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GX(グリーントランスフォーメーション)とは?企業の取り組み事例や最新動向も

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GX(グリーントランスフォーメーション)は、日本の一般的な人々の間ではまだ注目度や関心は高いとは言えませんが、すでに多くの企業や自治体などは取り組みを始めています。一方、世界ではすでにアメリカやEUを中心に一般市民の間でもGXへの関心は高まっています。

世界に遅れを取らないためにも今、私たちひとりひとりがGXを正しく理解し、行動を起こすことが必要です。GXの目指すもの、企業のGXへの取り組み事例や最新動向などから、社会人として知っておきたいGXの知識を身につけておきましょう!

目次

GX(グリーントランスフォーメーション)とは

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量削減に取り組む世界的な流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのことです。同時に、化石燃料の使用を減らし、再生可能エネルギーなどのクリーンなエネルギーに転換して、経済のシステムを含めた社会全体の変革を目指します。

2050年カーボンニュートラルの実現を目指して

GXを推進する日本だけでなく、世界は「2050年カーボンニュートラル」に向かって進んでいます。この目標が達成されない場合、地球温暖化やそれに伴う気候変動がさらに進行してしまいます。その場合、

  • 異常気象などの自然災害の頻度と強度が増加
  • 生物多様性の喪失
  • 農業や食料生産に影響を与える気象パターンの変化

など、さまざまな影響が出ることが予想されています。

カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略

グリーン成長戦略とは、「2050年カーボンニュートラル」に向けた日本政府の戦略です。この政策は、

  1. 地球温暖化への対応を経済成長の機会と捉える
  2. 積極的に気候変動への対策を行う
  3. 産業構造や社会経済の変革をもたらす
  4. 日本経済の次なる大きな成長につながる
  5. 持続可能な社会の実現

という考え方に基づいており、具体的には、

  • 予算
  • 税制
  • 金融
  • 規制改革・標準化
  • 国際連携

などの政策ツールを総動員して、民間投資を促し、雇用と成長を生み出すことを目指しています。GXはこのグリーン成長戦略の一環とも言えます。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行

【EUの提案するサーキュラーエコノミーのイメージ】

日本がGXを推進することで目指しているのはサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現です。サーキュラーエコノミーは、廃棄物の削減や再利用を促進し、資源と資金の高効率な循環を目指す経済システムです。

GXの推進は、日本のエネルギーと資源の自給率を上げ、レジリエンス※を高める取り組みなので、国際競争力の向上にもつながります。つまり、GXによってサーキュラーエコノミーが実現すれば、

  • 資源の循環
  • エネルギーと資源の自給率の向上

を通じて、カーボンニュートラルの達成と経済成長を両立させることができるのです。

レジリエンス

不利な状況や予想外のトラブルに対しての対応能力や耐性。

GXとSXとの違い

  • GX(グリーントランスフォーメーション)→クリーンなエネルギーへの転換
  • SX(サステナブルトランスフォーメーション)→持続可能なシステムへの転換

これらは、相互に関連しています。もう少し詳しく言うとSXは、

  • 社会の持続可能性と企業の持続可能性を同期化
  • 長期的かつ持続的な企業価値向上を図るために必要な経営・事業変革を行う

ことで、社会の持続可能性と企業の持続可能性を同期化することを目指しています 。つまり、SXはGXより広範囲の社会的持続可能性問題に焦点を当てているので、

  • 多様にあるSXのアプローチ方法の1つがGX

と考えることができます。

【関連記事】SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?企業が取り組むSX事例の紹介も

GXとDXとの違い

  • GX(グリーントランスフォーメーション)→クリーンなエネルギーへの転換
  • DX(デジタルトランスフォーメーション)→デジタル化の推進

この2つは、異なる目標を達成するための変革プロセスですが、実は深く関連しています。

DXは、デジタル技術を発展させ、人々の生活をよりよくしていくことを目指しています 。GXとDXは、並行して取り組むことで相互に促進効果を発揮し、特に地域・地方の課題解決につながる可能性があります。

その理由は、DXが促進されることで、

  • 地域の人口増加(都市にいなくても可能なことが増える)
  • デジタル技術の活用による人手不足の解消
  • デジタル技術の活用によって効率的にクリーンエネルギーを生産
  • 経済の発展やエネルギーの地産地消が可能になる

などが期待できるからです。

【DXが支える社会基盤】

【関連記事】デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?SDGsとの関係・取り組み事例を解説

GXとは何かだいたいわかったところで、次の章ではなぜ必要なのかを考えていきます。*1)

なぜGXが必要なのか

GXが必要な理由は簡単にまとめると、日本は今、

  1. 気候変動問題への対応
  2. 国民生活と経済活動の基盤となるエネルギーの安定供給を確保
  3. 持続可能な社会経済成長を同時に実現

などを求められているからです。日本は「2050年にカーボンニュートラル」を実現することを国際的に約束しています。

この約束を実現するには、社会の仕組みそのものを、

  • 温室効果ガスの排出の少ないエネルギー
  • 廃棄物を減らし、資源を循環利用する産業
  • 環境への配慮と経済成長の両立
  • 自然と共存する持続可能な社会

などに変えることが必要です。これらの目標に向かってGXは推進されています。

①気候変動への対応

GXは気候変動への対応として具体的な取り組みです。

  • エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などを推進する。
  • GXの実現に向け、資金調達のための「GX経済移行債」※等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行う。

このような側面から、気候変動への対応においてGXは中心的な取り組みの1つと言えます。

GX経済移行債

脱炭素成長型経済構造移行債のこと。集めた資金は製造業や電力会社などの脱炭素化に向けた技術開発を支援するために使われる。

【GX経済移行債】

②エネルギーの安定供給を確保

日本はエネルギー供給の面で、深刻な課題をいくつも抱えています。

  • エネルギーの輸入依存度が高い
  • 原子力発電所の再稼働問題
  • 災害に対する対策不足
  • 火力発電所の環境への負荷
  • 再生可能エネルギーの導入にかかる時間とコスト

これらの課題を解決するためにも、GXの推進が必要です。日本は、これまでの化石燃料に依存したエネルギー供給体制を変革し、再生可能エネルギーや原子力などの温室効果ガスを排出しない電源への転換と同時に、エネルギー自給率の底上げが求められています。

【日本全国の電力系統の整備(長期展望案)】

下のグラフからも、他の先進諸国に比べ、日本のエネルギー自給率がかなり低いことがわかります。

【先進各国のエネルギー自給率の推移】

③持続的な経済成長

日本は深刻な経済システムの問題点を抱えています。例えば、

  • 人口減少高齢化による労働力の減少(人件費の上昇・企業の生産力低下)
  • 公的債務の増大(将来的な税収の減少・利息負担の増加)
  • 経済格差の拡大(社会的不安による消費・投資の減少)
  • 産業構造の転換(製造業中心からサービス業中心へ)
  • 環境問題(地球温暖化・自然災害などへの対策)

などが挙げられますが、GXは、このような課題に対して、以下のような取り組みを通じて対応します。

  • 新たな産業・雇用の創出
  • エネルギー効率の向上・エネルギーコスト削減
  • 環境負荷の軽減による社会的信頼の向上
  • GX関連の投資による資金調達の拡大
  • 国際的な基準への適合による国際競争力の向上

GXは社会全体の持続的な発展につながるため、長期的な経済成長の維持に貢献します。

【日本の生産年齢人口の推移】

上のグラフは日本の生産年齢(働ける年齢)の人口の推移です。2020年では約7,400万人だった生産年齢人口は、2050年には約5,300万人まで減少すると予想されています。GXによる省エネ化や働き方の多様化は、労働環境の改善も期待できるのです。

このようにGXは日本経済にとって重要な鍵です。次の章では、この重要な鍵であるGXに関する政府の取り組みを確認しましょう。*2)

GXに関する政府の取り組み

政府は将来的にも日本が持続的に経済成長を続けるために、GXを重要な取り組みと位置付け、「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定しました。その中でも代表的な取り組みを見ていきましょう。

GXリーグの設立

【GXリーグが目指す世界観】

  1. 日本企業の環境投資を正当に評価する構造
  2. GX市場の創造のためのリーダーシップ
  3. 官民連携でのGX関連のルールを形成する能力の向上

GXリーグとは上の3つのために、

  1. 企業が世界に貢献するためのリーダーシップのあり方を示す。
  2. GXとイノベーションを両立し、いち早く移行の挑戦・実践をした者が生活者に選ばれ、適切に「儲ける」構造を作る。
  3. 企業のGX投資が、金融市場、労働市場、市民社会から、応援される仕組みを作る。

この3つを目指し、賛同企業を募ります。また、GXリーグは

  1. サステイナブルな未来像を議論・創造する場
  2. 市場創造やルールメイキングを議論する場
  3. 自主的な排出量取引を行う場

の3つの場を提供する取り組みでもあります。

【GXリーグ3つのキーアクション】

成長志向型カーボンプライシング構想

成長志向型カーボンプライシング構想は、今後10年間に政府と民間を合わせて150兆円を超えるGX投資を実現するための取り組みです。政府が総合的な戦略を定め、GX投資を先行して取り組むインセンティブ※を付与する仕組みを創設します。

インセンティブ

人々が何かをすることを促すために与えられる報酬や刺激のこと。

【成長志向型カーボンプライシングの中長期的イメージ】

カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ

カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブとは、企業や自治体が、環境に配慮した投資や事業を行うことによって、カーボンプライシングによるコスト増加を回避することができる仕組みです。具体的には、企業や自治体が、カーボンプライシングによって発生するCO2排出権の課税や取引に対して、事前に割り当てられたクーポンを受け取ることができます。

このクーポンは、企業や自治体が環境に配慮した投資や事業を行うことによって、より多くのクーポンを受け取ることができる仕組みになっています。つまり、環境に配慮した投資や事業を行うことによって、企業や自治体が節税などのコスト削減ができます。

GX経済移行債などの大胆な先行投資支援

GX実現に向けた取り組みへの先行投資を支援するために、2023年から10年間「GX経済移行債」を発行し、GX推進のための資金を募る取り組みです。

【今後10年間のGX関連の政府支援額と官民の投資額のイメージ】

GX経済移行債による政府の支援が受けられる条件は、

  • 技術の革新性や事業の性質などの理由で、民間企業だけでは投資判断が困難な事業
  • 産業競争力の強化・経済成長・温室効果ガス排出削減のすべての実現に貢献する
  • 企業投資・需要側の行動を変えていく仕組みにつながる規制・制度と一体にして行う
  • 国内経済の発展への貢献に重点を置く事業であること

などの基本原則を満たした事業です。

新たな金融手法の活用

政府と民間合わせて150兆円を超えるGX投資を実現するために、国内外のESG投資※を集め、民間金融機関の力を最大限に活かします。具体的には、

  • トランジション・ファイナンス※の信頼性向上と国際発信
  • ブレンデッド・ファイナンス※を活用した金融手法の開発・確立
  • サステナブルファイナンス※の推進
  • 企業や事業の気候変動への取り組み情報の開示を充実させる
  • GX経済移行債の有効活用

などの取り組みを早期に実施し、資金を集めます。

環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)要素を考慮する投資。

カーボンニュートラル実現のための長期的な戦略として、温室効果ガス削減に取り組む企業への支援を目的としたファイナンス(金融・資金調達)。省エネルギーや温室効果ガス排出量の少ないエネルギーへの転換などの「トランジション(移行)」に焦点を当て、そこに資金供給を促す。

ブレンデッド・ファイナンス

公的資金と民間資金を組み合わせた新たな金融手法。

持続可能な社会を構築するための金融(資金を調達・管理・運用するシステム)。

GXへの投資は、

  • 世界の政治経済
  • エネルギー事情の変化
  • 温室効果ガス排出削減技術などの進展状況
  • 消費者の行動の変化

などの要因に影響を受ける不確実性の高い分野で、さまざまなリスクがあります。その上でGXを推進するためには、これらのリスクへの適切な対応や将来の予見可能性を高めることで民間投資を促すことが重要です。

次の章では、このようなリスクもふまえながら、企業がGXに取り組むメリットを解説します。*3)

企業がGXに取り組むメリット

企業がGXに取り組むことによって、さまざまなメリットが得られます。代表的なメリットの例を見てみましょう。

ブランディングにつながる

GXへの取り組みは、「環境問題に取り組む企業」として企業の新たなブランディングにつながることが期待できます。地球環境問題や社会問題の解決のため積極的に取り組む企業は、世間やステークホルダーからの好感度や信頼度が上がります。

環境大善株式会社の事例

【環境大善株式会社の環境へのコンセプトを明確にした商品・建物】

北海道北見市の環境大善株式会社は、牛のし尿を再利用した消臭液や土壌改良材の製造・販売をしています。先代からの事業継承にあたり、窪之内誠社長は自社を徹底的に分析し、新たな経営理念として「発酵経営」を掲げました。

2019年には従業員に向けた「環境ダイゼンの考え」という冊子を制作し、2020年には「経営指針の書」として改訂し、

「『人』、『暮らし』、『健康』を整え、『地球』を健康にする。」

という経営理念や存在意義、行動指針を社内で共有しました。この理念をもとに、製品のパッケージをリニューアルしたところ、女性誌に3回にわたって掲載されるなど大きな反響があり、百貨店や雑貨店にも置いてもらいやすくなりました。

コスト削減

企業は、GXに取り組むことでコストを削減できる可能性があります。具体的には、

  • エネルギー効率向上によるエネルギーコストの削減
  • 再生可能エネルギー設備の導入による電気代や発電コストの削減
  • カーボンオフセット※による節税・排出権取引コストの削減
  • サプライチェーン全体の見直しによる効率化・環境負荷削減
  • 環境に配慮した資源の節約による経費削減

などの例が挙げられます。

CO2をはじめとする温室効果ガスの削減の努力をした上でも、やむを得ず排出してしまう温室効果ガスを埋め合わせるため、他の場所で排出削減や吸収の取り組みをしたり、そのような事業に出資したりすること。

経済産業省『グリーン成長戦略(概要)』

【中小企業こそ脱炭素経営!】

GX関連銘柄に選定される

GX関連銘柄とは、GXに関連する株式のことを指します。GX関連銘柄には例えば、

  • 再生可能エネルギーの普及に取り組む企業
  • 脱炭素につながる技術を持つ企業

など環境への取り組みが積極的な企業が該当します。さらにGX関連銘柄に選ばれるのは、

  • 成長性が高い
  • 環境技術が高い
  • 海外展開が進んでいる

などの条件を満たしている企業が多い傾向にあります。具体的には、

  • トヨタ
  • NTT
  • ENEOS

が代表的なGX関連銘柄です。GX関連銘柄に選定される基準は厳しいものの、

  • 投資家の注目が集まり、自社株の価格上昇が期待できる
  • GXに取り組む事業展開が評価され、企業価値が上がる
  • 企業・ブランドのイメージ向上

などのメリットがあります。

GXに取り組むメリットをまとめると、

  • 長期的にみたコスト削減
  • 企業の信頼・イメージアップ

はもちろんのこと、

  • 温室効果ガス排出量削減による地球温暖化抑制
  • 資源の循環利用・効率的な活用による地球資源の枯渇・劣化防止
  • クリーンなエネルギー利用による快適な環境・心の豊かさ向上

などの効果もあります。

次の章ではGXに取り組むデメリットや課題を確認しましょう。*4)

企業がGXに取り組むデメリット・課題

日本の企業がGXに取り組もうとする際に遭遇する可能性のある問題点やデメリットとして、以下のような要因が考えられます。

初期投資費用が高い

GXに取り組むためには、再生可能エネルギーや省エネ設備などの導入に伴う初期投資費用がかかります。中小企業にとっては、この初期投資費用が負担となる可能性があります。

技術的な課題や人材不足

GXに取り組むためには、再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入など、技術的な課題があります。企業は、これらの技術的な課題を克服するために、専門的な知識や技術を持った人材を確保する必要があります。

取り組み方によっては従業員や顧客から理解を得られない可能性

GXへの取り組みは長期的な視点に立った持続可能性やコスト削減を目指すものなので、短期的に見ると負担が大きく、従業員や顧客などから理解を得られない可能性があります。自社の徹底した分析をした上で、理解を得られやすい取り組みの選定が重要です。また、理解を得られるような説明も必要です。

次の章では実際にGXに取り組み、大きな成果をあげている海外企業の事例を紹介します。*5)

世界の企業のGX取り組み事例

世界の企業の間でも、GXまたはGXに類似した取り組みが増加しています。

その背景には、

  • 欧州連合(EU)では、10年間に官民協調で約140兆円程度の投資実現を目標とした支援策を定め、一部のEU加盟国では、これに加えて数兆円規模の対策も検討している。
  • アメリカでは、党派を超えたインフラ投資法に加え、2022年8月には10年間で約50兆円程度の国による対策(インフレ削減法)を定めた。
  • 欧米各国は国家を挙げた脱炭素投資への支援策、新たな市場やルール形成の取り組みを加速している。

などの動向からもわかるように、世界ではGXに向けた脱炭素投資の成否が、企業・国家の競争力を左右する時代に突入しています。世界の企業のGXへの取り組みの代表的な例を紹介します。

【世界の国・地域の代表的なGX投資支援の例】

【マイクロソフト】2030年カーボンネガティブを目指すGX

マイクロソフト(Microsoft Corporation)は、アメリカ合衆国ワシントン州に本社を置く、ソフトウェアを開発・販売する会社です。1975年にビル・ゲイツとポール・アレンによって創業しました。

現在、マイクロソフト社は「環境を保護し、社会に貢献することが、長期的なビジネス成功のために必要である」という基本理念に基づき、サステナビリティへの取り組みの一環として、日本のGXに相当する取り組みを推進しています。

マイクロソフトは2020年にはすでに、利用エネルギーの100%を再生可能エネルギーへ転換する目標を達成しています。さらに、2025年までに廃棄物の排出を75%削減するという大胆な目標も掲げています。

クラウドサービスによるGX

【低温で沸騰する液体にサーバーを沈めて冷却】

マイクロソフトがGXに相当する取り組みで大きな成果を挙げたのがクラウドサービスによる環境負荷の軽減です。クラウドサービスの利用により、マイクロソフトは従来のデータセンターと比較して

  • 93%のエネルギー効率向上
  • 90%の省スペース化
  • 最大40%のコスト削減
  • 最大98%の水使用量の削減

に成功しました。また、クラウドサービスは利用者にとっても高速で安定したサービスの利用が可能になり、必要に応じて簡単に拡張できるなどのメリットがあります。

【マイクロソフトのデータセンター・ネットワーク:プロジェクト・シリウス】

すでに利用エネルギーの100%を再生可能エネルギーでまかなっているマイクロソフトは、非常時以外に地域の送電網に電力を供給する実証実験を進めています。

「将来、データセンターや発電所が別々に存在することはないでしょう。両者を足して2で割った形となるでしょう、そう、それは“データ・プラント”です」

引用:Microsoft『持続可能なグリーン社会に向けて』:地域に電力を供給するデータセンター

マイクロソフトの取り組みは、GXへの取り組みで大きな成果を挙げてる好事例です。続いては日本国内の企業の取り組み事例を紹介します。*6)

日本の企業のGX取り組み事例

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日本の企業の取り組み事例として、トヨタ自動車と東京大学の例を紹介します。

【トヨタ自動車】地球にやさしい車づくり

トヨタ自動車は、日本最大手の自動車メーカーで、2022年のトヨタグループ全体の販売台数は1,048万台を記録し、3年連続で世界1位に輝きました。2022年の「世界企業ブランドランキング」では全世界で6位になるなど、日本で最も売上高が大きい企業です。

トヨタ自動車は、

  • 地球環境の保全と社会の持続的な発展を目指す。
  • 「地球にやさしい車づくり」を通じて、お客様に満足を提供する。

という理念のもと、さまざまな面でGXに取り組んでいます。具体的な例を挙げると、

  • 環境負荷を軽減するエンジンやモーター、バッテリーなどの技術開発
  • 工場やオフィスの積極的な省エネ
  • 再生可能エネルギー利用の拡大
  • リサイクル・再利用のための製品回収

など自動車の生産・販売面におけるGXのほか、

  • 地域の人々も巻き込んだ環境保護活動の実施
  • 社員教育に力を入れ、環境保護活動を促進
  • 取り組みの情報開示を積極的に行い社会的責任を果たす

といった活動も活発に行っています。

未来を切り拓くモノづくりに挑む

 【トヨタのグリーンファクトリーへの道】

トヨタ自動車は「カーボンニュートラルは、ものづくりを根本から革新するチャンス」とし、

  • 最少の塗料で最大の塗布効率
  • 組み合わせ技術により、プレス内で塗料注入 = 塗装工程レス
  • シールで塗装レス→カーボンニュートラルとお客様のワクワクを両立
  • リノベーション技術でお客様に自分だけの1台を(循環型社会実現にも貢献)

など、革新的なアイデアをいくつも実現させています。

【飛散しない塗装】

【塗装レス(シール化)】

水素エンジンへの挑戦

トヨタ自動車は「ガソリンエンジンから水素エンジンへの転換」という挑戦も続けています。日本のエンジン製造分野におけるものづくりの高い技術を活かしながら、「不可能」と言われた水素自動車の実現を目指しています。

【ガソリンエンジンのインジェクターから水素エンジンのインジェクターへ】

【関連記事】水素エネルギーとは?メリットやデメリット、実用化に向けた課題と将来性、SDGsとの関係

トヨタはこれらのGXへの取り組みを通じて、

  • 2020年度にはCO2排出量を前年比で11%削減に成功
  • 環境に配慮した自動車の普及

など、実際に成果を上げています。

【グローバルビジョンと木〜ビジョン経営のあり方】

【東京大学】GXのグローバルリーダーを育成

東京大学は、世界最高の教育研究拠点として、

  • 基盤的学知の創出と国際的なGX先導
  • カーボンニュートラルキャンパスの実現を通じた未来社会モデルの提示
  • 企業・自治体・他大学・市民社会などのパートナーとの連携
  • グローバルリーダーの育成

などを通じ、GXの推進に貢献しています。

東京大学のGXへの具体的な活動として、2022年4月に未来社会協創推進本部の下にGX推進分科会を設置しました。この分科会は、GXに関する活動のとりまとめなどを任務としています。

SPRING GX

【事業統括の考える若手研究者としての博士課程学生の育成像】

東京大学には「SPRING GX」というプロジェクトがあります。これは、GX実現に向けて活躍する人材を、あらゆる分野に輩出することを目的としています。

このプロジェクトでは、GXを広く「社会の変革」と位置付け、人類の営みと関連する分野(理工系だけでなく全ての博士課程学生が対象)での博士人材育成のためのプログラム提供と経済的支援を行っています。

次の章ではGXの最新の動向を追いましょう。*7)

GXの最新動向

特許庁はGX技術に関する特許情報を簡単に分析するために、GXTI(グリーントランスフォーメーション技術区分表)を作成し、世界各国・地域の特許出願動向を調査しました。この特許庁の調べにより、

  • GX技術全体で見ると、国際的に展開された発明件数では日本が世界最大
  • 太陽光発電・建築物の省エネ化・バッテリー分野の価値の高い発明において日本は強みを持っている

などの事実がわかりました。

【GXTIの区分表】

【GXTIに含まれるGX技術全体における国際展開発明件数の年次推移】

つまり、経済成長の伸び悩みが指摘されている日本経済ですが、GXの関連技術においては世界をリードする存在と言えます。しかし、この分野の技術開発は世界でも激しい競争の中にあり、中国をはじめヨーロッパ諸国も盛んに取り組んでいるので油断はできません。

原子力を将来にわたって持続的に活用することを決定

日本政府は、GXに関する基本方針をとりまとめた中で、原子力について「将来にわたって持続的に活用する」と決定しました。同時に、これまでに廃止が決まった原子力発電所を建て替え、運転期間も現在の最長60年から延長する方針を明らかにしました。

【日本の電源構成】

原子力発電は化石燃料を使用しないため、CO2排出量が少なく、脱炭素化に貢献する可能性があります。しかし、原子力発電にはリスクもあります。

例えば、

  • 原子力発電所の事故が起きると、放射能汚染などの深刻な影響が生じる可能性
  • 使用済み核燃料の処理や最終処分

など、原子力発電再開にあたっては数々の問題が残されています。

原子力由来のカーボンフリー水素の製造

原子力発電所を活用した、新しい水素プロジェクトも始動しています。原子力発電所で発電し、水素ステーションに送り水素製造に利用します。

【関西電力による原子力由来の水素実証実験】

原子力発電は使用済み核燃料の処理や最終処分といった別の問題がありますが、温室効果ガスを排出しないエネルギーです。このことから、原子力由来の水素も「カーボンフリー水(グリーン水素)」として扱われます。

日本政府が原子力発電の利用再開に舵を切ったことは大きなニュースと言えます。次の章では一般的な企業がGXに取り組むために必要なことをまとめます。*8)

企業がGXに取り組むためには

一般的に企業がGXに取り組むにあたっては、

  1. 意識改革:GXに向けた省エネ推進
  2. 情報開示:温室効果ガス排出量と削減施策の情報開示
  3. 事業改革:事業戦略の再構築・新規事業創出

という3つのステップが必要です。これからGXへの取り組みを始めるという企業は、以下のことに注意して経営戦略にGXを盛り込みましょう。

  • 目標を明確に設定し、取り組むべき分野を選択する。
  • 省エネやリサイクルなど、簡単かつ効果的に実施できる取り組みから始める。
  • 社員の意識改革や教育・研修を行い、全社員がGXに参加できるようにする
  • サプライチェーンにおける環境負荷の軽減にも取り組む。
  • 環境マネジメントシステム(EMS)※の導入や、環境方針の策定・公表を行い、社会的信頼性を高める
  • 政府や地方自治体の支援策を積極的に活用する
  • 継続的な取り組みを行い、成果を定期的に評価し、改善を繰り返す
環境マネジメントシステム(EMS)

組織や事業者が、その運営や経営の中で自主的に環境保全に関する取り組みを進めるための組織や事業者の体制・手続き等の仕組み。(EMS= Environmental Management System)

これからの企業経営において、GXについての知識と取り組みは必須と言えます。知識や技術面で不足を感じたら、地域の窓口に相談してみましょう。

次の章ではGXのために私たち個人が普段の生活の中でできることを紹介します。*9)

GXのために私たちができること

GXが目指す地球温暖化や環境汚染などの問題を解決するためには、国や企業だけでなく、私たちが個人レベルでも取り組むことが重要です。私たちはGXへの意識を持つことで、自身のライフスタイルを見直すきっかけにもなります。

また、より多くの一般人がGXに関心を持つことで、企業や政府に対して環境問題に対する意識を高めることができ、社会的な変革を促すことができます。私たちができるGXへの参加の例を紹介します。

  • 省エネを心がける
  • 自動車のエコドライブ※
  • 再生可能エネルギーを利用する
  • こまめな節電・節水
  • プラスチックごみを減らす
  • リサイクルのための正しいごみの処理
  • 地元で生産された食材の利用で輸送のエネルギーとCO2排出量削減

このように、私たちも日常生活の中で、環境に配慮した選択をすることが大切です。例えば、プラスチックゴミ削減のためにエコバッグを使用するなど、誰でも簡単に始めることができ、習慣になってしまえば無理なく続けられる取り組みがたくさんあります。

GXは、持続可能な社会の実現に向けた取り組みです。私たちも社会の一員として、GXカーボンニュートラルSDGsなどへの知識を深め、自分のスタイルに合った取り組みを見つけましょう!

最後に、GXとSDGsの関係を確認します。

GXとSDGsの関係

GXとSDGsは深くリンクしています。GXとSDGsがリンクする点として、以下の目標は特にわかりやすい例です。

目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」

GXは、脱炭素社会を目指す取り組みを通じて経済社会システムを変革させ、持続可能な成長を目指します。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

気候変動への対策のひとつが「脱炭素による地球温暖化の抑制」です。これはGXの目指すものと同じです。

目標8「働きがいも経済成長も」

GXによって経済成長と新たな雇用が生み出されることが期待できます。

GXは、SDGs達成に向けた取り組みにおける横断的なテーマのひとつだと言えます。SDGsの17のゴールだけでなく、169のターゲットを確認することで、GXに取り組むアイデアを得ることもできます。

>>SDGsの目標について詳しくはこちら

まとめ:GXを推進して持続可能な社会を実現!

GXは、地球温暖化の抑制と経済成長を同時に目指す取り組みです。また、GXは従来「企業にとってコスト」というイメージがあった慈善事業のような環境への取り組み方ではなく、自社と社会の持続可能な成長を目指しています。

さらにGXは、社会全体で取り組みが進めば新しい産業の創出が期待できます。このように、GXは将来の地球環境と日本経済の将来をかけた重要な取り組みなのです。

あなたのライフサイクルにもGXは必要です。

  • 社会と経済を支える一員
  • 地球の生命の循環の一員

として、GXに取り組みましょう!この記事で得た知識を新しいアクションにつなげてください。

〈参考・引用文献〉

*1)GX(グリーントランスフォーメーション)とは
経済産業省『METI Journal 知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?』(2023年1月)
GXリーグ『ABOUT GX LEAGUE』
環境省『改正地球温暖化対策推進法 成立』(2021年6月)
経済産業省『2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』(2021年6月)
環境省『平成28年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第3章 自然の循環と経済社会システムの循環の調和に向けて』
経済産業省『METI Journal 社会課題の解決を企業の稼ぐ力に。「SX」は経営変革のキーワード』(2023年4月)
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは?企業が取り組むSX事例の紹介も
経済産業省『METI Journal ビジネスの常識に?「DX」が日本を変えるワケ』(2023年4月)
*2)なぜGXが必要なのか
経済産業省『METI Journal 知っておきたい経済の基礎知識~GXって何?』(2023年1月)
資源エネルギー庁『「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(後編)脱炭素も経済成長も実現する方策とは』(2023年5月)
資源エネルギー庁『脱炭素に向けて各国が取り組む「カーボンプライシング」とは?』(2023年5月)
資源エネルギー庁『「GX実現」に向けた日本のエネルギー政策(前編)安定供給を前提に脱炭素を進める』(2023年3月)
経済産業省『METI Journal 「GX」 カーボンニュートラルに向けた新たな巨大市場』(2023年4月)
経済産業省『未来人材ビジョン』p.9(2022年5月)
*3)GXに関する政府の取り組み
経済産業省『GXリーグ基本構想』p.2(2022年2月)
GXリーグ『GX LEAGUE ACTION』
経済産業省『成長志向型カーボンプライシングについて』p.7(2023年2月)
経済産業省『GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について』p.55(2022年12月)
経済産業省『GXを実現するための政策イニシアティブの具体化について』p.19(2022年12月)
トランジション・ファイナンスとは?基本指針、国内事例、メリットや課題も
サステナブルファイナンスとは?ESGとの違い、メリット・デメリット、事例を解説
環境省『成長志向型カーボンプライシング構想について』(2023年2月)
経済産業省『 産業のGXに向けた資金供給の在り方に関する研究会 施策パッケージ』p.5(2022年12月)
*4)企業がGXに取り組むメリット
中小企業庁『  2022年版中小企業白書 第1節 ブランドの構築・維持に向けた取り組み』
カーボンオフセットとは?仕組みや目的、問題点、個人にできることまで
経済産業省『グリーン成長戦略(概要)』
金融庁『ESG 評価・データ提供機関に係る行動規範』(2022年12月)
環境省『脱炭素経営で未来を拓こう』
金融庁『「産業のGXに向けた資金供給の在り方に関する研究会」施策パッケージの取りまとめについて』(2022年12月)
*5)企業がGXに取り組むデメリット・課題
経済産業省『GX 実現に向けた基本方針~今後 10 年を見据えたロードマップ~』(2023年2月)
経済産業省『440社の「GXリーグ賛同企業」と共に、カーボンニュートラルに向けた社会変革と新たな市場創造の取り組みを進めます!』(2022年4月)
*6)世界の企業のGX取り組み事例
経済産業省『GX 実現に向けた基本方針~今後 10 年を見据えたロードマップ~』(2023年2月)
経済産業省『「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました』(2023年2月)
GX(グリーントランスフォーメーション)とは? 国内外の事例も紹介 (teachme.jp)
経済産業省(GXリーグ))『成長志向型カーボンプライシングについて』p.2(2023年2月)
Microsoft『持続可能なグリーン社会に向けて』
Microsoft『2022 Environmental Sustainability Report』
Microsoft『2021 Environmental Sustainability Report』
Microsoft『2020 Environmental Sustainability Report』
*7)日本の企業のGX取り組み事例
TOYOTA『Integrated Report 2022』p.14(2022年3月)
TOYOTA『Integrated Report 2022』p.24(2022年3月)
日本経済新聞『トヨタ、世界販売3年連続首位 22年1048万台』(2023年1月)
日本経済新聞『日本企業ブランド価値、トヨタが15年連続首位 民間調査』(2023年2月)
日本経済新聞『トヨタ今期営業益3兆円、稼ぐ力どう生かす?』(2023年5月)
TOYOTA『未来を拓く大切なものづくり』
TOYOTA『未来を拓く大切なものづくり』(2021年6月)
水素エネルギーとは?メリットやデメリット、実用化に向けた課題と将来性、SDGsとの関係
水素自動車とは?仕組みや将来性、普及しない理由、販売しているメーカーは?
TOYOTA『トヨタグローバルビジョン』
東京大学『大学概要』
東京大学『博士課程学生支援 グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成』
東京大学『東京大学のGXについて』
東京大学『SPRING GX』
東京大学グローバル・コモンズ・センター『東京大学 グリーントランスフォーメーション』
*8)GXの最新動向
特許庁『グリーン・トランスフォーメーション技術区分表(GXTI)』
経済産業省『グリーン・トランスフォーメーション(GX)技術における日本の存在感の大きさが特許情報分析より示唆されました』(2023年5月)
経済産業省『METI Journal 「GX」 カーボンニュートラルに向けた新たな巨大市場』(2023年4月)
日本経済新聞『原発・再エネどうなる? 政府のGX基本方針まとめ読み』(2023年1月)
資源エネルギー庁『原子力発電所で水素エネルギー製造に挑戦!』(2023年5月)
日本経済新聞『原発60年超運転、可能に GX電源法が成立』(2023年5月)
日本経済新聞『GX法でどう変わる? 脱炭素へ官民投資・原発活用拡大』(2023年5月)
*9)企業がGXに取り組むためには
環境省『環境マネジメントシステム』
経済産業省『GX 実現に向けた基本方針 ~今後 10 年を見据えたロードマップ~』(2023年2月)