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アンダードッグ効果とは?具体例や活用方法を交えてわかりやすく解説!

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アンダードッグ効果という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。耳慣れないという方にも「判官贔屓(ほうがんびいき)」と聞けば、イメージしていただけることでしょう。

スポーツ観戦や選挙の候補者選びばかりでなく、推し活や普段の買い物のときにも働くことのある心理現象です。

広く見られるこの現象について、正しく知っていただき、有効に活用していくために、また誤った活用に騙されないようにするためにも、一緒に学んでいきましょう。

アンダードッグ効果

アンダードッグ効果(underdog effect)とは、競争や対立の場面で、勝利の見込みが少ないとされる者やグループなどに同情してしまう心理現象です。

1940年代にアメリカで世論調査分析から発見されました。

アンダードッグとは「負け犬」を意味する英語なので、直訳すると「負け犬効果」となります。しかし、日本語で負け犬というと「すでに負けた犬」つまり敗北が決まっていることを意味するので、少しニュアンスが異なります。アンダードッグ効果は、まだ敗北が決まっていない場合に同情する心の動きです。

日本語でなんという?

アンダードッグ効果は判官贔屓効果と訳すことができます。あの源義経のように弱者と思われる方に同情する心理です。

バンドワゴン効果との違い

バンドワゴンbandwagon)とは、パレードの際などで先頭を行く楽隊車のことです。派手な飾りやにぎやかな音楽につられて後から続いて行く見物人になぞらえて、優勢が伝えられる方につく心理現象バンドワゴン効果(bandwagon effect)と言い、アンダードッグ効果の対義語といえます。

日本語では「勝ち馬に乗る」という表現が合うでしょう。「周囲の人々や状況に後れをとりたくない」という心情でもあります。ネガティブな面を強調すれば「日和見」「付和雷同」といった意味が加わることもあります。

アナウンスメント効果との違い

アナウンスメント効果とは、報道や世論調査がその後の行動に与える影響の事です。

例えば選挙で、ある候補者が有利という事前予測が出たとします。そのことが、勝ち馬志向の有権者に影響を与えて、その候補者が票を一気に集める場合(バントワゴン効果)と、逆に対立候補への同情や危機感を生んでそちらに集票が進む場合(アンダードッグ効果)の両方が起きる場合があります。

つまり、アンダードッグ効果もバンドワゴン効果も、アナウンス効果の1種と言えるのです。

アンダードッグ効果の具体例

アンダードッグ効果は、私たちの生活の中の思ったよりいろいろな場面で見られます。具体例をみていきましょう。

スポーツ

スポーツの応援は、特にアンダードッグ効果が現れやすい場面です。

大量リードされている試合にも関わらず食い下がる弱小チームを応援したり、オリンピックで小さな国の選手が必死に競技に挑む姿に大声援を送ったりすることがあります。

大きな試合でなくても、学校の運動会でころんでも最後まで走り切ろうとする子どもには皆が拍手を送ります。

相撲の大きな力士と小兵力士の対戦では、出身が同じなどの特別な理由がなければ、多くの人は小兵力士に応援の気持ちが傾くのではないでしょうか。

これらはアンダードッグ効果の現れです。

恋愛

健気でありながら、なかなかうまく立ち回れない相手に同情する気持ちは好意に結びつきやすく、アンダードッグ効果が現れた例と言えます。会社ではバリバリ働く人が、仕事以外の場面で「あなただけに見せた弱み」などが加わると、さらに効果は高まります。

恋愛対象だけでなく、頑張っていても成果が得られず自分を頼ってくる後輩などにもアンダードッグ効果が現れる場合もあります。

アイドル

不遇な時を経てやっとデビューできたアイドル、「苦節〇〇年!」の歌手、大きなバックボーンもなくストリートからやっとメジャーに出たバンドなどを応援したくなる人が少なくありません。アンダードッグ効果はファン心理にも強く現れます。

近年「推し」「推し活」「推し事」などの言葉が市民権を得ています。

アイドルに対するファンの心理を分析した研究者の考察をみると、ファンになるきっかけを「心理的一体感」と「心理的責任感」の2つに分類しています。後者は自分の「推し」がそのアイドルを支えている、支える責任があるという心理です。

「推し」の対象はアイドルだけではありませんが、特に若いアイドルに対しては、自分が育てる意識が強くなる傾向があります。アンダードッグ効果がとても強く出るという対象がアイドルと言えます。

参考:アイドルに対するファンの心理的所有感と その影響について

(成蹊大学経営学部;井上淳子・上田泰教授)

「推し」の心理(京都女子大学現代社会学部;正木大貴)

 

選挙

選挙におけるアンダードッグ効果とは、世論調査や選挙速報などで苦戦や敗色濃厚などを伝えられると、候補者への同情から劣勢挽回のための票が集まることです。

選挙で当選するか否かは立候補陣営にとってはとても大きな問題ですので、アナウンスメント効果については分析もすすんでいます。

有権者の心理がどのように動くのかは、候補者の政策から対立候補との比較などもあり、まだ合理的・確定的な結論には至っていません。しかし事前報道の在り方がこれから投票に向かう有権者の行動に何らかの影響を与えることは確かである点で、研究者の意見は一致しています。

また、有権者ばかりでなく、運動員の士気にも関わってくるという調査結果も出ています。

参考:選挙予測のアナウンスメント効果に関する先行研究の概観(亀ヶ谷正彦氏)

ビジネス

ビジネスの世界では、大企業に対抗する小規模なベンチャー企業を応援したくなったり、新入社員が奮闘しているのを見て応援したくなったりする気持ちが、アンダードッグ効果の例と言えます。

また、気の毒な理由で売れ残ってしまった商品などに顧客が同情して購入する心理もアンダードッグ効果の現れです。近年では、海外輸出ができなくなってしまった海産物の流通を応援するイベントを開いたり、感染症の影響で客足が途絶えてしまった店を助けたりする行動に結びついています。

アンダードッグ効果の活用方法

アンダードッグ効果が私たちをとりまく多くの場面で見られ、実際に多くの人の行動に影響を与えていることがご理解いただけたと思います。では、このアンダードッグ効果はどのように活用されているのでしょうか。

販売戦略に活用されることも

アンダードッグ効果の元になっているのは、本来なら弱みや逆境にあることを明かすことです。それによって人々に「応援しよう」「成長を見守りたい」という気持ちを起こさせます。

例えば、

  • アイドル:実力はあるが容姿に自信がない、貧乏など不遇な時代があったなどの話をする。
  • 選挙:自転車で街を走り回ったり、演説で熱弁を振るったり、「弔い合戦」などと主張したりする。
  • 企業・店舗:売れ残った商品を「ご発注」や「過剰在庫」を訴えるポップを添えて積み上げる。また「閉店セール」をアピールする。

などが活用例として挙げられます。

始めは企業努力しているが売れていない現状をアピールしてアンダードッグ効果を狙い、売れてきたら「多くの人に使われている」ことを宣伝してバンドワゴン効果を狙うといった活用方法も見られます。

しかし、ただ同情を狙ったのでは多くの応援は得られません。不利な状況でも真摯に頑張っている姿に心は動くのです。「活用方法」とは、本来ある真摯な姿を伝える方法とも言えるでしょう。

アンダードッグ効果はなぜ起きる?

では、アンダードッグ効果をもたらす心理はどうして起きるのでしょうか。心理に関するデータや統計結果を追いながら一緒に考えていきましょう。

同情心:大切な本能

同情とは、他人の気持ちを感じ取る気持ちです。特に相手の困っていることに対する哀れみや「かわいそう」といった思いやりの気持ちです。

「進化論」で知られるダーウィンは「強いものが生き残る」という論を唱えました。その「強い」とされる力の1つに、同情する感情が挙げられています。

人間は社会的な生き物です。集団を維持するためには、相手の思いを感じ取ることは、時に肉体的な力より高度な力となります。生まれたての小さな赤んぼうをかわいいと思い、育てることは種を維持する本能の1つなのです。これは人間だけでなくほとんどの種に言えるのではないでしょうか。

参考:チャールズ・ダーウィン – Wikipedia

共感力:行動につながる力

共感力とは他者の感情や考えに寄り添うことができる力です。

「力」が付くことは、ある程度相手の状況を理解する(認知的共感)ことや感情を分析する(情動的共感)ことが必要とされるからです。

同情と違う点は、例えば目の不自由な方が信号で立ち止まっている姿を見て、

  • 「大変だなあ。」と思う→同情
  • 「大変だなあ、何か手伝えることはないかな?」→共感

といった違いと言えます。

「手伝えることはないか」と思ったことが「何をすべきか」という行動の原点になります。

同情から共感を経て行動の変容に結びつくことで、アンダードッグ効果は生まれています。そして、共感力とそこから生まれた行動は、双方あるいは複数方向に効果が発揮されやすくなります。相手からの感謝は次の行動のスイッチになり、見ていた周囲の人の行動変容につながるのです。

返報性の原理:「お返ししなくちゃ」の気持ち

アンダードッグ効果の起こる理由には「自己開示の返報性」も挙げられます。まずは原理からお話しします。

下のグラフは、消費者はどのようなことが決め手となって商品を購入するのかを、調査し整理したものです。

出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/71/0/71_2AM148/_pdf/-char/ja「消費者の購買態度の形成と説得要因の分析」(玉川大学文学部:小嶋正敏)

※実験群:購入の際何らかの説明を受けた
統制群:何の説明も受けず商品を見て決めた

商品購入の際の決め手(説得要因)が6種類に分類され、どの要因が強いかが表されていますが、1番左側に「返報性」という言葉が見られます。

返報性の原理とは、相手から何かを受け取ったときに「お返ししなくちゃ申し訳ない」という気持ちになることです。「いつもいただいてばかりで申し訳ない」という言葉は日常よく聞かれますね。

商品あるいは説明内容や説明した人を気に入って購入したことを表す「好意性」や、しっかりした商品・製造元・専門家の勧めなどが決め手となった「権威性」についで、返報性の原理が強く働いていることが分かります。

自己開示の返報性:相手が心を開いてくれたなら

返報性には4つのパターンがあります。

  • 好意の返報性
  • 敵意の返報性
  • 譲歩の返報性
  • 自己開示の返報性

1〜3のパターンは文字通りです。4番目の自己開示の返報性とは、相手が本音を言ってくれたり、個人的な情報を話してくれたりすることで「自分も心を開いて接したい」という返報性です。

「困っている」「助けてほしい」と自分の欠点や弱点など否定的な否定的な側面を開示されると、多くの人が好感を持ったり親近感を抱いたりします。特にその否定的な側面が自分と重なった場合は、共感や同情につながり、応援行動に移りやすくなります。

このような返報性もアンダードッグ効果の源泉となっているのです。

アンダードッグ効果とSDGs

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最後にアンダードッグ効果とSDGsの関連をみていきましょう。

SDGsは、環境・社会・経済の問題解決に向けて、2015年に国連で採択された17の国際目標です。2030年までの解決を目指し、169のターゲットが設定されています。

アンダードッグ効果は心の動きに基づく現象なので、いくつもの目標に関わってきます。

目標3「すべての人に健康と福祉を」とアンダードッグ効果

現代では福祉というと、主に公的・社会的扶助活動をさすことがほとんどですが、元々は幸福快適な生活を意味する言葉です。

SDGs目標3のターゲットの文言には、子どもや妊産婦、貧困や障害に苦しむ「すべての人」を対象とすることが述べられています。そのような人たちが「頑張ってはいるが助けてほしい」と手を伸ばしている姿に、こちらも手を差し伸べるのはとても自然な、しかも生き延びるのに必要なことなのです。

目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とアンダードッグ効果

目標17には、国連機関を始めとする国際的な期間や開発途上国といったグローバルな範囲でのパートナーシップが述べられています。しかし団体規模の大きさに関わらず、効果的にアンダードッグ効果が活用できれば、パートナー同士の連携も強まるはずです。

その他にも、地域社会でアンダードッグ効果が発揮されれば目標11「住み続けられるまちづくりを」の達成に、アンダードッグ効果をきちんと認識した上で生産・消費活動を行えば、目標12「つくる責任つかう責任」の達成につながります。

>>各目標に関する記事はこちらから

まとめ

今回は、アンダードッグ効果について具体例をあげ、活用方法や起きる理由について解説してきました。いろいろな場面で現れるアンダードッグ効果ですが、SDGsとの関連もみていただけたと思います。

「かわいそう」と思うこと、困っている人を助けることは私たちに備わった大切な力です。助けられた側も、立ち直ったら次は私たちが助ける側になろうと思います。もちろん自分が困ったときは周囲にSOSを出しましょう。弱者への同情心・共感力そして返報性は、私たちの生きる本能なのですから。

<参考資料・文献>
コトバンク
関連人物 │ 平泉の歴史 │ 平泉の文化遺産
外見と手間の返報性
https://designalpha.jp/knowledge/marketing/normofreciprocity#:~:text=%E8%BF%94%E5%A0%B1%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%8E%9F%E7%90%86%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E4%BB%96%E4%BA%BA%E3%81%8B%E3%82%89%E4%BD%95%E3%81%8B,%E3%81%9F%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%81%8C%E6%9C%89%E5%90%8D%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82(マーケティング行動心理学:DESIGN)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pacjpa/71/0/71_2AM148/_pdf/-char/ja「消費者の購買態度の形成と説得要因の分析」(玉川大学文学部:小嶋正敏)
アイドルに対するファンの心理的所有感と その影響について
「推し」の心理
返報性の原理とは?4つのパターンとマーケティングで活用する際の注意ポイントを解説 | 株式会社Sprocket
広辞苑(岩波書店)
Oxford Languages
選択の科学:シーナ・アイエンガー;櫻井祐子訳(文芸春秋)
社会心理学キーワード:山岸俊男(有斐閣)
「集団の思い込み」を打ち砕く技術:トット・ローズ;門脇弘典(NHK出版)