#インタビュー

上羽絵惣株式会社 | 日本画絵具の伝統を守りながら、時代に合わせた商品を開発

上羽絵惣株式会社 中川未来さん インタビュー

中川未来

派遣社員、システム会社勤務を経て2014年入社。前職の経験を活かし、ウェブサイト・通販まわりの業務を担当。

お客様や取引先と会話するなかで、自身も初心者の立場から接してきた日本画用絵具や胡粉ネイルをはじめとした商品について、わかりやすく、親しみを持ってもらえる伝え方を模索している。

創業270周年を迎えた老舗企業としてのさまざまな歴史・想い・取り組みをより多くの人に知ってもらいたいと考えている。

introduction

1751年創業、江戸時代より270年以上続く京都の日本画絵具専門店「上羽絵惣株式会社」。日本画用の絵具の製造・卸がメインの事業ですが、ホタテの貝殻を原料とした刺激の少ない「胡粉ネイル」を2010年に発売しました。現在では、胡粉ネイル以外にも化粧品の企画開発・卸も行っています。

なぜ老舗の日本画絵具店がネイルを開発したのか、SDGsとの関わりは何か、上羽絵惣株式会社の中川さんにお話を伺いました。

ホタテの貝殻を利用した「胡粉ネイル」

–「胡粉ネイル」について教えてください。

中川さん:

当社の日本画用の白色顔料は、「胡粉(ごふん)」という貝殻100%のものを使用しています。胡粉ネイルは、この天然素材である胡粉を含む水溶性ネイルコートです。マニキュア特有の刺激臭が少なく、爪への負担も少ないことで注目いただいています。また、一般的なネイルの除光液ではなく、手を消毒するアルコールで落とせるので、爪への刺激が比較的少ない商品です。

白色顔料の「胡粉」

–どのようなお客さんに支持されているのですか?

中川さん:

臭いや刺激が少ないので、療養中の方や、体への刺激を控えたい妊婦さんなどに愛用いただいています。なかには高齢者施設の訪問ボランティアをされているネイリストさんもいて、お年寄りの方に彩りの楽しみを提供していただいています。

–「日本画絵具」と「ネイル」は一見結びつかないようにも思えます。ネイルを開発しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか?

中川さん:

きっかけはバブル崩壊の時です。不景気になり、国内全体の日本画市場がかなり縮小してしまい、画材の売上も落ちてしまいました。廃業する同業他社もいるなか、なんとか日本独自の色合いや職人の技術を守りたいと考えた当時の開発者が、たまたま「ホタテの塗料を爪に塗る」という話を耳にしたそうです。

日本画の白色は、企業や職人さんによっては牡蠣の貝殻や他の原料を使うところもありますが、当社では以前よりホタテの貝殻を使用していました。「これが使えるんじゃないか」とホタテの貝殻を原料にしたネイルというアイディアが浮かんだんです。

–灯台下暗しというやつですね!

中川さん:

はい。当社の中にアイディアの種があったんですね。絵画はキャンバスに絵を描きますが、ネイルでは「爪を小さなキャンバスに見立てて」気軽に彩りやアートを楽しんでほしいという意味も込められています。

–当時はホタテの貝殻を原料としたネイルは他にもあったのでしょうか?

中川さん:

いいえ。他にはあまり聞いたことがなく、斬新なひらめきだったようで、2015年には公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「2015年度グッドデザイン賞」を受賞しました。270年続く絵具屋が作っていることにも注目いただき、胡粉ネイル以外でも商品開発のお話をいただくようにもなりました。それも胡粉ネイルのおかげですね。

–現在はネイル以外の商品もあるのですか?

中川さん:

はい。天然素材の「胡粉」を使った人にやさしい商品として、せっけんや医薬部外品のハンドクリーム、液体口紅などの新しい商品も開発しています。今後も、お客さんに喜んでいただける商品の開発に取り組んでいきたいですね。

商品のせっけんとハンドクリーム

江戸時代から続く日本の文化や伝統を守る

–新しいものを取り入れつつも伝統を大切にしようとしているように感じました。

中川さん:

江戸時代から受け継いできた日本絵具の製造や職人の仕事など、日本の文化を守り、受け継いでいくことも、当社の重要な役割だと考えています。日本独自のものを守り持続していくことが、私たちの生活の豊かさにつながるのではないかと思いますね。

–伝統を守るためにも、時代の流れに合わせて胡粉ネイルなどの新しい商品を開発し、人々に認知される必要があるんですね。新商品開発以外に行っていることはありますか?

中川さん:

当社の絵具を使って作品を作られている先生方に、当社の京町屋の社屋で月1回ワークショップを開いていただいています。珍しい京町屋で、日本の色に親しんでいただく。2つの意味で貴重な体験を提供できていると感じています。

京町屋とは

建築基準法が施行された1950年以前に建築された、京都市内の伝統的な木造建築物。

上羽絵惣株式会社・京町屋の社屋

–「京町屋」という独特な空間の中で、日本画の体験ができるのはワクワクしそうですね!

中川さん:

また、近所の木版画工房さんと一緒に、木版画に絵具を組み合わせるというコラボ企画も行いました。当社は創業270年、木版画工房さんは創業130年、合計400周年という企画をたててやったんですよ。

–それは、ものすごいコラボ企画ですね!

中川さん:

京都には歴史ある老舗がたくさんありますが、実はお互いに関わる機会はあまりなかったんです。老舗企業同士が仲良くがんばっていたら、皆さんに興味を持ってもらえるんじゃないかと思いました。「老舗」や「伝統」というと、敷居が高いイメージを持たれてしまうかもしれないんですが、もっと気軽に、わいわい楽しんでいただきたいなと思っています。

日本の色を海外に発信

–上羽絵惣さんの今後の展望を教えてください。

中川さん:

日本の文化であり、職人の技術を継承する「日本の色」を世界に届けたい想いがあります。商品を通じて、日本の色を海外の方に紹介していきたいですね。

–現在は海外でも販売されているのでしょうか?

中川さん:

海外での販売となると、法律の壁がありなかなか難しいのが現状です。今は個人のバイヤーさんを通して販売するに留まっていますが、今後は新たな販売方法を模索し、販路を伸ばしていくのが課題ですね。

–「日本の色」とはどんなものでしょうか?海外の色とは違うんですか?

中川さん:

日本の色合いは、大昔からの四季や風土に影響されてできたものです。昔は日本でとれる天然の鉱物や土、花から色が染められてきた歴史があり、日本の自然風土と密接に関わっています。春が近づくと、自然とお花や桜のつぼみを目で探してしまうような感覚がありますよね。そんな私たちの生活や自然環境に根ざした色が「日本の色」です。

上羽絵惣が取り扱う伝統的な「日本の色」

–日本には日本の、海外には海外の色があるということですね。

中川さん:

はい。ただ、昔ながらの天然資源を使った色は価格が高騰していたり、加工が難しかったりするなどの理由で消滅してしまった色もあるんです。そんな日本独自の色合いを、少しでも守って受け継いでいきたい想いもあります。そのためにも、国内外に向けて情報発信をしていきたいと思っています。実際、InstagramなどのSNSを通じて、ワークショップの様子を見て「やってみたい」と来てくれるお客さんもいるんですよ。

ワークショップで作られる作品例

–伝統を守るためにも、様々な方法でのアプローチが必要なんですね。

中川さん:

はい。当社は胡粉ネイルを開発・販売していますが、やはり根底には日本画絵具や日本の色合いを届けたいという想いがあります。「色」に親しむ入口をたくさん用意して、興味を持っていただけるようこれからも発信していきます。

–ありがとうございました。

インタビュー動画

関連リンク

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