オーストラリアでは、環境保全のひとつとして野生動物保護の取り組みを実施しています。
野生動物と聞くとコアラやカンガルーのイメージが強いかもしれませんが、害獣のような立ち位置の野生動物も国から守られているのです。
今回取り上げるのは、ネズミとリスを混ぜたような見た目のポッサム。
人々にさまざまな被害をもたらすポッサムを守ることがどのように環境保全に繋がるのか、ポッサムの基本情報や具体的な保護方法を交えながら解説していきます。
※被害について紹介している箇所において、猫がケガをしている写真を貼っております。
閲覧の際は念のためにご注意ください。
ポッサムってどんな生き物?
ポッサムは、有袋類に分類されます。
有袋類とは、カンガルーのようにお腹に袋を持つ生き物のことです。
カンガルーに袋があるのは有名ですが、実はポッサムやコアラをはじめとするさまざまな野生動物が袋の中で子育てをしています。
オーストラリアで見られる最も一般的なポッサムはCommon brushtail possum(コモンブラッシュテールポッサム)とRingtail possum(リングテールポッサム)です。
見た目やサイズ感はネズミやリスに近く、可愛らしい姿をしています。
野生動物の保護は自然を守ることに繋がる!
なぜエコ活動の一環として国がポッサムを守るのか。
その理由は、ポッサムが自然環境や生態系を維持するのに欠かせない存在だからです。
ポッサムが自然界で食べるヤドリギという植物は、ほかの木に寄生して枯らしてしまう習性を持ちます。
コアラをはじめとする多くの野生動物が住みかにしているガムの木をも餌食にしてしまうため、ポッサムがヤドリギを食べて排除することで生態系の崩壊を防いでいると考えられているのです。
また、夜行性であるポッサムは、夜にしか咲かない花の花粉を体に付着させて他の植物へ移動します。
植物の受粉を助ける役割を果たしているため、環境を守るために必要不可欠な生き物として国から守られています。
ポッサムによる具体的な被害とは?
コアラやカンガルーの仲間でもあり、可愛らしい見た目のポッサム。
しかし、ポッサムが家にやって来ると、さまざまな被害が発生します。
ここでは、実際にどのような被害があるのかについて説明していきます。
①家への被害
ポッサムの被害で最も多いのが、家の損壊です。
ポッサムは、電線を伝って家の屋根を移動します。
そのため、屋根のタイルがポッサムに踏み割られてしまい、雨漏りなどの被害に繋がるパターンもあります。
中には電気系統のコードを食いちぎるポッサムもいるため、長期的な停電や高額な修理費用といった大きな損失に悩まされる家庭も多いのが特徴です。
②食べ物への被害
ポッサムは、雑食性の強い生き物です。
木の実、果物、花をはじめとする植物のほか、トカゲ、鳥、玉子、生ゴミなども好んで食べます。
人間の食べ物に手を出すことも多いので、家の中に入って来てパンやお菓子を漁るといった被害も発生しています。
③衛生面での被害
ポッサムが住み着くと、家の中で糞の被害が発生します。
気が付くと屋根裏が糞だらけになっているケースも多く、自宅が不衛生な状態になりがちです。
また、ショッキングな話ですが、雑食であるポッサムは道端で死んでいる生き物を食べることもあります。
菌が身体に付着・繁殖しやすく、ポッサムが家の中にいることで病気が広まる可能性も高くなっています。
④飼育しているペットへの被害
ペットを飼育している家庭では、ペットがポッサムによって怪我をさせられるといった被害も出ています。
狂暴性は少ないとされるポッサムですが、ペットに対する恐怖心から攻撃的になることもあります。
特に子どもを連れた母親ポッサムは気が立っていることが多く、対峙したペットが鋭い爪で引っかかれたり噛まれたりする事故も珍しくありません。
また、ポッサムに寄生していたノミやダニがペットに付着するケースもあり、ペットを飼っている家庭が受ける被害は甚大なものとなっています。
オーストラリアがポッサムを守るためにしている対策とは?
ポッサムは、害は大きいけれど害獣ではないという立ち位置にいる生き物です。
ここでは、ポッサムを守りながら人間と共存していくためにオーストラリアが実施している対策をご紹介します。
①法律で守る
ポッサムは、正式にオーストラリア政府から守られている生き物です。
野生動物法(Wildlife Act 1975)の保護対象とされており、傷つけることはもちろん、ペットとして飼育することも禁じられています。
違反した場合は、状況に応じて罰金刑や禁固刑が科せられる徹底ぶりです。
②動かしていい範囲は150メートルまで
ポッサムの被害が深刻な場合は、ポッサムを巣ごと駆除することができます。
ただし、法律で守られているポッサムを駆除していいのは、専門の免許を取得している駆除業者のみ。
正しい知識を持たない個人はポッサムを傷つける恐れがあるため、駆除すると法律違反になってしまいます。
さらに、駆除したポッサムを放す場所は、元居た場所から150メートル以内と決められています。
環境の変化にすぐにポッサムが適応できるように、近い場所であり、なおかつ住みかとなる木が多い場所に移動させることがルールとなっているのです。
ちなみに、動かしていい範囲については、州ごとに細かく設定されていることもあります。
例えば、ゴールドコーストやグレートバリアリーフがあるクイーンズランド州では、25メートル以内という非常に狭い範囲でのみ移動させることが義務付けられています。
③家に寄せ付けないためのクリッターガード
ポッサムが保護されているオーストラリアでは、自宅で出来る対策アイテムが多く販売されています。
その中でも特にポピュラーなのが、電線に取り付けて使うクリッターガードです。
筒形や円盤型のクリッターガードの上にポッサムが乗ると、クリッターガードがスピンしてポッサムが振り落とされる仕組みになっています。
ポッサムが自宅の屋根に到達できなくなるため、被害を未然に防ぐことができます。
まとめ
オーストラリアの環境保全は、野生動物の保護とリンクしています。
人間にとってさまざまな害をもたらすポッサムでも、自然を守る上では欠かせない存在です。
生活しにくいから排除するのではなく、人間と野生動物が共存できる環境や対策を模索することが大切です。
より良い未来を作り出すためにも、野生動物も自然の一部として意識することから始めましょう。