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WBCSDとは?持続可能な開発のための世界経済人会議の削減貢献量算出ガイダンスについても紹介

出典:World Business Council For Sustainable Development (WBCSD)

環境や格差など、地球上のあらゆる問題の解決が急がれる中、資本主義社会を牽引する企業の役割はますます大きくなっています。その中でグローバルに主導権を発揮して注目され始めているのが、WBCSDと呼ばれる組織です。

ではこのWBCSDとは、どのような組織で、何を目的に、どういった活動をしているのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

WBCSDとは

WBCSDとは「World Business Council for Sustainable Development」という組織の略称のことで、日本語では「持続可能な開発のための世界経済人会議」と訳されます。

より詳しく言うと、世界中の民間企業のCEOや幹部が集まり、環境や気候変動、公平な社会を実現するために働きかける組織です。

本部はスイスのジュネーブに置かれ、世界約35ヵ国から産業部門や業界の枠を超えた200以上の企業のトップが参加しています。

歴史

WBCSDの原点は、1990年のBCSDという組織に端を発します。

BCSDは、21世紀に向けての環境問題など、国際的に取り組むべき課題の解決を目指して集まった、経済界のトップにより結成された団体です。

その後1992年には「Eco-efficiency」(環境効率)という概念を提案します。これは、環境および資源管理に関する基準のことであり、廃棄物や汚染物質の排出を削減し、少ない資源で生産性を上げるための経営上のアプローチのことをいいます。

BCSDは、1995年にWICEという、同様の取り組みを進めていた別の組織と合併してWBCSDとなり、現在に至ります。

WBCSDの活動内容

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WBCSDが行なっている活動は、持続可能な社会の実現のために必要な取り組みを国際機関や各国政府、NGOなどに働きかけることです。

また、外部の関連機関とも連携して課題解決に向けた枠組みやガイダンスを策定し、提案しています。

こうしたWBCSDの活動は、以下のような指針を基にして行われています。

活動指針①Vision2050

Vision2050は、WBCSDの活動の中核をなす重要な指針です。

その目標は「2050年までに90億人の幸せな人生を、プラネタリーバウンダリーの範囲内(限られた地球資源の枠内)で実現する」というものです。

具体的には、2050年には90億に達すると予測される世界の全人口に対して

  • すべての人への尊厳と権利、平等な機会、基本的なニーズを保証する
  • 地球の気温上昇が+1.5°C未満で安定し、自然と地球環境が保護・復元され、健全で持続可能な方法で活用される
  • 世界がレジリエンスを構築し、維持するための十分な適応能力を身に付けること

を提供するために、社会はどう変わるべきかという道筋を示したものです。

Vision2050が示す道筋は、以下の9つの分野に及びます。

  • エネルギー:信頼性が高い手頃な価格のクリーンエネルギーをすべての人に提供する、持続可能なエネルギーシステム
  • 交通・輸送とモビリティ:安全でアクセスが容易かつクリーンで効率的な人とモノの交通・輸送
  • 生活空間:自然と調和した健康的で包摂的な生活空間
  • 製品と資源:資源循環型のモノづくりと供給システムの最適化
  • 金融商品・サービス:持続可能な開発のために金融資本・商品やサービスを動員し、ESG投資を推進
  • コネクティビティ:ITサービスの拡充で人々を互いに結び付け、より透明で効率的、公平な機会へのアクセスを促進
  • 健康とウェルビーイング:すべての人に達成可能な高水準の健康と福祉を提供
  • 水と衛生:すべての人の食料、エネルギー、公衆衛生を支える清潔な水と水生態系の繁栄
  • 食料:すべての人に健康的で安全な栄養価の高い食料を供給する、循環型の公平な食料システム

Vision2050では、上記の9項目それぞれに対し、「何が課題で」「どう変えるべきか」を説明し、2020〜2030年の間に企業が行動するべき内容が提示されています。

活動指針②Action2020

Action2020は、上記のVision2050という長期的な目標を達成するために、2020年までに取り組むべき活動内容がまとめられています。Action2020は、2014年に定められたものですが、2020年を過ぎた現在でも持続可能な開発に向けて、企業が取り組むべき行動を具体的に示すものになっています。ここでは

  • 気候変動
  • 栄養
  • 生態系
  • 有害物質
  • ベーシック・ヒューマン・ニーズ(人間が基本的に必要なもの)と人権
  • スキル・雇用
  • 持続可能なライフスタイル
  • 食糧・バイオ燃料

といった、より具体的な9つの重要分野について、あらゆる業界の企業が、測定可能な/可変性があり/再現可能で/これまでとは違う/経済合理性があるやり方で行動することが重要だとしています。

WBCSDのプロジェクト

上記の活動指針に基づき、WBCSDでは数多くのプロジェクトを立ち上げ、解決方法の提案やガイドライン作成などを行なっています。その中のいくつかを例に挙げると、

  • 建築環境の脱炭素化:炭素排出量を表す評価ツールの開発など、建物や建設部門のネットゼロソリューションに関する活動
  • 化学部門の取り組み:リスクの特定や解決策予測支援などを通して持続可能なソリューションを推進
  • 健康で持続可能な食事:FReSH(バリューチェーンや大手企業の連合)を設立し、食料生産が自然環境の劣化や生物多様性・生態系の損失にならない持続可能な食品ビジネスモデルの確立
  • TCFDの対応と開発:TCFDとの協力で、企業の気候関連リスクの評価や管理方法を改善させる取り組み
  • プラスチック廃棄物削減のための同盟:プラスチックを製造、使用、販売、加工、収集、リサイクルする企業によって設立。5年間で15億ドルを投資し、プラスチック廃棄物を最小化・管理するソリューションを開発・促進

などがあり、現在も数多くのプロジェクトが進行しています。

WBCSDの参加企業

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WBCSDには、現在世界各国から約200社以上の企業がメンバーとして参加しています。

その産業部門は多岐に渡り、参加企業の数も年を追って増加しています。

地域別・業種別は?

WBCSD加盟企業において、地域ごとの参加割合が高いのはヨーロッパで、約46%と半数を占めています。次に続くのがアメリカやカナダを含む北米地域で23%です。アジアから参加している企業の割合は14%ですが、日本企業に限れば全体の10%を占めています。

中南米は3%、中東地域は2%、アフリカやオーストラリアからはそれぞれ1%と低く、今後これらの国からの参加が期待されます。

業種別に見ると、化学工業が13%と最も多く、以下、

  • 自動車・関連部品/サポートサービス/食品産業:9%
  • 建設・資材/一般工業:6%
  • 石油・ガス/電気/林業・製紙:5%

と続きます。

世界企業

WBCSDの参加企業を見ると、誰もがその名を知る世界的な企業が名を連ねます。

一例を挙げるとAmazon、Apple、Google、Microsoft、Meta(旧Facebook)、IBMといったIT業界の巨人を筆頭に、マクドナルドやIKEA、P&G、ユニリーバやウォルマートなどの名もあります。

この他、トタルエナジーズやエネル、デュポンやDSMといった企業も参加しています。前者はエネルギー産業、後者は化学製品メーカーとして、北米やヨーロッパで大きなシェアを持つ企業です。

ただしこれらの企業の中には、過去に環境汚染や武器開発など負の歴史を持つ企業も存在します。世界経済に影響力を持つ、あるいは長い歴史を持つ会社だからこそ、過去の過ちと向き合い、WBCSDが提示する課題に率先して取り組むことで、その責任を果たすことが求められます。

日本企業

前述のように、日本企業はWBCSDの参加企業の10%にも上っており、どの企業も国内経済に大きな影響力を持つ企業です。

WBCSDは、日本の経団連との協力のもと、より多くの日本企業に対し、持続可能なビジネスリーダーシップのための世界的な枠組みを提供するためのサポートを行なっています。

現在、WBCSDのメンバーになっている日本企業は以下の通りです。

  • 製造業:ブリヂストン/ダイキン/日立/HONDA/コマツ/三菱重工/富士通/Panasonic/TOYOTA/横河電機
  • サービス業:電通/NRI(野村総研)/SOMPOホールディングス/日本郵船
  • 化学工業:住友化学/住友ゴム工業/TOYO TIRES/横浜ゴム
  • 林業:住友林業

なぜWBCSDが注目を集めているのか

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近年の環境や社会の問題解決において、WBCSDの存在感は次第に大きくなっています。

民間企業のCEO、それも現時点では200社ほどでしかないWBCSDがなぜ今注目を集めているのでしょうか。

政府や公的機関を補完する企業活動

世界のほとんどの社会では、企業による経済活動が私たちの生活に大きく影響を与えています。また、世界で解決が急がれるいくつかの課題は、政治による合意形成や国内外の利害対立によってはなかなか進みにくい現状があります。国や公的機関の支援が届かない分野において、国境を越えて活動するグローバル企業が解決に乗り出すことは、そうした政府を補完する役割を果たします。

分野横断、パートナーシップと連携の必要性

あらゆる分野に及ぶ複雑な課題の解決には、政府、産業界、自治体や市民などすべてのステークホルダーが、立場や意見の違いによる対立を乗り越え、積極的に参加、協力することが必要です。

これは企業どうしでも同じです。環境や温暖化、貧困、食料不足など、地球規模の問題は、業界内のシェアや主導権争い、業界ごとのルールや価値観の違いに囚われていては解決できません。

同時に、いくら世界的な大企業といえども、地球規模の問題は単一の企業だけでは到底解決できるものではありません。各業界が垣根を超えた共通の解決策を示すことが重要視されていることも、WBCSDが注目される背景となっています。

ビジネス戦略としての持続可能な開発

世界中のビジネスリーダーの多くは、ビジネスと持続可能な開発の両立が不可欠だという認識を持っています。開発と気候変動は21世紀の中心課題であり、どちらかに失敗すればどちらも失敗する、と。

環境や生態系の破壊による気候変動は事業の継続を困難にし、貧困や格差拡大、医療・教育・インフラの欠如は事業の受益者を失い、こちらもビジネスの大きな障壁となります。

世界中の企業どうしが協力して新たな技術やサービスを提供し、効率を上げ、雇用を生み出せば、課題の解決とビジネス面での利益とにつながります。

WBCSDが発行した削減貢献量算出ガイダンスについて

ここからは、WBCSDが2023年の3月に発表した温室効果ガス削減貢献量の算出ガイダンスについて見ていきましょう。

これはWBCSDが提唱するscope1〜3からなるGHGプロトコルと共に、温室効果ガス排出削減量の新しい指標となります。

scope1〜3(GHGプロトコル)について

scope=GHGプロトコルとは、企業の温室効果ガス排出量を算出する考え方(プロトコル)のことで、WBCSDとWRI(World Resource Institute:世界資源研究所)が協働で実施してきました。

排出量の算定方法は、主に活動量と排出原単位をかけることで導き出され、事業活動におけるどこまでの範囲を対象にするかによって、scope1、2、3の3段階になります。

  • scope1=直接排出:企業が自社ビルや自社工場で直接排出する温室効果ガス排出量
  • scope2=間接排出:他社から購入した電気・燃料・熱などの製造のために排出される温室効果ガス排出量
  • scope3=scope1、2以外すべて:サプライチェーンの上流・下流両方も含めた全体の温室効果ガス排出量。関連企業全体での生産から輸送、使用、廃棄までも含む

Scope3排出量は、サプライチェーンにおいて温室効果ガス排出量の80%以上を占めています。そのため、現在多くの企業でScope3排出量の算出が求められています。

削減貢献量算出ガイダンスは何が違う?

では、今回WBCSDが発表した削減貢献量算出ガイダンスは、それまでのGHGプロトコルと何が違うのでしょうか。

削減貢献量算出ガイダンスとは、企業が

それまでの製品から自社の製品に取り替えることで、サプライチェーン内でどれだけの排出削減に貢献できたか

を定量化するためのものです。この方法をとることによって自社の省エネ製品が普及すれば、その分社会全体での削減貢献量は増え、環境への取り組みがより分かりやすくなります。

製品開発の時点で削減貢献量を指標にすることで、将来的な排出規制強化に対応できるほか、より排出削減効果の高い製品を求める消費者へも強い訴求効果を持つことになります。

今回の削減貢献量算出ガイダンスは、企業の温室効果ガス排出対策において標準化していくものと考えられます。ただしそのためには、全体としての排出量を合わせて算出・公表することで、サプライチェーン内での削減効果と貢献への信頼性を高めることが重要です。

PACTによるscope3算定技術の開発

現在の企業活動では、Scope3、つまりサプライチェーンで発生する排出量を削減することが求められています。にもかかわらず、多くの企業はその算定と透明性の確保に苦労しているのが現実です。

その理由としては

  • サプライチェーン全体のデータにアクセスすることが困難
  • 測定できないものを追跡し削減することが困難で、透明性が確保しにくい

といった問題があり、従業員1,000人以上、売上高約1億〜100億ドル以上の企業でも、scope3までの全排出量を定量化できていると回答したのはわずか10%に過ぎません。

こうした問題を解決するためにWBCSDが行なっているのが、PACT(Partnership for Carbon Transparency:炭素の透明性のためのパートナーシップ)です。

PACTでは、CircularTree、IBM、SAP、Siemensなどの協力のもと、CO2排出量データ交換のための技術仕様を策定しています。その後、Amazon、iPoint、Microsoft、SAGEグループの支援により、新しくサステナビリティに特化した一連の新しいデジタルソリューションを発表しました。

こうしたツールによって、企業がScope3排出量を追跡したり、環境データの管理を改善したりすることが可能になります。

WBCSDとSDGsの関係

WBCSDはその発足した経緯や活動内容からも、SDGsと非常に緊密な関係を持っています。

環境や気候変動に対する緊急の対策の重要性、環境や生態系の保全と回復、貧困と格差の是正など、WBCSDの追求するミッションは、そのままSDGsと符合するものが大きいと言えます。

先に紹介したVision2050でも、その9つの分野のそれぞれにおいてSDGsの17の各目標との関連をあげています。

特に関連の深いSDGsの目標

「ビジョン2050」の道筋と持続可能な開発目標

目標17「パートナーシップで目標を設定しよう」

sdgs17

そのうえで、WBCSDとSDGsの関連で最も強いものを一つあげるとしたら、目標17「パートナーシップで目標を達成しようでしょう。

世界中のリーディング企業が国や業種の垣根を乗り越え、さまざまな立場のステークホルダーと協力することなしには、どんな目標も達成できない。WBCSDの理念からは、そうした強いメッセージを読み解くことができます。

まとめ

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2050年に向けて、WBCSDは民間企業という立場から多くの課題について解決策を模索してプロジェクトを提案し、さまざまな組織との協力によって枠組みを提唱しています。

メンバーの多くが世界的な影響力を持つ大企業であるということも、その包括性と推進力に期待が寄せられる一因です。

環境破壊と気候変動が解消され、私たちが誰一人取り残されず豊かな生活を送れる世界に向け、WBCSDの活動に注目していきましょう。

参考資料
World Business Council For Sustainable Development (WBCSD)
影響力 価値 声|WBCSD
VISION2050- Institute for Global Environmental Strategies (IGES)
Action2020 Overview
Our members|WBCSD
Japan – World Business Council for Sustainable Development (WBCSD)
急速に変化する世界の課題と機会|WBCSD
排出量算定について – グリーン・バリューチェーンプラットフォーム
4. 代表的なカテゴリの算定方法|環境省
CO2削減貢献量とは?算定方法と、排出削減をアピールする効果的な開示|リクロマ株式会社
温室効果ガス削減貢献定量化ガイドライン|経済産業省
BCGの調査、排出量を完全に測定している企業はわずか10%である
スコープ3排出量の追跡と分析を可能にするソリューションを提供開始
【参考①】削減貢献量について|環境省
環境問題と情報処理 :持続可能な発展に向けて -WBCSDの活動-|情報処理 Vol.40(1999)No.3