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avatarin株式会社|瞬間移動サービスで移動の民主化!アバターロボットですべての人が持続的に誰でも、いつでも、どこへでも移動できるように

avatarin株式会社 代表取締役 深堀さん インタビュー

深堀 昂

2008年ANAに入社。パイロットの緊急時の操作手順などを設計する運航技術業務を担当するかたわら、新たなマーケティングモデル「BLUE WINGプログラム」を発案、南カルフォルニア大学MBAの教材に選出。2014年より、マーケティング部での経験を経て、2016年にXPRIZE財団主催の次期国際賞金レース設計コンテストに参加し、アバターロボットを活用して社会解決課題を図る「ANA AVATAR XPRIZE」のコンセプトをデザインしグランプリ受賞。2020年3月末にANAを退職し、2020年4月にANA初のスタートアップ「avatarin株式会社」を起業。2021年、avatarin社の事業モデルがハーバード・ビジネス・スクールの教材に選出。2022年、第4回日本オープンイノベーション大賞 内閣総理大臣賞受賞。2023年、経済産業省主導「J-Startup」に選出。

introduction

アバターロボットを展開するavatarin株式会社は、「移動の民主化~すべての人が持続的にいつでも、どこへでも自由に移動できるように」を目指すANAホールディングス発のスタートアップ企業です。意識、技能、存在感をアバターに伝送する「瞬間移動」サービスの普及に取り組み、ユーザーの顧客満足度の向上を図っています。今回、代表取締役CEOの深堀昂さんにお話を伺いました。

アバターロボットを使って「瞬間移動サービス」を展開する会社

–まず、会社概要を教えてください。

深堀さん:

当社は2020年に設立した、ANAホールディングスのスタートアップです。「移動の民主化=すべての人が持続的に誰でも、いつでも、どこへでも移動できるように」をコンセプトに掲げ、気軽に瞬間移動できる新たなライフスタイルの実現を目指しています。

ここでの瞬間移動は、肉体がその場所に移動するということではありません。私たちが展開しているコミュニケーション型ロボット「newme(ニューミー)」を世界中に置き、パソコンやスマートフォンからアクセスし、遠隔から自分の意思で自由に動き回り、リアルタイムに会話ができるということです。その場にいなくとも、その人が存在している状況を作り出しています。

これまでの移動手段には、身体、距離、時間、場所などのあらゆる制約がありました。私たちはこの課題を乗り越え、「必要とされる人が必要とされる場所へ駆けつける」、「行ったことのない場所へ、誰でも、いくつになっても気軽に行ける」ような社会にしたいと考えています。

コミュニケーション型アバターロボット「newme(ニューミー)」

–「newme」について詳しく教えてください。

深堀さん:

こちらがnewmeです。

モニター・スピーカー・マイクがついていて、パソコンやスマートフォンからnewmeにアクセスすることで、お互い顔を見ながら、リアルタイムで会話をすることができるようになります。操作もシンプルですし、軽量で、誰でも扱いやすいところもポイントです。

フロントカメラが3台、フロアカメラが1台ついており、自分が見たいところを自由に映し出すこともできます。

このサービスは、ただコミュニケーションを取るだけでなく、人類が抱える社会課題の解決にも貢献できるものと考えています。

そのひとつとして挙げられるのが人手不足です。ただし、ここで言う人手とはサービスのクオリティが高かったり、スキルを持ったりした「良い人」という意味だと思っています。この「良い人」が、その場所でみつからないとき、「良い人」が瞬間移動できれば、人手不足は解消できるはずです。

例えば、パリで日本語の通訳が必要となったとします。現地でフランス語も日本語も話せる人を探すことは大変です。そこで日本にいる通訳をパリのnewmeに伝送すれば、この課題は解決します。逆にフランス人が日本に来た際は、newmeを介してフランス語で接客をしてもらうなど、ハイスキラーの方の最適配置が可能となります。

加えてnewmeは、その中で行われたコミュニケーションとその際の映像をデータ化し、AI学習が将来的にはできるように設計しています。

これにより、例えば売上トップの販売員さんがどのような接客をしているかということも分析できるようになるんです。本人も無意識で行っている言動などがあるので。newmeで客観的に分析して汎用的な秘訣が見つかれば、リアルな人のスキルアップにもつながります。

これらのサービスを可能にしているのが、弊社独自のアバター技術である「avatar core®︎(アバターコア)」です。ロボットの頭脳のようなもので、ロボットだけではなく、ドローンや自動車、遠隔で動かす無人機などにも搭載でき、タイムラグもありません。

空港・販売・教育・観光・医療。公共の場で実用化されているnewme

–では、newmeは実際にどのような場面で使われているのでしょうか?

深堀さん:

今メインで使われているのは公共の場です。

例えば空港。最近だと自分でアプリを使って搭乗手続きを行うことも増えていますが、飛行機に乗る機会が少ない人は、きっとどう使えば良いか分からないと思います。そんな時、newmeが設置されていれば、グランドスタッフ1人で複数台を動かせるので、現場の案内係の人数が少なくても顧客対応を行うことができます。

また、教育の現場でも活用されています。2022年には、種子島宇宙センターにnewmeを設置し、課外授業を行いました。子どもたちは、newmeを遠隔で操作し、JAXA関連施設を見学してもらいました。種子島のような、教育的価値が高いけれど行きにくい、といった場所は世界にたくさんあります。

newmeを使って、世界中の子どもたちがそんな場所で勉強することができたら、明るい未来が描けますよね。子どもに限らず、老後や病気で寝たきりの状態になったとしても、小惑星探査に出かけたり、世界中を旅行したりできる。そんな未来の世界を実現するための準備はすでに出来ています。

さらに、コロナ禍によって医療現場での使用も増えました。非接触で患者さんの様子を確認できるため、回診に使ったり、ご家族がお看取りをする際にも使用されたようです。特に回診の場面では活躍していて、患者さんがご自身の今の状態を話しやすくなるといった効果もあるようです。これまでのナースコールだと、ちょっと具合が悪い際などは、押していいのか迷ってしまう人も少なくなかったと思います。その点、お医者さんが映ったアバターロボットが近づいてきたら、心理的ハードルは低いですよね。

実は会社立ち上げの承認を得た2日後から、コロナに関する報道が始まりました。物理的な移動が制限されてしまったことで、アバターロボットの需要も爆発的に増えました。

今後も、何かあった際には移動ができなくなる可能性は当然あります。その時にどのような移動手段を人類として持っているかは考えておくべきです。

ここまでは公共の場に関してお話しましたが、ショールームや販売現場でも使用されています。例えば、システムキッチンなどの高価なものは、オンラインで気軽に買える人は少ないですよね。ただ、せっかく現地に行ったのに、店員さんがつかまらなければ、「別のショールームに行こう」となり、店としては販売機会を失ってしまいます。そうなる前に、newmeを介してトップスキルの店員さんが近づいて、「ぜひその引き出しを引っ張ってみてください」「こちらもご覧ください!」と案内することでお客さんの印象が変わります。購入前の疑問を解決することができるので、売上も変わってくるはずです。

–様々な面でnewmeが活躍しているんですね。サービスを展開していく上で大変だったこともあるのではないでしょうか?

深堀さん:

ロボットを遠隔でリアルタイムに動かすのはとても難しいんです。受信先がパソコンのように止まっているデバイスであれば遅延もあまりしません。しかし、受信先のデバイスが高速で動き始めると、映像の伝送に遅延が起きます。このあたりの基礎技術、通信プロトコルの開発には時間がかかりました。

会社立ち上げのきっかけは世界的財団が主催するコンペ

–次に、avatarin株式会社を立ち上げることになったきっかけをお聞かせください。

深堀さん:

私はもともと飛行機が好きで、全日空(ANA)のマーケティング戦略担当としてANAのテレビCMや基本戦略を作っていました。

その時から社会課題の解決に興味があり、社会起業家や海外で活動されている方に話を聞きに行っていました。次第に社会貢献ができるコンペに参加したいと思い、業務外でライフワークとして行うようになったんです。

そんな中、アメリカの資産家が創設した非営利財団「XPRIZE 財団」に出会いました。XPRIZEは、新たなソリューションの実現を目的とし、世界中のイノベーターのチャレンジをサポートしている財団です。具体的には、高額な賞金を設定して、世界中のチームが競い合う「国際賞金レース」を開催しています。

私は2016年に、XPRIZEの次のテーマを決めるコンペ「XPRIZE VISIONEERS 2016」に参加しました。この活動は業務外ではあったのですが、目立つコンペだったのでANAにも応援していただいて、オフィシャルのチームとして参加しました。

このコンペは「10億人の生活を変えるための技術コンセプトを6ヵ月で考えよう」というものでした。10億人の人が困っている姿を想像した時、テーマとして浮かんだのが大好きな飛行機でした。飛行機といえば、移動手段です。困っている人がいるところに、問題を解決できる人材が瞬時に移動できれば、世界中の課題を解決できるのではないかと考えたんです。そこで、「瞬間移動サービス」という新しい未来のインフラサービスを思い立ち、仲間たちと構想を練った結果、コンペでグランプリをいただくことができました。

これにより、2018年には国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」が始動し、2020年にavatarin株式会社を立ち上げることになりました。

大手企業でのスタートアップは慣れていない分、大変でしたね。しかし、航空会社であるANAにとっても、次世代の移動インフラを作るというコンセプトは共感いただけるところでもあったので、丁寧に説明することで出資の合意をいただけました。

日本政策投資銀行さんや三菱UFJ銀行さんにも、追加で出資をしていただいています。事業会社とのつながりを大切にしている会社ですね。

私たちのビジネスモデルは、大企業の強みを活かしてスタートアップレベルで動かすという珍しいものです。エアラインで働きながら、飛行機を使わない瞬間移動サービスを担うスタートアップを創るまでの経緯は、ハーバード・ビジネス・スクールのケーススタディにも掲載されています。

ロボットを介しても優しさや気づきがあふれる社会にしたい。

–今後の展望を教えてください。

深堀さん:

私たちがコンセプトとして掲げる「移動の民主化」は、SDGsの「誰一人取り残さない」テーマそのものです。

国連のとあるSDGs担当と話した時に、人間の能力を人類の進化のために、支え合いながら使える点は、すべての課題解決に寄与できるんじゃないかと言っていただきました。最もエコな移動手段でもありますし、本当にその可能性がある技術だなと感じています。

たとえ私が身体ごと瞬間移動しても、ウサイン・ボルトのように速くは走れません。それがアバターロボットに意識を伝送することで、ロボットの機能次第ではスーパーマンのようにもなれてしまうんです。自分の意識を保ったまま速く走れるようになることも可能ですし、ミクロサイズの小さいロボットなら狭いところにも入っていけます。他言語への翻訳機能がついていれば、通訳なしで他国の会議に出席できるようになります。アバターロボットに意識を伝送させることは、人間の能力を拡張させる可能性を秘めているんです。

このようなAIロボティクスの事業は効率化や、人の代替といったところばかりに着目されます。しかし私は、自動化された無機質な社会を作りたいのではなく、もし人間の体がなくなったとしても、newmeを通して、優しさや気づきであふれる社会にしたいと思っています。

newmeはこれまでのロボットと違い、1人ひとりが所有する必要はありませんし、移動のプラットフォームとしての役割を果たすものです。山間地域とか、世界中の移動しにくい場所などあらゆる場所にnewmeを置くことで、「人口減少でお店に行っても人がいない」「空港に行っても案内係がいない。」「なんか寂しいな、今日誰とも喋らなかったな」なんて社会ではなくなります。どこに住んだとしても、困ったときは人が助けてくれるようにできる。その人はもしかしたらロボットを介した人かもしれないですが、全世界の80億人が支え合う社会、我々はそのネットワークを作りたいと思っています。

–本日は貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

avatarin株式会社:https://about.avatarin.com/