家を新築した時などに、LPガスと都市ガスのどちらを選ぶか聞かれたことがあるかもしれません。
「正直な話、正確な違いはよく分からない」という人もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はLPガスがどのようなガスなのか、LPガスの仕組みや料金体系はどうなっているのか、メリット・デメリット、天然ガス・LNG・都市ガスと何が違うのかについてまとめます。
LPガスとは
LPガスとは、Liquefied Petroleum Gasの略で、日本語では液化石油ガスと訳されます。石油を精製するときなどに発生するプロパンやブタンといった炭化水素ガスを常温で加圧し液化したもので、工業用・家庭用として広く用いられています。*1)
LPガスをLPGと呼ぶこともありますが、本記事ではLPガスに統一して話を進めます。
LPガスとプロパンガスは同じ
LPガスについて調べていると、「プロパンガス」という言葉もよく出てくるので、何が違うのか疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、プロパンガスはLPガスのなかの1つです。LPガスのうち、
- プロパンの比率が多いものプロパンガス
- ブタンの比率が高いものをブタンガス
といいますが、家庭用として用いられるのはプロパンガスです。そのため、特に注釈がなければLPガスとプロパンガスは同じものとして表記されます。
LPガスの用途
LPガスの用途は以下のとおりです。

最も割合が高いのは家庭業務用で、家庭やレストランなどで使用されています。工業用や化学原料用としての用途がそれに続きます。
※都市ガス用について
家庭用として使われているガスには、LPガスと都市ガスの2種類があります。都市ガス燃料のメタンやブタンだけでは給湯・ガスコンロの熱量として不十分であるため、LPガスが都市ガスの増熱用として利用されています。都市ガスについては、後ほど詳しく説明します。
このように、LPガスは高い火力が必要な場面でも使用されています。
【LPガスの仕組み】家庭に届くまで

続いては、LPガスが家庭に届くまでにどのようなルートをたどっているのかを見ていきましょう。LPガスの原料や製造方法、供給方法などについてまとめます。
原料
繰り返しになりますが、LPガスの主成分はプロパン(C3H8)とブタン(C4H10)です。両方とも炭素と水素の化合物で、常温のときは気体として存在しています。家庭用のLPガスの原料であるプロパンは、メタン系の炭化水素で無色の可燃性ガス※です。
本来無臭ですが、家庭用に供給されるLPガスには人工的に刺激臭がつけられています。
製造方法
LPガスの製造方法は、*4)
- 油田から原油を生産する際に一緒に出てくるガスから分離精製する
- ガス田から天然ガスを採集するときに分離精製する
- 石油精製工場・石油化学工場で副産物として生成されるガスから分離精製する
の3種類です。

近年、アメリカで生産が盛んになっているシェールガスの生産時にもLPガスが発生するため、新たな供給源として注目されています。*4)
供給方法

LPガスは圧縮・冷却して液化し、体積を250分の1にしたうえで、産出国から日本に運ばれます。国内に届いたLPガスは、船やガスローリー・鉄道などで輸送されます。そして、運ばれたLPガスは使用量によって4つの方法で供給されます。*5)
ボンベ供給(自然供給方式) | ボンベに詰め替えられ、各家庭に配送される一般家庭と同じ供給方法 |
ボンベ供給(強制供給方式) | 一般家庭よりも使用量が多い場所での供給方法 |
バルク供給 | 病院や工場など中~大規模施設での供給方法 |
大型タンク供給 | 鋳物工場や大規模店舗などでの供給方法 |
LPガスの料金体系
LPガスの大まかな内容が分かったところで、料金体系について見ていきましょう。
LPガスの料金は自由料金であるため事業者ごとに異なります。
二部料金制
1つ目は二部料金制です。

二部料金制とは、
- 使用量にかかわらず支払う基本料金
- 使用量に応じて支払う従量料金
を組み合わせた料金制度で、国内のLP業者で広く採用されています。基本料金にはボンベやメーターといったLPガス使用に必要な設備の費用、検針代などが含まれます。従量料金部分は使用量に応じて1㎥あたりの値段が設定され、使った分だけ支払います。
三部料金制
2つ目は三部料金制です。

基本料金と従量料金に加え、設備使用料が加算される料金体系です。ガスの配管を事業者から借りている場合や、ガス漏れ警報器などを借りて利用している場合に適用されます。基本料金と従量料金は二部料金制と変わりません。
スライド制
3つ目はスライド制です。

基本料金は二部料金制と変わりませんが、従量料金部分がいくつかの価格帯に分けられています。たとえば、以下のような料金設定が想定されます。
0.1~5.0m3 | 700円 |
5.1~10.0m3 | 670円 |
10.1~15.0m3 | 640円 |
15.1~20.0m3 | 610円 |
使用量にかかわらず、一定の料金がかかる二部料金制・三部料金制の従量料金に比べると、使用量が多いほど単価が減少しています。
原料費調整制度
4つ目は原料費調整制度です。

原料価格とガスの販売価格が連動する仕組みです。原料価格が下がれば販売価格も下がり、原料価格が上がれば販売価格も上昇します。非常にシンプルな仕組みですが、原料価格高騰の影響をまともに受けてしまうという弱点もあります。
ここまで、LPガスの大まかな内容についてまとめてきました。次からは、LPガスと混同されやすい「天然ガス」「LNG」「都市ガス」との違いについて見ていきましょう。
LPガスと天然ガスの違い
まずは、LPガスと天然ガスの違いについてまとめます。
天然ガスとは
天然ガスには、
- 可燃性の天然ガス
- 不燃性の天然ガス
があります。そのうち、一般的に天然ガスと呼ばれるのは炭化水素などから成る可燃性天然ガスです。天然ガスの産地は世界各地に分散していて、埋蔵量も比較的豊富であるという特徴があります。石油や石炭などと同じ化石燃料で、エネルギー資源として利用されてきました。
天然ガスの主成分はメタンで、一酸化炭素をはじめとする有害物質をほとんど含みません。そのため、燃焼時に発生する窒素酸化物や二酸化炭素の量が石炭や石油よりも少なく済みます。また、公害の原因物質でもある硫黄酸化物も発生しません。*10)
つまり、天然ガスの用途はLPガスとあまり変わりませんが、違いは主成分です。
まとめると以下のようになります。
ガスの種類 | 主成分 | 特徴 |
LPガス | プロパン・ブタン | プロパンの発熱量が大きく火力が強い |
天然ガス | メタン | 火力が弱いため5%のプロパンを混ぜて使用 |
LPガスとLNGの違い
次にLPガスとLNGの違いを見ていきましょう。
LPガス(LPG)とLNGは略称が似ているため、見間違えそうになってしまいますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
LNGとは
LNGとはLiquefied Natural Gasの略で、日本語では液化天然ガスと訳されます。天然ガスを-162度まで冷却し、液化したものがLNGです。液化することで体積が600分の1になるため、輸送が容易であるといった特徴があり、専用のタンカー(LNG船)やパイプラインで運ばれます。主成分は天然ガスと同じメタンです。
【地域別天然ガス生産量の推移】

LNG生産の中心は北米とヨーロッパ・ロシア地域です。特にロシアは天然ガスの一大生産国であり、パイプラインを使ってヨーロッパなど各国に輸出しています。しかし、ウクライナとの戦争が始まった2022年2月以降、ロシアからの天然ガス供給は不安定化しました。
- ヨーロッパ諸国が課す経済制裁
- ロシア側が行った対抗措置
などのため、ロシアからLNGを輸入することが難しくなっています。
【LPガス生産量の推移】

【LPガス国別輸出量の推移】

LPガスは北米や中東、アジア・太平洋地域で産出します。国別で比較すると、アメリカが突出して多いことがわかります。アメリカの産出量が多い理由は、シェール革命※によりLPGの産出量が増加したからです。
つまり、LPガスとLNGの違いは主成分と産出地です。まとめると以下のようになります。
ガスの種類 | 主成分 | 主産地 |
LPガス | プロパン・ブタン | 北米・中東・アジア太平洋※アメリカの輸出が大幅増加 |
天然ガス | メタン | 北米・ロシア・中東が中心 |
LPガスと都市ガスの違い
次に、LPガスと都市ガスの違いについて整理します。
都市ガスとは
家庭用として用いられるガスのうち、ガスの導管を通じて家庭に届けられるガスを都市ガスといいます。2017年に小売り全面自由化が実施される前、都市ガス業者は一般ガス事業者と呼ばれていました。
これまで天然ガスやLNGについて解説しましたが、これらは都市ガスの原料だといえます。
都市ガスが供給される仕組みは以下のとおりです。

ガス田などで採掘された天然ガスを冷却して液化し、専用のタンカーに載せて日本に輸出されます。船は大都市近隣にあるLNG基地に受け入れられ貯蔵されます。その中から発電量を差し引いた残りが消費地に運ばれ、導管を通じて各家庭に供給されます。
【日本のガス導管マップ】

ガス管が敷設されているのは国土面積のわずか6%に過ぎません。敷設されているのは都市部で、離島や僻地には設置されていません。比較的広範囲に設置されているのは東京を含む首都圏と大阪・神戸を中心とした阪神地域、名古屋を中心とした中京地域です。
都市ガス最大のメリットは、LPガスよりも料金が安いことです。料金体系の章でも触れたように、都市ガス料金は認可制であるため、価格が上昇しにくいのが特徴です。また、設置スペースが不要である点も都市ガスのメリットといえます。
その一方、対応地域が限られていることや都市ガスを自宅に引き込むための工事費用が高くなるというデメリットがあります。住居の立地条件によっては工事費用がかさむことがあるため、その場合はLPガスのほうが経済的に導入しやすくなるでしょう。
つまり、LPガスと都市ガスの決定的な違いは供給の仕組みです。まとめると以下のようになります。
ガスの種類 | ランニングコスト※ | 配管工事 | 価格の仕組み |
LPガス | △ | 不要 | 自由料金 |
都市ガス | 〇 | 必要 | 国が認可 |
LPガスのメリット
様々なガスについて理解が深まったところで、LPガスのメリットを見ていきましょう。
災害に強い
1つ目のメリットは災害に強いことです。LPガスは自立稼働可能な分散型エネルギーといわれます。
- 自立稼働
- 使用する場所に運んで設備を組み立てると単独で使用できる
- 分散型
- 容器にさえ入れれば必要な場所に運べる
重油や軽油も自立分散型エネルギーですが、
- 重油は3か月
- 軽油は半年
で劣化が始まってしまうため、長期保存に不向きです。それに比べLPガスは、ボンベさえ錆びなければ品質劣化せず長期保存可能です。
こうしたLPガスの強みは東日本大震災でいかんなく発揮されました。災害が発生したとき、被災から72時間を乗り切ることが非常に重要だと言われています。この間、自衛隊などは人命救助を優先するため、生存者同士で助け合わなければなりません。
このときに、炊き出しや暖房のエネルギー源として利用されたのがLPガスでした。また、被災からの復興でもLPガスは強みを発揮します。都市ガスのようにガス管を張り巡らせる必要がないため、家1軒ごとにボンベを設置できるからです。*2)
持ち運びに優れ利便性が高い
2つ目のメリットは持ち運びに優れ、利便性が高いことです。ガス管の敷設が不要で、ボンベさえあれば設置可能なLPガスは全国各地で使用されています。

2019年段階で、32の道県ではLPガス使用率が50%以上であり、都市ガス利用者を超えています。山間部や離島でも使用できるLPガスは利便性が高いエネルギーといえます。
発熱量が高い
3つ目のメリットは発熱量が高いことです。LPガスの主成分である気体のプロパンの熱量は1㎥あたり99MJ(24,000Kcal)で、都市ガスの熱量は1㎥は46MJ(11,000Kcal)です。つまり、LPガスの熱量は都市ガスの約2.2倍となります。*8)
LPガスのデメリット

LPガスには災害に対する強さや利便性の高さ、都市ガスよりも発熱量が高いことなどのメリットがあります。しかし、無視できないデメリットも存在します。ここからは、LPガスのデメリットを3点取り上げます。
料金が高い
1つ目のデメリットは料金が高いことです。LPガスを輸入し、ボンベに詰めてから各家庭に配達しなければならないため、その分コストが高くなってしまいます。対して都市ガスの場合、配管を通じて各家庭に届けられるため配送コストを安く抑えられます。
料金設定の規制がない
2つ目のデメリットは、料金設定の規制がないことです。LPガスの料金は自由設定であるため、各事業者が料金を設定できます。たとえば、昨今のように原油価格の高騰などによりLPガスの輸入価格が上昇すると、料金設定の規制がないために、上がった分をガス料金に反映させやすく、高くなる傾向にあります。
一方、都市ガス料金は国によって認可されるため、事業者が勝手に設定できない仕組みとなっています。
ガスボンベの設置スペースが必要
3つ目のメリットは、ガスボンベ設置のためのスペースが必要なことです。代表的なLPガスの容器サイズは以下のとおりです。*9)
10kg | 高さ45cm×直径21cm |
20kg | 高さ76cm×直径32cm |
50kg | 高さ128cm×直径37cm |
加えて、雪が降る地域などでは覆いが必要となります。新規でLPガスを設置する場合は、ガスボンベの設置スペースがあるかどうか事前に確認した方がよいでしょう。
LPガスとSDGsの関係
最後にLPガスとSDGsの関連についてまとめます。
特に目標7/9/11/13と関係する
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標です。「地球上のだれ一人取り残さない」という大目標達成のために17の目標と169のターゲットを策定しました。
日本LPガス協会は、LPガスはSDGs目標7/9/11/13と関係するとし、長期貢献の道筋を明らかにしています。*16)
まず、目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」に関しては、LPガスのメリットである利便性の高さをアピールしています。中東依存率が高い原油と比べても、アメリカからの輸入が多いLPガス供給のほうが安定していて、国内的にも安定したエネルギー資源です。
それだけではなく、LPガスとバイオマス燃料の混合やバイオマス発電への活用などを通じ、CO2の排出削減に貢献できるとしています。
次に、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、AIやIoT技術を使った配送の合理化やサプライチェーン※全体の調整、運びやすさを追求した容器の開発、太陽光エネルギーを使用したCO2からのLPガス生成などに取り組むとしています。
目標11「住み続けられるまちづくりを」に関しては、災害に強いというLPガスの強みを生かします。災害発生時に迅速にLPガスを供給する仕組みを作り上げるとし、その中心になるのが災害対応型LPガスバルク供給システムです。
このシステムはLPガスのバルク貯槽と供給設備、コンロなどの消費設備が一体化したもので、停電などの状況下でも被災地にエネルギーを供給できる仕組みです。
そして、目標13「気候変動に具体的な対応を」については、燃焼効率の高い機器の普及や、熱源から電力と熱を供給するコジェネレーションシステムを応用したエネファーム※の導入などを進めることで、CO2の排出削減に努めるとしています。

まとめ
今回はLPガスの仕組みやメリット・デメリット、都市ガスとの違いなどを中心にまとめました。全国各地で使われているLPガスには、災害への強さや利便性、発熱量の高さといったメリットがあります。しかし、料金設定の高さや不透明さなどがあり、敬遠される面もあります。
とはいえ、安定した供給性や利便性、災害時の強さなどを通じて、SDGsの目標7・9・11・13の達成に貢献できるとしています。そして、石油や石炭よりもCO2排出量が少ないLPガスは、地方の自立的なエネルギー源として活躍するでしょう。
〈参考・引用文献〉
*1)コトバンク・デジタル大辞泉「液化石油ガス」
*2)資源エネルギー庁「災害に強い分散型エネルギー、LPガスの利活用」
*3)NISSHAエフアイエス会社「LPガスの基礎知識」
*4)日本LPガス協会「LPガス事業の現在:生産」
*5)岡谷酸素株式会社「LPガスの供給方法はどんな方法があるの? 」
*6)プロパンガス消費者協会「プロパンガスの料金体系」
*7)プロパンガス料金消費者協会「プロパンガス料金の計算方法」
*8)LPガス安全委員会「LPガスの重量」
*9)株式会社エネアーク関西「LPガス容器のサイズを教えてください」
*10)株式会社INPEX「石油・天然ガスについて知る」
*11)資源エネルギー庁「『令和2年度 エネルギー白書』」
*12)日本LPガス団体協議会「世界のLPガス需給|第7章 LPガスの安定供給」
*13)資源エネルギー庁「2018年5月、「シェール革命」が産んだ天然ガスが日本にも到来」(2018/06/12)
*14)旭リサーチセンター「天然ガス化学、石油化学、石炭化学」
*15)資源エネルギー庁「実施から1年、何が変わった?ガス改革の要点と見えてきた変化」(2018/2/15)
*16)日本LPガス協会「LP ガスが果たす環境・レジリエンス等への 長期貢献について」
*17)エネファームパートナーズ「エネファームって?」