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発酵食品とは?種類と最強の効果、デメリットと体にいい理由を簡単に解説

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各地にそれぞれ名物ともいえる発酵食品があります。また、私たちの体を維持する基本である「食」を正しく理解することは、とても有効なアンチエイジングであり、病気・ケガ予防の重要な対策にもなります。

健康対策としても力を発揮し、まちづくりにもつながる発酵食品について一緒に学んでいきましょう。

発酵食品とは

発酵食品とは、食材を微生物の作用で発酵させ加工した食品のことです。

歴史はとても古く、紀元前6000年頃のワイン醸造の遺跡が残っていたり、発酵パンをつくる人の姿が、古代エジプトの王墓の壁画に描かれていたりするほどです。

では、そもそも発酵とはどのようなことを指すのでしょうか。

発酵とは

発酵とは、微生物の働きで物質を分解させ、人間にとって有益な変化をもたらす現象のことです。同じように微生物がはたらいても、人間にとって害になるもの腐敗といいます。

発酵に関わる微生物には、主に次の3種類があります。単体で食材に関わる場合もあれば、複数で関わり合う場合もあります。

微生物特徴種類発酵食品
カビ糸状の構造をもつ真菌類。菌糸を伸ばして増える。麹菌・白カビ・青カビなど酒・味噌・チーズなど
酵母真菌類の一種。ブドウ糖をアルコールと炭酸ガスに分解する。イースト菌などワイン・ビール・パンなど
細菌球菌・桿菌 ※・らせん菌などの形状がある。分裂して増える。乳酸菌・納豆菌・酢酸菌などヨーグルト・キムチ・納豆・酢など
※ 桿菌(かんきん)

細長い棒状の形をした細菌の総称

次に、どんな発酵食品があるのかみていきましょう。

発酵食品の種類

国内ばかりでなく、世界中には実に様々な発酵食品があります。食材別に整理してみます。

豆類納豆・醤油・味噌・豆板醤・テンペ 他
魚介類鰹節・塩辛・くさや・魚醤 他
肉類生ハム・サラミ 他
乳製品チーズ・ヨーグルト・サワークリーム 他
野菜・果物ぬか漬け・キムチ・ピクルス・ワイン 他
穀類パン・酒・甘酒・米酢・黒酢・みりん 他
その他チョコレート・コーヒー豆・紅茶・ウーロン茶 他
発酵食品データベース(農研機構)を参考に筆者作成

画像は左から

  • 豆板醤(中国):ソラマメと唐辛子を食材とし、麹菌などで発酵
  • テンペ(インドネシア):大豆をクモス黴で発酵
  • 魚醤(東南・東アジア):原材料(魚)そのものが持つ酵素による発酵

となっています。

世界には、1,000種類を超える発酵食品があると言われています。

大豆から様々な発酵食品ができているように、その土地の食材と気候風土の組み合わせで生まれた発酵食品は、地域の食文化をよく表しています。

味や香りに対する好みにも、その土地の生活・習慣が色濃く反映しています。例えば外国の方にはたくあんや納豆が、日本人にはベジマイト(野菜をイースト菌で発酵させたオーストラリアの食品)が苦手という人が多いようです。

このように、発酵食品は古代から、しかも世界中で作られてきました。それは、大きなメリットがあるからです。

発酵食品を取り入れるメリット

発酵食品には様々な魅力がありますが、特に注目すべき3つのメリットをご紹介します。

保存性がアップする:腐敗菌増殖を防ぐ微生物

発酵に関わる微生物が増殖すると、ph値 ※ が低くなるなど、その微生物に適した環境になっていきます。ph値が低い環境下では腐敗菌は繁殖しづらくなり、腐敗を防ぐことにつながります。

また、酵母が発生させるアルコールの殺菌効果腐敗菌の生育を抑えています。その結果、発酵食品は長期保存が可能になるのです。

※ ph(ペーハー)値

水素イオン指数。液体が酸性なのかアルカリ性なのかを表す尺度。1から14までの値を使い、7を中性としてそれより小さい値は酸性、大きければアルカリとなる。

味も香りも風味がよくなる

例えば大豆は、そのまま口にしても「風味がある」とは言いにくいものです。しかし発酵させると、うま味の成分であるグルタミン酸イノシン酸が生まれます。

大豆ばかりでなく、下のグラフに見られるように、生ハムやチーズも発酵後のうま味成分が大きくアップします。

栄養価が増える

発酵食品にはうま味成分だけでなく、ビタミンB群などをはじめとする抗酸化物質が豊富に含まれています。

※ 抗酸化物質

抗酸化(体の酸化つまり錆びつくこと)を防ぐ作用。老化や生活習慣病の予防につながる。

下の表は、ぬか漬け3種を比べたものですが、ビタミンB1が大幅に増えていることを示しています。

<ビタミンB1の比較>

食品発酵(ぬか漬け)
きゅうり0.03mg0.26mg
だいこん(根)0.02mg0.33mg
かぶ(葉)0.02mg0.31mg
食品成分ランキング(文部科学省)より筆者作成

また、「発酵とは、微生物の働きで物質を分解させること」とお話ししましたが、タンパク質やデンプンも消化・吸収されやすいように分解されます。この分解作用がどのように健康増進につながるかは、「なぜ体に良いのか」の章でもう少し詳しくお話ししますが、ひとまず注意すべき点も含めたデメリットもみていきましょう。

発酵食品のデメリット

ここではチーズを例にとってお話しします。

チーズは、冒頭で挙げたワインと同様すでに古代に誕生し、日本でも「蘇(そ)」というチーズの元祖が平安時代の記録に出てくるほど、歴史のある代表的発酵食品です。

鶏卵や原料となる牛乳の成分と比べてみます。

可食部100gエネルギー(Kcal)タンパク質(g)脂質(g)食物繊維(g)塩分(g)
プロセスチーズ31322.726.002.8
牛乳1423.03.800.1
鶏卵10212.210.200.4
参考:乳類/<牛乳及び 01.一般成分表-無機質-ビタミン類 (mext.go.jp)

完全食品ではない

表に見られる通り、チーズとなることでタンパク質が大幅に増えていますが、食物繊維は0のままです。また表にはありませんが、カルシウムやカロチンが多く含まれる反面、残念ながらビタミンCは0になってしまいます。

野菜や果物と一緒に摂取することが大切だと言えるでしょう。

カロリーや塩分の摂り過ぎに注意

表からは、脂質が多い分総カロリーも増えていることも読み取れます。摂取量に気を付けたり、脱脂乳から作られるチーズなどを選んだりするとよいでしょう。

チーズに限らず、発酵食品には塩分の多いものがあります。アジア各地の漬物類や調味料も塩分が多いので、摂り過ぎに注意しましょう。

薬との相性

ワーファリン納豆の組み合わせについて耳にされた方も多いと思います。

納豆は、抗酸化栄養素のビタミンKが豊富です。しかしビタミンKは血栓予防・治療の薬のワーファリンの効果を抑えてしまうのです。

他にもチーズやワインなどに多く含まれるチラミンは、血圧を上げる働きがありますが、血圧抑制剤や抗結核剤などの働きを弱めてしまいます。

飲んでいる薬との組み合わせについては、医師や薬剤師によく相談しましょう。

なぜ発酵食品が体に良いのか

メリットの章で、発酵食品は「栄養価がアップ」するとお話ししました。栄養価がアップすることがどのように体によい影響を及ぼすのか整理していきます。

腸内環境を整える

発酵食品を作る微生物は、デンプンのような高分子の栄養をブドウ糖などのより細かな分子分解していきます。

実際の分子構造はもっと複雑ですが、図のように長くつながっていたものが、少ない分子構造に変わっていくイメージです。タンパク質も同様に、より少ない分子構造のアミラーゼに分解されます。

細かになるので消化・吸収しやすくなり、必要な栄養成分が体にスムーズに取り入れられるようになります。

微生物は分解作業だけでなく、腸内細菌 ※ や血中のコレステロール ※ のバランスを整えます。それらのバランスが整えば免疫力アップにも繋がります。

※腸内細菌

いわゆる善玉菌・悪玉菌・日和見菌。理想的な割合は個人差があるが、善玉菌>悪玉菌になる事が大切。

※コレステロール

悪玉コレステロールは動脈硬化の原因となる。こちらも善玉コレステロールが減らないようにすることが大事。

代謝がよくなる

腸内環境や血液の流れがよくなれば、当然代謝もよくなります。老廃物の排出、つまり便秘なども解消され、肥満防止・解消につながります。

ストレス解消・老化防止

乳酸菌に含まれるアミノ酸の一種であるGABA は、抗ストレス作用があるとして注目されています。神経の興奮をしずめ、リラックス効果があるので、眠りの質もよくなります。

人間はストレスを解消する力を元々持っているものの、加齢や疲労、強いストレスなどで不足がちになる現代です。アンチエイジングのためにも発酵食品で補うことは、とても良いと言えるでしょう。

発酵食品に関してよくある疑問

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発酵食品は体に良いことをまとめましたが、それでも疑問が残る点があるかもしれません。1つずつ考えていきましょう。

食べ続けるとどうなる?:自分の体を知って

発酵食品は腸内環境を整えます。そのため、適量を摂り続けることは良いことです。

しかし元々お腹の弱い人は、一度に摂りすぎては消化不良になってしまう可能性もあります。

また、空腹時にキムチなどの辛い発酵食品を単品でたくさん食べることも不安です。お酒の飲み方も気を付ける必要があります。

初めて訪れた外国で、土地の名物だからといって独特の発酵食品を摂るのも気を付けたほうがよいでしょう。

そう考えていくと、自分の体の特性をよく知り、タイミングを考えて、適量を摂ることを続けることが、発酵食品のよさを1番享受できるのではないでしょうか。

効果は本当なの?

発酵食品の効果は科学的データとして徐々に発表されています。1つ実証例を挙げます。

下のグラフは、2020年1月に国立がん研究センターが発酵性大豆食品摂取量と死亡リスクの関連について発表したものです。

同センターは、研究の結論を

  • 発酵大豆食品の摂取量が多いほど総死亡リスクが低い
  • 納豆の摂取量が多いほど循環器疾患死亡リスクが低い

としています。

    <発酵性大豆食品摂取量と総死亡リスクの関連>

ダイエットにも良い?

代謝がよくなるということは、ダイエットにも効果があります。

しかし、塩分が多く含まれるものもあるので、摂り過ぎはむくみの引き金になる場合があります。

市販の商品には、加糖ヨーグルトのように元の食品に甘味を加えてあるものもあり、カロリーが多くなっている場合もあります。カロリーや塩分を商品表示でよく確かめて、摂取量に気を付けることをお勧めします。

手作りできる?

最近は、ホームベーカリーも多くの種類があります。

麹店などの製造元から家庭で手軽に発酵食品作りに挑戦できる商品が販売されるようになりました。作り方もパンフレットやホームページで紹介されています。

ご家庭で、自分流の発酵食品作りが楽しめます。

最強の発酵食品は?

国立がん研究センターも取り上げ、ベジタリアンの方々の重要なタンパク源、そして日本のソウルフードといっても過言でない「最強の発酵食品」は、やはり納豆ではないでしょうか。

納豆だけでなく、大豆由来の発酵食品は、調味料や飲料と幅広く作られています。近年大豆の利用範囲は、大豆ミートやバイオ燃料にまで広がるなど、多くの可能性を秘めています。

しかし、心臓に不安があってワーファリンを服用していたり、関西出身で納豆になじまない読者の方もおられるでしょう。ご自分の好み・生活スタイルでそれぞれ「最強」の発酵食品を選んでください。

おすすめ発酵食品:発酵飲料2選

たくさんの発酵食品から和洋の代表として納豆とチーズを取り上げましたが、発酵飲料にもおすすめがありますのでご紹介します。

アフタヌーンティーで心身のリラックスを

アフタヌーンティーの習慣は、17世紀のイギリスから始まりました。上流社会の習慣でしたが、当時の政府が、庶民が飲酒におぼれるのを防ぐために推奨したこともあり、中産階級にも広まっていきました。

ではなぜ「ティー」だったのでしょう。実はお茶も発酵食品の仲間で、当時から「薬」としての効用が知られていたのです。

お茶は発酵の有無によって、「不発酵茶」「半発酵茶」「発酵茶」の大きく3種類に分けられます。発酵の度合いは下のようになっています。

紅茶は発酵茶の代表格です。日本の緑茶のように摘み取り後すぐの「蒸す」「炒る」といった加熱処理をしないので、酵素による発酵が進み発酵食品としてのメリットが持続します。

日本のお茶にも乳酸菌を加えて微生物発酵させた、碁石茶(高知県)や阿波番茶(徳島県)などがあります。中国原産のプーアール茶も微生物発酵茶です。

午後のひと時を好みのお茶で過ごせれば、リラックス効果も大きく期待できそうですね。

馬乳酒:草原からの贈り物

最後に少し珍しいお酒、モンゴルの馬乳酒をご紹介します。

馬乳酒は文字通り馬の乳を原料とした醸造酒で、乳製品でもあります。馬乳に含まれる乳糖が酵母に分解・発酵されてできます。アルコール分は2%程と低く、酸味があってヨーグルトのようなさっぱりした風味があります。牛の皮や胃袋などで作った袋に入れて何回も撹拌して作ります。

この酵母は特別な環境の中でしか生息しないこと、作り方もユニーク、しかも馬の乳は夏の3か月程の期間しか搾乳できないため、とても貴重な発酵飲料といえます。

筆者がモンゴルの村のゲル(画像にあるような伝統的住居)を訪れた時は、歓迎の意をこめてでしょうか、大きめの小鉢に入れて出してくれました。夏の草原を馬を駆って行ったので、2%のアルコール度でもとても心地よく、「お代わり」をお願いしたらあきれながらもごちそうしてくれました。体も心も元気になりました。

日本各地そして世界中のお酒も、その地域の食文化の現れと言えるでしょう。

発酵食品とSDGs

最後に、発酵食品とSDGsの関係をみていきましょう。

SDGsは、環境・社会・経済の問題解決に向けて、2015年に国連総会で採択された17の国際目標です。2030年までの解決を目指し、169のターゲットが設定されています。

発酵技術は食品ばかりでなく、抗生物質を始めとする薬の開発、バイオエネルギー生産など、持続可能な社会実現のために応用や研究の範囲を広げており、いくつもの目標に関連しています。

その中でも「食文化」をキーワードとすると、

に深く関わってきます。

「健康」との関連は本文でもお話ししてきたので、ここでは目標11との関連についてみていきます。

和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのを機に、農林水産省では「食で地域を元気にする」プロジェクトを展開してきました。そしてプロジェクトのナビの役目を担う「日本食文化ナビ:NOTE」を作成しました。

出典:日本食文化ナビ(農林水産省)

この中では「発酵の技」は「日本の偉大な加工技術」と記され、食文化を軸として地方創生の動きに弾みをつけるねらいです。

まとめ

発酵食品について、種類やメリット・デメリットをまとめ、よくある疑問にもお答えしてきました。発酵飲料も含むさまざまな発酵食品は、健康志向の高まりにも後押しされ、成分や応用分野の研究も進むにつれてクローズアップされてきています。

「人生100年時代」とも言われます。発酵食品を上手に選び摂取することは、健康寿命を大いに伸ばしてくれることでしょう。

そして地域の食文化に関心を持つことで、まちづくりにも貢献できれば嬉しいですね。

<参考資料・文献>
「発酵」の不思議:農林水産省:農林水産省 (maff.go.jp)
発酵について(日本発酵文化協会)
発酵食品データベース
食品成分ランキング(文部科学省)
うま味の基本情報
3分で簡単「デンプンの分解」消化酵素のはたらきとは?
大豆ファミリー
緑茶、ウーロン茶、紅茶の違いはなんですか? サントリーお客様センター (suntory.co.jp)
日本食文化ナビ(農林水産省)
発酵・醸造の疑問:東京農業大学応用生物学科醸造科学科(成山堂書店)
発酵食品づくり:林弘子(晶文社)
発酵食品を楽しむ:金内誠(ナツメ社)
はっこう:小川忠博(あすなろ書房)
「発酵食品」の奇跡:小泉武夫(文藝春秋)
発酵食品の科学:坂本卓(日刊工業新聞社)
発酵の技法:Sandor Ellix Katz著・水原文 訳(オライリー・ジャパン)
発酵ー伝統とかき真の微生物利用技術:杉山政則(共立出版)
発酵:斎藤勝裕(ベレ出版)