#インタビュー

【SDGs未来都市】鳥取県鳥取市|「やらいな、しょいな」マインドで鳥取独自の取り組みを推進

鳥取市 山根裕史さん インタビュー

山根 裕史

1980年生まれ、鳥取県北栄町出身。岡山大学理学部物理学科卒。2003年に鳥取市役所に入庁。家庭ごみの有料化事業、職員の服務や研修、市役所の新本庁舎の建設と総合窓口の構築を担当する。情報システム部門では統合型GIS、電子申請、IP電話システム等を導入し、令和2年度から現職。「鳥取市SDGs未来都市」の認定と運営に携わり、ワーケーションを活用した鳥取市の魅力発信と企業誘致を担っている。

introduction

鳥取県の県庁所在地であり、人口18万5千人ほどの鳥取市。鳥取砂丘がとりわけ有名ですが、農林水産資源にも恵まれており、二十世紀梨、松葉ガニ、砂丘ラッキョウなどが名産品として知られています。

同市は2021年、SDGs未来都市に選定されました。「サスティナビリティ×イノベーションで『農村から真の持続可能なまち』を実現する」というテーマを掲げ、環境面・農業面・人と人の交流の三側面からの取り組みを重ね合わせ、持続可能な開発を推進しています。

今回は、その全国的にも先進的な取り組みの詳細を、鳥取市企業立地・支援課の山根さんに伺いました。

目指すのは、環境面、農業面、人と人との交流の取り組みを重ね合わせたまちづくり

–まず、鳥取市がSDGs未来都市に立候補した理由を教えてください。

山根さん:

魅力のある地域として選ばれるまちづくりを目指しているのですが、根底にある思想がSDGsと合っていたからです。

少子高齢化により、市の人口は減少傾向にあり、農業就業人口も過去10年で4割ほど減っています。この状況を改善し、将来的にも残る地域となるためには、魅力的な取り組みのある持続可能なまちづくりをすべきだと考えました。これは、人々が地球で暮らし続けられる「持続可能な世界」を実現するSDGsと同じ目標だったため起案しました。

–現在進めているのはどのような取り組みなのですか?

山根さん:

環境面、農業面、人と人の交流の取り組みを3つ重ね合わせたまちづくりをSDGs未来都市として進めているところです。

微生物発電を実用化したエネルギーの地産地消に挑戦中

–環境に関する取り組みから教えてください。

山根さん:

環境面でのメインは、エネルギーの地産地消です。

–エネルギーの地産地消とはどういうことでしょうか?

山根さん:

食の地産地消はよく聞くと思いますが、それのエネルギーバージョンだと捉えてもらえばOKです。

作る人、売る人、食べる人を地域内で循環させるのが食の地産地消です。これをエネルギーに置き換え、電気を作る、売る、使うを地域の中だけで行える社会を目指しています。市の外で作った電力を使うと、電気代としてお金が市の外に出ていってしまいます。私達はエネルギーの地産地消で、経済の活性化を目指しているんです。

–どのような発電方法を採用しているのですか?

山根さん:

2016年に市と地域のガス会社が共同出資して立ち上げた電力会社「(株)とっとり市民電力」で、再生可能エネルギーの開発から供給までを一貫して進めています。

この、(株)とっとり市民電力の取組のほかに、鳥取市では「微生物発電」の実証にも力を入れており、現在、市内の鹿野という地域で実証実験を行っているところです。

–微生物が電気をつくるんですか?

山根さん:

はい、微生物は生命活動で電子を吐き出すことが分かっているので、大量に集まれば発電ができるのではという仮定のもと、実験を進めてきました。現在はフィールド実験中なのですが、理論上、これまでの研究データの約10倍の発電量が期待されています。

発電には、地元企業が開発したガラス発泡材「ポーラスα」を使う予定です。「ポーラスα」の無数の穴には保水効果があり、微生物の住み家になることも分かっています。土の中にポーラスαを混ぜることで、景観を損なうことなく、土と水があればどこでもカーボンフリーな発電が可能になります。

–土と水があれば良いなんて、他の発電方法に比べても手軽そうです。

山根さん:

太陽が出ていない、風が吹かないなど、条件に左右されずに発電できるのは大きなメリットです。現在、幅広く進められている太陽光発電は、パネルの大部分であるガラスに有害物質が含まれるので、寿命を迎えた後リサイクルしにくいという課題を抱えています。微生物発電ならそういった課題もクリアできます。トライ&エラーを繰り返して、実用化を目指します。

”カーボンニュートラルファーム”で行うスマート農業

–農業分野では、どのような取り組みを進めていらっしゃるのですか?

山根さん:

企業に農業参入していただく形でのスマート農業を進めています。

全国的に農業就業人口が減り、耕作放棄地が増え続けていますが、大きな理由は、稼ぎにくい・体への負担が大きい・勘と経験に左右されやすいところにあると思っています。これを解消しなければ、問題解決はできません。対策として進めているのが、データやシステムを活用し、マニュアル化されたスマート農業の実装です。

–それなら課題解消につながりそうです。具体的には、どのような栽培方法なのですか?

山根さん:

市内の鹿野という温泉地域で、イチゴの栽培をしています。通常、冬場はビニールハウス内をボイラーで暖めて栽培しますが、ここでは土の中にパイプを通し、使われていない温泉熱を利用してハウス内を暖めるので、化石燃料を使用しない、環境に優しい農業です。一方で、酸素や二酸化炭素・日射量などはシステムで管理するスマート農業も実装しています。

–勘や経験に頼ることなく、品質の高いイチゴ栽培が可能になりますね。

山根さん:

しかも、このスマート農業を行っている(株)メイワファームHYBRIDでは、先ほどご紹介した「(株)とっとり市民電力」が供給する再生可能エネルギー100%の電力を使っています。栽培の最初から最後まで二酸化炭素を排出しない『カーボンニュートラルファーム(脱炭素な農場)』なんです。現在は企業中心の取り組みですが、実装を進めてモデル化ができたら、個人の農家にも広めていきたいと考えています。

ワーケーションプログラムで交流の場をつくり、鳥取市の良さを内外へ

–人と人との交流を図る取り組みとはどのようなものでしょうか。

山根さん:

現在、市内でワーケーションがしやすい環境を整えています。

先にご紹介したエネルギーの地産地消や、スマート農業の取り組みを外部にも発信していくために、県外の人材・事業と交流できる仕組みをつくりたいと考えています。

–わたしもワーケーションに行ってみたいです。なぜ、コミュニケーションの手段としてワーケーションを選んだのでしょうか。

山根さん:

そもそも、私が所属している企業立地・支援課は、県外の企業に対して鳥取で一緒に仕事をやりましょうと営業するのがメインの仕事なのですが、コロナ禍で企業訪問が難しくなってしまったんです。そこで考えたのが、鳥取にお越しいただける仕組みをつくることです。コロナ禍で人と人の交流が思うようにできない中ではありますが、ワーケーションしやすい市として県外の方に来ていただき、地元の方と交流できる場をつくります。

–具体的には、どのように進めていらっしゃるのですか?

山根さん:

現在、首都圏で企業に研修を提供している会社様と共に、ワーケーションプログラムを構築中です。

微生物発電やスマート農業のところでご紹介した鹿野という地域は、空き家活用のまちづくりも進めている地域です。さらに良いまちづくりのため、ワーケーションに来てくださる方の知恵・知見を生かせるプログラムを構築しています。

また、鳥取砂丘では近年、宇宙ビジネスの実証実験が繰り広げられています。こんなに広くて起伏がある砂地は国内でも例がなく、夜の砂丘はさながら月面のようです。これらの地域を舞台としたラーニングワーケーションのプログラム構築とともに、市内のコワーキングスペースを増やす計画です。

「やらいなしょいな」で子どもたちの誇りとなるまちづくりを

–先進的な取り組みをたくさん伺いましたが、鳥取市が新しい取り組みを積極的に進めることができるのはなぜですか?

山根さん:

特に先進的な取り組みを多数している地域・鹿野では「やらいな、しょいな(やろうよ、しようよ)」が基本の考え方です。「まずやってみよう」という意味の方言で、地域の活性化につながるおもしろそうなものなら協力するので一緒にやってみようという前向きな心が、新しい取り組みを始めたい人たちが入っていきやすい雰囲気をつくっているのだと思います。

小さな城下町で「鹿野には何もない」と言われてきた場所ですが、空き家活用を中心とした約20年のまちづくりが実を結んできました。

–地元の方の「やらいな、しょいな」マインドが、新しい取り組みを受け入れるベースになっているのですね。今後のまちづくりで目指す姿を教えてください。

山根さん:

現在行っている取り組みを、より形にし、増やしていきたいと考えています。特に微生物発電は先進的なものですので、実証実験を進めたいですね。実用化されれば必ず全国から鳥取に人が来てくださり、人口減少の問題解消につながると思っています。並行して進める農業などの取り組みと合わせて鳥取に注目いただければ、地域の子どもたちの誇りとなるはずです。

豊かな自然と美味しい食が揃っている鳥取市を、地域内外に広めていきます。

–鳥取市の魅力をたくさん知ることができ、ワーケーション等で訪れてみようと思いました。本日はありがとうございました。

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