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観光振興とは?目的やメリット・課題、取り組み事例まで

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新型コロナウイルスの流行により、観光スタイルは大きな変化を迎えています。

2022年以降は、制限緩和が進み、徐々に世界中から日本に訪れる外国人観光客も増えてきました。また、円安が加速している日本にとって観光は、経済効果としても重要な役割を担っています。

本記事では、観光振興の目的や、メリット・デメリット、取り組み事例などについて説明します。これからの日本を支えになるであろう観光分野の現状を把握しておきましょう。

観光振興とは

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まずは簡単に「観光振興」というワードについて確認しておきましょう。

観光振興とは、観光を通してその地域の文化や伝統を活用し、経済活性化を目指す取り組みを指します。観光に力を入れることで、新たな雇用が生まれたり、経済に良い影響をもたらしたりするきっかけとなるのです。

観光とは

詳しい内容に入る前に、観光とは何かを理解しておきましょう。

観光とは主に

  • 旅行先にある景色や文化遺産などを訪れること
  • その地域の文化や伝統に触れること

を指します。

旅行と観光の違い

同じシチュエーションで使用される機会が多い「旅行」は、観光したい地に訪れるまでの道のり、またその地で一定の期間過ごすことを指します。

英語でも旅行は「travel」、観光は「tourism」や「sightseeing」とそれぞれ区別されています。つまり、観光振興はただ過ごすだけではなく、観光客にその地域の特産物や文化に触れてもらうことが目的となります。

観光振興の目的

続いては、観光振興の目的を確認していきましょう。

観光振興の目的として主に

  • 経済振興
  • 観光地の成長

の2つです。

経済振興

観光は大きな経済効果をもたらします。下記の図は、観光庁が発表している、2019年に日本人が国内旅行で消費した額のグラフです。

2019年の国内消費額は年々増加しており、2011年と比べると約2兆円も増えていることがわかります。

一方で新型コロナウイルスが流行し、外出自粛を余儀なくされた2020年の旅行消費額は、前年に比べて半分以上の11.0兆円に減少しました。

例えば、日本の観光地代表として有名な京都府は、2019年の国内旅行消費額が約909億円でしたが、翌年の2020年は約603億円でした。結果的に、京都市の宿泊施設は580軒が廃業となり、多くの従業員も職を失うこととなりました。

日本全体として見ても、2019年の宿泊業の雇用者数は約59万人なのに対し、翌年2020年は約52万人に減少しています。

続いて、日本に訪れた外国人観光客の消費額も見ていきましょう。観光庁は2019年に訪れた外国人観光客は、どの国から多く来日していたのか調査を行ったところ、

  1. 中国
  2. 台湾
  3. 韓国
  4. 香港
  5. アメリカ

の5ヵ国がランクインしました。

上記は経済産業省が発表した2019年訪日外国人旅行消費額です。2019年の訪日外国人旅行消費額は全地域の総額は4兆8,135円。国別に見ると、中国が1兆7千704億円と圧倒的な消費額であるのが分かります。

その後、コロナ禍により訪日外国人は減少しましたが、2022年以降、状況が緩和したことで、国内・海外ともに旅行客の足は戻りつつあります。

さらに円安の影響によって、ますます海外からの観光客は増加していくと考えられ、国全体で観光について十分に取り組む機会と言えるでしょう。

観光地の成長

2つ目の目的としては、観光地の成長が挙げられます。全国各地にはそれぞれ伝承されてきた伝統や歴史的文化遺産、重要文化財などが多く存在します。

それらを継承していくためには、自治体や住民、お店などが協力し、観光客に伝えていくことが大切です。結果的に、その動きが観光地の成長につながると言えます。

国をあげて観光振興を推進

このような背景がある中で、国も観光庁を中心に観光振興を推進しています。日本には観光に関わる法律として「観光立国推進基本法」があります。どのような法律か詳しく見ていきましょう。

観光立国推進基本法について

下記の図は観光庁が提示している観光立国推進基本法の概要です。

観光立国推進基本法とは、昭和38年(1963年)に制定された「観光基本法」を改定した法律で、平成19年(2007年)に施行されました。

観光基本法では、

  1. 国際親善を増進
  2. 国民の生活安定
  3. 勤労意欲の促進

などが主な内容でしたが、観光立国推進基本法では、少子高齢化を鑑みた内容となっており、観光基本法よりも国際交流の活発化を図っている法律と言えます。

また、2017年に観光立国推進基本法をもとにした「観光立国推進基本計画」が閣議決定されました。これは、2017年から2021年までの4年間の計画期間となっており、基本的な方針は

1.国民経済の発展

2.国際相互理解の増進

3.国民生活の安定向上

4.災害、事故等のリスクへの備え

 引用:観光立国推進基本計画|観光庁

の4つが掲げられています。

観光立国推進基本計画まとめ

主な計画目標は以下の通りです。

国内旅行消費額
平成32年までに21 兆円にする。【平成27年実績:20.4 兆円】訪日外国人旅行者数
平成32年までに4,000万人にする。【平成27年実績:1,974 万人】訪日外国人旅行消費額
平成32年までに8兆円にする。【平成27年実績:3.5 兆円】訪日外国人旅行者に占めるリピーター数
平成32年までに2,400万人にする。【平成27年実績:1,159万人】 訪日外国人旅行者の地方部における延べ宿泊者数
平成32年までに7,000万人泊にする。【平成27年実績:2,514万人泊】アジア主要国における国際会議の開催件数に占める割合
平成32年までにアジア最大の開催国(3割以上)にする。【平成27年実績:26.1%】日本人の海外旅行者数
平成32年までに2,000万人にする。【平成27年実績:1,621万人】

 引用:観光立国推進基本計画|観光庁

施策内容は下記の通りです。

 国際競争力の高い魅力ある観光地域の形成観光産業の国際競争力の強化及び観光の振興に寄与する人材の育成国際観光の振興観光旅行の促進のための環境の整備

 引用:観光立国推進基本計画|観光庁

目標に対する進捗

2019年、訪日外国人観光客は3,188万人まで増加しましたが、2020年までに4,000万人にするという目標は達成できていない状況です。

なお、観光立国推進基本計画の期間は2021年3月末まででしたが、期間の約半分が新型コロナウイルスの影響で達成できておらず、2022年現在、これからの計画に関しては改定の目処が経っていません。

観光振興計画について

観光立国推進基本計画は国全体の計画ですが、自治体ごとに計画を立てる観光振興計画も存在します。計画期間は約3〜5年間となっており、期間終了次第、次の計画を策定するという流れです。

例えば、厚木市の第二次観光振興計画では

  • 策定した背景
  • 目指すべきビジョンと目標
  • 施策内容
  • 取り組みのための体制や計画の進行管理

など、事細かに決められています。このように自治体ごとに計画を立てることによって、それぞれの特長や課題感、目標を達成するためのモチベーション向上にもつながると言えるでしょう。

「観光振興計画」と検索すると、それぞれの自治体の計画内容が確認できます。

観光振興のメリット

観光振興の概要が見えてきたところで、取り組むメリットを確認します。ここでは、

  • 観光客の確保
  • 新たな雇用の確保
  • 関係人口の増加

の3つについて詳しく見ていきましょう。

メリット①観光客の確保

観光振興を行うことで、観光客の確保が見込めるでしょう。観光地であっても、観光客が訪れるまちづくりを行わなければ、その地域は衰退していく一方と言えます。

例えば市の公式サイトやツアーを充実させたり、SNSで宣伝したりすることで、さまざまな国や地域から観光客が訪れます。また1人の観光客がその土地を気に入った場合、口コミやSNSなどで拡散されるきっかけにもなります。

結果的に観光客の確保、その地域の経済発展や人口の増加など、地域活性化にもつながるのです。

メリット②新たな雇用の確保

観光は新たな雇用も生み出します。JICA(独立行政法人 国際協力機構)によると、観光産業の経済が成長することで、世界の経済成長率も上がると発表しています。

また、世界的に見ても旅行・観光産業における雇用は大きな割合を占めており、10人に1人が旅行・観光に関わる職業に就いているという結果が出ています。

コロナウイルスの規制緩和によって、今後観光客は増加していく可能性はかなり高く、経済発展の鍵を握ると言っても過言ではありません。結果的に、新たな多くの雇用を確保できることで、働く人のやりがいにもつながるのです。

メリット③関係人口の増加

観光振興を推進することで、関係人口の増加にもつながります。関係人口とは、その地域に住む人々と観光客の間にいる人口を指します。

例えば、その地域にルーツがあるが定住はしていない人や、その地域が好きで関わりたいと考える人なども関係人口に該当します。

関係人口が増えることで、観光客と定住者の関係をつなぐ役割を果たし、結果的に地域活性化につながります。

観光振興の取り組み事例

では、実際に観光振興を行っている自治体の事例を3つ紹介します。

観光客のリピーター率58%(石川県金沢市)

まずは、石川県金沢市で取り組まれている事例を紹介します。金沢城や兼六園、ひがし茶屋街、九谷焼など、さまざまな観光スポットや伝統工芸で有名な金沢市。2015年に北陸新幹線が開通したことをきっかけに、金沢市の観光客は2014年に比べて年々増加しており2019年には1,068万人を超えました。

金沢市観光協会公式サイトでは、季節ならではのツアー体験を展開しています。

例えば

  • 「五感にごちそう金沢冬季宿泊キャンペーン」
  • 「金沢の和菓子特集」
  • 「金箔貼り体験」
  • 「KANAZAWAディナーフェス」
  • 「お座敷遊び体験」

など、年齢層問わず興味を引くようなキャッチーなツアーを組んでいるのも魅力の一つと言えるでしょう。また、「旅行プランを決めるのが苦手……」という方でも公式HPからモデルコースを検索できます。

金沢駅にある観光案内所も金沢市のみならず、富山県や福井県、岐阜県などを含めた旅行プランの提案も行ってくれます。

これらの取り組みにより、金沢市に訪れた観光客のリピート率が58.0%と高い数値を実現。今後さらに観光地として発展していく街と言えるでしょう。

>>石川県金沢市観光公式サイト「金沢旅物語」

佐渡クリーン認証制度で安心な観光を推進(新潟県佐渡市)

新潟県佐渡市は人口約5万人、東京23区の約1.5倍の大きさの島です。

海産物はもちろんのことりんご、柿、お米、佐渡牛など農業や畜産業も盛んなのが特徴です。佐渡市公式観光情報サイト「さど観光ナビ」では、さどの楽しみ方というページを展開しています。

  • サイクリング
  • マリンレジャー
  • 大自然を感じるキャンプ場

など、山も海もある佐渡だからこそ味わえる観光スポットを紹介しています。また、リモートワークの増加においてコワーキングスペースがある施設も紹介。関係人口が増えるきっかけづくりも行っているのも特徴です。

また、佐渡クリーン認証制度を設けており、十分に感染症予防を行うことで観光客に安心を提供しています。さらに無料WiFiの提供もスタートしており「島だと電波届くのかな……」と不安な方にも安心して観光できるとプロモーションしているのも、観光客に対する佐渡市の配慮がうかがえます。

>>佐渡について – 一般社団法人 佐渡観光交流機構 (sado-dmo.com)

>>佐渡の楽しみ方 | さど観光ナビ (visitsado.com)

【関連記事】新潟県佐渡市|自然と共生のシンボル トキと共生する佐渡島

地域住民の声から始まった阿寒湖温泉の再生(北海道釧路市)

阿寒湖の温泉は、1858年にはアイヌの人々がすでに利用していたという歴史ある温泉地です。阿寒湖で有名な北海道釧路市は、地域住民の声を機に「阿寒湖温泉再生プラン2010」を策定しました。

その後、観光協会とまちづくり協議会が統合し、NPO法人を設立。観光振興が本格的に始まります。さらに阿寒湖温泉は、2014年に入湯税を150円から250円に値上げし、差額分を観光振興の財源とする条例が制定されました。

阿寒湖は温泉のみならず、アイヌ文化に触れることができる地域です。阿寒湖付近には約120人のアイヌ人が実際に生活している集落「アイヌコタン」があります。

また、阿寒湖アイヌシアターイコロという劇場が存在し、「ユネスコ世界無形文化遺産」に指定されています。デジタルアートを使用した演目などを上映しており、アイヌの文化を学ぶことができます。現在は阿寒湖温泉2030が策定途中であり、世界にも注目される地域の一つとなっています。

>>モデルコース | 【公式】北海道の観光・旅行情報サイト HOKKAIDO LOVE! (visit-hokkaido.jp)

>>NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構(阿寒湖まりむ館観光インフォメーションセンター) | 基本情報 | 釧路・阿寒湖観光公式サイト SUPER FANTASTIC Kushiro Lake Akan (kushiro-lakeakan.com)

>>(特非)阿寒観光協会まちづくり推進機構

観光振興の課題・デメリット

さまざまな地域で観光振興の取り組みが始まっていますが、多くの課題も残っています。

ここでは、

  • 人手不足
  • 施設の老朽化・感染症対策

の2つの観点から詳しく見ていきましょう。

課題・デメリット①人手不足

観光において人手不足は大きな課題となっています。少子高齢化に伴い、どの業種でも人手不足に悩まされていますが、宿泊業においては約8割が不足しているとされており、職種別で見ても第一位となっています。

観光業の改善点としては

  • 長時間勤務
  • 低賃金
  • 作業効率向上のためのシステムを導入

などが挙げられます。宿泊業は20~24歳の平均年収は約180万円という結果が出ており、他の職種と比べても賃金が低いのが現状です。

賃金の低さは離職率の原因にもなっており、この状況を打破しない限り人手不足解消は難しいと言えます。観光客だけではなく、働く人たちの生活も豊かにできるような観光振興が大切なのです。

参考:観光業界における人材課題 ~日本の経済発展のために求められること~(PDF)

課題・デメリット②施設の老朽化・感染症対策

施設の老朽化も観光振興における課題の一つです。1986~1991年頃に起きたバブル景気によって経済が回り、観光業も盛んだったため、多くのホテルが建てられました。そして30年以上経った現在、当時建てられたホテルの多くは老朽化が進んでいます。

また、当時の旅行形態は団体ツアーが一般的でしたが、時代の変化やコロナウイルス流行を機に、個人旅行もしくは少人数で行動する観光客が増加している傾向にあります。

そのため、宿のサービスや満足感などが求められるようになっています。また、コロナウイルスの影響もあり、清潔感や従業員の感染リスクにおける対応も重視する人が増えているのも現状にあります。

もともと観光地で人気だった地域は、従来のスタイルではなく、現代に合ったサービス提供や施設の環境を整える必要があるでしょう。

観光振興とSDGsの関係

最後に観光振興とSDGsの関係について確認しましょう。

今後観光地において、持続可能な観光を目指す必要があります。コロナウイルス流行以前、観光地に多くの海外客が訪れました。一方でゴミを路上に捨てたり、撮影禁止の場所で撮影したりとマナーを守れない観光客も多くいたのも事実です。このような状況が続けば、地域のイメージ低下や治安の悪化にもつながってしまうでしょう。

そこで観光庁では「日本版持続可能な観光ガイドライン」を開発し、

2020年度には

  • 北海道ニセコ町
  • 三浦半島観光連絡協議会
  • 岐阜県白川村
  • 京都府京都市
  • 沖縄県

の5つの地域で持続可能な観光に向けた取り組みを実施。結果「2020年の世界の持続可能な観光地100選」に選ばれました。観光客に対してだけではなく、住んでいる人々にも配慮を行うことが大切です。

特にSDGs目標8「働きがいも経済成長」と関係

そして観光振興は、特に目標8と密接な関わりがあります。目標8では以下のターゲットが掲げられています。

目標8‐9.2030年までに、地方の文化や商品を広め、働く場所をつくりだす持続可能な観光業を、政策をつくり、実施していく

「本当は観光業として働きたい……」と考えても、低賃金が理由で仕方なく退職した人もたくさんいるでしょう。観光振興の推進は地域の活性化だけではなく、新たな雇用や賃金アップ、働く人のやりがいにつながるのです。

まとめ

今回は

  • 観光振興とは
  • 旅行と観光の違い
  • 観光振興の目的
  • 国をあげて観光振興を推進
  • 観光振興のメリット
  • 観光振興の取り組み事例
  • 観光振興の課題・デメリット
  • 観光振興とSDGsの関係

について説明しました。観光振興は地域活性化のみならず、雇用の増加や経済成長、観光に訪れた人が定住を検討するきっかけとなる可能性を秘めています。

とはいえ、観光地を成長させるためには、施設の整備やアクセスの利便性向上を図る必要があります。また2020年以降、新型コロナウイルスの流行に伴い、観光客が安心できる空間を作っていかねばならないという課題もあります。

自治体ごとにその地域の特性を生かした計画策定が重要となってくるでしょう。

>>さまざまな旅行形態についての解説は以下をご参照ください。

<参考文献>
旅行・観光産業の経済効果 に関する調査研究
令和3年版観光白書について(概要版)|観光庁
京都市観光協会データ年報(2020年)
訪日外国人旅行消費の蒸発の影響試算;年間で9割減少すると、GDPに0.8%の押し下げ効果|経済産業省
観光立国推進基本計画|観光庁
関係人口とは|総務省
観光地域づくり事例集
観光業界における人材課題 ~日本の経済発展のために求められること~
モデルコース | 【公式】北海道の観光・旅行情報サイト HOKKAIDO LOVE! (visit-hokkaido.jp)
NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構(阿寒湖まりむ館観光インフォメーションセンター) | 基本情報 | 釧路・阿寒湖観光公式サイト SUPER FANTASTIC Kushiro Lake Akan (kushiro-lakeakan.com)
(特非)阿寒観光協会まちづくり推進機構
佐渡について – 一般社団法人 佐渡観光交流機構 (sado-dmo.com)
佐渡の楽しみ方 | さど観光ナビ (visitsado.com)
石川県金沢市観光公式サイト「金沢旅物語」
観光の今を知る
「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」に係るモデル事業を実施しました!~今から始められる、withコロナ、afterコロナ禍での持続可能な観光を実現するための情報が満載です!~ | 2021年 | トピックス | 報道・会見 | 観光庁 (mlit.go.jp)