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筑波大学長 永田さん|SDGs×筑波大学の取り組みとその先の未来

筑波大学長 永田恭介さん インタビュー

永田 恭介

1953年10月14日愛知県生まれ。
1976年東京大学薬学部薬学科卒業、1981年東京大学大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)。1981年9月よりアルバート・アインシュタイン医科大学にて生物・癌研究部門博士研究員となる。1984年7月よりスローンケタリング記念癌センターで生物・ウィルス研究系研究員、帰国後の1985年2月から国立遺伝学研究所分子遺伝研究系助手を務める。その後、1999年東京工業大学大学院生命理工学研究科・助教授を経て、2001年 筑波大学基礎医学系教授。2012年 筑波大学学長特別補佐、2013年4月より第9代筑波大学長に就任、現在に至る。専門分野は分子生物学。
その他学外委員として、文部科学省中央教育審議会副会長・大学分科会長、大学基準協会・会長、国立大学協会・会長、外務省科学技術外交推進会議委員等を務める。

introduction

大学で行われるSDGsの取り組みにフォーカスしインタビューする本企画。今回は、SDG大学連携プラットフォーム(SDG-UP)に参加する筑波大学の大学長 永田恭介さんへインタビューさせていただきました。

筑波大学が大切にするSDGsへの想い、さらに2030年以降に待ち受けるBeyond the SDGsに向けた考えもお伺いすることができました。研究型大学である筑波大学において、学長自らが語った「大きな目標を持つことの大切さ」への想いは必見です。

SDGsに取り組み始めたきっかけ

–本日はよろしくお願いいたします。筑波大学はSDGsへの取り組みが非常に活発な大学として有名ですが、力を入れ始めたきっかけを教えてください。

永田さん:

正直に言うと、筑波大学としてやるべきだと思うことを行っていたら、結果的に世界の潮流とマッチしたというのが実情です。

2007年からつくば市と一緒に始めた「つくば3Eフォーラム」は良い例ですね。これは、環境(Environment)、エネルギー(Energy)、経済(Economy)の3Eの調和をとりつつ「2030年までにつくば市のCO2排出量を50%削減する」という目標達成を目指した活動です。

▲第1回 つくば3Eフォーラムの様子(2007年12月15日、16日開催)

他にも2017年には、世界経済フォーラム(ダボス会議)で提唱された「国連グローバル・コンパクト」へ日本の国立大学として初めて加盟を果たしました。

いずれの取り組みも筑波大学が社会貢献のために取り組んできた研究や活動を見つめ直したとき、その全てがSDGsに貢献できる側面を持っていた、という表現の方が近いかもしれません。

国連グローバル・コンパクト(UNGC)とは

1999年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で提唱された構想。企業を中心とした様々な団体が、責任ある創造的なリーダーシップを発揮することによって社会の良き一員として行動し、持続可能な成長を実現するための世界的な枠組み作りに自発的に参加することが期待されている。2000年7月26日にニューヨークの国連本部で正式に発足し、2004年6月24日に開催された最初のGCリーダーズ・サミットにおいて腐敗防止に関する原則が追加され、現在の形となる。2015年7月時点では世界約160カ国で1万3000を超える団体(そのうち企業が約8,300)が署名し、「人権」・「労働」・「環境」・「腐敗防止」の4分野・10原則を軸に活動を展開している。

参考:グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

SDGsへの意識づけとコミュニティづくりがカギに

–SDGsという名前が広く知れ渡る前から、色々な活動を行われていたのですね。

永田さん:

そうですね。重要なのは、学生たちが行っている研究をSDGsという観点で見つめ直し、どの目標に貢献できるのかを意識させることだと思います。

例えば、新しい触媒の開発をしている場合、その触媒は新しい燃料電池の基になるかもしれない。これは目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」のエネルギー問題の解決に繋がります。

また筑波大学のフードセキュリティーリサーチユニットが、ゲノム編集技術を基に開発した「60日経過しても腐らないトマト」は、フードロスの削減や物流にも好影響を与えるでしょう。つまり目標2「飢餓をゼロに」や目標12「つくる責任つかう責任」に貢献することができるといえます。さらに、収穫量が増えれば、目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」や目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に関わるカーボンニュートラル削減への取り組みに繋げることもできます。

参考:収穫から(0day)から60日間(60days)室温で保存しても腐らないSletr1-2というトマト系統

筑波会議を通して、若手人材に討論の場を

もう一つ重要なのは、同じ意識を持った仲間を作ることだと考えます。

実は筑波大学では10年ほど前から「つくばグローバルサイエンスウィーク」を開催してきました。これは国や研究領域を超え、つくばの地から世界に向けて「地球規模課題」への解決策を発信するための取り組みです。

この筑波大学独自の取り組みの幅をさらに広げるために「筑波会議」を立ち上げました。

▲2019年に開催された筑波会議の一コマ

–筑波会議はどういったものですか?

永田さん:

世界中の若手世代に門戸を広げ、共に未来のビジョンを語り協働する仲間に出会える場の形成を目指しています。筑波会議の顧問を務める尾身幸次先生からは「若手のダボス会議みたいだね」とお墨付きをいただきました。

2021年は60を超える国や地域から3,000人以上の方が参加登録をしてくださいました。2年前は1,600人ほどでしたから、いかに注目いただけているかが分かりますね。

世界中の人たちがまったく同じことを目指す必要はありません。セッションを通じて同じ想いを共有し、それぞれの道を歩んでいくことが大切ではないかなと感じています。

▲2021年はオンラインでの開催となりました

–筑波会議では具体的にどのようなことを話し合うのですか?

永田さん:

2019年は「Society5.0とSDGs」、2021年は「Inclusive Innovation for the New Normal」をメインテーマとし、科学や技術がどれだけ社会に貢献できるかについて話し合いました。

2021年のテーマを考えるうえで最も分かりやすいのは、ロボットスーツだと思います。ロボットスーツを装着すれば、高齢者でも重いものが持てたり、障がいを持っている方たちも歩くことが可能となります。つまり、技術の力を使うことで誰もが公平に活動できる社会が実現できるということです。

実際に、脳梗塞で半身不随になった方がロボットスーツを着てリハビリをしたところ、歩けるところまで回復したという事例も出てきています。このことからも、科学技術が包摂的な社会の実現にいかに密接に関連しているかが分かると思います。

▲ロボットスーツHAL Prof. Sankai, University of Tsukuba / CYBERDYNE Inc.
Society5.0とは

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において日本が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。

参考:Society 5.0 – 科学技術政策 – 内閣府

SDGs達成において筑波大学が果たす役割

–SDGsの分野で大学が果たす役割についてはどのようにお考えですか?

永田さん:

まずは、大学が国や地域と密着して動いているということを理解することが大切だと思います。

具体的には、大学が地域のコミュニティの中に存在しているということ、コミュニティのニーズやシーズを捉えた活動を行う必要があるということです。

そもそも大学の成り立ちについては、ハーバード大学建学の理念を見るとよく分かります。そこには「ボストンのため」とはっきりと書いてあります。ボストンのコミュニティで生きる人たちを幸せにするために大学を運用していくと示してあるんですよね。これが、大学が果たす役割の本質なのではないかと考えています。

ではコミュニティって何?ということですが、筑波大学ですとつくば市、もう少し大きくして首都圏、さらに大きくすればその先には必ず国の問題があるわけで、「地球のために」と考えても別におかしいことはないわけです。

私たちのすぐそばに地球があり、密接に繋がっている。このことを意識さえできれば良いのではないかと思います。どうやって貢献するかを考えるのはその次であって、我々大学が誰と繋がっているかをしっかりと理解することが、益々求められるのではないでしょうか。

SDGsのその先へ:Beyond the SDGsへの想い

–2030年以降のBeyond the SDGsについてはどうお考えですか?

永田さん:

これまでのエコな技術や考え方の先をいく、大きな夢を持つことが大切だと思います。

例えば「地球に緑を増やしましょう」と言っても、実際に今行われているのは「伐採しない」とか「燃やさない」といったネガティブなことばかりです。

「サハラ砂漠を緑にしよう」ではなく、「火星を緑いっぱいにしよう」だとどうでしょうか?実現に向けて、みんなのファイトが湧いてくると思うんですよね。そんな大きな夢を持つことができる人なら、おそらくサハラ砂漠でも北極圏でも緑を増やすことが可能なのだと思います。

そのためには、研究者のような専門家だけでなく全ての人に開かれたオープンサイエンスという考え方が非常に重要です。誰もが壁を感じることなく、全員が課題解決に関わっていこうとする姿勢が必要となるわけです。

オープンサイエンスの代表例が「アポロ計画」です。誰かが指示したわけでもなく、「月へ行きたい」という想いのもとに人が集まってくる。2030年以降のBeyond the SDGsもそういったものであるべきだと感じています。

–これから大切なのは、たくさんの人がワクワクできるような目標を共有し、みんなで一緒に取り組んでいくことなんですね。

永田さん:

そうですね。大きなビジョンが共有できていれば、黙っていてもみんなその方向に歩くことができると思うんです。

会社も「社会に貢献しよう」というビジョンが大きければ大きいほど、組織として大きくなっていきますよね。

研究者も同じで、小さいことを言ってると研究も小さく収まってしまいがちです。どうせやるなら、みんながポジティブな夢を持って取り組めることが重要です。

筑波大学プラズマ研究センターでは、エネルギー問題と地球温暖化の解決のために、「地上の太陽」を実現する研究が進んでいます。おそらく実現までに30年〜40年かかることですが、これが実現すれば化石燃料を一切使わない社会が実現できるのではないかと思います。

▲「地上の太陽」の実現に向けて、教職員・学生が一体となって研究開発に取り組んでいます

今ある課題の解決の一歩先を描くことで、スケールが大きくなりわくわくしてくる。それがBeyond the SDGsの根本だと思います。「これを達成しなさい」と指示するのではなく、みんなで「こうしよう!」と進んでいくことが重要だと思いますね。

–大きなスケールを持って周りを巻き込んでいく。これがポイントとなるのですね。

永田さん:

一昔前のように「不言実行が偉い」みたいなのは嘘で、有言実行の方が価値が高いのは明らかです。想いをみんなでシェアしながら、一人でも多くの方の共感を得られたら、それでまた一歩前に進んでいけるのではないでしょうか。

大学は未来をつくる人材を育てる場

私は2年ほど前まで「人が社会を作り、科学技術が未来を開く」と思っていました。でも、この2年で考え方ががらりと変わったんです。「目の前の問題を解決するのが科学技術であり、未来を作るのは人だ」と。

SDGsに限りませんが、大学はやはり未来をつくる人材を育てることが一番重要なのではないかと感じています。人が育てば科学技術は自然と後をついてくるのだと思います。

情熱を持った人たちがコラボレーションしながら、新しいものを生み出していく。そんな未来を作ることができたら良いのではないかと思います。

–貴重なお話をありがとうございました!

インタビュー動画

関連リンク

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