ブルーツーリズムとは|目的・ねらいや成功事例、導入を検討している方向けの情報も

いま、新たな旅行形態の一つとして「ブルーツーリズム」が注目されています。似た言葉として「グリーンツーリズム」や「エコツーリズム」などがありますが、「ブルーツーリズム」はどのような旅行形態なのでしょうか。

この記事では、ブルーツーリズムの内容や目的、成功事例や制度、導入にあたっての注意点までご紹介します。

ブルーツーリズムとは

「ブルーツーリズム」を一言で言うと、漁村や離島に滞在して行う余暇活動です。観光地の訪問・見学やマリンレジャーといった従来型の観光だけでなく、

  • 漁村や離島での住民との交流
  • 漁業などの地場産業の体験

を通じて、観光客と漁村・離島地域双方にメリットのある観光を展開することができます。

サステナブルツーリズムのなかのひとつ

ブルーツーリズムは「サステナブルツーリズム」の中のひとつということができます。

サステナブルツーリズムとは、観光地が本来の状態を持続的に維持できることを念頭に置いた、観光地開発・観光旅行のあり方です。

戦後、経済が発展するにつれて観光旅行は大衆のものとなりました。それに伴い、観光地の環境汚染や自然破壊などの問題も発生してしまいました。そのため、

  • 排ガス規制や入境人数制限といった制約の策定
  • 現地の生活や自然を体験できる観光プログラムの開発

といったソフト面での方策が行われています。このような方策を含むなど、観光地の持続性を重視した旅行のあり方を「サステナブルツーリズム」といいます。

ブルーツーリズムも地域環境を持続し、観光客に現地の自然や生活を体験してもらう観光のあり方なので、サステナブルツーリズムのひとつということができるのです。

【関連記事】サステナブルツーリズムとは?種類と世界・日本の観光地事例、SDGsの関係

ブルーツーリズムの目的・ねらい

ブルーツーリズムは、平成10年度より国土交通省・水産庁によって推進されています。これらの政府機関は、ブルーツーリズムの目的・ねらいとして以下の3つを掲げています。

  • 国民ニーズに応える新しい余暇活動の提案
  • 離島・漁村地域の活性化(交流・体験事業による効果)
  • 漁業と海洋性レクリエーションの調和

それぞれ詳しく見ていきましょう。

新しい余暇活動の提案

世の中の価値観の多様化が進むなか、従来型の観光旅行にはない、新しい余暇活動が求められています。

これまでの漁村や離島での観光は、海水浴、海産物の喫食、温泉といったものが主目的とされてきました。対してブルーツーリズムでは、具体的に以下のような活動が行われます。

  • 釣り・漁業体験
  • シーカヤック、SUP、シュノーケリングなどのマリンアクティビティ
  • トレッキングなどの自然体験
  • 食品加工、調理の体験
  • 伝統芸能体験や手工芸品制作など、芸術・文化分野の体験
  • 民宿・ゲストハウスなどでの宿泊

このような活動を通し、観光客は「心と体のリフレッシュ」を行うことができます。また多くの活動で地域住民と交流する機会があるため、これまでの観光とは異なる充実感を得ることもできます。加えて観光客にとっては、漁村や離島が単なる旅行先から「第二のふるさと」となることも期待できます。

離島・漁村地域の活性化

本土から離れている離島はもちろん、漁村地域の多くも都市部から離れており、深刻な過疎化が進行しています。離島・漁村地域で生まれた若い世代が離れていってしまうことで、離島や漁村地域では人々の営みを維持することが困難になってきています。

ブルーツーリズムを推進することで、主に都市部からやってくる観光客との交流を通じ、地域住民がその土地での生活により誇りを持つことが期待できるのです。また、新たな産業の創出による経済的な効果もあるため、これらの地域の活性化につながると考えられます。地域の魅力度が上がれば、出身者のIターン・Uターンや移住者も望めるでしょう。

漁業と海洋性レクリエーションの調和

モーターボート、スキューバダイビング、ヨットなどの海洋性レクリエーションが広まるにつれ、漁業への影響も確認されるようになりました。

具体的にはヨットやモーターボートの走行による漁業作業への支障、漁具や養殖施設の破損などが挙げられます。これらのトラブルは漁業生産活動、海洋性レクリエーションの発展双方に悪影響があります。

ブルーツーリズムによる交流・体験を通して、観光客が海を利用する際のマナー向上が期待でき、これらの問題の解決にもつながります。

ブルーツーリズム推進のための制度

ここまで、ブルーツーリズムの概要や目的、ねらいについてご紹介しました。続いては視点を変えて、ブルーツーリズム推進のために活用できる、国や地方自治体の制度をご紹介します。

観光庁「ブルーツーリズム推進支援事業」

観光庁の行う「ブルーツーリズム推進支援事業」は、令和4年度より開始された新しい事業です。

日本政府は2021年4月、2年程度の準備期間を経たのちに、福島第一原発のALPS処理水を海洋放出することを決定しました。ALPS処理水はいわゆる「汚染水」をALPSと呼ばれる浄化設備などで適切に処理した水のことを指します。ALPS処理水は安全性が確保されていますが、海洋放出による沿岸地域への風評被害も想定されます。

「ブルーツーリズム推進支援事業」は、この風評被害への対策として、岩手・宮城・福島・茨城の4県の自治体・法人等を対象として実施される事業です。

事業の目的は「海の魅力を高めるブルーツーリズムを推進し、国内外からの誘客と観光客の定着を図ること」とされており、以下の4つの取り組みが支援の対象となっています。

  • 海水浴場等の受入れ環境整備(シャワー・トイレ・更衣室の改修など)
  • 海の魅力を体験できるコンテンツの充実(浜辺でのヨガ・SUPなどのコンテンツ造成・磨き上げ)
  • 海にフォーカスしたプロモーションの強化(旅行エージェントへの営業・販促活動など)
  • ブルーフラッグの認証の取得に向けた取組(「ブルーフラッグ」…海辺の国際環境認証規格)

令和4年度の公募は受付を終了していますが、上記4県で興味のある団体の方は、今後の動向をチェックしてみてくださいね。

農林水産省「農山漁村振興交付金」

農林水産省が管轄する「農山漁村振興交付金」も、ブルーツーリズムの推進に活用する制度です。これは、「都市と農⼭漁村の交流⼈⼝の増加」等の政策目標のために設けられている交付金です。
この交付金は地域活性化対策、中山間地農業推進対策などいくつかの項目を対象としていますが、その中でも「農泊推進対策」「農山漁村発イノベーション対策」がブルーツーリズムの推進に合致している分野といえます。

なお、ここでいう農泊とは「農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ、農山漁村滞在型旅行」 のこと。ブルーツーリズムの理念と合致している事が分かります。農泊の推進に必要な人材の育成といったソフト面から、施設の整備のようなハード面まで、幅広い事業が対象とされています。

徳島県「とくしま農林漁家民宿確認要項」

徳島県では「とくしま農林漁家民宿確認要綱」を設け、農林漁業者による民宿の新規開業を推進しています。

この要綱を適用すると、旅館業法上の「簡易宿所」よりも面積の要件などが緩和され、開業の際のハードルが低くなります。一方でこの要綱を適用するためには「農林漁業者が営み、(経営者自身が)農林漁業体験を提供すること」が条件となっているのも特徴です。

つまりこれらの民宿に宿泊する旅行客は、民宿経営者である農林漁業者が提供する体験プログラムを楽しむことができるのです。

この制度を通して開業した民宿は「とくしま農林漁家」として認定されリスト化されるので、農林漁家に宿泊して体験活動を行いたい旅行者にとっては、適した民宿を探しやすくなっています。令和3年6月末現在、62軒の施設が「とくしま農林漁家」に認定されています。

ブルーツーリズムの成功事例

ではつづいて、ブルーツーリズムの成功事例をいくつかご紹介します。

長崎県対馬市

日本列島と朝鮮半島の間に浮かぶ「国境の島」、対馬(つしま)。行政区分としては島の全域が長崎県対馬市となっており、3万人弱の人口を抱えています。

対馬では「対馬グリーン・ブルーツーリズム協会」が中心となって、ブルーツーリズムを推進しています。特に力を入れているのが、農林漁業者の自宅に宿泊する「農泊」です。2022年現在、約25軒が農泊を提供しています。

対馬での農泊では、ただ宿泊するだけではなく、「お母さん・お父さん」と料理をしたり、漁に出たり、畑を耕したりと、農林漁業者の暮らしを丸ごと体験することができます。旅行者が豊かな経験をできるだけでなく、住民側も充実感をもって受入れを行っていることも、成功の鍵と言えるでしょう。

農泊のほか、体験プログラムや自然観察のプログラムも豊富に用意されており、ブルーツーリズムのような「新しい旅行スタイル」に不慣れな人でも楽しめる工夫が見られます。

福島県浜通り地区

福島県の沿岸部にあたる「浜通り」と呼ばれる地区では、令和3年度から「ふくしま浜通りブルー・ツーリズム」を、県の推進のもと行っています。浜通り地区には「アクアマリンふくしま」や「ハワイアンズ」といった人気観光スポットがありますが、他にも地域に眠る新たな魅力を発掘し、発信しています。

また、地区には福島第一原発も立地しています。県はブルーツーリズムに加え、地震・津波・原子力災害という複合災害の教訓を学ぶ「ホープツーリズム」も推進しており、「新しい旅の形」を体験することができる地区といえるでしょう。

一方で、現地住民と観光客の距離をぐっと縮めることのできる「農泊」の整備は道半ばのようです。東京近郊や仙台都市圏からのアクセスも良いため、今後が楽しみな地区と言えます。

千葉県安房地区

千葉県・房総半島の南側にある安房(あわ)地区(館山市、鴨川市、南房総市、鋸南町)では、「グリーン・ブルーツーリズム」と銘打って、ブルーツーリズムを含んだ旅行スタイルを推進しています。

安房地区は東京都心から車で2時間足らずと近い場所にもかかわらず、温暖な気候でスローライフを楽しむことのできるエリアです。以前は東京からもアクセスのよい海水浴地・合宿地として人気の高いエリアでしたが、レジャーの多様化により衰退傾向にあるとされています。そのような状況の中、「グリーン・ブルーツーリズム」という新たな旅のあり方を提案し、観光客数の回復を図っています。

この地区は元々多くの民宿があるため、これらを活かしたブルーツーリズムを推進しているのも特徴です。

沖縄県国頭村

沖縄県国頭村(くにがみそん)は沖縄本島の最北端に位置し、東シナ海と太平洋という2つの海に面している人口約5千人弱の村です。

国頭村では内閣府の補助金を受け、2018年に「やんばる東海岸ブルー・ツーリズム拠点施設」を開設。ここを拠点に、定置網内で魚と一緒に泳ぐ体験や、シュノーケリング、ダイビングなど様々な海洋レクリエーションを展開しています。レクリエーションの提供をきっかけに、国頭村や周辺自治体に観光客を誘致することをねらいとしています。

施設の運営に関しては、村が設置し、漁業組合が指定管理者として管理する方法を採用しています。国頭村は先述のとおり沖縄本島の中でも最北部に位置し、空港や県庁のある那覇市からはアクセスしやすい地域とは言えません。ブルーツーリズムを通して魅力を発信し、県内外・国内外からの観光客を誘致し、地域活性化や雇用の確保に繋がることが期待されています。

ブルーツーリズムを導入するためには

観光客・受入れ側双方にメリットの多いブルーツーリズムですが、思うように上手くいかない事例も散見されます。ブルーツーリズムの導入を検討している方向けに、注意点をまとめました。

注意点① 漁業者・地域住民の負担・参加意識も考慮する

ブルーツーリズムの目的・ねらいの一つに「離島・漁村地域の活性化」があります。観光客の誘致に注力するあまり、漁業者や地域住民の負担が大きくなりすぎる、もしくは参加意識が湧きづらい、本業である漁業に影響が起きるような運営になってしまうのは、本末転倒といえます。

負担が大きくならないための方策としては、漁協や観光協会などの団体が受入れ数を管理し、キャパシティを超えた予約は断ること、参加意識を高めるためには、漁業者・地域住民自身の「やってみたいこと」を募集して実現するなどが考えられます。

注意点② ビジネスとして成り立つようにする

ブルーツーリズムを一過性のものにせず持続的に実施するためには、ビジネスとして成り立つ仕組みづくりが不可欠です。体験やアクティビティの参加費用は、活動を提供する漁業者・住民に対して適切な対価が支払える価格設定なのか、十分に精査する必要があります。

また、ターゲット像を明確にすることも効果的です。

注意点③ 安全管理を徹底する

ブルーツーリズム中に行う活動は、従来型の旅行に比べて、事故やケガなどのリスクが高いことが考えられます。事故・ケガが発生しないよう予防的対策を最大限に設けると同時に、万が一の事故・ケガが発生してしまった際の対処方法も十分に検討しておく必要があります。

まとめ

漁村や離島の活性化につながり、観光客も新しい体験をすることができる「ブルーツーリズム」。関係省庁による推進が始まって20年以上経ちますが、まだまだ広がりの余地がある旅行スタイルです。

漁村・離島地区住民の方は、地域の今後を考える時のアイディアとして、それ以外の方は次回の旅行の際の選択肢の一つとして、ぜひブルーツーリズムを検討してみてくださいね。

<参考文献>
国土交通省 ブルー・ツーリズムの魅力
政府広報オンライン 福島第一原発の廃炉とALPS処理水
観光庁観光地域振興課 「ブルーツーリズム推進支援事業」公募要領 
経済産業省 ALPS処理水の処分
観光庁 「ブルーツーリズム推進支援事業」(2次公募)における採択事業の公表
農林水産省 農山漁村振興交付金
内閣府沖縄担当部局 平成28年度北部振興事業の実施について(第4回)
福島県観光物産交流協会 ホープツーリズム
千葉県庁 グリーン・ブルーツーリズムの推進
徳島県庁 「とくしま農林漁家民宿」のすすめ
国頭村観光協会「やんばる東海岸ブルー・ツーリズム拠点施設」
対馬グリーン・ブルーツーリズム協会
自治労 ブルーツーリズム(観光型体験漁業)による漁村活性化推進  三重県本部/熊野市職員労働組合 和田全史
JTB総合研究所 サステイナブルツーリズムとは