#インタビュー

株式会社土屋鞄製造所:ユーザーに寄り添い、時を超えて愛される価値を作る

株式会社土屋鞄製造所コミュニケーション本部 CRAFTCRAFTS部 笹田知裕さん インタビュー

笹田知裕 コミュニケーション本部 CRAFTCRAFTS部 部長
2012年に株式会社土屋鞄製造所入社。店舗運営や店舗企画、事業企画を経てアフターサポート部門に異動。修理受付部門運営に携わったことで「アフターサポートの強化」が課題であると認識。現在は「商品が永く使われること」「ユーザーに寄り添うこと」をベースにした新しいメニューの立ち上げに取り組んでいる。

Introduction

1965年に、ランドセルづくりから始まった土屋鞄製造所。創業時から受け継がれている確かな技術と豊富な知識をいかして、オリジナルブランドの皮革製品を丁寧に製造しています。

今回は、コミュニケーション本部CRAFTCRAFTS部の部長である笹田さんに、2022年に始動した「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」のリユース事業の立ち上げストーリーなどについてお話を伺いました。

老舗ブランドが挑戦する、サステナブルな新プロジェクト

–CRAFTCRAFTSのことを教えてください。

笹田さん:革製品を丁寧にお手入れし、人や世代を超えてより長く使い続けていただくための、リユース・リメイク・リペア(修理)の3本を柱としたサステナブルなプロジェクトです。

土屋鞄製造所では『長く使えるもの』というブランドコンセプトのもと、一つ一つ職人が丹精を込めた製品を世に送り出してきました。

また、お買い求めいただいた後も、お手入れのノウハウを伝えたり、壊れても修理をして使い続けられる、「ケアサポート」「リペア」「リメイク」というサービスを提供してきました。

そこに2022年の春、お客さまのご要望に応じて違うものにつくり変えたり、次の方に譲ったりすることができるリユースのサービスが加わり、「CRAFTCRAFTS(クラフトクラフツ)」の名前で改めてスタートしました。この名前では「craft(=つくる)」を繰り返すことで、当社の“100年保証”の志を表現しているんですよ。

製品の「手放し方」をアフターサポートし、新しい愛用者の元へお届けする

新しく加わったリユースサービスについて、概要を教えてください。

笹田さん:リユースサービスでは、当社のバッグ製品をユーザーから無料でお引き取りし、クリーニングをして、ほつれや内装を取り替える修理や色を綺麗にするなどの手直しをした上で、次の方にお届けします。リユース後の商品にも新品と同じ返品保証や修理サービスがついて、通常価格の半額〜25%引き程度でお求めいただけます。

私たちがつくり、世に送り出した鞄たちは、できるだけ永く愛用されてほしいというのが、私たちの願いです。でも、年齢を重ねて服や好みが変わったり、結婚や転職などライフスタイルが変化して、まだ使えるのに、使われなくなってしまった鞄もあると思うんです。リユースサービスは、これまで手がけていなかった「購入後の手放し方」について、新しい選択肢をお客様に提供するものとなっています。

引き取った製品(ビフォー)と修理後(アフター)の比較

–リユースサービスのアイディアはどのように生まれたのでしょうか。

笹田さん:遡れば、5年程前に私が修理受付課に着任したところから始まります。その名の通り、修理を受付する窓口だったのですが、実際に業務をしていくと、お客様からの問い合わせは、修理にとどまらず購入後の使い方やケアの仕方までも含み、購入後のアフターサポート全般を担っていると感じました。

もっとお客様のために出来ることはないか、チームメンバーと考えたときに「ライフスタイルが変わって、まだ使えるけれど、自分ではもう使わない鞄をみなさんお持ちなのではないか」ということに気がつきました。私たちには高い修理能力もあるし、店舗や販売スタッフもいる。だから、お客様が鞄を使わなくなった時の手放し方もサポートできるのでは、というところにたどり着きました。

また、2020年の秋ぐらいから、SDGsという言葉を耳にする機会が急激に増えてきました。そこで、社会が向かっている共通の方向性に対して我々に出来ることは、2次流通のことまで視野に入れたものづくりを通して、作る責任や使う責任を果たしていくことだと考えました。ユーザーのライフスタイルの変化に寄り添うことに加えて、生み出した一つ一つの製品のライフサイクルを延ばすという2つの側面からアイディアを膨らませていった結果、生まれたのがリユースサービスなのです。

–アイディアを実現化するまでに、大変だったことを教えてください。また、それをどのように乗り越えたのでしょうか。

笹田さん:ビジネスとしてやるからには、利益が出ないと長続きできません。収益的な見通しまで立ったことから事業化に踏み切れたわけですが、現在に至るまでの企画設計が大変でした。

また、新しい事業だったので、もちろん社内的には様々な意見があり、収益面だけではなく、ブランド価値会社の事業全体を見渡した上でのマーケティングなど、多様な角度から解決しなければならない問題がありました。何度も検討を重ねながら、まずは試験運用から初めてみる、ということでだんだんと話が具体化していきました。

試験運用では世代・社内外を問わずポジティブな反響が

2021年に実施した試験運用ではどのような反響がありましたか。

笹田さん:昨年の試験運用では、当初の目標数の約6倍の鞄がリユースのために集まりました。通常の価格帯よりもお求めやすいことから、学生がファースト土屋鞄として購入してくださるなど新しいユーザーとの繋がりもできました。

アンケートでは引き取りサービスを利用したお客様の9割が「満足」と回答いただき、中には「自分のかつての愛用品が、職人の手で生まれ変わり、他の方がまた愛用してくれると思うと本当に嬉しい」といった声もありました。リユース品の購入者からは「状態がとても綺麗で、驚いた」「良い味わいが出た状態のバッグを購入できて嬉しい」といったポジティブな反響をいただきました。

また、店頭スタッフからは、「普段の接客とは異なるコミュニケーションがお客様と取れて嬉しい」や、「自分たちが販売していた製品を起点にしてお客様と接点がもてたことなどがよかった」といった感想が出てきたのが印象的でした。廃番の鞄なども回収できたので、「土屋鞄の博物館みたい!」と言ってくれるスタッフもいましたね。また、別の販売店舗から、自分たちの店舗でもやりたいといった要望があり、ボトムアップからも全国展開を見据えたニーズがあることがわかりました。

さらには、これから社会に出るZ世代からの反響も大きかったです。彼らは入社企業を選ぶ要素として、企業の社会貢献への姿勢を重視している世代なので、こういった取り組みについて関心が高く、共感や応援をしてくれます。折を見て採用説明会や新卒全員が受ける入社研修でも説明をしています。

前回のポップアップストアの様子

「時を超えて愛される価値を作る」ミッションステートメントの体現

–その他にも事業化に至った決め手はありますか。

笹田さん:ミッションステートメントの明文化が企画実現を後押ししてくれました。

実は、リユース事業の検討と同じタイミングで、株式会社土屋鞄製造所のコーポレートミッションをつくるプロジェクトも動いてたんです。

これまで大人向けの鞄やランドセルといった各ブランドごとに、ミッションを持っていたのですが、コーポレート全体のミッションは社員の共通認識としては同じベクトルを向いていたものの、明文化されていませんでした。2年ほどかけて社員で議論し、 2022年4月に「時を超えて愛される価値を作る」というミッションステートメントが完成しました。

リユース事業はまさにミッションを体現するようなプロジェクトですので、このミッションステートメントができたことも大きかったですね。

–リユースというとフリマアプリでの二次流通があると思いますが、フリマアプリでの出品・購入と異なっている点について教えてください。

笹田さん:販売元に対して信頼がおけること、メンテナンスの行き届いた良い状態でリユース品を手に入れられることが、フリマアプリやリサイクルショップとは大きく異なるポイントだと思います。

フリマアプリやリサイクルショップでの購入についてもユーザーアンケートをとったのですが、出品者が何者なのか、どのような環境で・どれくらいの期間や頻度で使われていた鞄なのか、また匂いや傷の度合いについて、不安を持っていることがわかりました。

また、返品や修理サービスの有無も、リユース商品を購入する際に重要なポイントだということがデータでわかりました。

当社のリユースサービスは、使わなくなった製品を職人の手で丁寧に修理することで、良い状態を保ち、より長く使えるようにして次の方にバトンタッチできます。そのため、お客様は確実にメンテナンスの行き届いたリユース品を手に入れていただけます。

リユースアイテムには、「土屋鞄」の製品であることの認定書を一つづつ付け、製品の品番やクリーニングの実施、どのような再生を行ったのかを記載しており、リユース品の購入者様にも安心してお買い求めいただけるように工夫をしています。

「土屋鞄」の製品であることの認定書

時代に合わせた新しい選択肢を提案し、人や世代を超え、より長く使い続けられるものを増やしたい

–CRAFTCRAFTS事業の今後の展開について教えてください。

笹田さん:まずは、リユース事業を確実に展開していくことを目指しています。

今年の製品の引き取りは、2022年6月と10月の2カ月間行い、販売は2022年9月から12月にかけて2回、一定期間を設ける予定です。

そして、2023年以降は、リユース対象製品をバッグ以外の財布やキーケースといった小物にも広げていく計画があります。ランドセルのリメイクはこれまで実施していましたが、大人用の鞄のリメイクはまだやっていないので、思い出に残るものとか実用的なものに生まれ変わらせるということを、大人向けのものでもやろうと今取り掛かっているところです。

 そして、今回の大人向けのリユース事業が成功事例として定着した際には、ランドセルのリユースにも取り掛かりたいですね。その他、引き取りと販売の期間延長、販売店舗の拡大、他社の革製品の取り扱いも検討していきたい、などやりたいことがたくさんあって手が追いついていません。

 取り扱い量的が増えることを見込んで、現在量産職人に加えて、修理の職人を採用して育てているんですよ。長年培ってきた製造・修理の職人技は私たちの強みですし、土屋鞄製にこだわらずに修理もリユースもできたら、もっと面白い集団になれると思うし、世の中にもその価値を還元できるのではないかなと考えています。

–土屋鞄製造所のサステナブルビジネスの展望について教えてください。

笹田さん:アパレル業界では今、サステナブルなファッションへの意識が急速に高まり、環境に配慮した素材を使用した製品の開発や、使い終わった衣料品の回収・再利用の対応を、各社が本格化させています。

私たちは、時代に合わせた新しい選択肢を提案することも大切だと考え、ものづくりを根底から支える「素材」についても、新しい挑戦をスタートさせます。「地球から、未来のために」を謳う米国の最先端バイオテック企業「Bolt Threads(ボルトスレッズ)社」が開発した「Mylo™(マイロ)」という、キノコの菌糸体部分から生まれた上質な風合いと質感を持つ新素材に着目し、現在、最初のアイテムとなる「Mylo™ ハンディLファスナー」を、年内の発売に向けて鋭意開発中です。

今後の製品化情報は、ウェイトリストご登録の方にお知らせしてまいりますので、楽しみにお待ちください。

「Mylo™(マイロ)を使用した商品イメージ

–今後の展望が楽しみです!本日は貴重なお話をお伺いさせていただきありがとうございました!

関連リンク

https://tsuchiya-kaban.jp 土屋鞄製造場

https://tsuchiya-craftcrafts.jp CRAFTCRAFTS

https://tsuchiya-kaban.jp/pages/mylo Mylo™(マイロ)