ユネスコスクールを表明している学校をご存じでしょうか? 令和6年現在、日本では1,090校が加盟しているネットワークです。加盟申請中の学校も多数あります。校舎や敷地内、あるいはホームページで提示されているプレートやマークを目にした方もおられるかもしれません。
今回は、そんなユネスコスクールについて分かりやすく解説していきます。学生や保護者の立場の方ばかりではなく、多く方々が携わる機会があるユネスコスクールの活動です。ぜひ参考になさってください。
目次
ユネスコスクールとは?
ユネスコスクールとは、正式名をASPnet(UNESCO Associated Schools Prpject Network)といい、ユネスコ憲章の理念を実現するために活動する学校のことです。
1953年に、15か国33項で発足して以来、現在は世界182か国で12,000校以上が加盟して活動しています。日本国内の加盟校は、令和6年3月時点で1,090校となり、1か国当たりの加盟校数としては世界最大となっています。申請中の学校(「ユネスコスクール・キャンディデート」と呼ばれます)もあり、広がりを見せています。
出典・参考:ユネスコスクールについて – ユネスコスクール 公式ウェブサイト
活動目的
ユネスコ憲章前文には最初に次のように記されています。
戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。 |
出典・参考:国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章),The Constitution of UNESCO:文部科学省
つまりユネスコスクールは、この憲章前文に則り「児童生徒の心の中に平和のとりでを築く」ことを目的としているのです。
この目的に向かって、基本的人権と人間の尊厳、ジェンダー平等、社会的進歩、自由、公正、正義と民主主義、多様性の尊重、国際的な連帯などを推進します。
4つの柱について
ユネスコスクールは、前述の目的に向かって活動を進める上で、ユネスコが提唱する教育理念の「学びの4本柱」を重視しています。
各柱は、具体的には次のような活動を指しています。
1 知ることを学ぶ
複雑な世界の理解に備え、将来の学習のための基礎を作る
2 為すことを学ぶ
グローバル化する経済や社会において機能をするためのスキルを身につける
3 人間として生きることを学ぶ
個人がそれぞれ知的・社会的な可能性を活かせる、バランスの取れた情緒と身体を育む
4 共に生きることを学ぶ
個人や社会が平和的に共存できるよう、社会のあらゆるレベルでの人種・民主主義・異文化理解と尊重・平和と人間関係に触れる
そして学校自体が目的を目指す活動をするだけでなく、国連や国内のユネスコ機関および関連機関、さらにはユネスコスクール同士の活発な交流も求められています。
日本においてユネスコスクールの活動を主導・支援する文部科学省及び日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールをESDの推進拠点として位置付けています。
ユネスコスクールとESD
ここでは、ユネスコスクールの理解を深める上で欠かせないESDについて詳しく見ていきましょう。
ESDとは?
ESDとは、「持続可能な開発のための教育: Education for Sustainable Development 」の略称です。
教育の重要性は今までも多くの分野、研究者・実践者によって取り上げられ検討されてきましたが、ESDは、ユネスコが提示する環境・社会・社会の問題を「持続可能」という視点から見直した学習・教育活動です。そして、持続可能な社会を構築していく人を育てることを目指しています。
SDGsとの関わりも深く、ユネスコスクール事務局は、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」に関連する、以下のテーマに重点的に取り組むことを日本のユネスコスクールに求めています。
- 地球市民および平和と非暴力の文化
- 持続可能な開発と持続可能なライフスタイル
- 異文化学習および文化の多様性と文化遺産の尊重
出典・参考:別 紙 平成 24 年 8 月 20 日 日本ユネスコ国内委員会 ,ユネスコスクールガイドラインについて ,ESD (Education for Sustainable Development) – MEXT
ユネスコスクールに期待されること
ESDの目指すところは現行の学習指導要領にもすでに反映されていて、「生きる力」といった概念や、総合学習を軸にしたカリキュラムに見ることができます。
しかし日本においては、まだまだ課題を抱えています。そこで、ユネスコの理念を強く意識し、国際機関・専門機関の支援を受けて活動するユネスコスクールは、「持続可能な社会」実現に向けて日本の課題を乗り越えていく推進拠点としての発展が期待されているのです。
ユネスコスクール加盟校の取り組み事例
【ガザ地区のビーチで遊ぶ友人グループ】
ユネスコスクールは、実際どのような活動をしているのでしょうか。加盟校の取り組み事例をご紹介しましょう。
事例①福島県只見町立只見中学校:上流から海洋プラゴミをなくす
只見中学校は山間部にありながらも、新潟の海の様子から海洋プラスチックごみに強く関心を持ち、上流からそれをなくそうという活動に取り組んでいます。
具体的な取り組みとしては、
- 紙素材のレジ袋を作成し、地元のコンビニや調剤局で採用してもらっている
- 作り方教室を開催し、新入生や地域の人々にも紙製レジ袋を広めている。
- 「ペット・フリー・マンデー」を設け、月曜はペットボトル飲料を飲まないことを推奨している。
- 自分たちの活動をSNS等で、広く広報している。
- 大学の催しや研究発表会などに積極的に参加している。
等です。
この他にも、ブナ材でSDGsバッジやコキアを使った「ゼロ・カーボン・ほうき」を作るなど、地元の素材を活かした活動を展開しています。
只見町は、町をあげてSDGsやESDに取り組んでいて、小学校からそれらについて学んでいます。中学校ではその流れを受けてさらに深く、広く学ぶことができているのです。
基礎から学んで成長し、経験を重ねた子ども達は、ユネスコの理念実現を牽引していく力を備えたと言えるのではないでしょうか。
参考:只見中学校ホームページおよび只見町立只見中学校 – 福島県ホームページ
事例➁神奈川県横浜市立東高等学校:持続可能なシティズンシップの醸成
【ESD day】
1953年にスタートした当初はたった2校だったユネスコスクール高等学校も、今では200校余りになっています。横山東高等学校は、ASPユニヴネット ※ から優良実践事例として認定された実績を持つユネスコスクールです。
東高等学校の実践は、次の4つの特徴にまとめることができます。
・ESD委員活動
ESDに関わる活動の推進役です。
・グローカル ※ シティズンシップ・キャンプ
地域に多くの留学生がいるという特色を生かし、英語でコミュニケーッションを取りながら、ユネスコやSDGsの目標について話し合ったり、グループごとにワークショップを企画したりします。
・ESD day 設定
1年に1度、学年別に、先進的活動をしている大学や、社会問題や地球規模の課題に取り組んでいる企業の行事に参加しています。講演会や分科会に出席するばかりでなく、地元のテレビ局に情報を発信する方法を学んだりもしています。
・YSF( Yokohma Student Forum )参加
YSFは、横浜商業高校国際学科主催の高校生国際会議です。県内の他のユネスコスクールとの交流も盛んです。
【グローカルシチズンシップキャンプ】
環境や貧困など、世界的規模(グローバル)の課題を身近なアクション(ローカル)から解決するというグローカル・シティズン・シップは確実に醸成されているようです。
事例③富山県富山市立堀川小学校:市電を通してまちづくり
【富山地方鉄道南富山駅】
中・高等学校から始まったユネスコスクールも、近年は500以上の小学校も関わっています。富山市立堀川小学校は、高齢化社会と地方創生の課題に駅に関わる活動を通して取り組んだ小学校です。
総合的な学習の時間や社会科の学習を通して、堀川小学校の6年生が取り組んだ活動は次のようなものです。
- 市電を題材に社会構造と交通手段との関連の歴史を学び、考える。
- 駅に携わる人へのインタビューやアンケートを行う。地域のまちづくりに携わる人や企業人を外部講師に招き、学んだことを深める。
- 「くらしづくり集会」での発表で発信力を養う。
- パネルディスカッションやイベントを開き、地域や市役所へ企画を提案する。
【アンケート配布】
【くらしづくり集会】
発信力を培い、市役所への提案行動まで行うところがまさにユネスコスクール、と言えます。
高齢化社会は多くの地方にとって共通する深刻な課題です。その中で、堀川小学校の事例は大いに参考になるのではないでしょうか。小学生から社会的な課題に主体的に目を向けた経験は、今後地域の活性化を考える行動に繋がっていくことでしょう。
参考:富山市立堀川小学校ホームページ,事例紹介 – ユネスコスクールSDGsアシストプロジェクト
ユネスコスクールに加盟するメリット
現在約200ほどの学校が、キャンディデートとしてユネスコスクール加盟を望み、認定されるのを待っています。ユネスコスクールに加盟するとどんなメリットがあるのでしょう。
7つのメリット
文部科学省が日本におけるユネスコスクール加盟のメリットを次の7つにまとめています。
1.国内外の学校間交流・連携の活性化 2.ユネスコが主催する国際会議やプロジェクトへの参加 3.教育実践に関する最新の教材や情報の入手 4.国内のユネスコスクール対象の研修会等への参加 5.ユネスコスクールサポーターズからの活動支援や指導助言 6.国内および国際的な加盟校専用ポータルサイトでの情報発信や交流 7.ユネスコロゴの使用 |
加盟することで、パートナーを得る機会が格段に広がり、交流によって自らの活動が深まることが大いに期待できます。
ユネスコスクールサポーターズとは?
メリットの5つ目にある「ユネスコスクールサポーターズ」には、前述のASPUnvやユネスコスクール事務局を含め、次のような団体があります。
ユネスコ協会連盟 | 全国に約270あるユネスコ協会・クラブの連合体組織 |
ASPユニヴネット | ユネスコスクールの活動を支援する大学のネットワーク |
ESD活動センター | 学校と地域・企業等をつなぐ中間支援組織。文部科学省と環境省によって全国センター及び地方8センターが設置されている。 |
ユネスコスクール事務局 | 文科省からの委託を受け、ユネスコスクールの活動に係る多岐にわたるサポートを提供 |
この他多くの企業や団体が関連団体として登録しており、幅広く支援を受けられることは、大きなメリットと言えます。
各サポーターの支援の実際および関連団体についてはこちら
ユネスコスクールに加盟するデメリット・課題
メリットばかりではなく、デメリットも見ていきましょう。現在の課題・その原因をまとめていきます。
継続する難しさ
加盟資格としては、「ユネスコの理念に沿った取り組みを継続にしている」ことが必要とされているのみで、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、義務教育(小中一貫)学校、中高一貫学校、高等専門学校、教員養成大学等、国公私立を問いません。
また、加盟や継続のために費用はかかりません。
しかし加盟校には、年間計画・年次報告の提出、国連・ユネスコ関連行事への参加、活動の積極的発信が求められています。始めはサポーターの力を借りたり、先進校の例を参考にしたりしてスタートしても、うまく継続できているか不明な学校があります。加盟校が増える中、登録後のフォローが追い付いていない状況です。
また、地域によって登録校数のばらつきが大きくなっています。原因を探り、フォローの仕方を工夫する必要があります。
関連機関の役割の整理
現在、ASPuniv は、ユネスコスクールの審査と支援の両方という難しいことを担っています。加盟希望校が増えれば、当然、その審査も大変になります。加えて、サポーターや協力団体も増えており、役割分担の明確化が求められています。
また、日本のユネスコスクールはESDの推進拠点となっていることから、ESD関係の諸団体との関連も含めて総合的な確認・整理が必要です。
登録校や候補校が増え、協力組織も増えている状況は嬉しいことです。
しかし、1953年にスタートしてから70年あまり経ったのです。現況に合わせた見直しは必須とも言えるのではないでしょうか。
出典・参考:資料3-1 ユネスコスクールの状況と課題及び今後の方向性について
ユネスコスクールに関してよくある疑問
ユネスコスクールを目指したいが、と考えられる学校・関係者の方もおられるかと思います。ここからは、ユネスコスクールに関してよくある疑問にお答えしていきます。
ロゴの使用方法は?
【ユネスコスクール加盟校ロゴ】
ユネスコスクールは、ユネスコとの繋がりを示すために、加盟校のロゴを使用することが推奨されています。ロゴはユネスコスクール事務局から入手することができます。
使用に関しては次のような条件があります。
- 誤解を招かないよう慎重に使用する。
- 販売用の品物や製品に使用してはならない。
- 各校が発信・出版等をした内容については、「ユネスコは責任を負うものではない」という免責事項を掲載する。
- 加盟校以外の者に使用を認めてはならない。
- 使用した結果については加盟校が全責任を負う。
商標使用には不慣れな学校もあるかもしれません。デザインのレイアウトや文字についても規定があるので確認する必要があります。
出典・参考:ユネスコスクール(ASPnet) メンバーズガイド 【仮訳】
加盟方法は?
日本の学校がユネスコスクールとしての承認を得るには、まずユネスコスクール公式ウェヴサイトから加盟申請書を取得することから始めます。
申請書類を提出し、原則として1年以上のチャレンジ期間を経て国内審査に望みます。この間、ASPUniv の担当大学が支援します。
おおまかな流れは下の図のようになっています。英語で記入するものもありますが、状況に応じてユネスコスクール事務局やASPUniv から翻訳サポートが提供されます。
流れの各段階の詳細はこちらからご覧になれます。
また、校種で申請書類の提出先が異なるので、下記の窓口一覧を参考になさってください。
ユネスコスクールとSDGs
最後にユネスコスクールとSDGsの関わりをみていきましょう。
日本でESDの推進拠点となっているユネスコスクールは、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」を軸に、他のすべての目標に関わってきます。国連や国内のユネスコ機関および関連機関、さらにはユネスコスクール同士の活発な交流も求められているユネスコスクールですので、ここでは特にSDGs目標17「パートナーシップで目標を実現しよう」との関わりをとりあげます。
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」との関わり
目標4には10のターゲットがあります。そのうちの4.7には「教育を通して、持続可能な開発を促進するために必要な知識とスキルを確実に習得するようになる」ということが明記されています。
日本でユネスコスクールがESDの推進拠点とされるのも、このターゲットの具現化といえるでしょう。「持続可能」といった視点で学習し、地域や企業との交流を通して実践的な行動を体験した若い世代は、多くのSDGs目標の達成していく人材となるでしょう。
関連記事:ESDとは?いつから始まった教育か、日本・世界の取り組み具体例などを解説 – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』
SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」との関わり
目標17に含まれるターゲットは19あります。その中に<マルチステークホルダー・パートナーシップ>としてまとめられたターゲットが2つあります。
マルチステークホルダーとは、目標達成を支援するために、知識・専門知見、技術、資金源を動員・共有する関係者のことです。ターゲット17.16と17.17には、そのマルチステークホルダーの補完・強化、奨励や推進の必要性が述べられています。
ユネスコスクールの計画書や報告書には「ホールスクール」という言葉がよく見られます。
まずは、全校生徒で方向性を共有するところからスタートとしているということです。
そして小学生は保護者や地域の方から始まり、中学生以上になると国内の広い範囲から海外との交流を深めていっています。支援する大学組織もあり、大人の専門家・実践家との交流もあります。そしてユネスコを通じての国際イベントにも参加します。
このように深まっていくユネスコスクールの取り組みと広がりは、マルチステークホルダーの活用に直結する姿と言えます。
まとめ
ユネスコスクールについて、活動目的や内容、ESDとの関連、メリット・デメリットと課題をまとめてきました。多くの加盟校の中には、まだまだご紹介したい事例がありましたが、小・中・高各1校ずつ紹介させていただきました。
ユネスコスクールに加盟するには多くの手順が必要に思えます。短いとは言えないチャレンジ期間もあります。しかし地球規模的な諸問題を解決することが不可欠かつ緊急な近年、若い世代がこのような学習や実践を広げてくれていることは、頼もしいことでなないでしょうか。多くの支援団体があるという現状も、その期待の表れと言えるのではないでしょうか。
居住区あるいは故郷などににユネスコスクールがあれば、その活動をステークホルダーとして支援することで、私たちもSDGs目標達成の一助を担えるのではないでしょうか。
<参考資料・参考文献>
ユネスコスクールガイドブック(文部科学省)
ユネスコスクールについて – ユネスコスクール 公式ウェブサイト
国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章)/The Constitution of UNESCO:文部科学省
別 紙 平成 24 年 8 月 20 日 日本ユネスコ国内委員会 ユネスコスクールガイドラインについて
ESD (Education for Sustainable Development) – MEXT
International Day of Friendship | United Nations
事例紹介 – ユネスコスクールSDGsアシストプロジェクト
Think globally, act locally!
只見中学校ホームページ
只見町立只見中学校 – 福島県ホームページ
ユネスコスクール – 東高校ESD取り組み概要
ASPUniv推薦優良実践事例
富山地方鉄道南富山駅 | フォトライブラリー | 【公式】富山県の観光/旅行サイト「とやま観光ナビ」
富山市立堀川小学校ホームページ
事例紹介 – ユネスコスクールSDGsアシストプロジェクト
資料3-1 ユネスコスクールの状況と課題及び今後の方向性について
ユネスコスクール(ASPnet) メンバーズガイド 【仮訳】
ユネスコスクール加盟申請の手引き 第四版
SDGs:蟹江憲史(中公新書)