#17の目標

CO2削減目標の設定方法をわかりやすく解説!

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環境と経済の両立を図り、事業を持続可能なものにする上で、今やどの企業にとっても脱炭素経営は必須といえます。その第一歩として重要な取り組みのひとつがCO₂排出量削減目標の設定です。

CO₂削減目標の設定はなぜ必要か、どのように設定すればいいのか。目標を設定したら、何をすべきなのか。脱炭素経営を進めたい企業が知りたいCO2削減目標の設定方法について、詳細に解説していきましょう。

なぜCO2削減目標を設定する必要があるのか

地球温暖化による気候変動の危機は、既に全世界の共通課題となっており、多くの企業も温暖化対策への取り組みの重要性は理解しています。ではなぜ、CO2削減目標を設定する必要があるのでしょうか。

理由①気候変動へのリスクに対応する

ひとつ目の理由は、気候変動への備えです。気候変動が進行すると、企業にとってもビジネス環境の変化や直面するリスクが大きくなる可能性があります。地球温暖化がもたらす気候変動は人類の生活や生態系に深刻な影響をもたらし、

  • 猛暑の影響による死亡者数の増加
  • 干ばつによる水・食糧不足
  • 河川沿い及び沿岸域での氾濫増加によるインフラ/住居の破壊

などの危険性が高まります。こうした問題は世界中の企業の事業活動にも有形無形の危険をもたらし、ビジネスへの大きな障害となります。にもかかわらず、来るべき危機を前に明確な目標もなく、やみくもに脱炭素に取り組むようでは、到底対処しきれません。段階的かつ効率的にCO2排出量削減目標を立てることは、備えるべき最初のステップと言えるでしょう。

理由②事業活動を持続可能なものにするため

企業がCO2削減目標を設定する理由のひとつは、将来にわたって持続可能な事業を展開し、会社の生き残りを図るためです。どの企業も事業を行うにはエネルギーが不可欠ですが、将来的には化石燃料資源の枯渇や価格の高騰などにより、安定したエネルギー源の確保が困難になってきます。そのためには

  • 再生可能エネルギーへの転換
  • プラスチック製品や化学製品の削減
  • 少ない資源で従来通りの生産性を実現する効率的な経営

を行うことが、どの企業にとっても欠かせない取り組みとなります。

持続可能な事業を進め、上にあげたような取り組みを今のうちからどれだけ計画的に行えるかは、それぞれに必要なCO2削減目標を設定することが重要になってきます。

理由③ESG投資へのアピール

CO2削減目標が必要な理由には、ESG投資の対象として選ばれるのに有利だということもあります。

近年は世界的に環境・社会・企業統治(ESG)に対する投資が、より高いリターンにつながるという認識が広まり、事業活動量当たりのCO2排出量が低い企業は企業価値が大きくなっています。

一方で、欧州からの日本企業へのESG投資は低調です。これは、日本の温暖化対策への取り組みや情報開示が国内だけで通じるものが多く、国際的な基準に達していないために欧米からの投資先として選ばれないという事情があります。

つまり、日本企業が海外からのESG投資を呼び込むには、国際的な基準に適合した枠組みへの参加が望ましく、そのためにはCO2削減目標の設定が必要となってくるのです。

CO₂削減目標の設定が求められるSBT・RE100・RE Actionについて

その国際的な枠組みとしてあげられるのが、SBTRE100です。また、RE100に準じた国内独自の枠組みとしては、RE Actionがあります。ここでは、それぞれの枠組みについて簡単に説明していきます。

SBTとは

SBT「Science Based Targets=科学的根拠に基づく目標設定」の略で、企業が設定した温室効果ガス排出削減目標が、最新の気候科学に基づいて、2015年のパリ協定で定めた1.5°Cに抑える水準を満たすと判断した場合に、その企業を認定する枠組みです。

SBTはCDP、UNGC、WRI、WWFの4つの機関による共同イニシアティブ(SBT:Science Based Target Initiatives)が運営する国際的な枠組みであり、脱炭素経営のアピールになるため世界中で多くの企業が参加しています。

SBTへの参加には以下のような5つのステップからなる手続きを行い、CO₂を始めとする温室効果ガス排出量削減の目標設定が必要となります。

  • SBT事務局に申請書類を提出
  • 設定した目標を事務局が審査
  • 認定された場合、SBTのウェブサイトで公表
  • 年1回の進捗状況報告と開示
  • 定期的な目標の妥当性の確認と見直し

より詳しいSBTの申請手続きや認定基準については、以下のサイトを参考にしてください。

Science Based Targets: Ambitious corporate climate action
SBTとは?メリットや認定条件、日本の認定企業一覧、取り組み事例を紹介|Spaceship Earth

RE100とは

RE100は、企業が自らの事業の使用電力を、100%再生可能エネルギーで賄うことを目指すための国際的な枠組みのことです。

主な特徴としては

  • 事業で消費する電力が100GWh以上であること(日本企業は50Gwh以上)
  • 具体的な再生可能エネルギーは、太陽光・水力・風力・地熱・バイオマス
  • 100%再生可能エネルギーへの転換を2050年までに達成し、2040年までに90%、2030年までに60%達成という中間目標達成が最小要件となる

があり、国際的にも影響力のある大企業に対して再生可能エネルギーへの転換を促すものとされています。日本からは2024年5月現在、85社が参加をしています。

RE Actionとは

RE Actionも、2050年までに自社の消費電力を100%再生エネルギーにすることを目標にする枠組みです。RE100との違いとしては

  • RE100の条件を満たすことができない中小企業が対象
  • 日本独自の枠組みである
  • 遅くとも2050年迄に使用電力を100%再エネに転換する目標を設定し、対外的に公表すること(中間目標の設定は必須ではない)

などです。国際的な枠組みではありませんが、RE Actionの日本での窓口であるJCLP(日本気候リーダーズパートナーシップ)は、RE100を主催するThe Climate Groupの地域パートナーとなっています。

CO2削減目標の設定方法

ここからは、CO₂排出量の削減目標を具体的に設定する方法を見ていきたいと思います。

まず、企業は自社の活動からどの部分でCO₂が排出されているかを特定します。これには、生産プロセス、輸送、エネルギー消費などの様々な活動が含まれます。その後、これらの排出源からどれだけのCO₂が排出されているかを評価します。これは、いくつかの基準やツールを使用して行われます。

エネルギー使用量の計算

最初に行うのは、事業活動で使用するエネルギー量の計算です。一般的にエネルギーの使用量を測る単位にはばらつきがあるため、公的なデータベースに公表されている1kgや1klあたりの発熱量(GJ=ギガジュール)を使って単位を換算します。

使用エネルギー量を求めたら、種類ごとのエネルギー使用量に排出係数を掛けてCO2排出量を算出します。排出係数は使用する燃料の種類によって異なり、最も大きい(環境負荷が高い)のは石炭、最も小さい(環境負荷が低い)のは天然ガスであるとされています。

CO2排出量=エネルギー使用量×排出係数

さらに、電力使用量に電気事業者の排出係数を掛けることで、電力のCO₂排出量を計算できます。電気事業者の排出係数は、各社のホームページか環境省・経済産業省のホームページなどで調べられます。

サプライチェーン排出量の算定

企業の温室効果ガス排出量を測定する仕組みとして、GHGプロトコルがあります。このプロトコルに則って算定されるのが、事業所全体のサプライチェーン排出量です。

サプライチェーン排出量とは、事業者からの温室効果ガス排出のほか、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量です。現在GHGプロトコルで最もよく使われているのは

サプライチェーン排出量=Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量

という計算式から導かれる排出量算定であり、それぞれ

  • Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
  • Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

という形になっています。

サプライチェーン排出量を算定することによって、企業は事業活動を通してどの部門でどれくらいのCO2(などの温室効果ガス)を排出しているかが客観的に分かるため、CO2削減の優先順位がつけやすくなり、削減計画が立てやすくなります。

算定目標の設定

サプライチェーン排出量の算定は、⽬的に応じて算定範囲を設定しましょう。

特に企業が重点的に管理すべきなのはScope1と2です。Scope3は排出計算スキームが複雑で評価が難しいケースもあり、必ずしも客観的な評価とはなりにくい場合もあります。

しかし、温暖化対策や資源枯渇に備える観点からはScope3へのアセスメントも重要になりますので、SBTの認定を得るためであったり、海外を含むグループ全体の排出量を算定するためには押さえておく方がいいでしょう。

CO2削減目標を設定したらすべきこと

企業がCO₂排出削減の目標を設定したら、次に取るべきステップはいくつかあります。

目標達成に向けたロードマップを策定する

最初に、設定した目標に合わせ、ロードマップを策定します。その目的は、設定した目標と現状との差を可視化し、目標に向けた進め方を明確化することです。段階的な取り組みとしては

  • 長期的なエネルギー転換の検討:CO2排出がゼロもしくは小さいエネルギーへの転換など
  • 短中期的な省エネ対策を検討:既存設備の最適化やエネルギーロスの低減
  • 再生可能エネルギーの導入

などを進め、今後も検討が必要な未確定の削減策についてもロードマップに織り込んでいきます。

同時に継続的な計画実行と見直しの仕組みを構築することで、経営状況や環境の変化に合わせられるようにすることも大事です。

CO2排出削減に取り組む環境を整える

たとえ目標を立てても、社内でCO2排出削減の重要性が共有されなければ効果は望めません。

社をあげて排出削減に取り組むためには、具体的なメリットを示して取り組みを促すことが重要です。

例をあげると

  • インターナルカーボンプライシング=管理会計において炭素排出をコストと見なすことで各部署の排出削減を促す
  • パフォーマンス評価基準=役員のボーナス査定に排出削減成果を反映させる

などがあります。

ただし、こうした環境整備を行うに当たり、CO2排出削減に力を入れる目的を明確にしなければ、これらのインセンティブが社内に浸透することは難しくなる可能性があります。目的を明確にした上で、経営陣や社内の関連部門が納得できるビジョンやミッション、戦略を示すことが必要です。

国際的なイニシアティブに参加する

こうしてCO₂排出削減に向けた体制が整ったら、前述したRE100やSBTなどの国際的なイニシアティブ機関への参加を推奨します。中小企業の場合はRE ActionかSBT(中小企業向け)となりますが、グローバルに事業を展開するならSBTへの参加が望ましいでしょう。

自社の取組を社内外のステークホルダーに伝える

自社のCO₂排出削減への取り組みや設定した削減目標については、自社単独で取り組む以外に、自治体や金融機関など事業地域の各ステークホルダーとも情報を共有し連携することも大事です。必須ではありませんが、各地域の規制や条例との兼ね合いやグリーンファイナンスによる投資など、削減対策をより実効的なものにするうえではぜひ行いたいところです。

企業のCO2削減目標設定事例

日本では、SBTやRE100、RE Actionへの参加企業の数も多く、世界的にもCO2排出量削減に熱心であるとされています。そうした多くの企業の中から、いくつかの事例を紹介していきましょう。

事例①河田フェザー株式会社

河田フェザーは、羽毛の加工及び精毛・羽毛製品の販売を行う老舗企業です。

2019年に算出した同社の事業でScope1の排出量で多くを占めるのは、主に羽毛の洗浄やスチーム乾燥に使うエネルギー消費量(489t-CO2)です。

一方、Scope2に当たる外部からの電力によるCO2排出量は674t-CO2と算定されています。

これに対し、全サプライチェーン全体に関わるCO2排出量(Scope3)が11,273t-CO2で、原材料に関わるCO2排出が最も多くなっています。

これらの算定結果を踏まえて、取り組みやすいScope1と2の排出削減対策を優先して行いました。

具体的には

  • 熱回収や電力削減、再エネ電気の利用:地下水による水冷式エアコン導入、ボイラーの重油からLPガスへの切り替えなどで年間66t-CO2の削減
  • 一部工場で再エネ100%の電気に切り替え、Scope2の674t-CO2が大幅に削減見込み
  • 使用済み羽毛製品を回収・リサイクルすることで180t-CO2を削減

などの取り組みを進め、羽毛業界初となるSBTへの加盟も果たしています。

事例②リマテックホールディングス

リマテックは、廃油などの廃棄物から再生燃料(RF=Reclaiming Fuel)を製造する事業を行うほか、環境修復事業や物流事業、メンテナンス事業、太陽光発電・バイオガス発電事業などを手がけています。こうした事業内容とも相まって、いち早く中小企業版SBT目標を設定しています。

目標設定に当たっては

  • 設備導入対策:電気自動車や低燃費車両/デマンドコントロールシステム(電力監視・制御システム)/LED
  • 運用改善対策:低燃費走行、電力使用量の見える化、エアコンの設定温度調整/設備機の間欠運転

のほか、RF製造工場のひとつへの省エネ対策、SBT目標達成に向けた再生可能エネルギーへの購入電力の切り替えなどを実施しました。これにより、Scope1/2の温室効果ガス排出量を2030年までに30%削減(2018年度比)とする目標を設定しています。

事例③株式会社宮城衛生環境公社

宮城衛生環境公社は、仙台市の約半分のエリアの家庭ごみ収集運搬業務と上下水道施設等の維持管理などを行う企業で、社会課題の解決と資源循環を目指し、脱炭素経営を成長戦略として掲げています。

目標設定に当たって算出したサプライチェーン排出量は、Scope1が1355t-CO2、 Scope2が45t-CO2となっています(いずれも2019年度)。

Scope1の排出量では、ごみ収集車や大型・特殊車両でのディーゼル(軽油)の消費量が多いことに注目し、全車両のハイブリッド化や東北初の次世代バイオディーゼル燃料の公道使用を開始しました。

また、県内初のRE Actionへの参加により、使用済み太陽光パネル施設の稼働や自家消費型太陽光発電設備導入で再エネ100%を達成しています。

こうした環境事業への取り組みを重ね、2022年には中小企業版SBT認定につなげています。

CO2削減目標の設定とSDGsの関係

CO₂排出量削減の目標を設定することは、地球環境と経済の持続可能性を両立させる試みです。同時に、SDGs(持続可能な開発目標)の達成とも大きく関わってきます。

目標13「気候変動に具体的な対策を」

CO₂削減目標と最も関連が強いのがこの目標13です。CO₂排出量削減目標を設定するのも、全ては目標13を達成するために他なりません。

パリ協定で定められた、温暖化を1.5℃に抑えるためには、世界のCO₂排出量を2030年に46%、2050年には実質ゼロにしなければいけないという目標があります。各企業がこの数字に基づいてCO₂排出削減を進めることは、気候変動対策として大きな力となります。

その他の達成目標

目標13以外にも、CO₂削減目標の設定はSDGsのいくつかの目標と関連してきます。

目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」

CO₂排出削減目標は、持続可能なエネルギーへのアクセスを促進する一環としても位置付けられます。再生可能エネルギーの利用やエネルギー効率の向上は、SDGs7の目標達成に貢献します。

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」

CO₂排出削減は、持続可能な産業とイノベーションを促進するための重要な取り組みです。

ターゲット9.4で掲げる「2030年までに、資源利用効率の向上クリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる」も、産業の持続可能性を高める一環として位置付けられます。

目標12「つくる責任 つかう責任」

CO₂排出削減は消費するエネルギーをいかに減らし、どれだけ少ないエネルギーで製品やサービスを生み出せるかという問題とも関わってきます。また使用中だけでなく、使用後の廃棄をいかに少なく抑えられるかも、CO₂排出削減と密接な関連性を持ちます。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

気候変動対策は、現在の全人類にとって最優先で解決すべき共通課題です。特に企業に代表される民間セクターが果たす役割は極めて大きく、世界中の各企業が本気で気候変動対策に取り組むか否かは、今後の地球全体の運命を左右すると言っても過言ではありません。

そのためには、規模の大小を問わず全ての企業が脱炭素経営に取り組むことが求められています。CO₂排出量削減の目標設定は、環境と事業活動の両立を目指す企業にとって、欠かせない最初の取り組みなのです。

参考文献・資料
中小規模事業者のための 脱炭素経営ハンドブック -温室効果ガス削減目標を達成するために- Ver .1.1 .pdf (env.go.jp)
SBT等の達成に向けた GHG排出削減計画策定ガイドブック (2022年度版).pdf (env.go.jp)
Science Based Targets: Ambitious corporate climate action
グリーン・バリューチェーンプラットフォーム | 環境省 (env.go.jp)
再エネ100宣言 RE Action (saiene.jp)
取り組み事例 2023 | 再エネ100宣言 RE Action (saiene.jp)
環境省RE100の取組 | 地球環境・国際環境協力 | 環境省 (env.go.jp)
RE100・EP100・EV100 | JCLP (japan-clp.jp)
RE100とRE Actionの違いや特長についてどこよりもわかりやすく解説 – とくとくマガジン (wajo-holdings.jp)
サステナブル容易に名乗れる日本 「なんとなく基準」浸透 逆境のESG(3)|日本経済新聞2024年5月8日
最新脱炭素経営の基本と仕組みがよ〜くわかる本 : CO2の削減と経済の持続を両立する! / 吉川武文著. — 秀和システム, 2022. — (How-nual図解入門 . ビジネス).