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温対法とは?省エネ法との違いや企業が取り組むべき内容をわかりやすく解説!

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世界中が気候変動対策に取り組む中、日本が地球温暖化対策を推進するために策定した法律の1つが「温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)」です。温対法は、企業の温室効果ガス排出量削減へ取り組むための具体的な取り組みを定めています。

この法律への取り組みは、企業の競争力を強化し、ブランド価値を向上させるための機会にもなります。温対法の概要や、省エネ法との違い、企業が取り組むべき内容をわかりやすく解説します。

温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)とは

温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)とは、日本国内での地球温暖化対策を推進するための法律です。この法律は、

  • 温室効果ガスの排出削減目標の設定や企業に対する取り組みの義務付け
  • 環境負荷の低減や再生可能エネルギーの導入などの具体的な取り組み

などを定めています。

温対法の目的

温対法の目的は、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ、地球温暖化を防止することです。日本政府は「地球温暖化対策計画」の中で、

  • 環境・経済・社会の統合的向上
  • 新型コロナウイルス感染症からのグリーンリカバリー
  • 全ての主体の意識変革、行動変容、連携強化
  • 研究開発強化と優れた脱炭素技術の普及などによる世界の温室効果ガス削減への貢献
  • パリ協定への対応
  • 評価・見直しプロセス(PDCA)の重視

などに取り組むための、基本的な考え方を明確にしています。温対法は、これらを具体的に推進するために策定されました。*1)

温対法の基本情報

ここでは、温対法の基本的な内容を確認しておきましょう。

報告義務と報告書

温対法では、一定規模以上の事業者に対して、事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を算定・報告・公表することが義務付けられています。報告書には、

  • 事業者名、事業所名、事業所所在地
  • 事業年度
  • 温室効果ガスの種類ごとの排出量
  • 排出量の削減目標
  • 排出量削減に取り組むための具体的な取組

などの情報を記載します。また、この報告にあたっては、「省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム」(EEGS)から報告することが推奨されています。

対象企業

報告義務の対象となる事業者は、

  • 温室効果ガスの種類ごとに全ての事業所の排出量合計がCO₂換算で3,000t以上
  • 事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上

この要件をすべて満たす事業者です。

排出量の算定と排出係数

排出量の算定には、排出係数を使用します。排出係数とは、ある活動量当たりに排出される温室効果ガスの量を表す数値です。

温対法では、政令で排出係数が定められています。事業者は、政令で定められた排出係数を用いて、事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を算定する必要があります。

算定方法と排出係数はこちらで確認→環境省『算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧』

*2)

温対法と省エネ法との違い

温対法と混同しやすい法律に「省エネ法」があります。ここでは、2つの法律の違いを明確にしておきましょう。

主な違い

温対法と省エネ法は、どちらもエネルギーの効率的な利用を促進する法律ですが、その目的や対象は異なります。下の表に、主な違いをまとめました。

【温対法と省エネ法の違い】

法律名温対法省エネ法
目的地球温暖化対策の推進エネルギーの効率的な活用
対象範囲温室効果ガスの排出エネルギーの使用
対象者条件を満たす事業者エネルギーを使用する事業者全て

省エネ法とは

省エネ法とは、正式名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」です。一定規模以上の(原油換算で1,500kl/年以上のエネルギーを使用する)事業者に、エネルギーの使用状況等について定期的な報告を義務付け、省エネや非化石エネルギーへの転換などに関する取り組みの見直しや計画の策定などについて定めています。

【関連記事】省エネ法とは?改正ポイントや企業が取り組むべき内容をわかりやすく

省エネ法と同様、温対法もよく改正される法律です。次の章では、温対法の2023年に改正された内容を確認しましょう。*3)

2023年に温対法が改正された背景

2023年に温対法が改正された背景には、以下の3つの要因が挙げられます。

①脱炭素社会の実現に向けた国際的な動き

2015年のパリ協定※では、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く、1.5℃に抑えるという目標が定められました。日本は、パリ協定に基づき、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」を宣言しています。

世界各国も、

  • 欧州連合(EU):2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減
  • アメリカ:2030年までに温室効果ガスの排出量を2005年比で50~52%削減

などを代表に、温室効果ガス削減の具体的な目標を掲げています。このような国際的な動きの中で、日本も温対法の改正により、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを強化しました。

パリ協定

2015年12月にフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された、気候変動に関する国際的な枠組み。

【関連記事】COP21とは?パリ協定との関係や正式名称と参加国一覧・目的をわかりやすく解説

②カーボンニュートラルへの国民の意識の高まり

近年、地球温暖化や気候変動への関心が高まるにつれ、カーボンニュートラル※への国民の意識も高まっています。これを受けて、温対法の改正で、事業者の排出削減目標の設定や、排出量の削減に取り組むための具体的な取り組み公表などが義務付けられました。

これにより、企業の温室効果ガス削減への取り組みが強化され、国民に対しても事業者の脱炭素への取り組みが可視化されることが期待されています。

カーボンニュートラル

温室効果ガスの排出量と吸収量を一致させ、実質的に排出量をゼロにすること。

【関連記事】脱炭素とは?カーボンニュートラルとの違いや企業の取り組み、SDGsとの関係を解説

③脱炭素社会の実現に向けた技術開発の進展

近年、脱炭素社会の実現に向けた技術開発が急速な進歩を遂げています。再生可能エネルギーの導入拡大や、電気自動車(EV)の普及などにより、温室効果ガスの排出量を削減するための技術が確立されつつあります。

このような技術開発の進展を受けて、温対法の改正では、再生可能エネルギーの利用や省エネの推進などが強化されました。これにより、さらなる技術開発の進展や、技術開発の成果を活用した脱炭素社会の実現に向けた取り組みが社会に浸透することを目指しています。

2023年温対法改正で何が変わったのか

2023年の温対法改正では、

  • 算定対象活動・排出係数・地球温暖化係数の見直し
  • 温室効果ガス算定排出量などの報告方法の見直し
  • 廃棄物の原燃料使用の位置づけの変更
  • 電気及び熱に係る証書の使用の上限の設定
  • 都市ガス及び熱の事業者別係数の導入

などの点が変更されました。

算定対象活動・排出係数・地球温暖化係数の見直し

温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度(SHK制度)における算定対象は、2006年の制度導入以降、国家インベントリ上※の算定対象は毎年見直されてきましたが、SHK制度上の算定対象活動はほとんど見直しされてきませんでした。しかし、2023年の改正により、SHK制度上の算定対象活動も全面的な見直しが行われました。

国家インベントリ

温室効果ガスの排出量と吸収量の推計結果をまとめた報告書。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の規定に基づき、すべての締約国が作成・提出が義務付けられている。

温室効果ガス算定排出量などの報告方法の見直し

2023年の温対法改正では、算定方法に加えて、報告方法も変更されました。主な変更点は、

  • 廃棄物や廃棄物燃料の使用によるCO2の報告をエネルギー起源CO2として行う
  • 特定排出者が購入した国内認証排出削減量の利用上限を設定
  • 都市ガスや他人から供給された熱の使用による排出量の算定方法を変更

の3つです。

これまで、都市ガスや他人から供給された熱の使用による排出量は、事業者別・料金メニュー別の基礎排出係数・調整後排出係数が公表されていない場合には、排出係数を個別に算定する必要がありました。しかし、2023年の改正により、これらの排出量の算定方法が電気と同様に、事業者別・料金メニュー別の基礎排出係数・調整後排出係数が公表されている場合には、それらの係数を用いて算定することが可能になりました。

廃棄物の原燃料使用の位置づけの変更

廃棄物の燃料利用または廃棄物燃料の使用にともなって発生する二酸化炭素(CO2)が、エネルギー起源CO2に位置付けられました。廃棄物・廃棄物燃料の使用により発生するCO2の報告がエネルギー起源CO2として行われることで、事業活動に伴う温室効果ガスの排出量がより正確に把握できることが期待されています。

電気及び熱に係る証書の使用の上限の設定

調整後温室効果ガス排出量の調整における、特定排出者が購入した証書による国内認証排出削減量の控除の上限が設定されました。この変更は、特定排出者がJ-クレジットなどの国内認証排出削減量を購入し、排出削減量を過大に計上することを防ぐことを目的としています。

また、この変更によって特定排出者は、電力や熱の使用に係る排出量の算定結果を報告書に記載するとともに、購入した国内認証排出削減量の種類や数量、控除した排出量の量などを明らかにする必要があります。特定排出者がどのような方法で排出削減目標を達成しているかなどの、透明性の向上につながることが期待されています。

【特定排出者が購入した証書による国内認証排出削減量の控除の位置づけ】

都市ガス及び熱の事業者別係数の導入

ガス事業者及び熱供給事業者についても、これまで公表の対象だった電気事業者と同様に、基礎排出係数・調整後排出係数が温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度のウェブサイトにて公表されることになりました。事業者別の係数が公表されている都市ガスや熱を利用する際には、公表された係数に基づき排出量を計算する必要があります。*4)

温対法に対して企業は具体的に何をすれば良いのか

それでは、企業が温対法に対して具体的に何をしたらいいのか、順を追って確認しましょう。

①対象事業者かどうかを確認

温対法の対象事業者は、次のいずれかに該当する事業者です。

エネルギー起源CO2の対象者

  • 特定事業所排出者:全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる事業者
  • 特定輸送排出者:車両の台数がトラック200台以上の事業者や、年間3,000万トン以上の輸送を行う荷主など

エネルギー起源のCO2以外の温室効果ガスの対象者

  • 特定事業所排出者:温室効果ガスの種類ごとに全ての事業所の排出量合計がCO2換算で3,000t以上であり、かつ、事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上の事業者

これらの事業者は、温室効果ガスの排出量の算定・報告・削減が求められます。また、フランチャイズチェーンが要件を満たしている場合も、加盟している全ての事業所における事業活動を、フランチャイズチェーンの事業活動とみなして報告します。

②排出量を算定

対象事業者は、事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を算定しなければなりません。排出量の算定方法は、温対法に基づく算定方法を用います。

排出量の算定には、専門的な知識や経験が必要になるため、知識のある人材がいないときは、外部の専門家に依頼することも検討しましょう。

③報告

算定した排出量は、国に報告する必要があります。報告書の様式は、環境省のウェブサイトで公開されています。

報告は、原則として毎年12月末までに行います。

④削減目標を設定・公表

対象事業者は、温室効果ガスの排出量削減目標を設定・公表する必要があります。日本全体での削減目標は、2030年度までに2013年度比で46%削減、2050年度までに実質ゼロを達成することです。

これをふまえて目標を設定・公表することで、自社の取り組みを社内外に発信し、さらなる削減に向けた取り組みを促進することができます。

これらの取り組みを通じて、対象企業は地球温暖化防止に貢献するとともに、自社の環境負荷を把握し、改善することができます。

ここまで温対法に関して解説してきましたが、温対法は個人にも関係あるのでしょうか?次の章で考えてみましょう。*5)

温対法は個人にも関係がある?

温対法は、企業の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表を義務付ける法律です。しかし、温対法は個人にも深く関わっています。

なぜなら、温対法の目的は温室効果ガスの削減などによって、地球温暖化対策を推進することにあり、温室効果ガスの排出は企業だけでなく、個人の生活や消費活動からも発生しているからです。

普段の生活で温室効果ガス削減に取り組むことは重要

日本の温室効果ガス排出量を消費ベースで見ると、全体の約6割が家庭によるものです。このことからもわかるように、私たちひとりひとりが、普段の生活で温室効果ガス削減に取り組むことは重要です。

【消費ベース※での日本のライフサイクル温室効果ガス排出量】

温対法に対して個人は何をすべきか

家庭から排出される二酸化炭素のほとんどは、電力、ガス、ガソリンの消費からきています。そのため、電気の使用量や自動車の利用量を減らせば、家庭から排出される二酸化炭素の量を大きく減らすことができます。

例えば、

  • 省エネを心がける
  • 再生可能エネルギーを利用する
  • エコな製品・サービスを利用する
  • 積極的にリサイクルに協力する

などを心掛けることによって、個人でも地球温暖化対策に貢献できるのです。

次の章では、温対法とSDGsの関係について焦点を当てていきましょう。*6)

温対法とSDGs

温対法とSDGsは、地球環境の保全持続可能な社会の実現という共通の目的があり、深い関係があります。特に、SDGs目標の中の「目標13:気候変動に具体的な対策を」という目標は、温対法の目指す方向性と同じと言えます。

温対法とSDGs目標の関係性は、持続可能な未来を目指す上での協働という観点からも非常に重要です。温対法による日本国内の取り組みは、グローバルな目標であるSDGsの達成に貢献し、日本が国際社会においてリーダーシップを発揮する機会を提供します。

また、温対法は「目標7: エネルギーをみんなに そしてクリーンに」とも密接に関わっています。再生可能エネルギーの普及やエネルギー効率の向上は、持続可能なエネルギーへの移行を促進し、温暖化対策と経済成長の両立を目指す温対法の重要な柱の1つです。

このように、温対法はSDGsの多くの目標と関連があり、それぞれが相互に影響を及ぼしあいながら、より良い世界の実現を目指しています。

まとめ

今後の経済の展望として、脱炭素化の流れが加速していくことは確実と考えられます。そのため、温対法の重要性はますます高まっていくでしょう。企業や個人は、温対法に沿った取り組みをすることで、温室効果ガスを削減し、地球温暖化を抑制できるだけでなく、

  • 企業:競争力の強化、ブランド価値の向上
  • 個人:家計の節約、健康維持、社会貢献

などの効果も期待できます。

環境問題の解決と持続可能な社会の実現のためには、政府・企業・個人が力を合わせて取り組むことが重要です。私たちひとりひとりが普段の生活で何を選択するかは、企業の方針にも大きな影響を与えます。

あなたも、できることから温室効果ガスを減らす生活スタイルにシフトしましょう。未来を変えるためには、私たちひとりひとりが行動を変えることが大切なのです。

<引用・参考文献>
*1)温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)とは
資源エネルギー庁『温対法に基づく事業者別排出係数の算出及び公表について -電気事業者別排出係数-』(2023年5月)
九州経済産業局『省エネ法及び温対法について』
資源エネルギー庁『-2023 年度版- エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律』(2023年5月)
*2)温対法の基本情報
環境省『算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧』
環境省『温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度』
経済産業省『熱供給事業者別排出係数の算出方法等について』(2023年10月)
*3)温対法と省エネ法との違い
省エネ法とは?改正ポイントや企業が取り組むべき内容をわかりやすく
*4)2023年に温対法が改正された背景
環境省『令和6年度報告からの温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の変更点について』(2023年12月)
JCCCA『パリ協定』
*5)温対法に対して企業は具体的に何をすれば良いのか
環境省『令和6年度報告からの温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度の変更点について』
環境省『算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧』
環境省『地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度における令和2年度温室効果ガス排出量の集計結果の公表について』(2023年10月)
*6)温対法は個人にも関係がある?
環境省『令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2節 ライフスタイルシフト』(2023年6月)
*7)温対法とSDGs
経済産業省『SDGs』