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劣化ウラン弾とは?威力や放射能による被曝・日本でも使われていた歴史を解説

「劣化ウラン弾」という名称を聞くと、核兵器の一種という印象を持つかもしれません。しかし、劣化ウラン弾は核兵器ではなく、一般的な兵器(通常兵器)の一つに区分されています。

これは劣化ウラン弾が安全だからというわけではなく、単純に核爆発を起こす兵器ではないからにすぎません。砲弾として強力であることに加え、使用している兵士や地域に大きな健康被害をもたらす可能性があるのです。

本記事では劣化ウラン弾とは何か、劣化ウラン弾が開発された歴史、毒性、使用による影響、現在の扱い、SDGsとの関連について解説します。

劣化ウラン弾とは

劣化ウラン弾とは、弾頭に劣化ウランを用いた砲弾のことです。砲弾とは、俗にいう「大砲」の弾のことで、口径20mm以上の火砲から打ち出される弾丸を指します。*1)

砲弾といっても、実はたくさんの種類が存在します。大きく分けると、標的に当たった時に弾頭が爆発して相手を破壊する化学エネルギー弾と、砲弾そのものの重さやスピードによって相手を破壊する運動エネルギー弾の2種類が挙げられます。

今回紹介する劣化ウラン弾は、後者の運動エネルギー弾に属します。質量が重い劣化ウラン弾は、自らの重さやスピードによって相手の装甲を貫く徹甲弾として利用されています。*2)

そもそも劣化ウランとは

では、劣化ウランとはどのような物質なのでしょうか。

劣化ウランは天然に存在するものではなく、人間によって生み出されたものです。核兵器製造や原子力発電で使用するため、天然ウランを濃縮しますが、その際に出てくる残渣(ざんさ)が放射性廃棄物が劣化ウランです。

※残渣

ろ過したあとの残りかすのこと*3)

言い換えれば、核燃料を作るときに排出される残りかすのことであり、各国とも、劣化ウランの扱いに手を焼いています。後ほど詳しく説明しますが、劣化ウランには「重い」という特徴があります。その重さを利用して砲弾として用いているのが劣化ウラン弾だといえるでしょう。

劣化ウラン弾の歴史

イメージ画像

劣化ウラン弾は核兵器や核燃料を生み出すときの副産物であり、質量を利用した兵器だとわかりました。それでは、どのようにして生み出されたのでしょうか。ここでは、劣化ウラン弾の歴史を年表形式で紹介します。

劣化ウラン弾の開発と使用の歴史

1950年代米軍が劣化ウランの軍事利用に注目
 ・劣化ウラン弾の貫通能力に着目
 ・対戦車砲弾、地中貫通爆弾(バンカーバスター)、クラスター爆弾などに使用
1973年第4次中東戦争でイスラエル軍が劣化ウラン弾を使用した可能性あり
 →未確定だが、戦果があったとされる
1982年フォークランド紛争で英海軍が使用した可能性あり
1982年南レバノンに侵攻したイスラエル軍が使用した可能性あり
1989年米軍のパナマ侵攻で使用
1991年湾岸戦争で米英軍が300トン以上を使用
1995年ボスニア紛争で米軍機の機銃弾として2.75トン使用
1999年コソボ紛争で米軍機の機銃弾として8.5トン使用
2003年米軍がイラク戦争で500~2,000トンの劣化ウラン弾を使用した可能性あり
 ・用途は対戦車砲弾、銃弾、バンカーバスター、クラスター弾など
出典:広島市立大学*4)

湾岸戦争における本格使用

劣化ウラン弾が本格的に実践で使われたのは、1991年の湾岸戦争のときでした。クウェートを占領するイラク軍を排除するため、米軍を中心とする多国籍軍は「砂漠の嵐」作戦を実行しました。このとき、300トン以上の劣化ウラン弾が使用されました。*5)

劣化ウラン弾を多用したのは空軍と陸軍でした。米軍のM1エイブラムズやイギリス軍のチェレンジャー戦車をはじめとする戦車部隊が、合計14,000発の劣化ウラン弾を使用または消失※したとされています。

※消失の原因は火災や事故

空軍は、戦車キラーの異名を持つA-10攻撃機をはじめとする空軍機によって、94万発もの劣化ウラン機銃弾を消費しています。これらの攻撃により、イラク軍のT-72をはじめとする戦車はなすすべなく破壊され、クウェートからイラクへの撤退路は死のハイウェーと呼ばれました。

劣化ウラン弾は日本でも使用されたことがある

1995年末と1996年のはじめ、米軍は射撃場がある沖縄の鳥島(久米島町)で1,520発の劣化ウラン弾を「誤射」したことがあります。米軍はあくまでも誤射であるとしましたが、強い毒性を持つ可能性がある劣化ウラン弾を国内で使用していたことは大きな衝撃となりました。*6)

劣化ウラン弾の特徴

劣化ウラン弾は核開発の副産物である劣化ウランの再利用先の一つです。なぜ、劣化ウランを砲弾として使おうとしたのでしょうか。そこには、劣化ウランの重さが関わってきます。劣化ウラン弾の特徴についてみてみましょう。

先ほども述べたように、ウランは非常に重い物質です。さらには非常に硬い物質でもあり、比重が18.9もあります。鉄の比重が7.9であることから鉄の2倍以上も「重い」物質だといえます。重たくてかたい劣化ウランを徹甲弾の材料として用いると、戦車の硬い装甲を貫ける強力な弾丸となります。*7)

劣化ウラン弾の効果はそれにとどまりません。金属ウランは空中で発火するため、火災の効果もあります。加えて、相手に放射能汚染を与えることができます。

劣化ウラン弾の毒性について

劣化ウラン弾の毒性について考えるには、もともとウランが人体に与える悪影響を知る必要があります。その理由としては、劣化ウラン弾で用いられるウランの残渣は、核分裂を起こしにくいウラン238からのものではあるものの、放射線についてはウラン235と変わらず放出するためです。

ここでは、劣化ウランが放出する放射能に関する基礎知識と放射能が人体に与える悪影響についてまとめます。

放射能に関する基本知識

放射能とは、放射線を出す能力を意味する語です。放射能が大きいほど、放射性物質を大量に放出していることになります。放射線を受ける量(被ばく量)は、放射能を出す物質との距離によって変動し、距離が近いほど多く、遠いほど少なくなります。放射線の強さも距離が近いほど強く、遠いほど弱くなります。*9)

放射性物質から、人やモノが放射能をあびることを放射線被ばくといいます。放射性物質の存在により、周囲が放射線被ばくを受けて汚染されてしまうことを放射能汚染といいます。*9)

人が放射線被ばくを受けるのは以下の2パターンです。

  1. 放射性物質が身体の表面につく外部被ばく
  2. 呼吸や飲食、皮膚の傷口から放射性物質が取り込まれる内部被ばく

*9)

劣化ウラン弾の毒性について考えるときは、戦場で使用されるときの外部被ばくと、戦争後に残された放射性物質を、周辺地域の人が取り込む内部被ばくについて考えなければなりません。

放射性物質が人体に与える悪影響

放射性物質は少量であれば人体に大きな影響を与えずに済みます。実際、がんの治療などでも放射線治療が実施されています。しかし、大量の放射線を浴びてしまうと人体に深刻な悪影響を与えてしまうのです。

人間や動物の細胞には、設計図ともいえるDNAが存在していますが、放射線が当たるとその一部が損傷してしまいます。修復が不完全な細胞が生きながらえてしまうと、突然変異を起こしてがん化する可能性があります。*10)

放射能をあびた原爆被害者を調査したところ、骨髄や胃、肺、乳房、結腸、肝臓など、多くの臓器でがんがみつかっています。また、子どもが被ばくすると発がんリスクが大人の2〜3倍と高いことが推定されています。*11)

劣化ウラン弾はどのような影響を及ぼすのか

ここからは、より具体的に劣化ウラン弾を実戦で用いた湾岸戦争や、バルカン半島での戦闘で発生した兵士の健康被害と、湾岸戦争後にイラク南部のバスラで発生した健康被害についてまとめます。

戦場の兵士に現れた影響

湾岸戦争に参戦した兵士の一部が、帰還後に白血病やがん、脱毛症、皮膚の痛みといった症状を訴えました。これら一連の病状をまとめて「湾岸症候群」と呼びます。

湾岸症候群の原因として考えられるのは、イラク軍が使用したとされる化学薬品や神経ガス防御用に投与された薬品、生物兵器用の予防接種、油田火災などで発生した大規模環境汚染などの影響です。

劣化ウラン弾の大量使用も原因の一つとして疑われましたが、米国防総省は調査の結果、湾岸症候群と劣化ウラン弾の因果関係は確認できないとして否定的な立場をとっています。*12)

湾岸戦争以外にも、バルカン半島で起きたボスニア紛争コソボ紛争に参加したNATO軍兵士が、帰還後に白血病や免疫不全、慢性疲労といった体調不良を訴えました。戦場となった地域の住民にも同様の症状がおきたことから「バルカン症候群」とよばれます。

バルカン症候群の原因として疑われているのが劣化ウラン弾です。ボスニア・ヘルツェゴヴィナでは銃弾1万発(約3トン)、コソボ紛争では銃弾3万1千発(約10トン)の劣化ウラン弾が使用された可能性があります。

これについてもWHOや米国防総省は、劣化ウラン弾との関連付けに否定的な見方をしています。*13)

湾岸戦争後のイラク・バスラでの健康被害

劣化ウラン弾は、戦争後も地域に大きなダメージを与え続けている可能性があります。湾岸戦争時、クウェートとの国境に近いイラクのバスラ周辺では約300トンもの劣化ウラン弾が使用されたとされます。

そして戦争終結後、バスラではがんの発生率が大きく増加しています。

【バスラにおけるがんの発生率】

がん発生率
1988年11/100,000
1998年75/100,000
2001年116/100,000
2002年123/100,000
出典:琉球大学情報基盤統括センター*14)

表からは、1991年に起きた湾岸戦争を境に、がん発生率が大幅に増加していることが見て取れます。加えて、バスラではウラン汚染地区と非汚染地区の間でがんの発生率に大きな差があることがわかっています。*14)

リンパ腫の場合は5.6倍、白血病は4.9倍、脳腫瘍は4.4倍などいずれも発生率が大きく増加しているのです。WHOや米国防総省は劣化ウラン弾の健康被害について否定的ですが、戦場となった地域では、劣化ウラン弾の悪影響を疑わざるを得ないデータが出ているのです。

劣化ウラン弾の現在

劣化ウラン弾は健康被害をもたらすのではないかと疑われていますが、実際のところ、各国ではどのように扱っているのでしょうか。各国の劣化ウランの保有量やウクライナ戦争での事例について解説します。

アメリカ・イギリス・ロシア・フランスなどが保有

劣化ウラン弾の保有量に関する最近の統計はありません。その中で、湾岸戦争などで実戦使用したアメリカ以外にもロシア、イギリス、フランスなどが保有しているとされます。*15)これは、対戦車兵器として極めて有効だからです。

ウラン濃縮を行っている全ての国で劣化ウランが入手可能であることを考えると、さらに多くの国が保有していてもおかしくありません

アメリカ・イギリスはウクライナに劣化ウラン弾を供与

2022年2月に始まったウクライナ戦争において、アメリカやイギリスは大量の軍需物資をウクライナに支援してきました。2023年3月には、イギリス政府はウクライナに対し劣化ウラン弾を供与すると発表しました。*16)

また、2023年6月、アメリカのバイデン政権はウクライナに主力戦車エイブラムスを供与する際に、劣化ウラン弾も供与するとウクライナ側に伝えました。*17)

イギリス・アメリカともに劣化ウラン弾の人体への影響に否定的です。また、ロシアも劣化ウラン弾を保有していると推測されることから、ウクライナ戦争で劣化ウラン弾を使った戦闘が激化している可能性があります。

劣化ウラン弾とSDGs目標16「平和と公正をすべての人に」との関わり

劣化ウラン弾は湾岸戦争やバルカン半島での戦争で使用され、その後のイラクでの戦争や現在おきているウクライナ戦争でも使用されている可能性があります。これらの戦闘に参加した兵士の一部が、湾岸症候群やバルカン症候群で苦しんでいます。劣化ウラン弾とSDGsの関わりについて考えてみましょう。

SDGs目標16は、戦争や暴力をなくすことで世界の平和と公正を実現することを目指しています。

劣化ウラン弾は兵器として優秀であることから、実戦でも大きな戦果を挙げてきました。しかし、戦いに参加した兵士や劣化ウラン弾が使用された地域の周辺に住む人に、がんや白血病といった放射線被ばくにかかわる病気の症状が出ています。

アメリカやイギリス、WHOは劣化ウラン弾の使用と健康被害を結び付けることに否定的な立場を取っています。しかし、湾岸戦争などでは使用した兵士や使用された地域に住む人々に大きなダメージを与えている可能性は否定できません。

劣化ウラン弾については賛否両論ありますが、科学的な調査を実施して実態を解明する必要があるのではないでしょうか。

まとめ

今回は対戦車兵器として大きな威力を発揮する劣化ウラン弾を取り上げました。核燃料のごみともいえる劣化ウランの有効活用法の一つではありますが、兵士や地域を汚染してしまう可能性は否定できません。

最近ではウクライナに供与されるなど、劣化ウランの使用が進んでいることを心配しています。アメリカ・イギリス両国は「影響はない」と実態に目をつぶるのではなく、劣化ウラン弾の悪影響についてもしっかり調査・公表する必要があるのかもしれません。

参考
*1)ブリタニカ国際大百科事典「砲弾(ほうだん)とは?
*2)百科事典マイペディア「徹甲弾(てっこうだん)とは?
*3)デジタル大辞泉「残渣(ざんさ)とは? 意味や使い方
*4)広島市立大学「「核に関する諸問題――劣化ウラン」資料
*5)広島大学平和センター「IPSHU 研究報告シリーズ 研究報告No.29
*6)琉球大学情報基盤統括センター「劣化ウランはなぜ恐ろしいのか
*7)京都大学原子炉実験所「劣化ウラン兵器と核サイクル
*8)知恵蔵「ウランとは? 意味や使い方
*9)環境省「放射能」や「放射性物質」との違い、放射線の種類と その特徴などに
*10)環境省「放射線の人体への影響
*11)国立成育医療研究センター「医療被ばくと発がんリスク
*12)原子力百科事典-ATOMICA- 「湾岸戦争症候群
*13)原子力百科事典-ATOMICA-「バルカン症候群
*14)琉球大学情報基盤統括センター「劣化ウランはなぜ恐ろしいのか
*15)日本大百科全書(ニッポニカ)「劣化ウラン弾(れっかうらんだん)とは? 意味や使い方
*16)NHK「イギリス 劣化ウラン弾をウクライナに供与へ ロシアは反発
*17)日本経済新聞「米、劣化ウラン弾をウクライナに供与方針
*18)スペースシップアース「SDGs16「平和と公正をすべての人に」の現状と日本の取り組み事例、私たちにできること