グローバル化が進んできた現在の世界において、近年日本の国際的な地位が低下しつつある、という危機感が持たれるようになっています。日本の経済的停滞に加え、不安定な国際情勢やエネルギー供給の不安定化、そして円安がその傾向に拍車をかけています。グローバル化が及ぼす影響は、もはや国や企業だけでなく、われわれ個人にとっても避けることはできません。日本がグローバル化に適応し発展していくには何が必要なのか、現状を踏まえた課題と解決策を探っていきたいと思います。
目次
グローバル化とは
最初の大前提として、そもそもグローバル化とはどのようなことをいうのかを理解しなければなりません。グローバル化(グローバリゼーション)とは
- ヒト・モノ・カネや情報の国境を越えた活発な移動によって、商品やサービスを介した世界の国・地域同士の結びつきが深まること
- 企業や組織が国際的な影響力を持ち、国際的な規模で事業を展開すること
- 近年はIT(情報技術)・インターネットやAI(人工知能)などの技術革新の影響により、時間と空間を横断した社会関係や意識が世界的に拡大・強化されること
のことを言います。
このような国際的な動きは古くからありましたが、現代的な意味でのグローバル化が始まったのは20世紀後半からです。以来現在に至るまで、グローバル化の波は政治・経済・社会・文化など世界中のあらゆる分野で大きな変化をもたらしています。
グローバル化の影響
グローバル化によってヒト、モノ、カネ、情報が自由に行き来できるようになったことで、具体的に世界はどのように変わったのでしょうか。
ヒトの移動
- 他国への観光が盛んになる
- 自国で得られない学びを得るため留学する
- 希望する仕事や待遇を求めて他国に就職できる反面、現地国民と雇用をめぐり軋轢を起こすことも
モノの移動
- 関税が低減されて貿易が自由化されることで、安価で良質な製品が流通しやすくなる
- 反面、低成長産業の衰退や生産拠点の流出などの問題も起こる
カネの移動
- 国内外を問わず投融資が容易になり、資金の動きが活発化する
- 通貨危機や金融危機が起きれば、世界中にダメージが広がる
情報の移動
- インターネットで世界中の情報を得られ、場所に縛られない経済活動や文化活動も可能になる
- 巨大プラットフォーマーによる独占や個人情報・知的財産保護などの問題が顕在化
- 情報格差が経済や生活面での格差拡大にもつながる
など、グローバル化がもたらす資源の移動は、数多くの恩恵と共に、看過できない問題も生み出しているのが現状です。
グローバル化と国際化の違い
グローバル化と似た言葉として「国際化」がありますが、意味合いは異なります。
国際化は、国と国同士のやり取りなど国境を意識した関係であるのに対し、グローバル化は国境を超えた活動による地球全体としてのつながりを意味しています。
しかし、これは均一的なひとつの世界を指すわけではありません。それぞれ異なる特徴を持つ、独立した国・地域同士が強力な相互依存関係にあり、互いのネットワークが地球規模でつながっているというのが、グローバル化のイメージとして近いものと言えます。
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日本におけるグローバル化の現状
戦後の日本社会も、前述のようなグローバル化の流れにのって経済成長を成し遂げ、世界でも有数の経済大国へと成長してきました。では、現在の日本におけるグローバル化の現状はどうなっているのでしょうか。
日本企業の海外進出
かねてより、自動車産業などの世界進出が目立っていた日本企業ですが、2010年代に入って特に海外への進出が増えています。
日本の対外直接投資額と名目GDPとの比率を見ていくと、1996年度にはわずか0.5%だった数字が、2011年度には2%、2018年度には4.5%となっています。
2019年の対外直接投資額を地域別に見ると、総額27.2兆円のうち多いのはヨーロッパ向けが12.1兆円と最多で、以降北米向け5.6兆円、オセアニアが1.3兆円などです。
一方で、シンガポールに1.7兆円、中国に1.6兆円など、アジアへの直接投資も合計で6.6兆円に上っています。
好調なインバウンドと低調なアウトバウンド
近年特に目立つのが、訪日外国人客の多さです。
日本政府観光局(JNTO)の統計によると、日本を訪れた外国人旅行客の数は2010年代から急激に増加し、2016年には2,400万人を越え、2019年には3,188万人に上りました。コロナ禍で数は減ったものの、パンデミックが落ち着いた2023年には2,507万人まで戻るなど、再び上昇に転じています。
一方海外へ出国する日本人の数は、2023年にはわずか962万人にとどまっています。
この背景には、長引く日本国内の不況で日本人の所得が上がらないことに加え、ウクライナやパレスチナでの紛争など世界情勢の悪化や、欧米諸国の物価上昇、急激な円安などの要因があります。
高い競争力を持つ日本製品の増加
グローバル展開を目指す日本企業にとって追い風となるのは、海外市場で高い競争力を持つ日本製品が増えていることです。顕著なのが農産物や農産物加工食品、手工業による工芸品などで、特に高級果実・野菜や日本酒は品質と味の良さが高く評価され、価格面での国際競争力が上昇しています。
また、日本のアニメやゲームなどのコンテンツ産業はそれまでも知られていましたが、近年ではより高い関心を集めるようになっています。これもまたグローバル化の影響と言えるでしょう。
対照的に、それまで高い技術力を誇っていた半導体、液晶などの産業では競争力を失いつつあります。
グローバル化の必要性と人材・力量の不足
こうした状況を踏まえて、日本の社会でも個人・企業を問わずグローバル化の必要性が高まっています。特に企業にとっては
- 少子高齢化と人口減少による国内市場の縮小
- 中国や東南アジア諸国の台頭
などの理由から、実に70%もの企業がグローバル化は必要だと感じています。
にもかかわらず、経営のグローバル化に苦慮している企業は少なくありません。その背景には
- グローバル化に適した人材を確保できない
- 世界標準に即した経営システムを構築できない
などの問題があります。
グローバル化が進む中での日本の課題
このように、あらゆる局面でグローバル化にさらされ、その必要性を感じているにもかかわらず、人材面でもシステム面でも対応に遅れをとっているのが日本の現状です。そこには、以下のような解決すべき課題が数多く残されています。
課題①語学の壁
最も大きな課題は語学の壁です。特に日本人のグローバル人材を確保する上で、外国企業、日本企業共に英語力を最も大きな課題にあげています。
国際語学教育機関EFエデュケーション・ファーストの2023年調査では、非英語母語の113カ国・地域の中で日本人の英語力は87位という「低い能力レベル」とされています。
日本人の英語力が低い原因としてたびたび指摘されているのは、主に以下の3点です。
- 英語と日本語の根本的な「言語的距離の遠さ」
- 読み書き文法に偏り、会話やリスニングが少ない英語教育
- 日常的に英語に触れる機会が少なく、使う必要に迫られない環境
ただし、日本語と同じくらい英語との言語的距離が遠い韓国のほか、マレーシア、フィリピンなどアジアでも、日本よりはるかに英語力の高い国は少なくありません。
また、現在では大都市に限らず地方でも至る所で外国人観光客が珍しくなくなり、英語など多言語の必要性に迫られる機会は増えています。
逆に日本での外国人材の採用については、日本語によるコミュニケーションがボトルネックとなっています。日本語能力試験(JLPT)で最も高い能力が求められるN1レベルの合格率は3割ほどですが、マークシート式の選択問題で構成されているため「話す」「書く」能力を問うものではありません。
課題②文化的な国際性の乏しさ
言語の壁に次いで課題となるのが、日本人の国際的な感覚の欠如です。
特に海外に進出した企業の日本人の中には、文化や宗教、法律、習慣やマナー、一般常識などが異なる国について理解し、尊重しようという感覚が薄い人が少なくありません。こうした認識不足が原因となって現地での事業に失敗したり、トラブルに発展したりするケースも見られます。
こうした他民族に対する文化的閉鎖性に加え、
- 現地人と交わらず日本人だけで集まりたがる非社交的な性格
- 強すぎる本社・本国志向
- 仕事以外の社会的活動への無関心
などといった感覚も、日本人がなかなかグローバル化に適応できない原因のひとつです。これらは海外へ進出する場合だけでなく、日本に来る人を迎え入れる場合においても克服すべき課題と言えるでしょう。
課題③日本的マネジメント
海外で通用しない日本独特のビジネス習慣や考え方も、日本の企業がグローバル化への適応に苦しむ原因になります。意思決定にスピードを重視し、イエス・ノーを明確に伝える傾向がある海外企業との仕事では、日本流の「空気を読む」は役に立ちません。同様の日本的な「和」を重んじるやり方は、
- 意見の対立を尊重せず、批判的な議論ができない
- 楽観的でリスク管理や危機意識が低く、最悪の事態を想定したプランを立てられない
- 事なかれ主義が強く、問題を放置したり自己保身に走りがち
などの問題を招き、グローバルビジネスを進める上ではマイナスな要素となります。
同様に日本的経営が抱える
- 属システム思考ではなく属人的な業務ノウハウ
- 個人の職務内容や権限・責任の範囲が不明確
- 権限の委譲が不十分・中途半端
といった曖昧な仕事の進め方も、グローバル化が進む世界では難しいでしょう。
課題④IT化の遅れ
ITに代表されるデジタル化の遅れも、日本がグローバル化に乗り切れない原因のひとつです。
その弊害は、頻発するメガバンクのシステム障害や、新型コロナウイルス対策における政府・自治体の対応の遅さなどによって明らかになりました。IT化が遅れている理由としては
- システムが古くブラックボックス化している
- 基幹業務システムが共通化されていない、独自のシステムや規格が乱立している
- IT技術に通じた人材が不足している
- 紙の書類やフロッピーディスクに固執するなど新しい技術に対して保守的である
- 外国人に不親切な公共交通機関・商業施設などでの決済方法や、複雑なインターフェイス
などがあり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や世界との規格共通化を阻害するこうした要素は、いまだに社会の至る所に根強く残っています。
課題⑤日本の社会制度
日本で事業を展開しようとする海外企業や個人にとって、日本の法律や制度、慣習もまた高いハードルとなります。
具体的な例をあげると
- 税負担が高い
- 官僚的で手続きに時間がかかる
- 事業規制の開放度が低い
などの制度面から
- 柔軟な働き方ができない
- 管理職に女性が少ない
- 意思決定が複雑である
などの習慣的な問題も、日本在住の外国人からしばしば指摘されています。
また、世界的な物価上昇に伴い、先進国の多くは賃金を大幅に引き上げていますが、長い不況に加え円安が進行する日本では、欧米企業並みの賃金を労働者に約束することは現状困難です。
こうした状況が長期化すれば、日本企業はやがて国内外の優秀な人材を確保することが難しくなり、ますますグローバル化に遅れをとることにもなりかねません。
グローバル化の課題を解決するためには
このような課題を解決し、日本がグローバル化を進めるには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか。
解決策①実践と必要に即した英語教育を
グローバル化に向けた最優先事項は、日本人の英語力向上です。
日本の英語教育については数え切れないほど議論が繰り返されていますので、ここで決定的な解決策を提示することはできません。ですがそれらの改善策の多くに、共通してあげられているのは以下の通りです。
- 早い段階から「聞く」「話す」の音声学習やアウトプットに重点を置く
- 受験目的ではなく「コミュニケーションの道具」だという意識を高める
- 学校以外でも英語を使う場面を増やす
- 和訳をせず、英語のまま内容を理解する訓練をする
ここで特に強調したいのが「英語を使う必要性」の重要さです。
学校や企業でどれほど熱心に英語教育を実施しても、すぐに語学を使う必要がなければ効果は出にくいでしょう。そのため、学校でも職場でも、語学を試さざるを得なくなる挑戦の場を設けることが必要ではないでしょうか。
解決策②異文化や異なる他者への理解
語学と同じくらい大事なのが、異文化や容姿、習慣、考え方が異なる人に対する理解です。
日本人は民族的に同質性が強いため、どうしても自分たちとは違う人々と相対すると、身構えて壁を作りがちです。こうした意識を払拭するには
- 「人間はみな違うのが当然である」と心得る
- 間違いを恐れない
- 自分の意見や考えを少しでもいいから明確にする
- 日本の文化や習慣を押しつけない
- 異なる相手への好奇心を持つ
などのように考え方を変えることが必要になります。すぐには難しくても、まず相手との「違い」を素直に受け止めた上で、相手を尊重することの大事さを理解していきましょう。
解決策③日本型経営の改善
進出先の海外であれ日本国内であれ、日本人以外で仕事をする機会は今後ますます増えてきます。
効率的かつ円滑に仕事を進めるためには、日本独特の曖昧な業務の進め方や「以心伝心」などの不明瞭な意思疎通は改めるべきでしょう。そのために行うべきこととしては
- 国内外共通の管理システムを確立し、職務の範囲、権限、責任、仕事の処理手順、評価基準などを文書化する
- 海外拠点の幹部に現地人を採用する、日本本社に有能な外国人を幹部として迎え入れる
- 意見の対立を恐れたり疎んじたりせず、批判的な議論を受け入れる社内風土を作る
- あらゆる状況に疑問を持ち、複数のプランや危機管理体制が立てられるようにする
などの組織改革が求められます。その上で、平等さやチームワーク、改善活動、雇用維持への努力といった日本型経営の良い面を活かし、融合させていくことも必要となります。
解決策④DXの理解と実践
社会のどのような場面であれ、ITリテラシーやDXへの対応は、日本がグローバル化を進めていく上で必要不可欠なものとなります。
経済産業省のレポートによると、DX化の失敗で国際競争に敗れれば、2025年には最大で年間12兆円の損失が生じかねないと警告されています。
日本が世界基準の技術に基づいてDXを推進していくためには、
- 古く、複雑化したシステムの大幅な刷新
- 「デジタルを活用する目的」の意識づけ
- デジタル技術やデザイン思考に通じた人材の育成
- デジタルに最適化した形に組織を変革する
- 変化や新しいものを拒まず、好奇心を持つ精神を育む
といった意識を、社会全体で共有することが大事です。
グローバル人材に求められる資質とは
では、これからのグローバル化に適応できる資質とは、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、特に海外生活を送るうえで求められる以下のような性格適性を例にあげています。
- 積極性:受け身ではなく自ら行動を起こせる能力
- 外交性:積極的に他者と交わり、友好関係を維持する意欲
- 主体性:自分自身の信念に基づいて行動する傾向
- 柔軟性:状況に合わせて自分の考えや行動を修正し適応させる力
- 情緒安定性:ストレスに直面しても動揺せず課題解決に向かえる力
- 好奇心:珍しいものや異なるものに興味を持てる
ただし、これら全ての適性を備えるというのは現実的には容易なことではありません。あくまでも、グローバル人材になるにはこういう人物像が望ましいという前提を理解した上で、行動や考え方の指針とするのが良いでしょう。
またこれらの資質に加えビジネス面で求められる要素としては、折衝・交渉力、問題解決能力、業務知識や経営管理能力、専門分野に特化した語学力などがあります。
グローバル化の推進とSDGs
グローバル化を進めるための課題を解決することは、SDGs(持続可能な開発目標)のいくつかに関連しています。それは、SDGsそのものが地球規模の課題であり、世界中の誰一人としてその課題とは無縁でいることはできないからです。
中でも経済や産業のグローバル化と関連するSDGsの目標としては
- 目標8「働きがいも 経済成長も」
- 目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
- 目標10「人や国の不平等をなくそう」
があげられます。
グローバル化=パートナーシップである
グローバル化の進展と最も密接に関連しているSDGsの達成目標は
目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」
です。
SDGsの1〜17の全ての目標を達成するには、全地球規模の国際的な協力やパートナーシップが不可欠です。そしてグローバル化の推進は、政治や経済、文化の違いを乗り越えて課題を共有し、解決に向けて取り組むための土壌を育みます。目標17で掲げられているパートナーシップは、グローバル化が進む世界だからこそ可能になると言っても過言ではありません。
まとめ
20世紀後半に経済的な力と地位を手に入れた日本は、世界の中でも大きな存在感を保ってきました。
しかし、大きく変わった世界情勢と情報産業の発展に乗り遅れた日本は、グローバル化する世界で影響力を失い、他国の後塵を拝し始めています。
日本と日本人がこのままグローバル化に失敗し、あらゆる産業で世界との差を広げられてしまえば、国力そのものの衰退にもつながります。グローバル化は世界に大きな恩恵をもたらす一方で負の影響も大きく、日本でもさまざまな問題が生じていることは確かです。そうした課題を乗り越え、本当の意味で世界の中の日本となるかどうかは、今後の私たちの意識と行動にかかっていると言えるでしょう。
<参考文献・資料>
教養としてのグローバル経済 : 新しい時代を生き抜く力を培うために = Fresh and friendly guidance on the global economy / 齊藤誠著. — 有斐閣, 2021.
事例で学ぶグローバル経営入門 : 中小企業の海外進出ガイドライン / 大泉常長編著 ; 企業危機管理研究会著. — 文眞堂, 2020.
グローバリゼーション / マンフレッド・B・スティーガー [著] ; 櫻井公人, 櫻井純理, 高嶋正晴訳. — 新版. — 岩波書店, 2010. — (1冊でわかる).
グローバリゼーション 移動から現代を読みとく / 伊豫谷登士翁;ちくま新書,2021,
第1節 日本経済とグローバル化 – 内閣府
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