私たちが日々購入する製品やサービスは、環境に優しいものであることが求められており、そうした表示が明記されている商品も少なくありません。しかし、それが本当に環境に優しいのか、どのくらい環境に優しいのかを私たちが正確に把握できる商品がどれだけあるでしょうか。
そうした「わかりにくい」「怪しい」環境配慮型商品の氾濫を防ぐのが環境表示ガイドラインです。環境表示ガイドラインとは何か、その内容や背景、活用の具体事例などを交えながら解説していきたいと思います。
目次
環境表示ガイドラインとは
環境表示ガイドラインは、主に自己宣言により、商品やサービスなどで環境表示を行う事業者(主に企業)を対象に、どのような表示の仕方が望ましいか、という基準やルールをまとめた環境省によるガイドラインです。
この環境表示ガイドラインの目的は
- 環境表示が消費者にとって理解されやすく共感できる有益な情報として機能すること
- 各事業者及び団体が適切な環境情報を提供するための体制を構築し、様々な利害関係者(ステークホルダー)との環境情報に関する相互理解を深めていくこと
(引用:環境表示ガイドライン/環境省)
の2つとされています。
つまり、
- 消費者にとって→何が環境に配慮した商品なのか分かりやすくさせるためのもの
- 事業者にとって→そのためにどんな情報を商品に示すかを分かりやすくさせるためのもの
です。
このガイドラインは、同時に環境配慮型の商品やサービスを選択するグリーン購入を普及させる狙いもあります。これによって、世界全体への環境保全や国内経済の活性化にも寄与するとされています。
環境表示とは
では、製品やサービスで示される「環境表示」とはどのようなものをいうのでしょうか。
環境省では、環境表示について以下のように定義しています。
環境表示
「製品の原料採取から製造、流通、使用、リサイクル・廃棄の段階において、環境に配慮した点や環境負荷低減効果等の特徴を説明したもの」(引用:環境表示ガイドライン/環境省)
このガイドラインで示されている環境表示とは
- 環境ラベル:事業者が「この製品は環境に優しい」という主張を示すために商品に付けるマークや図表、説明文など
- 宣言:事業活動や広告、販促、マーケティングなどで環境への配慮を消費者に訴える情報
であり、商品または取引に直接関係のない環境表示も適用範囲に含まれます。
環境表示ガイドライン作成の背景
環境表示ガイドラインが策定されたのは、今から約15年ほど前の平成20年(2008年)です。
このガイドライン策定の背景にあったのは
- 平成12年「グリーン購入法」
- 平成17年「消費者基本法」
の2つの法律が策定されたことにあります。
グリーン購入法は、環境負荷の低い商品の購入を促進するものであり、そのために必要な情報を提供するためのルールが規定されています。
後者の消費者基本法では、事業者が消費者に対し望ましい環境情報を提供できるような方法や内容を検討することが盛り込まれました。
こうして消費者、事業者双方が分かりやすく、望ましい環境表示のあり方を示すために環境省が策定したのが、環境表示ガイドラインです。
グリーン・ウォッシュ対策
環境表示ガイドラインが作られた背景には、グリーン・ウォッシュが増えてきたこともあります。
1990年代頃から、世界的に環境保護の高まりで環境に優しい商品が求められるようになりました。それに伴い、環境に良いことを謳う商品や、それをアピールする情報・ラベルも増えてきました。
しかしその中には、環境に良いふりをする虚偽の表示をしたり、環境負荷などの不都合な点を隠すような表示をしたりする、グリーン・ウォッシュを疑われるような商品も出回るようになりました。
こうした問題に対処するため、事業者の自主的な環境表示に対し、公的な信頼性や透明性、科学的根拠が求められるようになったのです。
環境表示の現状
ここで、現在広く使われている環境表示にはどのようなものがあるか見ていきましょう。
環境表示は主に商品の包装やパッケージ、広告などの環境ラベルという形で表示され、国際標準化機構(ISO)規格による「環境ラベル及び宣言」に準じています。
これらは同時にJIS規格としても制定されており、それぞれの規格は
- ISO14024(タイプⅠ):第三者機関によって審査・認証される環境ラベル
- ISO14021(タイプⅡ):事業者の自己宣伝によって表示されるラベル
- ISO14025(タイプⅢ):環境負荷の定量的データを表示する。合格・不合格の基準がない
の3種類です。
このほか上記の規格に分類されない環境表示も含めると、環境表示は100種類以上が使われています。
国および第三者機関によるもの
事業者が使用するために、国や第三者機関の認証を受ける必要があるラベルです。
代表的なものとしてあげられるのが
- エコマーク
- グリーンマーク
- 国際エネルギースタープログラム
- 再生紙使用マーク
- バイオマスマーク
- FSC®認証制度(森林認証制度)
などがあります。
中でも良く知られているのがエコマークで、国内唯一の第三者認証によるISO14024(タイプⅠ)に準拠した環境ラベルです。
エコマーク | グリーンマーク | 国際エネルギースタープログラム | 再生紙使用マーク | バイオマスマーク | FSC®認証制度 |
事業者・事業者団体によるもの
事業者や事業者団体が各自の責任において基準を定め、表示するラベルです。
- PCグリーンラベル:一般社団法人パソコン3R推進協会が運営
- 「暮らし、まいにち、エコ。」マーク:ライオン独自基準の環境配慮製品に表示するマーク
- エコシンボル:NECが定めた環境配慮基準を満たす製品を認証・登録し表示するマーク
などがあげられます。事業者が独自に定めるものは基本的にISO14021(タイプⅡ)に準拠していることが求められていますが、環境省が品質を保証しているものではなく、ISO14021の基準を満たしていない表示も少なくありません。
リユース・リサイクルのための表示
「資源有効利用促進法」に基づいて表示される、分別回収を促進するマークです。
缶やPETボトル、紙製容器、プラスチック製容器包装、電池など指定表示製品に指定されている多くの製品での表示義務があるため、環境表示ガイドラインでの環境表示には該当しません。
ただし、3本の矢で循環を表す「メビウスループ」(下の写真のマーク)はISO14021(タイプⅡ)で使用方法が規定されているため、ガイドラインでも使用に関するルールが明記されています。
環境表示ガイドラインのポイント
環境表示ガイドラインを理解し活用する上で、押さえておきたい重要なポイントにはどのようなものがあるでしょうか。
ガイドラインの対象
環境表示ガイドラインの対象になるのは、事業者及び事業者団体です。
ここでいう事業者は経済活動上の直接の利益を伴う企業などを指し、製造事業者、輸入事業者、販売事業者が含まれます。
事業者団体とは、共通の利益を受ける2つ以上の事業者からなる団体や社団・財団法人などを指し、〇〇協会、〇〇組合、〇〇工業会、連合会などがそれらに当たります。
なお、事業者としての利益増進を目的としない学術団体や社会事業団体、宗教団体などは対象となりません。
必要な国際規格
環境表示ガイドラインは、主に事業者などの自己宣言による表示に対する説明を行なっています。
そのため、原則としてISO14020(一般原則)とISO14021(タイプⅡ)規格に準拠することが必要とされます。
同様に、事業者が再生紙使用マークやバイオマスマークなどの第三者機関が運営するマークなどを使用する場合でも、ガイドラインでのISO14021(タイプⅡ)規格で要求される事項を満たす必要があります。
ISO14021(タイプⅡ)規格に準拠するには?
環境表示ガイドラインでは、事業者が自己宣言による環境主張を行う際に準拠すべきタイプⅡ規格の要求事項として、以下の5つの基本項目を求めています。
- あいまいな表現や環境主張は行わないこと
- 環境主張の内容に説明文をつけること
- 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能であること
- 製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
- 評価および検証のための情報にアクセスが可能であること
(引用:環境表示ガイドライン/環境省)
とされています。重要なポイントとなりますので、それぞれの項目についてもう少し具体的に掘り下げてみましょう。
あいまいな表現や環境主張は行わないこと
「環境に安全」「地球にやさしい」「グリーン」などの大雑把で漠然とした表現は、消費者に誤った印象を与えかねません。同様に環境主張を行う目的で、自然の映像やデザイン、野生動物や植物をイメージしたシンボルマークなども使うべきではありません。
環境主張の内容に説明文をつけること
環境主張単独では誤解を与えるおそれがある場合は、説明文を付けなければなりません。そのためには
- 正確で、誤解を与えないもの
- 実証されていて検証可能でなければならない
- 存在しない環境改善の示唆や主張の誇張をしてはならない
- 環境改善において比較の根拠を具体的に明示しなければならない
など、さまざまな面からチェックする必要があります。
環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能であること
ISO14021(タイプⅡ)では、環境に優しいという主張を評価・検証するための方法が用意されていること、評価は文書化されて情報公開の対象であることを規定しています。
製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
ISO14021(タイプⅡ)では、他製品との比較を行う場合、公表された規格や承認されている方法で試験され、同一または類似の比較可能な製品に限ることが定められています。
比較する際の項目としては
- 製品または工程に関わる評価
- LCA評価による比較
- 数値などによる比較
- 評価および主張の検証方法の優先順位
が定められています。
評価および検証のための情報にアクセスが可能であること
これは環境表示に対する情報開示と、情報アクセスが可能であることを求めるものです。
ある製品の環境主張が本当かどうかを検証するために、企業秘密にあたる情報を必要としてはなりません。事業者は環境主張の検証を求める人には誰でも、適切かつ合理的な方法で情報を公開することが求められます。
環境表示ガイドラインの活用法
事業者が自己宣言による環境表示を行う場合は、前章のポイントで解説したようなポイントを踏まえて、環境表示ガイドラインを活用していくことが求められます。
国際規格のチェックリストを使う
ISO14021(タイプⅡ)規格に準拠するためのポイントについては前述しましたが、実際にガイドラインを利用するためには、チェックリストに基づきより細かく適合状況を確認する必要があります。
環境表示ガイドラインの第3章には、「3−3 国際規格(タイプⅡ規格)の要求事項に係るチェックリスト」が示されています。必ずISO14021(タイプⅡ)の内容を確認した上で、自社で展開したい商品についての環境情報がすべての要求事項に適合するかどうかをチェックしていきましょう。
活用事例①ライオン株式会社
ライオン株式会社は、自社で打ち出す環境スローガン「暮らし、まいにち、エコ。」と環境マークを合わせた「暮らし、まいにち、エコ。」マークを作成しました。
作成に当たっては、資源やエネルギー消費、廃棄物や汚染物質の排出、生態系への影響など、自社独自のエコ基準を設定し、基準を満たした製品に表示を行なっています。同時にISO14021(タイプⅡ)のチェックリストをクリアすることで、環境省の環境ラベルデータベースへも登録されています。
活用事例②株式会社トンボ鉛筆
株式会社トンボ鉛筆では、事業の継続を踏まえた地球への環境負荷低減を課題と捉え、早い段階からエコマーク商品の認定やPEFC-CoC認証(国際的な森林認証)取得など、環境配慮商品を展開してきました。
2023年にはこれらの認証と自社の独自基準の両方を満たした「Green Tombow」という環境ラベルを制定。同ラベルはISO14021(タイプⅡ)の基準もクリアしており、商品には、シンボルマークと環境配慮事項の説明文が記載されています。
環境表示ガイドラインとSDGs
環境表示ガイドラインは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成に重要な役割を果たします。
目標12.「つくる責任 つかう責任」
最も関連の深い目標はこの「つくる責任 つかう責任」です。
環境表示ガイドラインに則って、企業が正しい基準とルールを遵守し環境に配慮した製品を作ることや、消費者が正しい情報をもとに環境に配慮された適切な商品を選ぶことは
ターゲット12.4「国際的な枠組みに従い、製品ライフサイクルを通じ、環境上適正な化学物質やすべての廃棄物の管理を実現し、人の健康や環境への悪影響を最小化するため、化学物質や廃棄物の大気、水、土壌への放出を大幅に削減する」
を実現するものであり、持続可能な生産消費形態の確立につながります。
このことは、同時に目標13「気候変動に具体的な対策を」や、目標14「海の豊かさを守ろう」目標15「陸の豊かさを守ろう」とも関連してきます。
まとめ
環境表示ガイドラインは、企業が環境配慮型商品を作るためにも、私たちが環境に正しく配慮された商品を選ぶためにも、非常に重要になる基準です。
日々私たちが手にする商品には実にたくさんの環境表示が溢れており、そのすべてを把握することは困難です。しかし、環境表示ガイドラインとその骨子を支えるISO14021(タイプⅡ)を正しく理解することで明確な道筋が通り、持続可能な生産と消費の助けとなります。次に店頭で商品を手にした時は、環境表示とその内容について深く考えてみるのもいいかもしれません。
参考資料
環境表示ガイドライン|環境省
環境省_環境ラベル等データベース_環境表示ガイドライン
環境ラベル等データベース – 環境省
環境表示ガイドラインとは?企業の環境主張に求められるポイントを解説 | 株式会社ゼロック (zeroc.co.jp)
環境ラベルとは?種類とさまざまなマークの意味、企業の活用メリットをご紹介|ヨシダ印刷株式会社
環境ラベル等データベース_「暮らし、まいにち、エコ。」マーク
「暮らし、まいにち、エコ。」マーク表示製品一覧 – LION
Green Tombow | 株式会社トンボ鉛筆