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ユニファ株式会社 土岐 泰之さん インタビュー
土岐 泰之
2003年に、住友商事に入社。
リテール・ネット領域におけるスタートアップへの投資及び事業開発支援に従事。その後、外資系戦略コンサルティングファームであるローランドベルガーやデロイトトーマツにて、経営戦略・組織戦略の策定及び実行支援に関与。
2013年にユニファを創業。全世界から1万社以上が参加したスタートアップ・ワールドカップにて優勝したことに加え、採用率が全世界で2.5%未満であるEndeavor(エンデバー)起業家に満場一致で選出されるなど、国内外で高い評価を受ける社会起業家。
一般社団法人こどもDX推進協会理事、文部科学省アンドレプレナーシップ推進大使。2021年には経済産業省が主催する、世界で勝負できるスタートアップを発掘するプロジェクト「J-Startup」に選出。更に2023年には「J-StartupImpact」に選出。
introduction
共働き家庭が半分以上になっている現代では、保育園や幼稚園に預けている保護者が大半ですよね。
不適切保育などの原因にもつながる保育者の負担を減らす取り組みをしているのが、ユニファ株式会社。
ユニファ株式会社では、保育施設(保育園・幼稚園・こども園)で働く保育者をターゲットに、保育者の業務負荷を軽減し、時間と心のゆとりを創出することを目的としています。
保育者の負担を減らすには
—はじめに、御社についてご紹介をお願いいたします。
土岐さん:
ユニファが提供している総合保育ICTサービス「ルクミー」は、保育施設向けのトータルパッケージです。
AIやIoTといった最新のテクノロジーを活用して、保育関連業務をDX(デジタル・トランスフォーメーション)することで、保育者の業務負荷を軽減し、時間と心のゆとりを創出しています。
保育者にゆとりが生まれることにより、保育者の本来の業務である「子ども達との豊かな関わり」を実現できるため、保育の質の確保・向上を実現するのが目標ですね。
–御社のメインターゲットはどういった人たちでしょうか?
土岐さん:
ユニファ株式会社のメインターゲットは、保育施設(保育園・幼稚園・こども園)で働く保育者で、保育施設は日本に約6.7万施設あり、そのうち50%以上の園がICTツールが未導入なんです。
複数のサービスを活用しているのは、実はかなり限定的な施設という状況なんですよ。(ユニファ株式会社調べ)
保育者の業務は、子ども達の登降園管理やお昼寝(午睡)時の見守り、保育日誌や保育計画の作成、保護者や自治体へ提出する書類作成、保育者のシフト管理まで、非常に多岐にわたっています。
上記業務に加えて、保育者が作成しなければならない書類の多さ、保育の周辺業務、補助業務でのICT化が進んでいないことが、保育者が多忙である要因だと指摘されています。(出典:「保育の現場・職業の魅力向上に関する報告書」(厚生労働省 令和2年9月)
連絡帳や保護者に見せるための活動写真、午睡センサーといった単一プロダクトとして提供している同業他社は複数ありますが、それらをトータルパッケージとして、ワンストップで提供しているのはユニファ株式会社だけなんですよ。
保育施設は「ルクミー」の専用アプリ、専用サイトにログインし、クラウド上でルクミーサービスを利用できますし、保護者は専用のアプリをダウンロードすることで「ルクミー」サービスを利用できます。
–ルクミーについて教えてください。
土岐さん:
「ルクミー」を活用することで保育者にとって働きやすく、子ども達が安全に過ごせる環境を提供し、保護者も安心して預けることができる、保育者・子ども・保護者にとっての“三方良し”を実現する仕組みを、構築できました。
—御社が、SDGs・サステナブルに関する事業やサービス、活動を始めたきっかけや背景をお聞かせください。 また、理念、事業への思い、大切にしていることなどがありましたら、あわせてお聞かせください。
土岐さん:
起業家になるという漠然とした夢は学生時代から抱いていたものの、何をテーマに起業すればいいのか迷っていました。
妻のキャリアと「家族の幸せ」を尊重し、自分自身のキャリアを中断して名古屋へ移住したことをきっかけに、自身が人生を賭けて挑戦ができるテーマは、ある意味「仕事」よりも大事である「家族」であると思い至りました。
名古屋では専業主夫をしていた時期もあり、働きながら子育てをするなかで保育施設には大変お世話になり、子育てのパートナーであることを体感しました。
保育施設での子ども達の日常を記録した写真を起点に保育施設と家庭をつなぐプラットフォームを作ることができれば「家族の幸せ」を増やすことができると考え、ユニファを創業しました。
—御社が手掛ける事業やサービス、活動により、どのようなことが社会で改善されていると感じていらっしゃるでしょうか。どのようなことが期待できますでしょうか。
ユニファ株式会社では、労働人口が減少する日本において、豊かな社会を実現し持続的に経済をさせるためには、ジェンダーギャップの解消と女性活躍のより一層の推進が不可欠だと捉えています。
我々としては、自社のHPにもSDGs(持続可能な開発目標)の3、4、5、8を掲げており、特に「5.ジェンダー平等を実現しよう」に関しては大きく貢献できると考えています。
世界経済フォーラム(WEF)が実施した経済や政治等4つの領域における男女格差を示すジェンダーギャップ指数2022において、日本は調査対象146ヶ国中116位と主要7ヶ国(G7)の中で最下位であり、目標達成に大きな課題を残す結果となっています。
ただ昨今の女性の就業率の上昇と共に保育施設の利用率は上昇傾向にあり、直近では50%を超えていて、政府は女性の就業率を2025年までに82%まで上げていくことを目標としており、今後も保育施設のニーズは上がっていくと予想されています。
保育士不足が深刻な社会問題になっている
土岐さん:
「保育士不足」は深刻な社会課題で、有効求人倍率は約3倍と全職種平均の約1.5倍を大きく上回っており、「潜在保育士」という保育士資格を有していながら、保育士として働いてない方は資格保有者の約60%、実数にして約100万人とその数は非常に多いことがわかっています。
そのような状況を受け、ICTを活用し保育関連業務の効率化を図り、保育者が本来の業務である子ども達との豊かな関わりに時間を割くことができる職場環境を構築することは、保育者から選ばれるためにも、園運営という観点ではより重要になっていくと考えました。
ICTの活用により、保育を可視化していくことで、保育者の専門性をしっかりと保護者に伝えられることで、保護者とのコミュニケーションの向上や、信頼の獲得にもつながり、結果的に保護者が安心して子どもを預けられることから「選ばれる園」となるための一歩につながりますよね。
ルクミーには、ヘルスケアデータやフォトデータ、発達に関するデータなど、子ども達の様々なデータが蓄積されています。
保育施設で過ごす未就学の子ども達は、興味関心などを自ら言語化することはまだまだ難しく、データを利活用することで子ども達の声なき声を可視化して、一人一人に合った教育や教育機会の提供につなげられます。
「ルクミー」は、子ども達、保育者、保護者と全てのステークホルダーの幸せにつながる価値を提供していると考えています。
当社のこのような取り組みが評価され、2021年には国連SDGsなどの人類課題をテクノロジーで劇的に解決するスタートアップを発掘支援する世界最大級のピッチコンテストである「Extreme Tech Challenge」日本代表に選出していただきました。
また、「スマート保育園」のコンセプトおよび仕組や成果、社会的な意義が評価され2021年グッドデザイン賞の「ベスト100」および特別賞である「グッドフォーカス賞〈新ビジネスデザイン〉」も受賞していますよ。加えて、2021年には経済産業省が主催する、世界で勝負できるスタートアップを発掘するプロジェクト「J-Startup」にも選出いただき、更には2023年には「J-StartupImpact」に選出頂き幸いなことに国内外の様々なネットワークを活用させていただいている状況でありますが、国内のスタートアップ138社が参加するインパクトスタートアップ協会の幹事社・代表理事を務めており、日本のインパクトスタートアップをけん引しております。
保育者と保護者そして『子ども』のより良い未来のために
—現在事業やサービスを展開している中での課題や問題点がありましたらお聞かせください。また、どのよう に解決しているのでしょうか。
土岐さん:
「保育施設におけるコスト負担・補助金の不平等」と「保育施設における導入率」が課題と考えています。
前者のコスト負担に関しては、政府および自治体の補助金活用を促進することで、導入ハードルを少しでも下げるよう努めています。また、地域ごとに補助金の金額の多寡に大きな差があるため、一律の手厚い援助を政府に呼び掛けております。
後者に関しては、特に命の見守りのデバイス(午睡)の導入は、バスの置き去り防止のブザーと同様に防げる事故であるため、導入率をほぼ100%を目指すべきだと考えており、こちらも政府に呼びかけを行っております。
–最後に、今後どのように事業やサービス展開していくのか、展望をお聞かせください。
土岐さん:
約6.7万施設ある保育施設の50%以上がICT未導入園であり、複数のサービスを活用している事例は非常に限定的なのが現状の中、そこに対して1園でも多く当社のルクミーシリーズを活用いただける状況を創ることで国内の事業基盤を強化していくことが短期的な目標ですね。
加えて、昨今は少子化が一層加速しており、地方や一部都心部においても定員割れをする保育施設が出てきています。
保育業界全体が今大きな転換期にあるので、今後保育者はもちろん、子ども達や保護者、地域から選ばれる園創りをしていくことが園運営における重要なアジェンダになっていくと考えています。
当社の「ルクミー」を活用いただくことで保育施設側にとっても、差別化になると思っています。そのうえで当社としては2024年8月には株式会社MIXIと資本業務提携を行い、国内外で2000万人以上のユーザが利用する「家族アルバム みてね」とルクミーの連携を行うことで、更に保護者にとっても魅力的にサービスになることで、その差別化に貢献ができると考えていますよ。
「ルクミー」には、未就学の子どもの写真データ、連絡帳や日誌、帳票といった記録から得られる発達データ、午睡センサーから得られるバイタルデータなど、様々なデータが蓄積されており、これらのデータを利活用することで一人一人の子どもの興味関心や発達段階に合わせた教育や教育機会を提供できる点も、他社にはないルクミーの大きなメリットと考えています。
同時にBtoBtoCでのビジネス展開が可能であり、保育施設における探求支援サービスの事業開発を進めている状況ですね。
—お話を伺ってこれから訪れる少子化やジェンダーギャップなどについても深く考えて、ルクミーが制作されていることが理解できました。貴重なお話を詳しく教えていただきありがとうございました。
関連リンク
株式会社MIXIとの資本業務提携について(家族アルバム みてねとの連携):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000113.000031858.html