#インタビュー

株式会社シード | 使用済みコンタクトレンズケースの回収で循環型社会を目指す「BLUE SEED PROJECT」

株式会社シード 及川智仁佳さん インタビュー

及川智仁佳

広報・SDGs推進室 主任
大学卒業後、株式会社シードに入社。大阪府、和歌山県でコンタクトレンズの営業をした後、東京都内で営業し、2019年から現部署である広報・SDGs推進室へ異動。CSRやSDGsなど非財務を担当するほか、SNS運営も行っている。

introduction

株式会社シードは1957年の創業以来、「眼」の総合専門メーカーとしてコンタクトレンズや関連商品の製造・販売を行っています。2019年には、使い終わったコンタクトレンズのブリスター(空ケース)を回収し、リサイクルする「BLUE SEED PROJECT」を開始。作って販売して終わりではなく、資源の循環を目指した活動を展開しています。

今回は、シードの広報・SDGs推進室担当の及川さんに、BLUE SEED PROJECTに関わるお話を伺いました。

コンタクトレンズメーカーが挑戦する、資源循環の仕組み「BLUE SEED PROJECT」

-早速ですが、株式会社シードの事業内容を教えていただけますか。

及川さん:

当社はコンタクトレンズの製造・販売を行っているコンタクトレンズメーカーです。「見えるをサポートする」という理念のもと、コンタクトレンズ事業にとどまらず、関連するケア用品や目に関する商品を展開しています。そして、2019年6月から使い捨てコンタクトレンズの空ケースを回収し再利用する「BLUE SEED PROJECT」を始めました。

コンタクトレンズを物流パレットに蘇らせる

-「BLUE SEED PROJECT」とは、どのような活動なのでしょうか。

及川さん:

使い捨てコンタクトレンズのブリスター(空ケース)を回収し、資源としてリサイクルをするプロジェクトです。使用後の製品を再利用して適切に活用することで、資源の無駄を省くサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

サーキュラーエコノミーとは

日本語では「循環型経済」と呼ばれる経済システム。物やサービスを生み出す段階から、リサイクルや再利用を前提とすることで、できる限り新しい資源の利用量・消費量を抑え、資源・製品の価値を高め、廃棄物の発生を抑止することを目指すものです。

参考:環境省

BLUE SEED PROJECTの全体像

-使い終わった製品をごみとして捨ててしまうのではなく、新たな物に蘇らせることで環境負荷の軽減につながるんですね。

及川さん:

はい。実際の手順としては、コンタクトレンズ販売店や眼科に回収ボックスを設置し、集まったブリスターを再資源化し、物流パレットにリサイクルしています。

-リサイクルできるプラスチック製品はいろいろあると思いますが、なぜ物流パレットなのでしょうか?

及川さん:

おっしゃる通りリサイクルで作れる製品は数多くありますが、リサイクルして蘇らせた後に、すぐ捨てられてしまうようなものではなく、長く使えるものがいいという想いがありました。
そこで選定したのが物流パレットです。物流パレットは長く使えますし、経年劣化したら、また溶かして、再び物流パレットにできるんです。また、世界的に物流の量が増えていて、業界全体で物流パレットの需要が高まっているという背景もありました。

-長く使える、再び再利用できる、需要の高まりという理由で物流パレットなんですね!

及川さん:

加えてコンタクトレンズのブリスターは、目に触れるものなので医療用の純度が高いプラスチックで、ペースメーカーと同じくらい医療グレードが高いものなんです。身近なプラスチック製品には、混ぜ物が入っていることが多い一方で、ブリスターは純度が高いので、物流パレットにする際も強化剤の役割にもなります。

-プラスチックにそのような種類があることは知りませんでした。

及川さん:

でも、物流パレットって地味ですよね(笑)ユーザー様からも「なんで物流パレットなの?」とよく聞かれます。

-確かに、一般の方はあまり関わりがない製品なので、イメージしにくいかもしれませんね。

及川さん:

他社からも「こういう製品にしませんか?」とお声がけいただくこともありますが、捨てられることなく、長く使えて、再び再利用できるものが今のところ物流パレットだけなんです。他によい製品が見つかれば、新しい製品も作ってみたいと思っています。

-循環を大事にしているからこその物流パレットなんですね!

コンタクトレンズ回収の手順と注意点

-実際のコンタクトレンズ回収についてお聞きします。使用済みブリスターの設置ボックスは、現在何か所くらいあるのでしょうか?

及川さん:

眼科やご協力いただいている施設など、一般の方がアクセスできるボックスは全国で233か所あります。他に、ご協力いただいている企業や団体があり、会社内にボックスを設置しているのは15か所です。(数字は2022年6月末現在)

ブリスター回収ボックス

-会社の中にも回収ボックスが設置してある場所があるんですね。コンタクトレンズは様々なメーカーがありますよね。どのメーカーでも回収できるのでしょうか?

及川さん:

コンタクトレンズのブリスターは、どのメーカーでも医療用の純度が高いプラスチックを使用しています。そのため、どんなメーカーのブリスターでも回収ボックスに入れていただけますよ。

-使用済みケースを回収するときの注意点などはありますか?

及川さん:

ケースのアルミを必ず剥がしていただくことと、ごみが入らないようにしていただくことです。BLUE SEED PROJECTを始めて3年ほどになりますが、ありがたいことにアルミがついていたり、ごみが入っていたりすることはほとんどありませんでした。ユーザー様の意識も高いのだと思いますが、回収ボックスを設置している眼科やコンタクトレンズ販売店が、きちんと周知してくださっている結果だと感じています。

BLUE SEED PROJECTを始めたきっかけ「プラスチックごみを減らしたい」

-では、BLUE SEED PROJECTを始めた理由について教えていただけますか。

及川さん:

工場で出ていたプラスチックはもともとすべてリサイクルしていました。そこからさらに、お客様の手に渡ったあともごみとなるのは避け、リサイクルできるような活動をしようということで、このプロジェクトを始めました。

回収するブリスター

-確かに、お客様の手に渡った後のことは管理できないですよね。

及川さん:

そうなんです。私たちのメイン事業であるコンタクトレンズ事業は、レンズそのものやケース、箱をカバーするシュリンクなど、さまざまなプラスチックを使っているメーカーです。昨今のプラスチック問題が課題となっている中で、「プラスチックをなくすことはできないけれど、ごみとなる量を減らしたい」という想いから、このプロジェクトを始めました。

リサイクル収益を海の保全団体に寄付する理由

-回収したブリスターをリサイクル業者へ売却した収益は、海の保全団体である「一般社団法人 JEAN」へ全額寄付しているそうですね。なぜ全額寄付しているのでしょうか?

及川さん:

もともとブリスターは一度お客様の手に渡ったもので、お客様の意思で回収していただいています。そのため、その収益は公共性が高いものに使うべきではないかと考え、海の保全団体「一般社団法人 JEAN」に全額寄付することにしたんです。

-公共性が高い事業に寄付して、想いを循環させたい気持ちがあったのですね。では、寄付先はなぜ海の保全団体だったのでしょうか?

及川さん:

収益の使い道を検討している時に「マイクロプラスチック」問題や、鼻にストローが刺さったウミガメのショッキングな映像が話題となっていました。コンタクトレンズは、直接マイクロプラスチックに関わるわけではありませんが、私たちもプラスチックを扱っているメーカーです。そんな私たちが社会や地球環境のためにできることを考え、JEANに寄付することにしました。

マイクロプラスチックとは

直径5ミリメートル以下の小さなプラスチックのこと。洗顔料や歯磨きのスクラブ剤に含まれていたり、ポリエステル性の合成繊維を洗濯すると小さな繊維として排出されたりします。生態系への被害や、マイクロプラスチックを食べた魚を人間が食べることでの健康への懸念などが問題になっています。

-公共性とプラスチックにかかわる点から、海の保全活動への寄付につながったんですね!

廃棄物を細かく選別することを可能にしたリサイクル・システム「ドックス」

-ここからは御社のプラスチック高度リサイクル・システム「ドックス」について教えてください。これはどのようなものでしょうか?

及川さん:

2021年に、ダイトク社と共同開発したプラスチック選別システムです。当社の鴻巣研究所では、コンタクトレンズの製造工程でどうしても出てしまう産業廃棄物がありました。プラスチックの中にブリスターやアルミ、コンタクトレンズ片が混ざって、今までは捨てるしかなかったんです。
製造工程で発生した廃ポリプロピレンは100%リサイクルしており、ドックスによって選別することで、ポリプロピレンだけでなく製造工程で発生した廃棄物も(アルミ、レンズ片含む)ほぼ100%リサイクルできております。

ドックスによるリサイクルの流れ

-今までできなかった細かい選別が可能になり、廃棄物削減につながるんですね!ドックスが開発されたきっかけはなんだったのでしょうか?

及川さん:

現場の担当者が、毎日出る廃棄物を見て「もったいない」と思ったことがきっかけです。担当者の熱い想いがあって、試行錯誤を繰り返しながら開発に至りました。

-現場の環境意識も高かったということですね。

及川さん:

はい。当社はもともと環境配慮型の設備を整え、ソーラーパネルの使用や緑化などに取り組んでいました。ドックスを開発したいという声が上がったのも、社員全体に環境意識が浸透していた表れなのかなと思っています。

-環境担当の部署以外からも、環境改善のためのアイデアが出ることは素晴らしいですね!

積極的にSDGs活動に取り組む若い世代と次世代教育

-BLUE SEED PROJECTを通して、お客様や一般の方からの反応はありましたか?

及川さん:

今は一般の方からのお問い合わせがすごく増えています。ワンデーのコンタクトレンズを使っているお客様からは「1日2個プラスチックの空ブリスターが出るので、今まではどうしたらいいのかと悩んでいた。」というお声もいただきました。ブリスターの処理に困っている方が、気軽に回収ボックスに入れてくれるとうれしいですね。

-確かに、毎日2個プラスチックを捨てているという罪悪感から救われますね。

及川さん:

最近は、学生や学校からお問い合わせをいただくことも増え、中学校や高校の授業に参加したこともあります。SDGsの授業の一環で、取り組んでいる企業にインタビューするという内容でした。SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」を調べる中で当社を知っていただけたようで、学校や学生から依頼を受けてリモートで授業に参加しました。

-若い世代の関心も高まっているんですね!

及川さん:

東洋大学の学生からは、授業の中において「BLUE SEED PROJECTを一緒にやりたい」と言っていただき、期間限定でキャンパス内に回収ボックスを設置して回収活動をしてもらいました。学生が自らTwitterのアカウントを開設し、他の学生に声をかけてくれました。若い世代の意識の高さを感じましたね。

東洋大学の学生たちと

-学校での活動は、若者への教育にもつながりますね。

及川さん:

そうなんです。また、当社では子ども向けに、ブリスターを活用した工作などをYouTubeで発信しています。小さいうちから環境意識を高めることに役立ってくれるといいですね。

シード公式YouTubeチャンネル内「子ども向け理科実験教室第10回コンタクトレンズケースの空ケース(ブリスター)でランプシェードをつくってみよう」

-ブリスターにこんな活用方法があったなんて、アイデアが素敵ですね!

回収量はまだ1%に満たない「活動を広げて回収量を増やしたい」

-お話を聞いて、単なる「コンタクトレンズのリサイクル」ではなく、海の環境保全や次世代の教育にまでつながる活動だと伝わってきました。最後に、今後の展望について教えてください。

及川さん:

BLUE SEED PROJECTを始めてまだ3年なので、今後も広報に力を入れ、使用済みケースを回収できる量を増やしていきたいです。というのも、年間に出荷される日本のコンタクトレンズ量と比較すると、私たちが回収している量はまだ1%にも満たないんです。

-そんなに少ないとは意外でした。

及川さん:

実はそうなんです。そのため、もっと周知してたくさんの方にこの活動を知っていただきたいですね。さらに、BLUE SEED PROJECTに協力してくれる企業や施設を増やしていく必要性を感じています。
同時に、リサイクルする新しい製品も模索していきたいです。今は物流パレットだけですが、今後、同じように長く使える製品が見つかれば、新しいものにも取り組んでいきたいと思っています。コンタクトレンズがいろんなものに役立ってくれたら、やっぱりうれしいですからね。

-使用済みケースの回収量を増やし、また新しい製品に蘇るといいですね!よい循環が広がっていくことを期待しています。本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

関連リンク

BLUE SEED PROJECT:https://www.seed.co.jp/blueseed/