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畜産問題とSDGsの関係|牛のゲップが環境問題の原因?日本の取り組みを解説

畜産問題とSDGsの関係|牛のゲップが環境問題の原因?日本の取り組みを解説

私たちの日々の食生活に不可欠な食材である、食肉・卵や乳製品。それらを生産する畜産業もまた、古くから人間の生活と密接に関わり続けてきました。

しかしその畜産の在り方は現在、環境とSDGsの観点から見直しを迫られています。今まさに大きな岐路に立たされている畜産は、SDGsとどのように関わっていくべきなのでしょうか。

畜産とSDGsが関係する理由

畜産・酪農がSDGsと大きく関係する理由は、食料供給や地域経済の活性化など、私たちの生活に深く関わっているからです。近年、世界的に環境への配慮が高まる中、工業製品や農産物、食品などの品質や生産過程においても、持続可能性が求められています。これは畜産・酪農にも当てはまります。

理由①畜産と環境資源との関係

畜産業は空気、水、土壌、植物など自然の資源に依存しており、今後もこれらの資源を損なわずに維持していかなければなりません。しかし、畜産は同時に環境負荷が高い産業でもあります。それまでの畜産による自然資源の消費により、人類が豊かに生存していくための地球環境を維持できる限界点に達してしまっていると警鐘を鳴らす声が高まっています。

理由②畜産と健康との関係

近年問題視されているのが、先進国を中心とする過剰な肉類の摂取が、肥満や糖尿病をはじめとするさまざまな疾患の原因となっていることです。前述した環境資源との関わりもあり、肉食や動物性タンパク質の摂取をやめるべきだという動きも近年目立っています。

しかし、肉や卵、乳製品は良質なタンパク質を始め、高い栄養価を含んでいるのもまた事実です。依然として人間の健康に大きな役割を果たす産業として、畜産や酪農は私たちの健康のためにどうあるべきかを問い直すことも求められています。

理由③アニマルウェルフェアとの関係

もうひとつ、畜産業における重要な課題としてアニマルウェルフェアとの関係が挙げられます。アニマルウェルフェアは、動物の身体的・心的状態に関連する概念で、人間の管理下の動物に対する飢えや苦痛からの解放、正常な行動の自由などを追求します。畜産業でもアニマルウェルフェアの理念に基づき、以下の取り組みが重要視されています。

  • 清潔な水と高品質な餌の提供
  • 快適な温度と生活環境の確保
  • 適切な健康管理の実施

これらの措置は、家畜のストレスや疾患の減少、生産性向上や安全な畜産物の生産につながります。また、アニマルウェルフェアはいくつかの点でSDGsと関連しており、目標達成に向けた取り組みの一部と言えます。

畜産が抱える課題や現状

上記のように、畜産や酪農はさまざまな点で課題を抱えています。

では、畜産が抱えている具体的な問題には、どのようなものがあるのでしょうか。

家畜排せつ物の問題

最も深刻なのが家畜排せつ物の問題です。

家畜は、1日あたり牛は約38人分、豚は4人分という大量のふん尿を排せつします。家畜のふん尿は量が多いうえに汚濁による環境負荷も高くなっています。具体的には、豚の家畜ふん尿をBOD(生物化学的酸素要求量)で換算した汚濁負荷量は、人間の10倍という高い数値を示しているのです。

家畜排せつ物が環境に悪影響を与えるのは、積み上げて放置する「野積み」や穴を掘り貯めておく「素掘り」などの、不適切な処理や保管などが原因です。

それによって、以下のようなさまざまな問題が発生しています。

悪臭の発生

畜産に関わる苦情で最も多いのが悪臭です。原因となるアンモニアなどの主要な排出源は、主に畜産でのふん尿から発生します。

衛生害虫の発生

不適切に処理されたふん尿は、害虫の発生源となります。

河川や水道水源の汚染

家畜の尿による汚水は窒素濃度が高く、硝酸性窒素による地下水汚染の原因になります。また、クリプトスポリジウム(原虫)などによる水源汚染の問題も指摘されています。

富栄養化

富栄養化は、窒素、リンの水域への流入により、湖沼や海域中に栄養成分が急増する問題です。これによって赤潮、青潮などを引き起こすほか、水道用水の質の低下に加え、漁場の被害、藻類の枯死による水中酸素の減少や悪臭の原因となります。

温室効果ガスの発生

不適切に処理された家畜ふん尿は、メタンや一酸化二窒素などの環境負荷の高い温室効果ガスの発生源となります。畜産に起因する温室効果ガスについては次の章でも説明していきます。

このように、家畜ふん尿は多方面にわたって環境面に与える影響が大きい一方、土壌改良のための堆肥や肥料として使える貴重なバイオマス資源でもあります。

そのため上記のような問題を解決するためには、家畜排せつ物の適切な処理と利用が重要であり、畜産業の積極的な取り組みによって環境保全・循環型農業につなげることが求められています。

牛のゲップなどによる温室効果ガス

もう一つの大きな問題は、畜産や酪農に起因する温室効果ガス、特にメタン(CH4一酸化二窒素(N2O)の排出です。

畜産から排出される温室効果ガスの量は、世界的には全体の約8%、畜産文化の浅い日本でも国内の排出量の1%と、割合としては微々たる量です。しかし、その温暖化効果という点では、メタンはCO2の21倍、一酸化二窒素に至ってはCO2の実に310倍と、非常に強力であることがわかります。

メタン

メタンは畜産からの温室効果ガスの約16%を占めており、その排出原因のほとんどが反すう家畜、特に牛のゲップからの排出です。

牛のゲップは、第一胃で溶かされた食物を口内に戻す際、消化管内発酵(ルーメン)で発生したガスがメタンを含んだゲップとして出てきます。

排せつ物などからのメタン排出が2007〜2016年の間の年間平均で2.7億tだったのに対し、牛のゲップからの排出は10倍の27億tであり、牛のゲップの排出量がいかに多いかがわかります。

一酸化二窒素

また一酸化二窒素も、前述の通り非常に強い温暖化効果を持ちます。

主な排出原因は、肥料窒素を散布した土壌からの排出や家畜排せつ物の不適切な処理、バイオマス燃焼、工業活動などです。こちらは割合としては微量なので、 極力排出を抑える努力が必要です。

沙漠化の問題

日本ではあまり意識されることはありませんが、畜産による沙漠化の進行も大きな問題です。

沙漠化は主に、

  • 過耕作:限界地帯での無理な開墾と放棄
  • 過放牧:草地の許容力を超えた無理な放牧
  • 過伐採:燃料・住居のための過剰な樹木伐採
  • 不適当な灌漑

などが原因で起こり、現在も毎年6万km2、100カ国以上で沙漠化が進行しています。畜産との関連では、特に植生破壊の度合いが大きい山羊や羊などの過放牧によって、世界の放牧地3,700万㎢のうち80%が沙漠化の危機に瀕しています。

沙漠化は植生の退化や砂の移動・堆積、表土の流失、土壌への塩類集積などの弊害をもたらし、1億3,000万人に年間260億ドルもの社会的・経済的な影響を及ぼしています。

次からは、畜産とSDGsの関係について、より具体的に見ていきましょう。

畜産と関係の深いSDGsの目標

畜産は、自然の資源を利用した生産物、副産物などすべてが地球環境と結びつきます。また、畜産物を生産するための経済活動や、それを消費する私たちの健康など、畜産はSDGsのさまざまな目標に対して考慮の対象となります。その中で、特に畜産と関係の深いSDGsの達成目標をあげていきましょう。

目標2「飢餓をゼロに」

畜産は人間の食料となる食肉や卵、乳製品を作るものです。

特に国民が飢えや栄養不良に苦しむ貧しい国や開発途上国では、良質なタンパク質やビタミンを含む動物性食品の供給は必要不可欠と言っていいでしょう。

効率的かつ持続可能な畜産が世界中に広がることは、こうした国々から飢餓をなくすことにつながります。

目標3「すべての人に健康と福祉を」

動物性食品には、人体内では作れないまたは不足する必須アミノ酸など、体が必要とする栄養素が豊富に含まれ、人間の健康維持に効果をもたらします。

肉食は確かに過剰摂取が虚血性心疾患などの健康リスクを引き起こしますが、一方で肉や魚を食べない菜食も脳出血や脳卒中のリスクを高めることがわかっています。

同時に、牛乳や乳製品にはすべての栄養素が備わっており、動物性タンパク質の持つ価値は否定できません。

SDGsと畜産の関連を理解することで、肉や卵、乳製品の摂取を適切に考え、他の食品とのバランスを取る食生活が実現できるでしょう。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

気候変動をもたらす温室効果ガスの削減は、もはやどの産業でも待ったなしの状況になっています。メタンや一酸化二窒素など、特に強力な温室効果ガスを出す畜産業界が積極的に温室効果ガスの削減に取り組むことは、他の産業と比較しても非常に大きな温暖化対策につながります。

目標14「海の豊かさを守ろう」/目標15「陸の豊かさも守ろう」

家畜排せつ物は、処理次第で土壌を改善も悪化もさせる可能性もあり、地下水と水源の状態、そして最終的には河川や海洋環境にも影響を及ぼします。これらの課題を回避するためには、適切な排せつ物管理が不可欠です。一方で、伝統的な畜産は環境に悪影響を及ぼし、沙漠化による緑地の減少や生態系の喪失を招いてきました。自然と調和した持続可能な畜産の推進は、陸地と海洋の環境と多様性を回復させる重要な取り組みです。

>>SDGsの目標に関する詳しい記事はこちらから

畜産×SDGsの取り組み事例

こうした畜産と酪農がもたらす環境破壊を食い止め、SDGsの目標を達成するために、現在世界中でさまざまな取り組みが行われています。そのいくつかの例をあげてみましょう。

【北海道大学ほか】牛のゲップメタン削減への取り組み

北海道大学の小林泰男教授は、出光興産との共同研究によって、カシューナッツ殻の溶液が牛のゲップから排出されるメタンを30%削減する効果があることを発見しました。この溶液を利用した家畜用飼料は現在、株式会社エス・ディー・エスバイオテックで商品化されています。

また小林教授らは、ゲップメタンの80%削減が達成されれば、

  • 地球温暖化の0.1〜0.2℃緩和が可能
  • 必要な牧草が少なくできれば畜産農家の収益率が50%以上上がる
  • 牛の餌を牧草のみにすれば、穀物飼料を削減し牛本来の健康な乳や肉が生産できる

といった成果につながるとして、農研機構や東京大学、日本科学飼料協会など、複数の研究機関や企業との協働のもと、さらなる研究を続けています。

【株式会社フリーデン】地域循環型畜産に取り組む養豚経営

神奈川県平塚市に本社を置くフリーデンは、岩手県や群馬県などに7つの肥育農場を展開しています。同社では、持続可能な畜産経営を行うため、2003年から以下のような地域循環型農業を始めました。

  • 休耕田で飼料米を栽培し、豚の飼料を自給
  • 浄化処理施設を整備し家畜の尿を浄化、ふんはコンポスト化して有機発酵堆肥として活用
  • 牧場への植樹、草花の植栽活動や地域の緑化運動への堆肥提供

こうした取り組みによって、

  • ブランド豚肉「やまと豚」の生産
  • 衛生面の強化による医薬品代の削減
  • JGAP認証や団体認証の取得による従業員の労働安全意識の向上や農場負担の軽減

などの成果を上げています。

【倉持産業株式会社】徹底した衛生管理と平飼いによる環境配慮型養鶏

茨城県で大規模養鶏事業を営む倉持産業では、養鶏場で最も問題となる悪臭や害虫の問題を解決するため、鶏舎の徹底した衛生管理や鶏糞の堆肥化などに乗り出しました。

また、日本の養鶏の問題点であるケージ飼いをやめ、オリジナルの多段式平飼い鶏舎を導入して約2万羽もの鶏の平飼い飼育に成功。これらの環境対策の結果、

  • 工場内の悪臭や害虫問題を解消
  • 健康でストレスのない鶏
  • 安全で高品質な鶏卵の生産

を実現しました。また省エネ対策でも、LED電灯の使用や太陽光パネルの設置、全8棟の鶏舎、社屋などすべての建造物の遮熱・断熱塗装などを施し、年間26%の電力量削減を達成しています。

【アイルランド】持続可能性プログラム「オリジン・グリーン」

畜産が盛んなアイルランドでは、政府食糧庁=ボードビアの主導のもと、食品・飲料産業のサプライチェーン全体を包括する持続可能性プログラム「オリジン・グリーン」政策を行っています。その取り組みは多岐にわたりますが、主なものとして、

  • 個々の農場レベルで体系的な方法で持続可能性を実証するデータを評価・記録
  • 毎週100人以上の監査員による農場監査
  • 温室効果ガス排出量やエネルギー・水の利用、家畜福祉や草地の管理など多項目にわたる持続可能性指標の評価
  • フィードバックやランク付けを行い、改善による環境及び経済的恩恵の説明

などが進められています。

こうした政策によって、アイルランドの酪農と牛肉生産のCO2排出量は、生乳生産ではEUで最も低く、牛肉生産はEUで5番目に低いという優れた炭素効率を実現しています。

【オランダ】環境協同組合による「栄養管理プロジェクト」

オランダでは1998〜2003年までの間、農業者らによる環境協同組合VEL、VANLAとワーゲニンゲン大学の研究者たちにより、持続可能な酪農を確立するための「栄養管理プロジェクト」が進められました。

これは個別の農家の特性や生態系の違いなどを考慮しない、国の一律的な環境対策への異議申し立てから始まりました。組合と研究者たちは、農場を家畜、家畜ふん尿、土壌、植物の4つのサブシステムの関連性を重視し、多様な農場全体の変化の把握や理解に努めました。

さらにグループミーティングやフィールドラボなどの共同学習を通じて酪農家と研究者双方の知識を補完しあい、窒素削減や土壌管理などを実践していきました。その結果、

  • 草地面積増加、乳量の安定
  • 化学肥料削減
  • 家畜ふん尿の窒素利用効率向上による窒素余剰の減少

といった成果をあげ、周辺環境や生態系の保全にもつながっています。20年以上昔の取り組みですが、現在でも参考にできるところは大きいと思います。

持続可能な畜産を目指して農家が取り組むポイント

畜産の将来のために、持続可能な畜産を目指したいと考えている農家は近年増えています。畜産業界でこうした動きが盛り上がるには、どのようなポイントを押さえて取り組めばよいのでしょうか。

業界全体を巻き込む啓発活動

持続可能な畜産は、個々の農家だけで取り組んでもなかなか前には進みません。業界全体を巻き込んだより大きな流れにつなげていく必要があります。

そのためには、すでにSDGsや持続可能な畜産に取り組んでいる先進的な農家が複数連携して旗を振り、環境に配慮した畜産の啓発や呼びかけ、情報提供などを行うのがよいでしょう。

持続可能な畜産への動機づけ

環境やSDGsに配慮した畜産の啓発は重要ですが、畜産の現場では日々の作業に追われ、環境問題や持続可能な発展について考える余裕がない農家も多いのも実情です。こうした農業者に対して、国産飼料米の導入による飼料費の削減や、衛生的な排せつ物管理による薬品費の削減など、実用的なメリットを示すことで、持続可能な畜産に興味を持ってもらうことが大切です。

また、政府も「畜産環境対策に必要な施設整備に対する主な支援策」などの補助政策を提供していますので、これらの制度を積極的に活用することも検討してみましょう。

消費者への理解醸成

環境保全型畜産に取り組むためには、環境に配慮した畜産物のコストを消費者が価格の面で負担してもらうことも必要です。そのためには、生産者である畜産農家が自分たちの取り組みを消費者にアピールし、理解してもらう活動が欠かせません。

日本の消費者は品質と安全性の確保を重視する一方、温暖化防止やアニマルウェルフェアへの優先度は欧米ほど高くないという調査結果もあります。

一般消費者に対しては、まず健康への好影響と味や品質の良さをアピールしながら、同時に環境に配慮した畜産の必要性をしっかり伝えていくことが重要になってくるのではないでしょうか。

まとめ

畜産が抱える課題は、いくつもの点でSDGsの抱える課題とも重なり、人類の健康や存続の面でも、畜産は必要不可欠な事業です。

今後増え続ける人類の栄養を支え、必要な資源を維持していくためには、今までの野放図なやり方を改め、地球に負荷をかけない畜産が求められています。

そのために今何が問題になっているのか、我々は何をすべきか、生産者である畜産農家も、消費者である私たちも考えていかなければなりません。

参考文献・資料
新編畜産環境保全論 / 押田敏雄、 柿市徳英、羽賀清典共編. – 第2版. – 養賢堂 2022.
持続可能な酪農 : SDGsへの貢献 / 編集 木村純子、中村丁次 ; 企画編集 Jミルク. — 中央法規 2022.
ウシのげっぷを退治しろ : 地球温暖化ストップ大作戦 / 大谷智通著. — 旬報社 2022.
SDGs(エス ディ ジーズ Sustainable Development Goals「 持続可能な開発目標」|畜産技術 2021 (791-Apr.), 31-, 2021
畜産環境分野における SDGsに関する取り組み|畜産技術 2021 (790-Mar.), 7-14, 2021
畜産環境問題とは – 農林水産省
持続可能な畜産経営に向けて~環境負荷の軽減および技術開発 alic|独立行政法人 農畜産業振興機構
アニマルウェルフェアとは?意味や日本・世界の現状そして5つの自由について解説|Spaceship Earth
アニマルウェルフェアについて|農林水産省
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持続可能な畜産物生産の取組事例集 – 農林水産省
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