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白川 皓士
1984年11月12日、大阪府出身。高校卒業後、学生時代から続けてきたサッカーの、プロ選手を目指し、ブラジルへのサッカー留学などを経験。スポーツを通じて、多種多様な文化や人と触れ合い、培った経験を活かし、生まれ育った地元に貢献したいという思いから、平成21年4月に堺市役所に入庁。入庁後は、住宅まちづくり、危機管理室、市税事務所等の部署を経て、2021年4月より政策企画部SDGs推進チームの立ち上げによる庁内公募の実施に伴い、同チームに所属。 「さかいSDGs推進プラットフォーム」による企業・団体・教育機関との連携体制の構築に努め、同プラットフォーム会員と作り出すSDGsの取組をもとに、市民へのSDGsの啓発や、SDGs未来都市計画による取組管理、庁内職員向けのSDGs研修などに取り組んでいる。
introduction
大阪の自治体として初めて「SDGs未来都市」に選定された大阪府堺市。
82万人もの人々が生活する堺市は、中小企業が多く、商業の街として栄えています。また、世界遺産である百舌鳥古市古墳群を抱え、歴史を感じられるまちです。
今回は、その大阪府堺市でSDGsの担当をしている政策企画部白川さんに、どのような取り組みを行なっているのかについて、お話を伺いました。
「環境モデル都市」から「SDGs未来都市」へ
–はじめに、堺市がSDGsに力を入れるようになった背景を教えてください。
白川さん:
堺市はもともと、2009年に「環境モデル都市」に選定されており、以前から環境の先進都市として取り組みを進めていました。
その後2015年にSDGsが採択され、環境に「社会」「経済」の視点も加え、堺市のあるべき姿を整理しようといった流れになりました。
–SDGs未来都市に選定された2018年からは具体的にどのような活動を行なってきたのでしょうか?
白川さん:
SDGs未来都市選定後は、環境部局ではSDGsの啓発、政策企画部ではSDGs未来都市計画の進行管理を担うという役割分担が行われました。その中で啓発面では、市民のSDGs認知度を上げるため、オリジナルのロゴマークの作成や、ピンバッジの販売などにより、SDGsの周知を進めてきました。
なお、今年度4月(2021年度)より、SDGsの窓口を政策企画部にワンストップ化し、SDGs取組の更なる促進を図っています。
–堺市オリジナルのSDGsロゴマークは目を惹くデザインで、オリジナリティがありますよね。なぜこのデザインになったのでしょうか?
白川さん:
ロゴデザインについては、古代から現代まで「持続」して存在する古墳の形をモチーフに、持続可能な未来を象徴するSDGsの17色のカラーを用いることで、「古代から中世、近世、現代に至るまで持続してきた堺のまちを、未来へとつなげていこう」という意味を込め、現在のようなロゴマークになりました。
17すべての目標に貢献したい!効率よく達成するための戦略
–SDGs未来都市計画は3年の取り組みを示したものです。そのため2021年度からは新たな計画が始まると思いますが、そちらについて教えて下さい。
白川さん:
今回、2018年から進めてきた計画全般をゼロベースで見直しを行いました。SDGsすべての目標と項目に対し、いかに貢献できるかを考えています。
–具体的にはどのような見直しが行われたのでしょうか?
白川さん:
2018年からの第1次計画では、企業や市民への啓蒙活動を重視してきました。ロゴやピンバッジのおかげで、市民の認知度が高まり、一定の成果はあったと思います。その一方で、我々が掲げる目標達成への進捗管理が課題として挙げられました。
そこで新たな計画では、SDGsの17のゴール、169のターゲットについてどのような取組ができるかをゼロベースで見直した上で、それぞれ2030年のゴールを実現するイメージと共に、KPI(重要業績評価指標)を設定しました。
–2030年のあるべき姿として「多様性を認め合い未来を創造する都市・堺」を掲げていますが、これはどのようなまちでしょうか。
白川さん:
堺市は古くからものづくりの拠点として栄え、新しいものを次々と生み出してきました。この強みと伝統を活かしつつ、新たなイノベーションの創出を目指しています。
また環境政策の観点から、再生可能エネルギーを取り入れつつ、経済発展を促したい。そして、これらと合わせて、SDGsのテーマである「誰ひとり取り残さない」、つまり多様性を認め合える社会の構築を掲げています。
市が企業と市民をマッチング!「さかいSDGs推進プラットフォーム」
–この目標を達成するために、具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか。
白川さん:
特に力を入れているのが、2021年5月26日にスタートした「さかいSDGs推進プラットフォーム」です。
これは、多様なステークホルダー間のパートナーシップ強化及びその自律的な取組促進を図るため、SDGsに取り組む意欲のある企業、団体、教育機関などを会員対象とするネットワークです。SDGsをイノベーションの機会ととらえ、会員同士の目標達成に向けた新しい取り組みが生まれることを期待しています。
企業、団体、教育機関などの組織であれば誰でも登録でき、現在では410組ほど会員になっていただいています。(2021年12月時点)
企業と学校の連携で生まれた「脱炭素型SDGs演奏会」
–SDGs推進プラットフォームを活用して何か取り組みは生まれていますか?
白川さん:
そうですね。たとえば2021年11月に開催した、脱炭素型SDGs演奏会というものがあります。
–一体どのような演奏会なのでしょう?
白川さん:
会員の中に、港のクルーザーを運営する株式会社クリエイションという企業さんがいます。この企業はマリーナに太陽光パネルを設置していて、以前から「使用機会をもっと増やしたい」と相談を頂いていました。
何かできないか考えていたところ、市内の高校ではコロナ禍の影響で軽音楽部の演奏機会が減少している現状がありました。
そこで、「太陽光で発電した電気を使った演奏会をしたらどうか」という話になったのです。
さらに、同じく会員で運送会社の株式会社合通トラスコさんが、この演奏会のために無償で楽器の運搬をしてくださいました。
お互いが「何かしらの形でSDGsに貢献したい」という思いを繋げることができましたし、市民の皆さんにも演奏会を楽しんでいただけてうれしく思っています。
–面白い取り組みですね!
白川さん:
他にも、封筒を製造する企業・株式会社羽車さんからは「封筒の製造段階で出てしまった端材を、何かに活用できれば」と相談がありました。
そこで、市内にある登美丘西こども園へ、作品作りの素材として端材を提供。子どもたちの手によって完成した作品は、11月に市庁舎で開催した「さかいSDGs展」で展示をしました。
さかい SDGs 展を開催
–さかいSDGs展とはどのようなものなのでしょう?
白川さん:
さかいSDGs推進プラットフォームに参加している会員さんの取り組みや、SDGsの各ゴール関する内容を市庁舎にパネルで展示して、市民の方々に知っていただくためのイベントです。
パネル以外にも、庁舎内の階段の段差にSDGsの各ゴールの説明シールを貼ったり、市役所敷地内の郵便ポストにもSDGs未来都市・堺のラッピングなども実施しました。
また、学生などの子ども達にも楽しんでもらえるよう、SDGsのゴールロゴ等が浮かぶトリックアートも設置しました。
使用したパネルをはじめ、さまざまな備品やパーツは会員の企業に協力していただいています。
–堺市のさかいSDGs推進プラットフォームは、SDGs17「パートナーシップで目標を実現しよう」そのものですね。
白川さん:
会員が増えているおかげで、このように面白い取り組みが少しずつ実現できるようになってきています。
今後もっと規模が大きくなれば、出来ることも増えていくはずです。異業種の交流や世代を超えた取り組みを通して、新たな事業に繋げることができればイノベーションの創出になり、持続可能な社会づくりの可能性が広がると考えています。
企業の取り組みをもっと知ってもらうために、発信に注力
–ところで、堺市のHP内では会員さんのSDGs取り組み事例の紹介が充実していることに驚きました。
白川さん:
会員さんが「プラットフォームに登録しているよ」だけでは、どのような活動をしているのかが伝わりにくいと思っています。そこで私たちが取材してまとめることで、サイトを訪れた方に具体的なイメージを持っていただけるのかなと。
また、市の広報誌を活用した情報配信も実施していますが、こちらも多くの反応をいただいており、数多くの市民の皆様にも知っていただく機会にもなっているかと思います。
取材記事がストックされていくことで、ほかの会員さんのニーズを聞き入れた際に提案できるための資料にもなりますし。
–会員や市民の皆さんからの評判はいかがですか?
白川さん:
ありがたいことに、とても好評をいただいています。お互いの活動を知る機会はあまり多くないので、取材記事をきっかけに「こんな取り組みをしているところがあるんだ!」と、プラットフォームに入会してくれる方もいるほどです。記事での発信活動を通して、新たな交流や活動の場のきっかけになることを期待しています。
これからも、紙とウェブ媒体の両方を活用して、より多くの人に広めていきたいですね。
ひと目で分かる!SDGsへの「貢献メニュー」
–他にも堺市のHPのなかにある「貢献メニュー」が非常にわかりやすく、企業や団体がSDGsに取り組みやすいと感じました。
白川さん:
「貢献メニュー」は、SDGs推進プラットフォームの設立と同時に掲載をはじめました。
プラットフォームの会員になってくださった方々の中には「具体的にどのような取り組みをしたらよいのか分からない」という場合もあります。
そこで、こちらから具体的に「こんな事業・プロジェクトに協力してほしい」とお願いする形で募集を行うことで、会員も具体的な行動につなげやすいのでは?と考えています。
とはいえ、現時点では「貢献メニュー」について連絡がくることはほとんどなく、「これからどのようにSDGsを進めていくべきか」といった相談のほうが多いですね。
–確かに企業側からすると、自分たちの事業がどの目標に当てはまるのかの判断が難しいですよね。
白川さん:
こういった現状を受け、9月からオンライン相談会を実施しています。すでにいくつかの中小企業さんとも話をしましたが、みなさん真剣に考えられていて、逆にこちらが勉強させてもらっている気分です(笑)
–自分が住むエリアにも、市が親身になって相談を聴いてくれる場所があったらうれしいですね。
連携を通して「多様性を認め合い、誰もが暮らしやすい」堺市を
–最後に、堺市の今後の展望を教えてください。
白川さん:
SDGs未来都市の「あるべき姿」の中で整理していたように、堺市が特に重視しているのは、市内に数多くある中小企業と、将来の世代である若者です。
企業が持続的に発展していくために、ステークホルダーである市民との連携をさらに深め、イノベーションを創出し、未来へ貢献していければと思います。
同時に、環境の対策も大事になります。再生可能エネルギーの導入を進め、ごみの削減や資源の有効活用を通して、経済・社会とのバランスを両立していきたいですね。
また堺市は、古くから商業都市として世界各地との交流を持ち、さまざまな価値観を受け入れてきました。今後も「誰ひとり取り残さない」「多様性を認め合う」を大切にし、誰もが快適に暮らせる街づくりを目指していきたいと思っています。
–本日は貴重なお話をありがとうございました。