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正和電工株式会社|トイレと水の問題をオガクズで解決。旭川の企業が掲げるグローバル構想

正和電工株式会社 代表取締役社長 橘井さんインタビュー

橘井敏弘
1947年4月8日生(74才)。1968年4月旭陽電機北見支店入社、1976年退社。同年2月正和照明商事に取締役として入社、1988年4月社名を変更(正和電工)同時に代表取締役就任、現在に至る。

introduction

正和電工株式会社は、電気製品の卸売業として昭和49年に北海道旭川市で創業しました。現在、水を使わないバイオトイレや下水道を必要としない浄化槽の開発、販売をメインに事業を手がけています。

今回、代表取締役社長の橘井敏弘さんに、長年にわたりバイオトイレに取り組み続けてきた理由やこれまでの経緯、今後の展望などについて伺いました。

事業の柱となるバイオトイレ

–まずは事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

橘井さん:

弊社では主に3つの製品の開発・製造・販売を行っております。

まずひとつが、水を使わないバイオトイレ「バイオラックス」。2つ目がトイレ以外の生活排水を扱う新浄化装置。3つ目が駆除動物を分解処理する装置です。

この中でも最も力を入れておられるのが循環型のトイレである「バイオトイレ」ですね。

このバイオトイレの中には、オガクズが入っています。

用を足した後、モーターを使って攪拌され、オガクズが便の水分を吸収します。(電気を使わない、手動(足踏み)式もあり)

残った有機物は水と二酸化炭素に分解され、ファンによって排気口から排出されます。わずかに残った無機物はオガクズと混ざりますが、これらは窒素・リン酸・カリが主ですので、有機肥料としても使うことができるのです。

オガクズはバイオマス素材の優等生

–オガクズが非常に大きな役割を果たしているのですね。もう少し詳しく教えていただけますか?

橘井さん:

オガクズは吸水性、保水性や排水性、消臭性にも優れています。トイレに付いている排気管からは常に排気がなされていますので、バイオトイレ内は驚くほど匂いがしません。

室内にも設置ができますし、コンポストのように生ゴミを入れても平気です。

オガクズの交換頻度は、量にもよりますが、年に3回ほどで十分ですね。自分で交換できなくもないですが、オガクズ代と1~2時間ほどの人件費で済むので回収業者にお願いした方がいいと思います。

使用後のオガクズは、農家さんや畑をお持ちの方ならそのまま有機肥料として使えますし、そうでなければ焼却しても構いません。

ただ、肥料を商品として売るなら、正確な成分分析を行って記載しないといけないので、そこは専門の業者に任せる必要がありますね。

また、このオガクズはどこにでもある、ごく普通のものを使用しているため、間伐材の有効活用にもつながっており、林野庁も私どものバイオトイレを応援してくださっています。

思わぬきっかけで始まったバイオトイレ事業

–オガクズの効果に驚かされます。どのようなきっかけで、バイオトイレの開発にいたったのでしょうか。

橘井さん:

私は30年ほど前に胃がんを患い、食べ物を残すようになってしまいました。そこで生ゴミ処理の製品を探していた時に、長野県にあるバイオトイレのメーカーを見つけたのです。

これだと思い、自分用に1台購入し、北海道で売りたいからと、他にも何台か仕入れました。ところが2年後に、その会社が倒産してしまったのです。

こうなると保証やサポートが受けられませんので、在庫を抱えていてもその商品は売ることができません。そこでそのメーカーさんから、意匠権を譲渡していただき、さらに製品を改良して当社の商品として販売することにしたわけです。知的財産についても、実はこの時初めて知りました。

とはいえ最初の10年くらいは、全く売れませんでした。なんだか怪しげな商品だと思われて、新聞広告すら出してもらえませんでしたね。

バイオトイレの普及を妨げる大きな壁

–そんなご苦労があったのですね。近年では毎年のように自然災害が起きており、水道が止まってトイレが使えなくなるなど多くの問題が起きています。こういう時こそバイオトイレが必要になりますよね。

橘井さん:

おっしゃる通りです。国は、地震や台風などの災害に備えて、仮設トイレやマンホールトイレも用意していますが、日本では多くの会社や住宅が高層建築の中にあります。仮設トイレのために、一日何度も下まで降りていくのはとても大変です。

水を使わないバイオトイレを各家庭や職場に設置できれば、非常時のトイレに関わる問題が速やかに解決できるのですが、日本ではそれができない事情があるのです。

その理由のひとつに法律の問題があります。建築基準法では、下水道法に規定する処理区域内では、トイレは下水道につなげた水洗トイレ以外は設置してはいけないと定められています。(第31条)

そういった背景から、法改正を求めて何度も国へ陳情を行いまして、内閣の規制改革推進室や、国土交通省の下水道担当の方が、実際にバイオトイレを見に来てくださりました。

結果、いずれも我々のトイレに対して「問題なし」という回答をいただきました。見直し規定や法解釈の問題は残りますが、実現に向けては前進しています。

P12 便所等の基準に係る見直し検討 (mlit.go.jp)

下水道を不要にする新たな循環型インフラの提案

–すばらしいですね。ほかに普及を妨げる問題はあるのでしょうか?

橘井さん:

そもそもバイオトイレ自体の需要が少ないことですね。日本は既に下水道が十分完備されていますから、わざわざ水を使わないトイレの必要性を感じていません。ですが、その下水道も現在さまざまな問題を抱えており、特にインフラの老朽化が顕著です。

国内の下水道の多くが耐用年数を迎えており、水漏れや道路の陥没事故を引き起こしています。また、下水道にはトイレや生活排水による沈殿物も蓄積されていますので、その除去も含めたメンテナンス費用も増大しています。

例えば旭川市は人口33万人ですが、下水道の維持にかかる費用は130億円に上ります。ですから、いっそ下水道をなくすという選択肢も考えなくてはいけないと思います。

そこで私どもが提案するのが、最初に申し上げた新浄化装置です。

この新浄化装置は、備長炭を使って排水を濾過する装置です。洗濯・台所・風呂からでる生活排水は、これで雨水並みに浄化して再利用できます。

将来的に、トイレはバイオトイレに、生活排水は新浄化装置にすることで、多くの問題が解決できると考えております。

海外で認められたバイオトイレ

–バイオトイレや浄化装置は国内にとどまらず、海外からも興味・関心が高いのではないでしょうか?

橘井さん:

我々の製品は、海外、特に開発途上国である国からの関心が高いですね。現在事業を進めているのがベトナム、中国、モンゴルなどです。インドでも海外特許の審査を取りました。

具体的な事例で言うと、最初に外務省からの委託を受けてベトナムにバイオトイレを導入しました。

その評判が良かったので、JICAの支援事業で、同じくベトナムのハロン湾にバイオトイレを設置することになりました。世界遺産に指定されて以来、観光客が増えて排水環境が悪化していたので、高く評価していただきました。

途上国では、トイレ環境が劣悪です。その点、私どものバイオトイレは、匂いがしないし、狭くも汚くもないということで大いに喜ばれました。

中国の大学にも、研究用で何台か提供しています。あと50〜100年もすれば、このようなバイオトイレが国の標準になるだろうなんて言ってくださいますね。

駆除動物もオガクズの力で処理できる

–もう一つ、駆除動物の分解処理装置についてですが、これは獣害対策からですか。

橘井さん:

はい。北海道では野生動物による獣害が後を絶ちません。

死骸を埋めるにも環境面で問題があり、燃やすにも普通の焼却炉では難しい。そこでこの動物分解処理装置の出番です。これもバイオトイレの技術を流用しており、死骸を入れておくだけで、シカなら2週間ほどで太い骨を残し、分解され土に還ります。

農林水産省のお墨付きもありますので、購入した企業には補助金が出ます。

また、骨を砕く専用の破砕機も用意しています。バイオトイレの攪拌スクリュー技術を応用しており、処分が大幅に楽になるのです。

この破砕機から派生して、ホタテの貝殻用粉砕機や、ラーメン屋さん用の骨破砕機も商品化しています。前者は貝殻の匂い対策に、後者はスープの仕込み時間短縮で、燃料費と労働時間の削減に貢献しています。

世界の環境を、トイレから変える

–最後に、今後の展望についてもお聞かせください。

橘井さん:

研究開発にもめどがついたので、今後は販売に注力していきたいですね。

先ほど申し上げたように、法改正が首尾よくいけば、各家庭や企業へも導入ができるのですが、なにぶん知名度がありません。国内では、まず災害用の仮設トイレを中心に売り込んでいくつもりです。

そして海外市場がさらに重要になってきます。これからしばらくは、途上国を中心に世界の人口が増え続けていきます。全ての途上国が今の先進国のような生活をしていたら、とても地球は維持できません。バイオトイレや新浄化装置を世界中に普及させれば、衛生環境も、水資源の問題も解決します。

これからは水洗トイレではなく、バイオトイレの普及が文明のバロメーターになると思っているので、それに向けて頑張っていきたいですね。

–とても壮大な構想です。地方だから、中小企業だからといって限界を決めてしまわずに、世界規模で事業を展開していこうという姿勢は大いに勇気づけられます。

これからのバイオトイレに大いに期待が持てます。ありがとうございました。

関連リンク

正和電工株式会社 https://seiwa-denko.co.jp/