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高齢者雇用のポイントをわかりやすく解説!メリットや注意点も

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2021年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会を確保することが事業主の努力義務になりました。改正を重ねてきた同法は、1998年に定年を60歳以上と定めてから、2013年には希望者全員の65歳までの雇用を義務化するなど、雇用年齢を引き上げる流れが続いています。

そこでこの記事では、高齢者雇用に関する基本的な内容をあらためて確認し、高齢者雇用の現状や背景、解雇や雇止めにより裁判事例、メリット、注意点、企業の取り組み事例、助成金、SDGsとの関係について解説します。

目次

高齢者雇用に関する基本的な内容を確認

高齢者雇用は、高年齢者雇用安定法を中心に運用のルールがつくられています。特例も含めた8つのルールをあらためて確認していきます。(参考:厚生労働省「高年齢者の雇用」)

1.60歳以上を定年と定める

従業員の定年を定める場合は、60歳以上とする必要があります。(高年齢者雇用安定法第8条)

2.65歳まで雇用する

定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、次のいずれかの措置をとる必要があります。(高年齢者雇用安定法第9条)

  • 65歳まで定年年齢を引き上げる
  • 65歳まで雇用する制度を導入する(定年後に希望者全員を雇用する制度「継続雇用制度」「再雇用制度」など)
  • 定年制を廃止する

つまり、事業主は上記のいずれかの方法により、65歳まで雇用することが必要です。

3.70歳までの就業機会を確保する努力をする

定年年齢を65歳以上70歳未満に定めている事業主、または69歳までの継続雇用制度を導入している事業主は、次のいずれかの措置をとるよう努める必要があります。

  • 70歳まで定年年齢を引き上げる
  • 70歳まで雇用する制度を導入する(「再雇用制度」「勤務延長制度」など)
  • 定年制を廃止する
  • 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入する
  • 70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度を導入する

つまり、該当する事業主は、上記のいずれかの方法により70歳まで就業する機会を設けることが努力義務となっています。

4.離職者に再就職支援を行うよう努める

事業主は、解雇などを理由に離職する45歳以上70歳未満の従業員が希望すれば、求人の紹介などの再就職に関する支援を行うよう努める必要があります。(高年齢者雇用安定法第15条)

5.「求職活動支援書」を従業員に交付する

事業主は、解雇などを理由に離職する45歳以上70歳未満の従業員が希望すれば、職務経歴書を作成するための情報を記載した「求職活動支援書」を作成し、本人に交付する必要があります。(高年齢者雇用安定法第17条)

6.年に1度、高年齢者の雇用に関する状況をハローワークに報告する

事業主は、毎年6月1日に現在の高年齢者の雇用に関する状況をハローワークに報告する必要があります。(高年齢者雇用安定法52条第1項)

7.ハローワークに「多数離職届」を提出する

事業主は、1カ月以内に45歳以上70歳未満の者を解雇などにより5人以上離職させる場合は、事前に「多数離職届」をハローワークに提出する必要があります。(高年齢者雇用安定法第16条)

【特例】無期転換申込権

有期労働契約が更新されて通算5年を超えたとき、労働者が申し込めば期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できます。これを「無期転換申込権」と言います。(労働契約法)

ただし例外として、

  1. 高度な専門的知識などを持つ有期雇用労働者
  2. 定年後に継続雇用される有期雇用労働者

については、一定の手続きを行うことで、「無期転換申込権」は発生しない特例があります。(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法)

高齢者雇用の現状

高齢者雇用に関する基本的な内容を確認したところで、高齢者の就業状況や企業の取り組みを見ていきましょう。

65歳以上の就業率は上昇

65歳以上の就業率は年々上昇し、2021年には65〜69歳の約半数が就業している状況です。

働く体力や意欲のある高齢者が増えていることに加え、就労環境や条件も整ってきていると言えるかもしれません。

労働人口に占める65歳以上は上昇傾向

令和4年の労働人口は6,902万人でした。そのうち65〜69歳は395万人、70歳以上は532万人と全体の13.4%を占めています。

過去数年の高齢者の数はほとんど変わりません。しかし10年、20年単位で見ると、若年層の労働力人口が減少したことも影響し、高齢者の割合は増加傾向にあります。

70歳まで就業機会を設けている企業は3割弱

従業員21人以上の企業23万5,875社のうち、70歳までの就業機会を設けている企業は27.9%と3割弱です。その内訳は、継続雇用制度を導入したケースが多くを占めており、定年の廃止や引き下げを行った企業はわずかという結果になりました。

この結果から、継続雇用制度は高齢者雇用の際に導入しやすい制度であると言えるでしょう。

こうした現状から、高齢者の就業の機会が増えていることと、企業が雇用する制度を整えつつあることが、高齢者雇用の上昇につながっていると考えられます。それではなぜ高齢者雇用が進んでいるのか、次にその背景を見ていきましょう。

高齢者雇用が求められる背景

高齢者雇用が求められる理由には、主に2つの背景があります。

65歳を超えても働きたい人は約6割

60歳以上の男女のうち、65歳を超えて働きたい人は約6割と半数を超え、さらに現在収入のある仕事をしている60歳以上では約9割と高い割合です。

高齢になっても働くことに高い意欲を持つ人が多いことから、その活躍の場をつくることが必要です。こうした背景も高齢者雇用を後押ししていると考えられます。

少子高齢化に伴う労働力人口の減少

もう1つは、15〜64歳の労働人口が減り、65歳以上の高齢者が増える急速な少子高齢化が予想されていることです。15〜64歳の人口は、ピークを記録した1995年には総人口の7割を占めていましたが、2040年には約半数にまで減少すると推計されています。

さらに、総人口も2010年をピークに減少していることから、これまでの経済規模を維持していくためには、高齢者も含めた労働力の確保が不可欠です。

こうした背景により、働く高齢者が活躍できる社会をつくることや、継続的な企業運営に欠かせない労働力を高齢者雇用により確保していくことがより重要になっています。

高齢者の解雇や雇い止めによる裁判事例

働く高齢者が増え、法律などにより高齢者雇用に関する制度の整備も進んでいます。ところが一方で、解雇や雇い止めなどのトラブルも起きているのが実情です。企業は何に留意すべきなのか、実際の裁判事例からヒントを探ります。

タクシー運転手が交通事故の不申告を理由に雇い止め

令和2年5月22日東京地方裁判所判決:労働判例1228号

概要

タクシー運転手として勤務していたAは67歳で定年退職を迎え、その後有期嘱託雇用契約を結んでいました。ところが二度目の契約更新の際、交通事故を申告していなかったとして雇い止めをされました。Aはこれを無効であるとして主張した裁判です。

判決

判決は、

  1. 合理的期待*があったこと
  2. 事故が重大でなく本人が反省していること
  3. これまでの勤務成績が良好であったこと

から、雇い止めは無効となりました。

*合理的期待とは、これまで本人や周囲の高齢者の契約が更新されていたことや、定年退職前と同じ業務を行っていたことなどを考えて、「契約更新を期待できる合理的理由がある」ことを言います。

塾講師が契約更新の内容を拒否したことを理由に雇い止め

令和3年8月5日東京地方裁判所判決[i]

概要

有期雇用契約を結んでいた塾講師Bは、前年度よりも2コマ減らされた契約内容を提示されたので、これを拒否しました。Bは、このことを理由に契約が更新されなかったことを違法として主張した裁判です。

判決

判決は、

  1. Bは少なくとも複数コマ担当する内容で契約更新されることを期待する合理的理由がある
  2. しかし、提示された契約内容は「客観的合理性があり、社会的に相当性である」

とされ、雇い止めは有効とされました。

こうした事例を参考に、企業がやむを得ず雇い止めをするとき、どういったケースが有効/無効であるのかを把握しておくことは大切です。これは、高齢者雇用に関する制度を運用していく上でも参考になるでしょう。

高齢者雇用のメリット

企業が高齢者雇用を行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか。3つのポイントを解説します。

人材の確保

少子高齢化に伴い、労働力人口は減少の一途をたどっています。こうした中で企業は、若年層の人材を確保しつつ、その他の年齢層も活用しながら経営を継続していくことが必要です。

将来的に総人口が減少して需要の縮小や人材の不足が起きれば、企業規模を維持していくことは簡単ではありません。高齢者雇用は、経営維持に必要な人材を確保していくために、今後不可欠な手段になることも予想されます。

経験や技術、ノウハウ、人脈の戦力化

高齢者は、これまでの経験によりコミュニケーション力や問題解決能力を身に付けているほか、専門的な技術やノウハウ、人脈などを持っています。これらを活かせば、大きな戦力になります。

高齢者を戦力にするためには、能力を発揮できる仕事を選んで割り当てることや、作業のしやすい環境を整えることも大切です。今ある仕事をそのまま高齢者に担当してもらうのではなく、能力や適性に合うやり方に変えるといった対応も必要でしょう。

ダイバーシティ経営の推進

企業経営において、イノベーションを生み出し新たな価値を創造していくためには、多様な人材を活かすダイバーシティ経営が重要です。多様な人材とは、性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無などのほか、キャリアや経験、働き方などの多様性を持つ従業員を言います。

高齢者はこの多様な人材に当たり、その能力や発想を活かすことで、企業の生産性や競争力の強化になる可能性を秘めています。高齢者雇用は、ダイバーシティ経営の推進につながります。

企業が高齢者雇用に取り組む際の注意点

企業が高齢者雇用に取り組む際には、最初に解説した基本的な内容を押さえるほかに、注意したいことがあります。その中でも2つのポイントを取り上げて解説していきます。

就業環境の整備

1つ目は、柔軟な勤務体制を導入したり、作業の際の安全管理を行ったりするなどして就業環境を整えることです。高齢者の体力は、個人差が大きい傾向にあります。それぞれの体力に合わせた勤務時間を選択できるような制度を作ることが鍵です。

また、作業設備や手順などが、通常の基準では問題なくても、高齢者にとっては使いにくかったり、分かりにくかったりする場合があります。危険な箇所がないか見直し、点検を行うことも大切です。厚生労働省は、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」を公表しています。この中のチェックリストなどを利用して、就業環境の確認を行うと良いでしょう。

能力開発と向上

もう一つは、経験を積んだ高齢者であっても、能力の開発と向上が必要であることです。研修やセミナーなどを通じて、自分では気付きにくい高齢期の変化を自覚し、これからの働き方と向き合う時間を作ります。高齢者が今の能力を自覚することで、意識や生産性の向上が期待できます。

その他、高齢者が新しい能力を身に付け、幅広い業務を行えるようにすることも有効です。技術革新が進む中、できることが増えれば有用な人材としてさらに活用できます。研修参加や資格取得を奨励するなどして、高齢者であっても能力の開発と向上を目指すことが重要です。

高齢者雇用により競争力を高めるためのポイントについては、「生涯現役社会の実現に向けた競争力を高めるための高齢者雇用-パフォーマンス向上のためのポイント集-」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構発行)にも詳しく解説されています。

積極的に高齢者を雇用する企業の取り組み事例

ここからは、積極的に高齢者を雇用する企業の取り組み事例を見ていきましょう。ここでご紹介する事例は自治体の事例集を参考にしていますが、「高年齢者活躍企業事例サイト」にも情報が掲載されています。従業員数などの条件を絞り込めるので、見たい事例を検索することが可能です。

【小売】スーパーセンター島屋株式会社

スーパーセンター島屋株式会社は、富山県のほか岐阜県などにも店舗を展開するディスカウントストアです。一般食品・医療・日用家庭用品などを販売しています。

ラクール飛騨高山店は、スタッフ91人のうち60歳以上は23人です。本人の意向と勤務内容を考えて、勤務体系を個別に決めています。また、体力や家庭の事情などにより、フルタイム勤務や短時間雇用などに対応しています。

高齢のスタッフは、食材の調理方法やアイテムの使い方などの説明・提案、人事関連、仕訳伝票の入力、請求書チェック、レジでの接客、電話対応などを担当しています。説明・提案では、高齢のスタッフの経験が活かされることでお客様からの信頼感が高まり、来店数の増加にもつながっているとのことです。[ii]

【土木・建築】株式会社アイ・エス・エス

設計を手掛けた橋梁

東京都港区に本社を置く株式会社アイ・エス・エスは、土木と建築の設計を行う企業です。従業員数180人、高齢者約15人が働いています。

同社は、技術を強化するために経験値のある人を年齢に関係なく採用しています。また、企業力強化の戦略として高齢者の力が必要であるとした上で、「高齢者が真に必要とされる社会を作る」ことも今後大事な視点になると言います。

総務アシスタントとして採用しているある高齢のスタッフは、人事管理書類の処理やハローワークの申請、スキャンやコピー、ファイリングなどを担当しています。何でも自分で調べて問題を解決していくことや、経験のないことにチャレンジしていく姿勢が社内のロールモデルとして良い影響を与えているようです。[iii]

高齢者雇用に関する助成金について

高齢者雇用を行う際には、助成金を利用できます。令和6年度5月現在、申請できる主な助成金は次の通りです。

・65歳超雇用推進助成金[iv]

「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上への定年引上げや高齢者の雇用管理制度の整備、有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対する助成金で、次の3コースがあります。

65歳超継続雇用促進コース

次のいずれかを実施した事業主に対して助成するコース

A. 65歳以上への定年引上げ

B. 定年の定めの廃止

C. 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入

D. 他社による継続雇用制度の導入

最大160万円が支給されます。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者向けの雇用管理制度に関する整備のうち、該当する措置を実施した事業主に対して一部の経費を助成するコース(実施期間は1年以内)

初回の申請は最大30万円、2回目以降は最大50万円が支給されます。

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業に対して助成するコース

対象労働者1人につき、最大30万円が支給されます。

・早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)[v]

「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」は、中途採用者の雇用管理制度を整備した上で採用の拡大を図る事業主に対する助成金です。

最大100万円が支給されます。

・特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)[vi]

高年齢者や障がい者など、就職の困難な人をハローワークなどの紹介により、雇用保険の一般被保険者として継続して雇用する事業主を対象とした助成金です。

高齢者1人当たり最大60万円が支給されます。

高齢者雇用とSDGs

最後に、高齢者雇用とSDGsとの関係を確認します。高齢者雇用は、目標8「働きがいも経済成長も」に貢献する取り組みです。

目標8「働きがいも経済成長も」

目標8「働きがいも経済成長も」は、1人当たりの経済成長率を持続させることのほか、働きがいのある人間らしい仕事を創出することが掲げられています。

高齢者雇用は、意欲のある高齢者を雇用し、その能力を発揮してもらう制度です。希望する多くの高齢者が仕事に就くことにより、企業の生産性や競争力に貢献し、その結果、経済の成長につながります。高齢者雇用は、目標8の達成につながる取り組みです。

まとめ

企業の取り組み事例で紹介した企業の担当者は、企業力強化の戦略として高齢者の力が必要であるとした上で、「高齢者が真に必要とされる社会を作る」ことも今後大事な視点になると話していました。高齢者雇用の取り組みは、企業活動の中で今後ますます必要になることが予想されます。また同時に、少子高齢化が進む日本で、企業と社会が高齢者雇用を通じてどう関わるのかといった視点も必要かもしれません。こうした状況の中、企業はSDGsの目標にも貢献する高齢者雇用を企業の経営戦略に組み入れ、実践することが求められていると言えるでしょう。

[i] 条件低下提示に合理性あり 講師の雇止めは有効 東京地裁|労働新聞 ニュース|労働新聞社
[ii] 公益社団法人 岐阜県シルバー人材センター連合会 岐阜県生涯現役促進地域連携協議会「シニア活用企業事例集 GIFU2022」
[iii] 東京都産業労働局「ホワイトカラー系での高齢者雇用の活用事例集」これからの高齢者雇用のヒントが分かる!
[iv] 65歳超雇用推進助成金 |厚生労働省
[v] 早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)|厚生労働省
[vi] 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) |厚生労働省