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メタネーションとは?メリット・デメリットと企業の取り組み事例、今後さらに実用化する?

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私たちが調理したりお風呂を沸かしたりするときに使うガスには、都市ガスとLPガスの2種類があります。そのうち、ガス管を通じて供給される都市ガスの普及率は東京や大阪で高く、80%を超えています。(全国では46%)※[1]

都市ガスの原料は、メタンを主成分とした天然ガスとLNG(液化天然ガス)が多くを占めます。いずれのガスも貴重なエネルギー資源ですが、天然ガスに含まれるメタンは、メタネーションという技術により人工的に合成でき、近年注目を集めています。 

この記事では、メタネーションの仕組みや、必要とされている理由、最新状況、課題、今後の動向などを解説。地球環境やSDGsにも貢献する新しいエネルギーの在り方を一緒に考えてみませんか。

メタネーションとは

【メタネーション装置-IHI株式会社】

メタネーションとは、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を反応させてメタン(CH4)を合成・製造する技術のことです。合成したメタンは、空調やキッチン、給湯などの燃料として天然ガスの代わりに利用できます。その際、二酸化炭素が発生しますが、これをメタネーションの原料に使用することで、再び合成メタンを製造できるというメリットがあります。

メタンの製造技術は1911年に開発

メタンを合成・製造する技術を開発したのは、フランスの化学者ポール・サバティエ(Paul Sabatier)氏です。1911年、水素と二酸化炭素を高温高圧の状態に置いた上でニッケルの触媒を用いると、メタンと水が生成できることを発見しました。この化学反応は「サバティエ反応」と呼ばれています。サバティエ氏はこの功績により、1912年にノーベル化学賞を受賞しました。

1995年世界初の合成メタンの製造に日本が成功

サバティエ氏により製造技術は開発されていたものの、実際にメタンの製造に成功したのは1995年のことでした。東北大学および東北工業大学名誉教授の橋本功二氏のグループが、メタンをつくる実証プラントを建設。太陽光発電の電力を使い、水を電気分解して取り出した水素を用いて、世界初の合成メタンを製造しました。メタンが燃焼した際に発生した二酸化炭素を装置に戻せば、再生成できる仕組みになっています。※[2]

その後、日本をはじめヨーロッパを中心に取り組みが活発化し、現在に至ります。

メタネーションの仕組み

メタネーションの仕組みについて、もう少し詳しく見ていきましょう。次の図は、メタネーションによる二酸化炭素の排出削減効果を示しています。

<メタネーションによる二酸化炭素排出削減効果>

図の左下から時計回りに説明していきます。

  1. 発電所や工場から排出される二酸化炭素(CO2)を回収します。
  2. ①で回収した二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を反応させて、合成メタン(CH4)をつくります。
  3. ②の合成メタンを都市ガスの導管を利用し、住宅やビル、工場などに供給します。→二酸化炭素(CO2)が排出されます。

メタネーションのメリット

二酸化炭素を回収してから合成メタンの生成、排出されるまでの流れを見ていくと、2つのメリットがあることが分かります。

メリット①二酸化炭素の量が増加しない

メタネーションにおける二酸化炭素に注目して見ると、①で発電所や工場から回収された量と、③で住宅やビル、工場から排出された量が相殺されています。その結果、合成メタンを利用しても、全体の二酸化炭素は増加しません。

メリット②環境への負担がない

メタネーションの原料となる水素は、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーなどを使って製造できます。この方法で水素を生成すれば、環境に負担をかけないクリーンなエネルギー生産が可能です。

これらの仕組みとメリットから、メタネーションは次世代のエネルギーとして大きな注目を集めています。その背景には何があるのかを次に詳しく見ていきましょう。

なぜメタネーションが必要なのか

メタネーションが必要とされている理由は、日本をはじめ世界において二酸化炭素の排出量をゼロにする「脱炭素化」が進められていることにあります。特に日本は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

これらの背景を踏まえて、さらに3つの具体的な理由を見ていきましょう。

ガスを脱炭素化する必要性

ガスの脱炭素化は比較的実現しやすいと考えられていることが1つ目の理由です。「脱炭素化」を実現するためには、日本における消費エネルギーの約6割を占める工場や家庭、業務などから排出される二酸化炭素を抑える必要があります。

工場などでは蒸気加熱、家庭や業務などでは給湯や暖房による排出量が主ですが、これらの場面で多く利用されているのは天然ガスです。そして天然ガスは、石炭や石油に比べて燃焼した際の二酸化炭素の排出量が少ないという特徴があります。

■石炭、石油、天然ガスが燃焼したときに排出する物質量の割合(石炭を100とした場合)

石炭を100とした場合の天然ガスの二酸化炭素排出量は57と、約6割程度しかありません。

そのため、工場や家庭、業務などで利用する天然ガスをメタネーションにより供給すれば、より早く低炭素を実現できるという利点があります。

エネルギー政策の基本方針「3E」に適合

2つ目は、天然ガスの代わりに合成メタンを利用しても、経済的な負担が少ないことです。合成・製造したメタンを供給する際には、都市ガスの導管やガス消費機器などの既存のインフラ設備を利用できます。そのため、費用をかけることなく合成メタンに移行できるメリットがあり、脱炭素化が推進しやすいとされています。さらに、都市ガスの導管は地下に埋設されていることから、災害時にも安定的な供給が可能です。

このことから、メタネーションは「環境適合(Environment)」のほか、「経済効率(Economic Efficiency)」「安定供給(Energy Security)」の要素があります。これらは、日本のエネルギー政策の基本方針「3E」に当てはまります。資源の少ない日本において、メタネーションは有望なエネルギー供給源なのです。※[3]

【関連記事】エネルギーミックスとは?日本や世界の現状や課題、理想の比率まで

世界的な温室効果ガスの目標達成

3つ目は、メタネーションが地球規模の課題である気候変動問題を解決する手段として期待されていることです。2015年に採択されたパリ協定では、世界共通の長期目標として、

世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて、2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)

今世紀後半に、温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること

引用元:環境省「カーボンニュートラルとは – 脱炭素ポータル

を定めることに合意しました。

メタネーションは、温室効果ガスの「排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成」できる技術です。世界の国と地域がこれらの目標に取り組む中、日本においてもメタネーションを利用して温室効果ガスを削減し、脱炭素社会の実現を目指しています。

【関連記事】パリ協定(COP21)とは?目標やSDGsとの違い、企業の取り組みを解説

メタネーションの最新状況

メタネーションは、装置をつくるメーカーやガス業界などで研究開発が積極的に行われているほか、実用化に向けた実証実験も進められています。2つの事例を見ていきましょう。

【東京ガス】2021年度にメタネーション実証試験を開始

【東京ガス】2021年度にメタネーション実証試験を開始
引用元:東京ガス「メタネーション実証試験

東京ガス株式会社は、2021年度より横浜テクノステーションにてメタネーション実証試験を実施しています。再生可能エネルギーから得た電力により水素を製造し、合成メタンの製造・利用を行っています。

また同社では、「CO2ネット・ゼロへの挑戦」を経営ビジョンに掲げ、水素を製造する際のコストを低減するなどの開発を強化。革新的な技術開発を進めています。

■東京ガスのメタネーションに関する革新的技術開発

同社は、実証実験によりガスの脱炭素化のほか、脱炭素社会や2050年カーボンニュートラルの実現に貢献していきたいとしています。※[4]

【INPEXと大阪ガス】2024年度より大規模な実証実験を実施予定

株式会社INPEXと大阪ガス株式会社は、INPEX長岡鉱場(新潟県長岡市)内から回収した二酸化炭素を使用して合成メタンを製造する実証実験を、2024年度後半から2025年度にかけて実施すると発表しました。製造した合成メタンは、INPEXの都市ガスパイプラインを利用して供給されます。

この設備の合成メタンの製造能力は、計画段階で約400 Nm3/hであり、現時点では大規模な部類です。両社は、基盤技術開発や省エネルギーで合成メタンを製造する触媒技術などを駆使して、本実験を行う予定です。

メタネーションのデメリット・課題

メタネーションは将来有望なエネルギー供給源ですが、デメリットや課題もあります。

デメリット・課題①商用化には設備の大規模化が必要

1つ目は、メタン製造設備を大型化する必要があることが挙げられます。メタネーションを商用化するためには、1~6万Nm3/hの製造能力が必要ですが、現時点で世界最大級といわれる装置でも500 Nm3/h*です。将来的には、20~100倍の規模に拡大する必要があります。

*株式会社IHIプラントが製造。2024年度完成予定。※[5]

デメリット・課題②原材料コストの低減

2つ目は、水素と二酸化炭素を低価格で調達することです。メタネーションには、設備や運営、生産においてコストがかかります。現在使われているLNGと同水準の価格にするためには、特に原材料コストを抑える必要があるでしょう。※[6]

これらの課題の解決に向けて、関係各社や研究機関、学識者、政府が参加する「メタネーション推進官民協議会」が開催されています。この協議会では、メタネーションの実現に向けた活発な取り組みが行われています。

メタネーションの今後の動向

政府は2021年、経済と環境の好循環を生み出す産業政策「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の改訂を行いました。その中でメタネーションは、次世代熱エネルギー産業として成長が期待される重要分野に位置づけられています。また、メタネーションの年間導入量と供給コストの目標も定められました。それぞれ見ていきましょう。

年間導入量の目標

  • 2030年までの利用開始を目指し、2030年時点で、既存インフラへ合成メタンを1%注入(年間28万トン)。
  • 2050年時点で90%(年間2,500 万トン)を合成メタンに置き換える (残り10%は水素直接利用・バイオガス・その他脱炭素化の手立てでカーボンニュートラル化)

供給コストの目標

  • 2050年時点で現在のLNG価格と同水準を目指す

「都市ガスの90%が合成メタンに置き換わる」という目標が達成されると、2050年には年間約8,000万トンの二酸化炭素が削減できると試算されています。これは、日本で排出される二酸化炭素の量の約1割に当たり、脱炭素化への大きな一歩となるでしょう。[7]

メタネーションとSDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の関係

圧縮済みSDGs画像

最後に、メタネーションとSDGsの関係について見ていきます。まず、SDGsについて確認しましょう。

SDGs(エスディージーズ)とは、“Sustainable Development Goals”の略で、「持続可能な開発目標」と訳されています。2015年に国連サミットで採択された17の目標と169のターゲットから成る国際目標です。健康や福祉、産業と技術革新の問題など、経済・社会・環境にわたる具体的な目標が設定されています。

メタネーションは、これら17の目標のうち、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」と関係があります。

SDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は、すべての人々が、手頃な価格で信頼性が高く、持続可能且つ現代的なエネルギーを利用できるようにすることが目標です。またこの目標には、クリーンなエネルギーの研究や技術、投資を促進していくことも含まれています。

メタネーションには、製造能力の規模が小さく、コストがかかるなどの課題があります。しかし、それらが解決できれば、二酸化炭素の排出量を増やさないクリーンなエネルギーとして有効です。また、既存の都市ガスのインフラを利用できるので、より効率的なエネルギー供給が実現します。このことから、メタネーションを推進していくことは、持続可能な社会の実現に貢献できます。

まとめ

ここまで、メタネーションの仕組みからSDGsの関係まで詳しく見てきました。

メタネーションは、水素と二酸化炭素を反応させてメタンを合成・製造する技術です。合成されたメタンはエネルギーとして使用できるほか、工場などから排出される二酸化炭素を利用して製造できるメリットがあります。しかし一方で、設備の規模やコストの面での課題もあります。今は実証実験の段階ですが、これらの課題を解決できれば、メタネーションの本格的な運用も実現するでしょう。

脱炭素やカーボンニュートラルの取り組みが世界的に行われている中、日本においても具体的な目標を定めてメタネーションを導入していく考えです。それは同時に、SDGsの目標「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」への貢献にもつながります。メタネーションが新しいエネルギーとして、今後普及していくことが期待されます。


※[1] 経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会「電力及びガスの小売全面自由化について」平成29年3月10日
※[2] 国立研究開発法人国立環境研究所「グローバル二酸化炭素リサイクル」橋本功二著
※[3] 資源エネルギー庁「災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ|スペシャルコンテンツ
※[4] 東京ガス「メタネーション実証試験」「メタネーション実証試験を2021年度内に開始
※[5] 株式会社IHI「世界最大級の製造能力を持つメタネーション装置を受注~JFEスチールの試験高炉向けに,排出ガス中のCO₂を有効活用~|2022年度|ニュース
※[6] 資源エネルギー庁「合成メタンに関する最近の取組と今後の方向性について
※[7] 資源エネルギー庁「ガスのカーボンニュートラル化を実現する「メタネーション」技術|スペシャルコンテンツ