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合成燃料とは?作り方や活用事例、メリット・デメリット、課題も紹介

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脱炭素化が急がれる社会で、ここ数年注目を集めている技術の一つが合成燃料です。

合成燃料にはさまざまなメリットがあり、世界中の有名企業が実用化に乗り出している一方で、克服すべき課題も少なくありません。今後の脱炭素化社会のカギを握るとも言われる合成燃料とは、どのようなものなのでしょうか。

合成燃料とは

合成燃料とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して作られる、炭化水素化合物の集合体である燃料のことです。

人工的な原油」とも呼ばれ、その成分は化石燃料である原油に非常に近いという特徴があり、脱炭素社会の実現に向けて活躍が期待されています。

どのように活用されるのかを知る前に、生成方法を確認しておきましょう。

合成燃料は基本的にFT法で生成される

合成燃料は基本的に、フィッシャー・トロプシュ合成法(以下FT法)と呼ばれる方法で生成されます。これは原料を一度ガス化し、再度液体化させるという技術が用いられます。

COからCO(一酸化炭素)に転換し、触媒反応を使ってCOとHを反応させて、炭化水素を合成してできた燃料が合成燃料と呼ばれるものになります。

続いては、そのもととなるCOとHがどのように作られるのかを見ていきましょう。

合成燃料の作り方(CO2

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原料となるCOを取り出すには、主に次の3つの方法があります。

①発電所や工場の排気ガスから取り出す

COを取り出す最も簡単な方法で、発電所から高濃度のCOを分離回収する設備はすでに実証段階に入っています。ただし、火力発電でCOを出すには石油や天然ガスなど化石燃料を燃やすことになります。

②木材などバイオマスを燃やす

植物は大気中のCO2を吸収して自らを形成しています。そのため、燃やして発生したCOを燃料用に回収すれば、トータルとしては大気中のCOは増えないことになります。

ただしこの方法は、COの生成に時間がかかるという欠点があります。

③DAC(Direct Air Capture)法

合成燃料用のCO生成方法として、今後最も期待されているのがこのDAC法です。

DAC法は、固体や液体などの触媒を用い、大気中のCOを直接分離・回収してしまう方法です。

主な方法として吸収液や吸着材を使った化学吸収・吸着法、イオン交換膜等を使う膜分離、ドライアイスとして回収する深冷法などがあります。限られた土地と水でも回収でき、カーボンニュートラルに適した方法ですが、回収効率の向上とコストの問題が残ります。

合成燃料の作り方(H

もうひとつの原料、H(水素)の製造方法は主に2通りありますが、生成過程の違いによってそれぞれの水素は「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」という、3種類に分けられます。

①化石燃料ベースの「グレー水素」

石油や天然ガスに含まれるメタンなどの炭化水素を、水蒸気と反応させてHとCOに分離する方法です。化石燃料に依存し、分離されたCOはそのまま大気に放出されるなど環境価値が高くないため「グレー水素」と見なされます。

②CO排出を封じ込める「ブルー水素」

「ブルー水素」とは、前述の「グレー水素」から分離されたCOを、大気中に排出する前に回収・貯蔵した水素のことを言います。これは「CCS」または「CCUS」というCO回収・貯留技術と、貯留のための設備によって可能となります。

③水電解でつくる「グリーン水素」

もうひとつは「電解法」というやり方で水素をつくる製造方法です。水を電気で分解して水素と酸素に分離し、水素を取り出します。ここで使われる電気を、化石燃料由来ではなく、再生可能エネルギー由来の電力にすれば、COが発生しないクリーンな方法でHが生成できます。

COを分離して、再度COと合成する方法は効率的ではないため、合成燃料を作る時にはこの「グリーン水素」が一般的な方法となります。

合成燃料の理想型は「e-fuel」

COとHの両方を作る過程で、化石燃料を使わずに生成された場合、合成燃料のなかでも特別に「e-fuel」と呼ばれ、理想型とされています。EUの基準では、DAC法ではない、排気ガスから取ったCOは「e-fuel」とは認められません。

【関連記事】水素エネルギーとは?メリットやデメリット、将来性、課題、問題点を解説

合成燃料の活用事例

上記のような工程を経て生成された合成燃料は、先述したように原油に極めて近い特徴があります。そのため、原油やガソリンと同じような用途で利用されることが想定されています。合成燃料の活用が見込まれる分野を見ていきましょう。

自動車

最も多くの合成燃料の利用が見込まれるのが自動車です。気候変動の原因とされる排気ガスを規制すべく、早くから自動車は脱炭素化を求められてきました。

現在多くの国で電気自動車(EV)が推進され、日本も遅くとも2035年までの100%電動化とガソリン車販売終了を決めていますが、その実現には解決が容易ではない課題も山積みです。

電気自動車(EV)の課題

  • 航続距離や充電時間の問題
  • 充電スタンドや水素ステーションなどインフラ整備が不十分
  • 従来のガソリン車と比較して高価

こうした問題に加え、今でも自動車の大多数はガソリン車かハイブリッド車がほとんどです。国民にとって「あと10年の間に今の車を全部捨てて、EVと買い替えろ」というのは現実的ではありません。

脱炭素は急務ではあるもののガソリン車もすぐには無くせない。そこで、合成燃料をガソリンの代わりに使うことで、そのジレンマを解決に導くことができます。

【関連記事】FCV(燃料電池自動車)とは?仕組みやメリット・デメリットも紹介

航空機・船舶

自動車と同じレベルで脱炭素化が急がれるのが航空機です。

ICAO(国際民間航空機関)では、2021年以降国際航空で COの排出量を増やさないことを目標にしています。では航空機も電化すればいいかというとそうでもありません。

航空機は、大きな機体を超長距離で移動させるため、より大きなエネルギーを使います。その分電池も大きなものが必要になるため、航空機への搭載は難しくなります。

そこで現在、航空機用合成燃料(SAF)の開発が進められています。これが実用化されれば、従来の燃料に代わる理想的な燃料になるでしょう。

船舶については、これまでの重油や液化天然ガスからの代替として、水素燃料やアンモニア燃料などへのシフトが有力です。一方では、船舶用の燃料として合成燃料も選択肢に入っています。

石油精製業など

脱化石燃料を進めていく上で、大きな影響を受けるのが原油や石油に関わる産業です。

将来的に合成燃料が原油に取って代わることになれば、石油コンビナートに代表される大規模な精製・貯留施設も削減されます。そして、これらのタンクや設備は合成燃料のために引き続き転用ができるので、設備投資に大きなコストをかけなくてすみます。

民生・産業用燃料

私たちの生活に身近な燃料として、灯油・LPガス・都市ガスがあります。これらを利用した暖房器具や産業用ボイラーなども、合成燃料で代替が可能です。

合成燃料の4つのメリット

既存の燃料に代わって合成燃料が主流になれば、さまざまなメリットがもたらされます。SDGsが掲げる今後の持続可能な社会に向けても、複数の目標について達成への貢献が期待されています。

①COの排出を抑制できる

合成燃料の材料はCOとHです。合成燃料の生産が軌道に乗り、主力エネルギーとして普及するようになれば、その分多くの使用前や使用後のCOが材料として回収・貯蔵されるようになります。

また合成燃料は原油と比べ、硫黄や重金属、SOxなどの有害物質が少なく、よりクリーンな燃料です。

合成燃料の使用で大気へのCO排出を大幅に抑制でき、気候変動大気汚染に対する具体的な対策となります。

②従来燃料と変わらない使い勝手の良さ

COとHによる合成燃料は液体であり、従来の灯油やガソリンなどにとても近い成分です。そのためエネルギー密度が高く、今までの燃料と同じような使い方ができるのが大きな利点です。

持ち運べて、常温常圧で長期備蓄ができるため、いざという時にもすぐに利用可能です。

特に電気自動車のバッテリー残量や充電の問題が不安視される大雪や停電、災害といった状況では、合成燃料に高い優位性があることは明らかです。

③既存設備が活用できる

合成燃料が従来の燃料と同じように使えるということは、それまでの設備も同様に使えるということになります。前述の通り、ガソリン車や石油精製施設だけでなく、ガソリンスタンドなどの貯蔵施設なども再利用が可能になります。

こうしたリユース・リサイクルは、SDGsにおいて、目標12「つくる責任 つかう責任」の達成にもつながっていきます。

【関連記事】SDGs12「つくる責任つかう責任」現状と取り組み、私たちにできること

④国内で燃料の原料を調達・大量生産できる

合成燃料の原料となるCOとHは常に大気中に存在しています。将来的に合成燃料が実用化され本格的に普及することで、国内での原料調達と大量生産が可能になります。

現在水素は国内で作るより、輸入した方が安いとされていますが、エネルギー安全保障の面からも国内生産が望ましいことは言うまでもありません。

合成燃料が完全に国内で生産可能になれば、海外からの化石燃料の依存ももはや不要になります。

合成燃料のデメリットや課題

実用化すれば非常にメリットの大きい合成燃料ですが、実際はまだまだ解決すべき課題が多く、導入は現時点ではデメリットの方が大きいのが現実です。

コストがかかる

合成燃料の一番の問題は製造コストの問題です。

特にCOやHを取り出すコストは、生成手段によって変わります。化石燃料を使わず、COを出さない、つまり環境負荷がかからない作り方がコストが最も高くなってしまうのです。

COの場合、空気中から直接取り出すDAC法だと、排気ガスから回収するよりコストは3倍となります。Hの場合、化石燃料ベースの「グレー水素」が最も安価で、「ブルー水素」はCOを回収する分だけコストが上乗せされます。そして、再生可能エネルギー電力で水を分解する「グリーン水素」が最もコストがかかります。

結果COフリーの「e-fuel」は、ガソリンと比べ、実に6倍以上の高コストになってしまいます。

製造効率の向上が必要

コストと環境負荷の釣り合いが取れないのは、少ない量しか生成できない、製造効率の悪さも影響しています。

特に空気中のCOは400ppmと濃度が低いため、DAC法で直接回収するには大量のエネルギーが必要となります。今後は生成時のエネルギーやCOを下げると共に、製造効率を上げるための新規技術の開発が実用化に不可欠です。

実用化はいつ頃に?合成燃料に取り組む日本の企業事例

では、合成燃料の実用化はいつ頃になるのでしょうか。

経済産業省の考えでは、2030年までには効率的で大規模な製造技術を確立させ、2040年までには商用化を目指すというロードマップを描いています。

こうした現状に対し、産業界ではどのような取り組みを進めているのでしょうか。

ENEOS

国内屈指の石油精製・販売会社であるENEOSでは、低炭素社会とポスト化石燃料の未来を見据えて、合成燃料の研究開発にも取り組んでいます。

具体的な取り組みとしては、生成反応工程の性能向上でコスト削減を図る、効率的に燃料を製造できる触媒と、その性能を最大限に生かすプロセスの開発などを行なっています。

今後は、2025年度、2028年度と段階的にプラントの建設・運転規模を拡大し、2040年頃の商用化を目指す計画です。

CO2を原料とした合成燃料の製造技術開発がグリーン … – ENEOS

イーセップ株式会社

京都に本拠を置くイーセップは、無機膜分離膜技術の開発や関連機器を扱う会社です。

ここで開発されたセラミック分離膜により、燃料を生成する時に出る水(HO)の分離が容易になりました。

イーセップではこの技術を活かして、取り出したCOとグリーン水素から「e-fuel」を作る「eSepメンブレンフローリアクター(eMFR)」の開発に乗り出しています。

実用化は2025年を目指しているということですので、今後が期待されます。

イーセップ株式会社

東芝/出光興産/日本CCS調査/全日空

複数企業が共同で合成燃料の開発事業に乗り出す例がいくつかあります。

このプロジェクトでは

  • 東芝とその系列企業が航空機用の合成燃料(SAF)の製造やプラント計画の策定
  • 出光興産がSAFの認証や品質管理
  • 日本CCSはカーボンリサイクルによるプラントや地域連携計画
  • 全日空が市場調査や空港内での燃料供給の検討

といった分野を担当し、2025年を目処に開発・製造から供給・利用までの、サプライチェーン構築に向けた実証事業を進めています。

環境省「令和3年度二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会 … – 東芝

合成燃料とSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」との関係

ここまで様々な角度から合成燃料について見てきましたが、次はSDGsとの関係について確認しましょう。

近年、耳にする機会が増えたSDGsは、2015年に採択された国際的な目標です。「社会」「経済」「環境」の3つの側面において、今地球が抱えている課題の解決を目指して、17個の目標・169個のターゲットが掲げられています。17個ある目標の中でも、合成燃料は13「気候変動に具体的な対策を」と関係します。

【関連記事】SDGsとは|1〜17の目標一覧と意味や達成状況、世界・日本の取り組み事例を紹介

目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動の解決に向けて具体的な取り組みを進めていくことを目指します。近年、世界的に大規模な干ばつや豪雨など異常気象が多発しています。この原因となるのが地球温暖化による気候変動だと言われています。

そして地球温暖化が加速する原因が、人間の活動から排出される二酸化炭素を含む温室効果ガスです。合成燃料を自動車や船舶などに活用することで、排出される二酸化炭素の抑制につながります。

つまり、合成燃料が普及することは気候変動への具体的な対策となりうるのです。

【関連記事】SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできること、日本の取り組み事例

合成燃料の将来性・今後の課題

合成燃料は実用化が急がれる反面課題も多く、その歩みはまだこれからです。

特に今後の社会では、完全COフリーな「e-fuel」の普及が鍵を握ります。そのためには

  • DACによるCOの吸収技術向上
  • 再生可能エネルギー電力による水電解で作られた「グリーン水素」の生産力向上
  • 両工程でのコスト削減

などがこれからの最重要課題になってきます。

日本は海外と比べ、合成燃料の実用化には遅れをとっているのが現状です。そのため、国内の自動車メーカー各社も「e-fuel」の研究開発に本腰を入れ始めています。

EVや電動化の弱点を補い、既存のものを活用する合成燃料はエネルギー資源の問題だけでなく、あらゆるものを無駄にしないための知恵の結晶です。合成燃料の未来に注目していきましょう。

まとめ

合成燃料の原料となるCO2・H2それぞれの回収方法や具体的な活用事例、メリット・デメリットを見ていきました。
「人工的な石油」とも呼ばれるように、合成燃料は世界に広く普及する石油の代替品となる可能性を秘めており、わたしたち人類がサステナブルに地球と共生していくためのカギとなり得る存在なのです。

また、SDGs13「気候変動に具体的な対策を」に合成燃料は関わっています。
まだまだ実用化に向けた課題も多い合成燃料ですが、その動向にますます目が離せなくなりますね。

<参考資料>
エンジン車でも脱炭素?グリーンな液体燃料「合成燃料」とは|資源エネルギー庁
CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト  の研究開発・社会実装の方向性(案) 2021年10月 資源エネルギー庁
合成燃料研究会 中間取りまとめ
東芝が実用化30年前倒し、2025年にも合成燃料量産へ|日経クロステック
図解でわかるカーボンニュートラル燃料 脱炭素を実現する新バイオ燃料技術/CN2燃料の普及を考える会(編著)/技術評論社