#インタビュー

株式会社On-Co|「関係性」に価値を見出し社会課題の解決を目指す

株式会社On-Co 代表 水谷さん インタビュー

水谷 岳史
1988年生まれ 三重県桑名市出身株式会社On-Co 代表取締役高校時代から商店街活性化、飲食や音楽などのイベント企画に携わってきた。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを学ぶ。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を数軒運営。ライフデザインやコミュニティ形成に取り組んだ。本質的な価値があれば短絡的なビジネスモデルは不要。という考えのもと、株式会社On-Coを経営。代表として全体運営を行う他、社外プロジェクトにも参画。目指すは未来の踏み台。

introduction:

空き家活用の原体験を生かして「さかさま不動産」を筆頭に様々な事業を展開する株式会社On-Co。代表取締役の水谷岳史さんは、空き家を貸してくれた大家さんから受けた恩を返すように、若い世代が活躍できるような場作りや社会課題の解決に取り組んでいます。自らを「未来への踏み台」と称する水谷さんにお話を伺いました。

狂うように熱量が高い状態がスタンダード

–初めに、事業概要について教えてください。

水谷さん:

僕たちは、「パブリックリレーションズ」「企画」「リソース」の3つを軸に、社会課題の解決に向けてプロジェクトを立ち上げてきました。

具体的なプロジェクトとして、1つは、空き家を介して挑戦を応援する「さかさま不動産」。これは、「空き家課題が深刻」「挑戦を応援できるまちづくりに向けた仕組みを作りたい」「空き家を改装して暮らしていた原体験」から生まれました。また、素材開発プロジェクト「上回転研究所」もあります。これは、素材デザイナーが弊社のメンバーとなった流れで立ち上がったプロジェクトです。

会社名は「温故知新」からきています。シェアハウスをしていた頃の大家さんとの出会いや、空き家のような古いものをどう使うかというところに楽しみを見出していたこともあり、「株式会社On-Co」としました。

僕たちの役割は、新しい未来が来る手前の概念実証を打ち出すことだと思っていて、「未来の前座」になることを掲げています。未来に起こることは誰にもわからないためお金になりにくい。だけど、新しいことを始めるには資金が必要です。そのためには信頼が必要です。

そこで、短絡的なビジネスモデルよりもまずは信頼を得ることに真剣に取り組み、強い価値を見出しています。「いつも面白いことやってるよね」「未来につながることをやってるよね」と言われる会社であることを目指していますね。

手がけている事業の中には目先の収益を追わずに行っているサービスもあります。「なんでそんなことをやっているの?」と言われることもありますね。周りから理解されなくても、とにかく挑戦できる環境を整えようと、社員間でも行動指針を共有しています。

–空き家事業を始めたきっかけについて教えてください。

水谷さん:

もともとは実家が造園業で、20歳くらいから庭師をしていました。20代半ばで飲食業に興味を持つようになり、名古屋の飲食店をプロデュースさせてもらう機会を頂きました。給料よりも、やりたいことをやれることが良いなと思っていました。とはいえ負担を少なくするために友達の家に転がり込みました。名古屋駅から徒歩15分くらいの空き家を改装した空き家で、安いこととボロボロの家に友達と住むという要素も楽しかったですね。

そうこうしている内に、だんだん人が集まるようになり、シェアハウスと呼ばれるようになりました。手狭になってきたため、近くの空き家も借り始めました。とにかく家賃が安く、8軒借りても計月15万円ほどでした

その頃から住人たちで「月に4万円払ったら死なない」をテーマに掲げ、家賃+食事込みの住居を提供するようになりました。「生きる」ってことをシェアしたかったんです。

その後、シェアハウスを個人事業化しました。空き家で飲食店やアトリエも始めて、かれこれ10年ほど空き家を活用したシェアハウスを運営していました。

紆余曲折あって、シェアハウスから一度手を引くことになりましたが、この経験が「さかさま不動産」にたどりつくきっかけとなっています。

大家さんと借り手の関係を重視したさかさま不動産

–さかさま不動産とはどのようなサービスなのですか?

水谷さん:

従来の不動産サービスは、物件の情報を出して、借りたい人がアプローチする仕組みです。対してさかさま不動産は、空き家を借りたい人の情報を公開して、大家さんを募るサービスとなっています。

日本の空き家率は、2040年に43%程になると言われており深刻です。

また、多くの大家さんが空き家・空き地の情報公開に消極的であることが分かりました。

一方、街づくりなど用途によっては借したいと思っている大家さんが潜在的にいることも分かりました。そこで、僕たちは「さかさま」にすることを考えました。

今の若い世代はSNS等で自分の情報を出すことに抵抗がない人も多い。そこで、情報を出しやすい借り手側が「空き家でこんなことをしたい!」と表現して大家さんを募る。そういう仕組みを作ろうと思ったんです。

さかさま不動産では、物件を探している人には、頂いた情報をもとにインタビューを行います。借り手の想いや熱量を理解した上で記事にしています。マッチングした際も手数料は頂いておりません。

–信頼を大切にしていることが伝わってきました。

水谷さん:

手数料をいただかない理由は色々とありますが、ひとつに、大家さんに、相性の良い借り手を紹介したいからです。手数料をビジネスにすると、つい数を追ってしまいがちかなと。

自分自身も若い頃、空き家を探していた際、大家さんはすぐに家を貸してくれませんでした。そこで、当時一緒に住んでいた友人と何度もアタックして、ようやく貸して頂けたという経験があります。

そして、ボロボロだった空き家を自分たちで改装しました。大家さんもその活力を見て安心され、「楽しく使ってくれ」と言って下さいました。僕たちも「ありがとうございます。実は次にこんなことやりたいんですよ」と相談したところ、他の空き家も紹介してくださったのです。

地域の自治会の方々も認知し始めてくれて、空き家で飲食店を始めた時には、「こういうことやりたいんでしょ。私の家も貸してあげるよ」と広がりが出てきました。

また、家賃については、大家さんへ直接持っていっていましたね。新しく入居した人がいれば一緒に連れて行き「お世話になります。よろしくお願いします」と挨拶をしていました。大家さんも、持ち家に知らない人が住んでいたら不安じゃないですか。

家を貸してくださっていることへの感謝の気持ちを行動で示したい。そんな思いから、定期的に大家さんの自宅の剪定や掃除もお手伝いさせて頂いていました。台風の時は瓦が飛んでいないか心配ですぐに直しに行きましたね。

大家さんがお菓子や商品券を下さることもありました。申し訳ないと思いつつも、距離感の近いコミュニケーションをとれることが嬉しかったですね。

大家さんや地域の方と信頼関係ができたことで、結果的にシェアハウスが広がっていきました。この原体験から、借り手と大家さんとの信頼関係をつくることが、空き家問題の解決の一助になるのではと感じています。

–上回転研究所では、どのようなアップサイクルに取り組んでいるのですか。

水谷さん:

アップサイクル事業である上回転研究所では、廃棄石膏ボードを再利用した「resecco」や、コーヒーかすと牛乳を使った素材「カフェオレベース」など、素材開発を通して新たな関係性づくりを行っています。

上回転研究所が始まったのは、弊社の素材デザイナーである村上とさかさま不動産を通して出会ったことがきっかけでした。

自社で管理しているマンションでは、面白い人には無料で貸し出すという仕組みを取り入れているのですが、ちょうど空きが出た時に、さかさま不動産を通して村上を知りました。

彼がやっていることは社会を変えられるようなことだと感じました。

芸術大学の卒業制作で、バナナの皮からレザー素材を開発するなど、廃材を活用した素材開発を行っており、2021年にコーヒーかすと牛乳で作る「カフェオレベース」をリリースしたところでした。

マンションの運営においても、「挑戦を応援する」がキーワードとなっていたため、「好きに使って挑戦したらいいよ」と無料で貸しだしました。

僕自身が若い頃に空き家を安く貸してもらえたことで、暮らしのコストが抑えられ、前向きに挑戦ができた実感があったんですよね。それに多種多様な人たちに出会えることは会社にとっても有益で「この人がきたら何か面白くなるな」と感じる人を呼び込んでいました。

その後、弊社のメンバーである藤田が建築に携わるなかで、石膏ボードの廃棄課題を知り、村上と共にアップサイクルに向けて実験を行いました。実際にこれがとても注目されて、様々な企業から問い合わせが入りました。

そのタイミングで村上も弊社のメンバーとして活動することとなりました。

–他にも行っている事業はありますか?

水谷さん:

色々とありますが「丘漁師組合」というプロジェクトも立ち上げています。さかさま不動産と同様に、固定概念を覆してできることを考えたのがきっかけです。

漁師さんとコミュニケーションをとることが多く、深刻化する海の課題について知識が増えていきました。

課題に対して、漁師や卸売業や飲食業の方々が真剣に取り組んでいます。でも、持続可能な食糧調達に向けて、食べている側の僕たちにもできることや、知るべきことがあると痛感していました。

気候変動等で獲れる魚は変わってきています。その状況の中で、お客さんは秋刀魚だったら三重県、サーモンだったら北海道といった認識のなかで魚を求めます。そのため、実は現地では取れなくなっていてもお客さんのニーズに応えるために、飲食店の人もそれにあわせて確保をせざるを得ない負のサイクルになることもあります。

名前を知らなくても美味しい魚は沢山あって、僕たち消費者も海の実状に寄り添い、その地域で獲れる魚をありがたくいただく文化ができれば、流通ももっと変わっていくのではないかなと感じています。

「ニベ」という魚を知っていますか。九州では養殖されるような美味しい魚なんですけど、三重県でも獲れることが増えていた時期があり、飲食店にお願いして、この魚を仕入れてもらい、メニューとして提案したことがあります。

漁師さんたちから海のことを教えて頂くなかで、まず自分ができることとして、都市部にいる若者を生産地に連れていく。漁場や加工場、漁の様子なども見せて頂き、関係性ができることで、「自分の立場で何ができるかな」という思いを抱く人たちが増えていくことを体感しています。

実際に、世間的に認知度は低いけれども、美味しい魚が都市部の飲食店で使われた事例も生まれました。

ある資源を余すことなく食べる。美味しい魚を食べ続けられるために、一人一人ができることってありますよね。

未来の踏み台になれればいい

–今後の展望について教えてください。

水谷さん:

個人的には、ずっと新しいことを考えていくのは年々難しくなっていくのではないかなと思っています(笑)。だからこそやりたいという想いはあるんですけどね。

昨年、名古屋駅から徒歩15分くらいのところに400平米くらいの工場兼事務所を借りました。そこを、世の中に”まだない”ものに向き合う人たちの拠点「madanasaso」と名づけ、運営を始めています。

ありがたいことに、最近、面白い若者ががたくさん集まるようになりました。

まだない未来をつくろうとする若者は、熱量もアイディアもすごい。一方でお金や人脈がまだない人も多いです。自分たちもかつてそうでした。そういう若者が自信をもって挑戦を続けられる場所を作りたいんです。

また、社会がまだ理解できないことをしようとしている彼らを、僕自身が導くのはおかしいなと思っています。

だから、「踏み台」でいい。この環境を踏み台にして大いに挑戦してもらう。話は聞くし、ご飯は冷蔵庫にある。シャワーも寝られる屋根もある。

自分たちの会社の理念にもあるように、「まだ見ぬ未来」を楽しみながら、どんどんクリエイトしていくってことを、会社のメンバー含めてやっていきたいと思っています。

社会にこれが必要と感じたらまずは熱量を持ってやってみる。

いろんな人が「On-Coは何か変なことやってるよね」「またお金にならないこと始めたよ」って言われるような会社であり続けることで、信頼が集まってくるかもしれないし、いろんな人が関わってくれるかもしれない。

もちろん会社ですから経営的な部分もしっかりと管理しています。

でも、空き家や廃棄の課題は自分たちが出来ることもあるし、やるべきじゃないですか。こういうのをどんどん打ち出していくと、本当に関係性が広がっていくのが面白いところだと思っています。社内外を問わず、関係性が詰まったコミュニティを作っていきたいですね。

–どんな未来がやってくるのか楽しみです。貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

株式会社On-Co:https://on-co.jp/