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メタンハイドレートとは?日本の埋蔵量、実用化が無理だとされる問題点を簡単解説

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日本はほとんどの鉱産資源を輸入に頼っている国です。中でも石油・石炭・天然ガスといったエネルギー資源はほぼ100%輸入に頼っています。

こうした状況の中、日本で自給できる可能性があるエネルギー資源に注目が集まっています。それが、メタンハイドレートです。天然ガスの主成分であるメタンガスと水が結びついた物質で、日本近海に大量に埋蔵されていることがわかってきました。

本記事ではメタンハイドレートがどのようなものなのか、何に使えるのか、どうして注目されているのか、実用化に向けてのハードルは何か、SDGsとどのようにかかわってくるかについて解説します。

メタンハイドレートとは

メタンハイドレートとは、天然ガスの主成分であるメタンと水分子が低温・高圧状態で結びついてできた氷のような個体物質です。*1)

火を近づけると燃えることから「燃える水」とも呼ばれている他、「白い石炭」*3)の異名も持ちます。

メタンハイドレート1立方メートルの中に、常温状態で160立方メートル分のメタンガスが閉じ込められています。*3)高密度でエネルギーを埋蔵していることから、効率よくエネルギーが取り出せるのではないかと期待されています。

より理解を深めるために、関連する用語である「メタン」と「ガスハイドレート」について見ていきましょう。

メタンとは

最初にメタンの基本的な情報を整理します。メタンの化学式はCH4で、炭素原子に4つの水分子が結合した炭化水素の一種です。天然ガスの主成分であり、火力発電の燃料として用いられています。融点は摂氏ー183℃、沸点は摂氏ー162℃です。

メタンは、常温常圧の状態では無色・無臭の気体として存在しています。都市ガスのメタンに臭いがついているのは、ガス会社がガス漏れ事故を防止するため人為的に臭いをつけているからです。*2)

【メタンの燃焼】

【メタンの燃焼】
出典:東邦大学*2)

メタンは酸素と結びつく(燃焼する)と、二酸化炭素と水に変化する性質を持っています。メタンガスを燃焼させると温室効果ガスである二酸化炭素を発生させますが、単体でも強力な温室効果を持つ気体です。温室効果に与える影響は二酸化炭素に次いで大きく、実に二酸化炭素の28倍もの温室効果があるとされています。恩恵も大きいものの、取り扱いに注意を要する物質だといえます。

ガスハイドレートとは

ガスハイドレートとは、メタンやエタン、二酸化炭素などのガスと水によって作り出された氷状の物質です。メタンハイドレートも広い意味ではガスハイドレートの一種です。*3)

日本でメタンハイドレートと呼ばれている物質の中には、メタンではなくエタンなどの他のガスを含むものもあります。そのため、国際的にはガスハイドレートの呼称を用いるのが一般的です。*3)本記事では「メタンハイドレート」の語で統一します。

メタンハイドレートが注目されている背景

メタンハイドレートについては、2000年代初頭から研究が進められてきました。なぜ、このように長期にわたって研究・開発が進められてきたのでしょうか。それは、メタンハイドレートには日本が抱えるエネルギー問題解決の糸口となる可能性があるからです。

次世代のエネルギー資源として有望

エネルギー資源を輸入に頼らず確保する方法の一つとして、メタンハイドレートが注目されています。現在、日本はエネルギー資源の大半を輸入に頼っています。天然ガスや石炭といったエネルギー資源のほぼすべてを輸入に頼っている状態です。

【日本の一次エネルギー供給と電源構成】

日本政府は再生可能エネルギーや原子力発電の割合を示すことで、化石燃料を原料とする火力発電の割合を減らそうとしています。しかし、2030年段階でも天然ガスや石炭・石油の割合をゼロにすることはできない見通しです。

その中で2022年から2023年のように、為替相場や国際関係の変化によりエネルギー価格が高騰してしまうと、エネルギー資源を輸入に頼っている日本の電力料金は大幅に上昇してしまいます。

【天然ガス・LNG価格の推移】

そこで日本近海に大量の埋蔵されているとされるメタンハイドレートの開発に成功すれば、日本は自国領域内で安定的にエネルギー資源を手に入れられるのです。

日本近海の埋蔵量

日本周辺に埋蔵されているメタンハイドレートは以下の2つの状態で存在しています。

  • 砂層型メタンハイドレート
  • 表層型メタンハイドレート

【メタンハイドレートの賦存形態】

両者とも水深500m以深の海底面化に存在していますが、砂層型メタンハイドレートは砂質層の中に砂と混じった状態で存在し、表層型メタンハイドレートは海底面や比較的浅い場所にある泥層内に塊になって存在しています。

【メタンハイドレートが存在している場所】

砂層型メタンハイドレートは太平洋側に存在しています。たとえば、静岡県・愛知県・三重県沖にある東部南海トラフ海域には1.1兆立方メートル分のメタンガスに相当するメタンハイドレートの存在が確認されています。これは、日本の天然ガス消費量の約10年分に相当する量です。

一方、表層型メタンハイドレートは日本海側を中心に存在しています。上越沖の1か所だけでも約6億立方メートル分のメタンガスに相当するメタンハイドレートが確認されています。

日本近海に存在するメタンハイドレートの総量は諸説ありますが、一説には12.6兆立方メートルにも及ぶとされています。*9)

メタンハイドレートの実用化に関する現状と最新動向

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繰り返しになりますが、2000年代初頭から日本では、メタンハイドレートに関する調査や実用化に向けての研究が進められてきました。

フェーズ12001~2008年度基礎的研究の推進資源フィールドの選択
フェーズ22009~2015年度生産技術の基礎研究日本近海での産出実験
フェーズ32016~2018年度商業的産出を視野に入れた技術の整備
フェーズ42019~2023年度長期安定生産に向けた技術開発

*8)

ここからはメタンハイドレートからメタンガスを取り出す2つの方法や、世界各国のメタンハイドレート研究についてまとめます。

メタンハイドレートからガスを取り出す方法

天然ガスや石油のように気体・液体であれば、井戸を掘ると周りの圧力に押されて勝手に吹き出してくれます。しかし、メタンハイドレートは海底に固体として存在しているため、井戸を掘っただけでは回収できません。回収するにはメタンガスと水に分離しなければならないのです

具体的には、メタンハイドレートにかかっている圧力を下げるか、温度を上げることで両者が分離し、メタンガスを回収できるようになります。圧力を下げる方法を減圧法、熱を加える方法を加熱法といいます。*10)

【減圧法のイメージ図】

減圧法とは、海面から生産用の井戸(生産井)を掘ってメタンハイドレートの層に突きさし、地層内の圧力を下げて分解を促して、メタンガスを回収する方法です。

加熱法はメタンハイドレート層に熱水を送り込み、メタンガスと水を分離する方法です。2つの方法のうち、現在研究が進んでいるのは減圧法です。その理由は加熱法に比べてシンプルな装置で済み、エネルギー効率が良いからです。*10)このように、メタンハイドレートの活用研究は着々と進んでいます。

世界各国のメタンハイドレート研究

日本以外の各国でもメタンハイドレート研究が進められています。

アメリカ日本とアメリカで共同研究を進める
中国2020年に南シナ海でメタンハイドレート海洋産出試験を実施
インド2019年、ガスハイドレートの掘削調査の結果を発表
韓国過去の掘削データをもとに研究を継続
ニュージーランドニュージーランド沖合の海洋調査を継続

*8)

各国とも新しいエネルギー資源としてメタンハイドレートに着目し、着実に研究を積み重ねていることがわかります。特に、南シナ海でメタンハイドレートの海洋産出試験を実施した中国の動向には注目する必要があるでしょう。

メタンハイドレートの実用化への課題

メタンハイドレートが日本にとって有望な資源であることがわかりました。それであれば「すぐに開発したほうがよいのでは?」と思うかもしれません。しかし、実用化に向けて解決すべき課題もあります。

安定生産する技術の確立

1つ目の課題は安定生産するための技術の確立です。メタンハイドレートは、現在、生産方法などを確立しようとしている段階にいます。そのため、安定して大量生産するための技術はまだまだ検証段階です。

商業生産を軌道に乗せるためには、すくなくとも1つの生産井で5~10年程度、連続してガスを生産しなければなりません。そのためには、陸上で安定生産する技術を確立し、海上での生産に移行させなければなりません。*11)

採掘可能な資源量の正確な把握

2つ目の課題は資源量の正確な把握です。現在は、資源の所在や大まかな量を把握しているに過ぎない段階です。メタンハイドレートの採掘を事業として成り立たせるには、より精密な海洋調査が不可欠です。*11)

商業化に向けたコストダウン

3つ目の課題は商業化とコストダウンの問題です。メタンハイドレートからメタンを取り出すには、巨額の設備投資が必要です。現在のところ、国が主導して設備を建設して施設を運用していますが、事業化する際には民間に移行して商業化する必要があります。*11)

同時に、生産されたメタンガスを陸上に移送するパイプラインの建設も必要です。メタンハイドレートがどれだけ存在していようと、採算が取れなければ絵に描いた餅になってしまいます。

メタンハイドレートとSDGs目標7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」との関わり

メタンハイドレートの採掘は国のエネルギー資源確保という点で非常に重要です。しかし、メタンガスが二酸化炭素の28倍の温室効果を及ぼす気体であることも忘れてはなりません。メタンハイドレートをクリーンなエネルギーとして使うためにどのようにすればよいのでしょうか。

SDGs目標7では、世界中の全ての人が環境負荷の低いクリーンなエネルギーの利用ができるようにすることを目指しています。現在、世界各国では再生可能エネルギーの割合を上げる動きが強まり、火力発電の割合を減らそうとしています。

メタンハイドレートは、地下資源を燃焼させて二酸化炭素を放出させるものであるため、環境負荷をかけてしまうエネルギー資源です。採掘するメタンが空気中に漏れ出してしまえば温暖化を加速させてしまうかもしれません。取り扱いには十分注意する必要があるでしょう。

メタンハイドレートを開発する研究だけではなく、発生する二酸化炭素の回収やメタンガスが漏れださない仕組みづくりも行う必要があるでしょう。

【関連記事】SDGs7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の現状や取り組み事例と私たちにできること

まとめ

今回はメタンハイドレートについて解説しました。エネルギー資源に乏しい日本にとって、メタンハイドレートは日本が自給できる数少ないエネルギー資源です。しかし、採掘技術や大量生産技術が確立されていないため、現在のところ、エネルギー問題の解決にどれだけ貢献できるか未知数です。

とはいえ、ウクライナでの戦争に象徴されるように、国際情勢は冷戦後最も緊迫した状態となっており、エネルギー資源の安定供給の面でリスクが大きくなっていることも否めません。

不確実な現代に生きる私たちは、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス排出のリスクを抑えつつ、自国に必要なエネルギーを安定的に確保するという難しい課題に取り組まなければならないのです。

参考
*1)資源エネルギー庁「知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~メタンハイドレートとは?
*2)東邦大学「メタンの燃焼
*3)明治大学「明治大学 研究・知財戦略機構 ガスハイドレート研究所
*4)資源エネルギー庁「安定供給 | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」
*5)資源エネルギー庁「S+3E | 日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」
*6)資源エネルギー庁「エネルギー危機の今、あらためて考えたい「エネルギー安全保障」
*7)資源エネルギー庁「石油・天然ガス政策について
*8)資源エネルギー庁「メタンハイドレートの研究開発事業 中間評価補足説明資料
*9)ダイヤモンドオンライン「120兆円の価値がある日本のメタンハイドレート。もう石油はいらない?
*10)MH21-S研究開発コンソーシアム「メタンハイドレートからガスを生産する
*11)資源エネルギー庁「メタンハイドレート開発の 今後の在り方について