を、悪いところも含めて直接聞ける機会も設けています。

参加者ごとのオーダーメイドツアーをすることで、移住を検討している人は、西条市での生活をしっかりとイメージしたうえで移住するかの判断ができます。ここまで実践しているからこそ、多くの移住や定住に繋がっているのだと考えています。

地域企業の採用力の強化も

曽我部さん:

地域企業との取り組みには、「まちの人事機能の確立」というものもあります。企業にとって人口減少は「採用が難しくなる」という状況にも繋がっています。そのため西条市では、地域企業の採用力強化を進めてきました。

具体的には、オンライン合同説明会の参加を支援したり、より魅力を伝えられる説明会資料へブラッシュアップするお手伝いをしたり、そもそも企業の魅力や強みを磨くところから伴走したりといった活動です。

さらに、約30社の地元企業の採用担当者同士がお互いの取り組みを学び合う組織も作りました。この組織には、大企業、中小企業の隔たりはなく、さまざまな規模、業種の企業が入っています。将来的には、市が支援しなくても地域企業だけで共に採用力強化をしていける仕組みにしていければと考えています。

地域ポイントサービスを超え、「SDGsを推進する地域経済循環の仕組み」へ

–他にも地域企業との取り組みはありますか?

大久保さん:

西条市の地域ポイントサービス「LOVESAIJOポイント」があります。

地域ポイントは、普及や啓発を図っていくことが大変だと言われます。昨今は多くの自治体が地域ポイントに取り組んでいますが、そのうち大半が収益化はもちろんのこと、利用者を増やすことさえも苦労しています。

実際、「LOVESAIJOポイント」の事業を開始する際にも、「多くの労力と費用をかけるのであれば、ただ普及させて終わりではもったいない」という話が出ました。そこで、地域ポイントで地域経済を循環させるだけでなく、SDGsメーターを通して「自分のSDGs貢献度」を見える化することによって、市民総参加でSDGsを推進する仕組みを構築しました。

出典:西条市

現在力を入れているのが、地域事業者との連携です。

このようなアプリを通じてポイントが付与される場合、健康行動や子育て応援活動など、自治体サービスの利用でポイントを獲得できる「地域貢献型のポイント制度」が一般的です。しかしこれだけでは、どうしても自治体から提供されるポイント原資予算に頼って規模が小さくなってしまうため、市民の方にとって魅力的ではありません。

そこで私たちは、店舗自らがポイント原資を負担してSDGsの取り組みを推進しようとするキャンペーンを積極的に支援しています。キャンペーン情報はアプリのプッシュ通知機能を通じてユーザーの方々に配信しますので、店舗としては広告宣伝の効果が得られます。例えば、「エコバックご利用キャンペーン」「地産地消キャンペーン」「スポーツ用品を修理してリユースキャンペーン」などの独自キャンペーンが次々と発生しています。

独自キャンペーンを実施する店舗には、オリジナルのカードを作成してお渡ししています。キャンペーンに参加したユーザーの方が店舗でこのカードに掲載しているQRコードを読み取ると、LOVESAIJOポイントが付与されると同時にSDGsメーターが上がる仕組みとなっています。このカードが街中に溢れること自体が、市民総参加によるSDGsの実現に繋がると考えています。

また、自治体の施策としては、「省エネ家電の購入促進事業」を実施しました。これは、対象の省エネ家電を購入した場合、最大3万ポイントが付与されるというキャンペーンです。市内の省エネ家電の販売事業者を支援できるうえ、市民の方に少しでも環境に優しいまちづくりに貢献してもらえる施策になっています。

他にも、経済対策の一環で「おいしい食べきり運動」を推進しています。具体的には、西条市が指定する「おいしい食べきり運動推進店」で食事をすると、最大30%ポイントが還元されるというものです。LOVESAIJOポイントを活用して施策を推進することで、現在、西条市は愛媛県内で最も「おいしい食べきり運動推進店」が多い自治体となりました。

その他にも、LOVESAIJOポイントを通じて様々な取り組みを行っています。ポイントを循環させるプラットフォームが完成し、「事業者が実施するオリジナルSDGsキャンペーン」と「自治体が主導する健康行動や子育て応援活動、SDGs活動に関連する施策」の双方で事業全体を動かす仕組みのもと、多くのユーザーを巻き込めることができるようになりました。

現在、LOVESAIJOポイントサービスのユーザー数は4万人を超え、約360ほどの店舗が参画する仕組みへと成長しています。

共感ができる施策づくりを

–西条市の今後の展望についてお伺いできますか?

大久保さん:

色々な課題はありますが、難しいと感じるのは、市民の方の興味関心に波がある点です。その波を乗り越えるためには、常に新鮮な情報と新鮮な刺激を与えなければなりません。

特に地域ポイントは、全国的に成功事例が少ないと言われてきました。そのため、市民の方に使い続けてもらえるのか、収益化ができるのかなどの不安はありますね。

ただ、西条市は協議会のもと公民連携の土壌作りをしっかりとしてきましたから、今後も民間企業と連携しながら次の展開を模索していきたいと考えています。

曽我部さん:

SDGsというワードが一般的になってから数年がたちますが、日本のSDGs達成度ランキングは年々下がってきています。

そういった中で私たちが自治体として何ができるのかを考えたとき、行政だけでできるローカライズされた取り組みには限りがあると気づき、公民連携そして市民総参加の仕組みづくりに取り組んできました。

LOVESAIJOポイントサービスもその一つです。今後さらに市民のSDGsへの参加を増やすためにも、どのようなSDGsの取り組みが地域の課題解決や持続化に繋がるのかをもっとわかりやすく見える化し、共感を得られる取り組みを創出していきたいと思います。

–貴重なお話ありがとうございました!