NPO法人テラ・ルネッサンス |カンボジアで地雷だらけの村を救った「家畜銀行」

NPO法人テラ・ルネッサンス 海外事業部アジア事業担当 江角さんインタビュー

江角 泰(えずみ たい)

1981年生まれ。宮崎公立大学在学中にカンボジア・スタディツアーに参加。「地雷ゼロ宮崎」にて活動。卒業後、立命館大学大学院にてカンボジアの平和構築を研究する傍ら、NPO法人テラ・ルネッサンスにてインターン。卒業後、同団体に就職。2008年よりカンボジア駐在を開始するとともに、海外事業部アジア事業マネージャーとなる。2020年より同団体、理事。カンボジアで地雷埋設地域の脆弱な障害者家族の生計向上事業や村落開発支援事業、ラオスでの不発弾撤去支援や養蜂事業等を実施。カンボジアやラオスの地雷&不発弾汚染地域で紛争後も影響を受けている村人たちへの、自然と調和した人々の伝統的な生活を尊重した持続可能な生計や教育支援を実施している。

introduction

テラ・ルネッサンスは2001年に設立された認定NPO法人です。世界平和の実現のため、地雷や子ども兵問題など、世界の様々な社会問題に取り組んでいます。今回はアジア事業部の江角様にカンボジアでの取り組みや今後の展望などについてお話を伺いました。

 「全ての生命が安心して生活できる社会の実現のために」世界で活動するテラ・ルネッサンス

本日はよろしくお願いします。まず始めに、テラ・ルネッサンスについて教えてください。

江角さん:

テラ・ルネッサンスは、「すべての生命が安心して生活できる社会の実現」を目的に、2001年に設立された認定NPO法人です。地雷・小型武器・子ども兵・平和教育という4つの課題を解決するために、世界6ヵ国で活動しています。国内では、「平和の担い手」を育むため、紛争について伝える講演等の啓発活動にも取り組んでいます。

世界平和を実現するために、各国で様々な社会問題に取り組まれているのですね。江角さんが携わってこられたカンボジアでは、具体的にどのような活動を行ってきたのでしょうか?

江角さん:

最初は主に地雷撤去活動団体の支援に注力しました。カンボジアは1960年のベトナム戦争以来、400万から600万の地雷が埋められ、数十年経った今でも多くの市民や子どもが被害を受けています。

1960年代のベトナム戦争時に米軍が使用したクラスター爆弾やその後のカンボジア内戦で使われた地雷が、現在でも被害者を出しているのですか。

江角さん:

地雷の影響力に驚かされますよね。そのため現地の地雷撤去団体と協力し、2021年までに270万㎡以上の地雷原を撤去しました。東京ドーム約58個分の土地から地雷がなくなったことで、31,613人以上が安心して暮らせるようになりました。

人々が安心して暮らすためには、広大な土地の安全を確保することが必要なのですね。

江角さん:

そうですね。しかし、撤去をしたことで地雷問題が終わったわけではありませんでした。撤去後の現地の状況を視察し、住民が大きな問題を抱えていることに気づいたのです。

撤去してもなお残る、カンボジアの地雷問題

地雷撤去後の地域には、具体的にどのような問題があったのでしょうか。

江角さん:

主な問題は村人たちの貧困です。地雷埋設地域に住む人々の多くは、主に換金作物※(キャッサバなど)の栽培や日雇い労働に頼って日々の生活費を稼いでいます。

2016年頃からキャッサバの価格が大幅に下がったことにより収入が減り、数百万の借金を抱えている人も多くみられました。さらに、借金返済のために子どもを連れて隣国タイへ出稼ぎに行くため、子どもたちは学校に通うことができず、十分な教育を受けられなくなってしまっていたのです。

換金作物

農家が自分の家で食べるためではなく、売ってお金にすることを目的に生産する作物のこと。

キャッサバの栽培のみに頼っていたことで、生活が成り立たなくなってしまったのですね。

江角さん:

出稼ぎに行ける人にも課題は多々ありますが、収入を得られるという点では少しだけ安心できますね。一方で、地雷によって身体が不自由になった人は遠くへ出稼ぎに行くことは難しく、働くことすらままならない状況でした。

それは深刻な状況ですね。地雷の被害は、人々の生活に深く影を落とすのですね。

江角さん:

そうですね。紛争や地雷は、人々の生活だけでなく、自然環境へも影響します。かつて、とても豊かだったカンボジアの熱帯雨林は、紛争による木々の伐採で消失していました。わずかに残っていた自然も、換金作物の栽培のための畑となっており、カンボジア本来の自然は見られなくなってしまいました。

自然が失われると、カンボジア固有の生態系や、巡り巡って人々の生活にも影響しますよね。カンボジア本来の自然が見られなくなってしまったのはとても残念ですね。

江角さん:

その通りですね。自然の減少や貧困に苦しんでいる状況下では、村人たちは安定した暮らしを続けることができません。そこで私たちは、2016年ごろから、自然環境を大切にし、地雷撤去地域に住む人々の経済面もサポートする「自立支援活動」に力を入れて取り組んでいるんですよ。

元手ゼロで畜産をスタートできる「家畜銀行」

カンボジアの地雷撤去後の地域での「自立支援活動」について詳しく教えてください。

江角さん:

自然環境を大切にしながら、どんな状況の人も経済的に自立した生活を送るためには、村の中など身近な場所で、いくつかの収入源を作ることが重要です。農地を持たない貧困層でもできる収入源のひとつが、何種類かの家畜を飼育することでした。

ですが、元手がない状態でいきなり家畜の飼育をしようと言われても難しいですよね。
そのため私たちは、特に厳しい状況であったカンボジア北西部のバッタンバン州カムリエン郡で、村人へ家畜の貸出を行う「家畜銀行」という仕組みを考え出したのです。

家畜銀行とは、どのような仕組みでしょうか。

江角さん:

「銀行」というとお金を借りることをイメージするかと思いますが、「家畜銀行」は村人たちがヤギ、牛、鶏、ミツバチ、豚などの家畜を借りることができる仕組みです。飼育小屋などの資機材も我々テラ・ルネッサンスが支援しています。

貸し出した家畜の繁殖に成功したら、提供した数の家畜を戻して頂くシステムです。返却された家畜は次の村人に貸し出し、また同様に繁殖してもらいます。一度家畜を返却すれば、その後生まれた家畜の子どもは飼育した村人が飼い続けられます。

このようなシステムですと、多くの世帯へ家畜を循環できますね。複数の家畜を育てられるので収入の柱は増えそうですが、飼育技術や専門知識が必要なのではないでしょうか。

江角さん:

そうですね。もちろん村人たちが家畜を飼育するのは初めてなので、飼い方や管理の仕方を一から教えています。現地で環境を守る農業技術を教えているNGO団体「CRDNASE(シーアールディナス)」に協力してもらい、伝統的な農業技術を伝えてもらっています。

家畜を無料で借りられて、飼育方法も教えてもらえるなら、初めてでも安心して挑戦できますね。

江角さん:

そうですね。伝統的な手法では、これまで「お金にならない」という理由で除草剤をまかれ、どんどん少なくなっていたカンボジアならではの薬草や草を飼料としています。カンボジア古来の植物を畜産のために育てることで、自然資源の再生・活用にも繋がっているんですよ。

安心して畜産をスタートでき、自然保護にも繋がるなんて素敵な取り組みですね!

支援を通して「人生に希望が持てるようになった」笑顔も収入も増加

カムリエン郡全体で、地雷被害者や貧困層世帯、計220世帯に家畜を貸し出したと伺いました。村人たちの様子はいかがですか。

江角さん:

村人たちは一から技術を学びながら、様々な家畜の飼育に挑戦しています。社会的・経済的にもハンデを追いやすく塞ぎこみがちだった、地雷で障がいを持った方も、家畜の飼育を通して家族と協力し、義足や車いすを使いながら作業をしている姿が印象的でした。

村人からも嬉しい声が届いているんですよ。

  • 「以前は、キャッサバやトウモロコシの栽培に失敗し、途方に暮れてお酒に走っていた。しかし、支援を通してヤギやアヒルを飼育し始め、野菜を栽培して自分たちで食べたり、隣人にあげたりすることで幸せを感じられるようになり、人生に希望を持てるようになった」
  • 「最初はヤギ飼育に失敗したが、成功するまでテラルネッサンスが支援してくれて本当によかった」

それは嬉しい反響ですね。これまで出稼ぎのために学校に行けていなかった子どもたちにも変化はありましたか。

江角さん:

カンボジアで生活できるようになりましたので、学校に行きながら、空いた時間に家の手伝いとして飼育をするようになりました。特に子ヤギはよく懐くので可愛らしいみたいで、積極的に面倒を見ていますよ

村全体が以前よりも活気に満ちていることが伝わってきます。問題であった収入面ではいかがでしょうか。

江角さん:

多くの村人たちが、多額の借金を返済して、換金作物に依存した生活から抜け出すことができました。今では複数の収入源を持つことで所得が増え、安定しているそうです。

これもひとえに、村人たちが根気強く技術を学び、前向きに取り組んでくれたからこそだと思います。また、家畜の飼育はまとまった収入が得やすかったこともポイントでしたね。

なぜ家畜の飼育は収入を得やすいのですか。

江角さん:

換金作物とは異なり、国内外にマーケットがあり需要が多いんです。さらに、家畜一頭ずつが高値で取り引きされることもあります。例えば、成長した牛は12万円から20万円にもなることがあるんですよ。

また、こうした家畜は、病気や怪我など、家族に何かあった時のための大切な財産として、大変重宝されています。

大洪水や家畜の感染症にも折れない、しなやかな強さを持つ村に

村人の経済的な自立や、カンボジアの自然保護にも繋がった「家畜銀行」の取り組みですが、当初から携わってこられた江角さん自身が感じている大きな変化はありますか?

江角さん:

災害や万が一のトラブルにも自立して対応できるようになったと感じています。2020年10月に発生したカンボジア洪水では、担当しているカムリエン郡も大きな被害を受けました。換金作物の畑は全滅です。その中で家畜は、泳げない鶏が被害に遭ったものの、ヤギや豚、牛は被害が少なく、村人たちは困難な状況の中でも収入に繋がる畜産業を続けることが出来たのです。

換金作物に頼っていた頃のままでは、貧困がさらに進んでしまっていたでしょうね。

江角さん:

そうですね。さらに、家畜の感染症被害にも対応できる力もついてきました。現地での感染報告を受けた際には、専門家と協力して治療に当たるとともに、感染症の予防や治療に効く薬を作るワークショップを開催しました。カンボジアに生息する12種類の薬草を活かして作る発酵液が、家畜の感染症に効果的なんですよ。

地雷被害者のひとり、メイ・ソーンさんの例をあげますと、薬を自分で作り、病気になったニワトリを治療できるようになりました。その結果、ニワトリを100羽まで増やし、近所の人からも病気の家畜を診てほしいと頼まれるまでになったのです。

村人それぞれの得意分野が顕在化するのも、とても良い変化ですね。

江角さん:

そうですね。様々なリスクや問題に直面しながらも、村人がお互いに助け合い、しなやかに対処しながら生活できるようになり、とても嬉しく思っています。

支援がなくても自立・自治できる村を増やしていく

最後に、今後の展望をお聞かせください。

江角さん:

今後はさらに一歩踏み込んで、「経済的に安定した生活を送ることと、周囲の自然を大切にしながら生きていくことは両立できる」と、より明確に伝えていきたいですね。

また私たちテラ・ルネッサンスが目指すのは、村人それぞれの自立だけではなく、支援がなくても協力しあって村を治められるようになることです。そのため「自立」に加え、今後は「自治」を促進する取り組みも考えています。

具体的にどのような取り組みでしょうか?

江角さん:

これまで私たちが行ってきた家畜銀行を、現地の農業組合に運営していただくことを考えています。私たちの支援がなくなっても、地区全体で自立の仕組みを動かせるようにし、子や孫の世代も持続的に安定して暮らせるようにしていきたいですね。

本日は貴重なお話ありがとうございました!

関連リンク

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