#SDGsを知る

南南問題とは?南北問題との違いと原因・現状、解決策を簡単に解説

イメージ画像

南アフリカ、ブルンジ、中央アフリカ、ソマリア。これらは、貧困国の代表としてしばしば取り上げられる国々です。その一方で、「アラブの石油王」の例えにもあるように、中東諸国は石油資源で大きく発展しました。台湾や韓国も貧困国とみなす人は少ないでしょう。

このように開発途上国と一口に言っても、経済力には大きな格差があります。この問題を南南問題といいます。いったいなぜ、このような格差が生じたのでしょうか。そこには、資源や工業化といった要因が存在します。

今回は南南問題の意味や南畝黙問題との違い、裕福な途上国と貧困国をわけた資源や工業化の過程、2022年8月段階での後発開発途上国の現状、国際社会の取り組みや私たちにできること、SDGsとの関連について考えます。

南南問題とは

南南問題とは開発途上国間の経済格差のことです。

1970年代以降、中東諸国は石油資源などにより、東アジアではNIES(新興工業経済地域)が生まれたことにより、それぞれ経済成長を遂げました。

NIES(新興工業経済地域)

1970年代以降に工業品の輸出を急増させた国々のこと。OECDは先進国との経済格差を縮小させた韓国、台湾、香港、シンガポールなどの国々をNIES諸国として取り上げた。*1)

その一方、経済発展から取り残された国々もあります。これらを後発開発途上国(LDC)と呼びますが、所得・生活・経済などが一定の水準を下回っている状態の国々を指します。※*2)

後発開発途上国の認定基準について

後発開発途上国は、国連開発計画委員会(CDP)の認定基準にもとづき、国連の経済社会理事会の審議を経て、国連総会決議で認定される。*5)1人あたりGNIが1,222ドル以下などの認定基準を満たした国が、後発開発途上国として認定。*8)

石油資源や工業化を達成した国々が先進国との経済格差を縮める一方、資源がなく工業化もしていない後発開発途上国の間の経済格差は大きく広がりました。この問題を南南問題というのです。

南南問題と南北問題との違い

南南問題と南北問題の違いを知るには南北問題について整理する必要があります。デジタル大辞泉では南北問題を次のように定義しています。

「北半球に偏在する先進諸国と南半球に偏在する開発途上諸国との間の経済格差に基づく政治的、経済的諸問題」

出典:デジタル大辞泉*3)

大航海時代に世界各地に進出したヨーロッパ諸国は、進出先を自国の植民地として支配しました。支配された国はヨーロッパ諸国の原料供給地や製品市場にされてしまい、自国の産業発展が制限されてしまいます。その結果、支配する国(以下、本国)に経済的に支配され、貿易で著しく不利な立場に置かれるようになりました。

南北問題はかつての本国と植民地の経済格差といってもよいでしょう。この段階では、どの植民地も「先進国によって経済的に支配されている」という点で同列です。しかし、独立後は資源を持つ国や工業化した国は成長を遂げたものの、それ以外の国は貧困に苦しむようになりました。その格差が南南問題です。

つまり、南北問題とは先進国と開発途上国の経済格差であり、南南問題とは資源を持っていたり、工業化したりして経済成長した開発途上国と、経済基盤が弱い開発途上国(後発開発途上国)の経済格差だといえるのです。

【関連記事】南北問題とは?歴史的な原因と現状を打開するための解決策・世界と日本の取り組み

南南問題が起きた原因と背景

イメージ画像

同じ開発途上国であるにもかかわらず、なぜ大きな経済格差が生まれてきたのでしょうか。その疑問を解くキーワードが資源と工業化です。格差が発生した流れを見てみましょう。

1950年代~60年代旧植民地諸国の独立 ・1960年はアフリカの年として有名
1960年代香港、シンガポール、韓国、台湾の経済成長 ・アジア四小龍とよばれる
1964年UNCTADの会議で後発開発途上国への配慮に合意*4)
1970年代資源ナショナリズムの考え方が広まる ・開発途上国が自国の天然資源の権利を強く主張 ・イランの石油国有化やOPECの結成
1971年国連で公式に後発開発途上国のカテゴリーを認定*4) ・サハラ諸国を中心に25カ国
1980年代NIES諸国の経済成長が進む
2022年後発開発途上国として46カ国を認定*5)

上の年表を見ると2つの動きがあったことがわかります。1つは、自国の資源を国有化する「資源ナショナリズム」の動き、もう1つはアジア四小龍をはじめとするNIES諸国の急速な経済成長です。

この2つの動きに取り残された国々が、経済的貧困を抱える後発開発途上国となっていきました。資源ナショナリズムと工業化について整理します。

資源ナショナリズムの動き

資源ナショナリズムとは、豊富な天然資源を持つ開発途上国が、自国のために資源を役立てようとする動きのことです。*6)

独立後も、先進国の企業は資源に関する権利を持ったままでした。たとえば、石油に関しては国際石油資本が大半を支配し、石油の採掘権を握っていました。しかし、中東諸国は資源ナショナリズムの考えにもとづき、石油資源を国有化します。

こうして財源を手に入れた国々は、天然資源の売却益を使って自国の経済発展を図ることが可能となりました。また、産油国はOPEC(石油輸出国機構)を結成し、石油消費国である先進国に対抗しました。資源の力で経済力を向上させたのです。

NIES諸国の経済発展

1960年代、香港や台湾、シンガポール、韓国などの国と地域は急速に経済発展を遂げていきました。いずれの地域もアジアにあったことから、別名「アジア四小竜」と呼ばれています。

資源に恵まれないこれらの国と地域の長所は、勤勉で豊富な労働力にあります。外国から資金を導入して工場などの生産手段を整え、勤勉な労働者が製品を生産し、低価格高品質の製品を輸出しました。*7)

アジア四小竜のほかにも、資源と人口に恵まれたメキシコやブラジルなどもNIESの一角として数えられます。

資源を持つ国や工業化を達成した国は急速に経済成長を遂げ、貧困にあえぐ後発開発途上国との格差が広がったのです。

南南問題の現状

ここからは、南南問題の現状として、後発開発途上国の動向を確認します。

2022年8月現在の後発開発途上国

まずは、後発開発途上国46カ国の内訳です。

アフリカ33カ国アンゴラ(2024年に卒業予定)、ベナン、ブルキナファソ、ブルンジ、中央アフリカ、チャド、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、レソト、リベリア、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリタニア、モザンビーク、ニジェール、ルワンダ、サントメ・プリンシペ(2024年に卒業予定)、セネガル、シエラレオネ、ソマリア、南スーダン、スーダン、トーゴ、ウガンダ、タンザニア、ザンビア
アジア9カ国アフガニスタン、バングラデシュ、ブータン(2023年に卒業予定)、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ネパール、イエメン、東ティモール
大洋州3カ国キリバス、ソロモン諸島(2024年に卒業予定)、ツバル
中南米1カ国ハイチ
出典:外務省*5)

全体の約4分の3を占めるアフリカでは、頻発する紛争天然資源の奪い合い、外国とのつながりを持ちにくい地理的条件(内陸国)政府機構の崩壊といった点で共通点があります。

紛争や天然資源の奪い合いの背景には、旧植民地時代に無理やりひかれた国境線の存在があります。アフリカ諸国の国境線は、不自然なほど直線が多いことに気が付きます。直線国境の理由は、本国が自国の都合で植民地の境界線を決定したからです。

本国である欧米列強は、アフリカに住む人々の民族や宗教、生活習慣を全く無視して国境線を引きました。同じ民族であるのに別々の国に分けられるケースが多発したことも国境紛争や民族紛争の原因となっています。*9)

内戦や政治腐敗により、国民に安全や基本的な公共サービスを提供できない国を失敗国家(脆弱国家)といいます。*10)イエメンソマリア南スーダンなどは国の政治システムが崩壊しているため、典型的な失敗国家といえるでしょう。

その一方で、後発開発途上国から卒業する国々も出ています。ブータンは2023年に、ソロモン諸島アンゴラは2024年に卒業する見込みです。

また、急成長を遂げている国の一つにバングラデシュがあります。バングラデシュは2000年代から平均約6%の高い経済成長率を維持してきました。*11)衣類の輸出や海外出稼ぎ労働者の送金によって外貨を稼ぐバングラデシュは、2026年に卒業が見込まれています。*12)

南南問題の解決策は?

南南問題を分析すると、経済発展を遂げて先進国や豊かな開発途上国に追いつく国がある一方で、発展から取り残された後発開発途上国が存在することがわかります。解決のカギはいかにして取り残された国々を発展させるかにかかっています。解決に向けた取り組み事例について紹介します。

南南問題の解決で用いられる方法の一つが「三角協力」です。

【三角協力の流れ】

【三角協力の流れ】
出典:外務省

南南問題において、援助する側の開発途上国は先進国に比べると資金面・技術面での制約があります。そこで、日本を含む先進国が援助する側の開発途上国に資金や技術・知識・経験などを伝え、そこから支援を必要とする後発開発途上国に援助してもらうという形をとります。これを三角協力といいます。*13)

たとえば、日本がブラジルを通じて行った三角協力の事例があります。日本は20年以上、ブラジルのセラード開発を支援してきました。その結果、ブラジルが得た農業開発支援の技術をモザンビークに伝えています。

ほかにも、日本が支援したアルゼンチンやチリ、メキシコを通じて第三国を支援するケースが多数存在しています。*15)

南南問題の解決に向けて私たちができること

イメージ画像

南南問題は世界全体でみると経済的な格差を是正するために必要な動きです。私たちができることは、直接ボランティアとして活動するか、現地で活動する団体に寄付するかの2択になるでしょう。それぞれの内容を解説します。

直接、現地でボランティア活動をする

現地で活動するボランティアの代表がJICAが実施している海外協力隊です。海外協力隊に参加すると、開発途上国での支援活動に直接携わることができます。

海外協力隊の仕事は多岐にわたり、

  • 国や地域づくりに関わる仕事や相手国の食糧生産を支援する仕事
  • ものづくりや教育に関するプロジェクトへの参加
  • 医療・福祉活動、商業・観光支援など、

など、その国が抱える課題解決のために活動しています。*16)

海外協力隊以外にも、国連団体世界各国のNGO・NPOもさまざまな国で活動しています。そういった団体に所属することで、現地で活動することが可能となります。

現地で活動する団体に寄付する

日本に居住しながらでも、現地で活躍する団体に資金などの寄付をすることで南南問題解決に向けた支援ができます。寄付の手段は寄付金をNGO・NPOに渡す「直接寄付」と共同募金に募金し、その後、各団体に配分される「間接寄付」の2種類です。

後発開発途上国で支援にあたっているのはユニセフ赤十字などが挙げられます。南南問題全体の解決のために寄付したいのであれば、こうした団体に寄付するとよいでしょう。

「南スーダンの危機を救いたい」「ブルキナファソでの支援活動」に協力したいなど、支援協力したい国が決まっているのであれば、それらの国で活動しているNGO・NPOに寄付するとよいでしょう。

南南問題とSDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり

イメージ画像

最後に、南南問題の解決とSDGsの関係について確認しましょう。

南南問題の解決は一筋縄ではいきません。国際的な協力があってこそ解決できる問題です。この問題の解決は、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」持続的な社会の実現や貧困の撲滅に不可欠です。

SDGs目標17は、国際的なパートナーシップで現代世界が抱える諸問題を解決することを目指しています。目標17のターゲット(17.6)には南南問題解決のため、三角協力を強化するよう訴えることが書かれています。

直接相手国を支援する二国間協力ではなく、他の国を間に挟む三角協力を推進する理由は何なのでしょうか。それには三角協力ならではのメリットがあるからです。

後発開発途上国の課題は、先進国や国際機関の支援だけでは解決しきれないこともあります。支援を受ける国と似た自然環境や文化的背景を持つ国が支援したほうが、相手国にとって良いという場合があるのです。

また、ある程度経済成長した開発途上国が、支援を必要とする後発開発途上国を支援することによって、援助国としてのノウハウを蓄積できると期待できます。世界の国々の中で支援する力を持った国が、積極的に後発開発途上国を支援するパートナーシップが大切なのです。

まとめ

今回は南南問題について解説しました。資源を持っている国や工業化している国とそれらを持たない後発開発途上国との格差は拡大しています。それらの地域を先進国だけで支援するのではなく、近隣の開発途上国も支援に参加することが南南問題の解決策となります。

一部の国が発展から取り残された状態のままでいれば、誰一人取り残さない持続的な開発を目指すSDGsの目標達成が困難になります。先進国や経済成長した途上国が一丸となって支援することで、はじめて南南問題の解決が可能となるでしょう。

私たちはボランティアや寄付といった活動を通じて、南南問題解決に貢献することができるのです。

参考
*1)知恵蔵「新興工業経済地域(シンコウコウギョウケイザイチイキ)とは?
*2)知恵蔵「後発発展途上国(こうはつはってんとじょうこく)とは?
*3)デジタル大辞泉「南北問題(ナンボクモンダイ)とは?
*4)外務省「国連における後発開発途上国のカテゴリーと卒業問題
*5)外務省「後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)
*6)デジタル大辞泉「資源ナショナリズム(シゲンナショナリズム)とは?
*7)城西大学「アジアNIESの経済発展と人口要因
*8)日本経済新聞「後発開発途上国(LDC)とは 国連46カ国認定、貿易優遇
*9)名城大学「アフリカ諸国の国境に直線が多いのはどうして?
*10)デジタル大辞泉「失敗国家(シッパイコッカ)とは? 意味や使い方
*11)日本バングラデシュ協会「バングラデシュ経済の概要
*12)ジェトロ「LDC卒業見据えた産業高度化、経済連携の強化がカギ(バングラデシュ) | 」*13)外務省「Keyword 1 南南協力と三角協力
*14)国連フォーラム「南南協力・三角協力とは - 開発におけるその役割
*15)JICA「中南米・カリブ地域における三角協力の 開発インパクトレビュー調査 報告書
*16)JICA「シゴトを知る | JICA海外協力隊
*17)スペースシップアース「SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」現状と日本の取り組み、私たちにできること