2023年の夏の平均気温は、平年を1.76℃も上回る猛暑で、過去最高を更新しました。そのせいで、体調を崩した人もいたかと思います。
気温が高くなると心配になるのが熱中症です。天気予報でも「熱中症に注意」という言葉を何度も耳にしたことでしょう。しかし、熱中症がどのような症状かと聞かれたら、きちんと説明できないかもしれません。
本記事では熱中症の原因や応急措置の方法、熱中症にならないための予防策、初期症状などについて解説します。
いざというときに対応するための参考にしていただければと思います。
熱中症とは
熱中症とは、高温環境にさらされることで起きる障害の総称です。主な症状は脱水やけいれん※などがあります。*1)
脱水とは、体にとって必要な水分や電解質※が不足している状態のことです。
夏の暑い屋外で長時間作業を行っているにもかかわらず、水分やミネラルを十分に補給しない状態が続くと、熱中症になるリスクが上昇します。
通常、温度が高い場所などで仕事や運動をしているときに発生した熱は、汗をかいたり、体の表面から逃げたりすることで、体の中にたまらずに適切な温度を保てます。
しかし、蒸し暑い場所などで運動や仕事をし続けていると、体の熱がいつも以上に上がってしまいます。最初は汗をかいて熱を放出できますが、そのうち体の水分が減少して血流が悪くなります。すると、熱をうまく排出できず、体に熱がたまっていきます。この症状こそが熱中症なのです。*5)
日射病との違い
熱中症という言葉とは別に、日射病や熱射病という言葉を聞いたことがあるかもしれません。炎天下で作業や運動した時に発生する症状を日射病、体の中の熱を発散できない症状を熱中症と呼び分けることもありますが*4)、2000年以降はまとめて「熱中症」と呼ばれるようになりました*6)。
そう考えると、熱中症という大きなカテゴリーの中に、日射病や熱中症と呼ばれていた症状がまとめられたといってよいでしょう。
熱中症の段階(レベル)
かつて日射病や熱射病などと呼ばれていた症状は、現在、症状の度合いによって3つのカテゴリーに区分されています。症状の程度によって比較的軽度のⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度に区分されていますので、それぞれの詳細を見てみましょう。
Ⅰ度(軽症):応急措置と見守り
Ⅰ度はかつて熱失神や日射病、熱けいれんなどと呼ばれていた症状をまとめたものです。主な症状は以下のとおりです。
- めまい
- 立ちくらみ
- 生あくび
- 筋肉中
- 筋肉の硬直(こむら返り)
- 意識障害はない
*7)
手足がしびれたり、不快な気分を訴えることもあります。これらの症状は、基本的に現場で対応可能とされ、涼しいところで安静にすることや体の表面を冷やすこと、水分やナトリウムを口から補給するといった応急措置で対応可能です。これらの措置をしても改善が見られない場合は病院に搬送して措置してもらいましょう。
Ⅱ度(中等症):医療機関で措置
Ⅰ度よりも重症度が増した状態がⅡ度です。かつての区分でいえば熱疲労(熱ひはい)に当たります。主な症状は以下のとおりです。
- 頭痛
- 吐き気
- 嘔吐
- 倦怠感
- 虚脱感
*7)
体がぐったりしていたり、力が入らなくなったりするなど、明らかにいつもと違う状態が見られます。集中力や判断力も低下することも特徴です。Ⅰ度よりも脱水が進んだ状態ですので、医療機関で診察を受けたうえで、体温管理や安静が必要な状態です。水分とナトリウムを口から取り入れたり、点滴で補給をしたりといった措置が必要です。
Ⅲ度(重症):救急搬送や入院が必要
Ⅲ度は、措置を受けるだけではなく入院して治療しなければならない状態です。以前は熱射病とよばれていました。Ⅱ度の症状に加えて、以下の症状が発生します。
- 意識障害
- けいれん
- 手足の運動障害
- 高体温
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- 血液凝固障害
*7)
意識障害は、呼びかけても返事がない状態のことです。ここでのけいれんはⅠ度と異なり、体がガクガクとひきつけを起こしている状態です。運動障害はまっすぐ歩けないレベルですので、かなり深刻に見えます。
Ⅱ度とⅢ度の区分は、救急隊員や病院到着後の診断で判明します。肝機能障害や腎機能障害、血液凝固障害についても病院で検査を受けるとわかります。もし、身近な人が意識障害、激しいけいれん、運動障害などの症状になっていたら迷わず救急車を呼びましょう。
熱中症の原因
熱中症は単に「のぼせた」といった状態ではなく、時には命に関わるような状態にまでなってしまいます。なぜ、熱中症になってしまうのでしょうか。熱中症は「環境」「からだ」「行動」の3つの要素が組み合わさって発症します。それぞれの内容を見てみましょう。
環境的要因
熱中症になりやすい環境としては、主に気温や湿度、輻射熱、空気の流れといった要素が考えられます。
温度が高くなると体に熱がこもりやすくなるのは理解しやすいと思います。湿度は空気中に水分がどのくらい含まれているかを示したものです。
湿度が高いということは、空気中に多くの水分が含まれている状態です。そのため、湿度が高くなると汗をかいても蒸発しにくくなります。そうなれば、汗の蒸発で体温が低下しにくくなってしまうため、熱中症リスクが増加してしまうのです。*8)
気温や湿度、輻射熱などの要素をもとに算出される指数として暑さ指数(WBGT)があります。暑さ指数が大きくなれば、熱中症のリスクが増加すると考えてよいでしょう。日本スポーツ協会は暑さ指数をもとに熱中症の予防方針を示しています。*8)
【運動に関する指針】
WBGT31以上、気温(乾球温度)35℃以上のときは、原則すべての運動を注視するべきとしています。WBGT28〜31、気温31〜35℃で激しい運動を中止する厳重警戒、WBGT25〜28、気温28℃〜31℃で積極的に休憩をとる警戒と定めています。
運動や屋外での作業、室内であっても高温環境で過ごす場合は、気温で28℃以上のときには要注意であることがわかります。
身体的要因
熱中症には、身体的要因もあります。一般に高齢者や乳幼児、肥満の人は熱中症になるリスクが高いとされています。栄養が十分摂取できていない低栄養状態の人や糖尿病、精神疾患を抱えている人も発生リスクが高いと指摘されています。*10)
一時的な体調不良も熱中症の要因となります。たとえば、下痢やインフルエンザで脱水症状気味の人や二日酔い、寝不足なども熱中症の発生リスクを上げてしまいます。熱中症リスクを下げるには、規則正しい生活を送り、体調不良や寝不足の状態にならないようにすることも重要なのです。
また、高齢者の場合は激しい運動などを伴わなくても熱中症になるリスクが高くなってしまいます。主な理由は以下の3つです。
- 体内の水分が不足しがち
- 暑さを感じにくい
- 暑さに対する体の調節機能の低下
高齢者は若者に比べて体内の水分量が少ないにもかかわらず、老廃物を輩出するために尿を多く排出します。結果として、体内の水分量が不足しがちになるのです。*11)
加えて、年齢を重ねると暑さやのどの渇きの感覚が鈍くなるため、水分不足に気づきにくくなります。さらに、熱を排出する力が若い人よりも弱いため、体に熱をため込みやすくなってしまうのです。*11)
行動的要因
熱中症を引き起こしてしまう行動もあります。長時間屋外で作業する人や激しい運動をする人、水分補給が不十分な人も熱中症リスクが高くなってしまいます。*10)
具体的には屋外作業が多い土木工事、学校の部活動などの場面が想定されます。室内であっても、高温・高湿の状態で窓を閉め切っていたり、エアコンを使用していなかったりすると熱中症になるリスクが上がります。「もったいない」といわず、エアコンを上手に活用して熱中症を防ぎましょう。
熱中症だと感じたら?
「もしかして熱中症?」そう思ったときに何をすればよいのでしょうか。熱中症が疑われるときは、できるだけ早く症状を確認し、応急措置をする必要があります。ここでは、環境省の「熱中症予防情報サイト」*12)にしたがって、熱中症の応急措置や効率よく冷やせる場所を紹介します。
治し方は?
熱中症の疑いがあるときは、次の3つの応急措置を施す必要があります。
- 涼しい場所に移動させる
- 脱衣と冷却
- 水分や塩分の補給
最初に行うべきことは、涼しい場所に移動させることです。屋外であれば風通しの良い木陰に移動させ、少しでも涼しい環境に避難させましょう。動かせる状態であれば、エアコンが利いている室内に運ぶのがベストです。
移動が終わったら着衣を脱がせたり、ゆるめたりして風通しを良くします。衣服を着たままの状態では熱の放散が妨げられ、体温を十分下げられないためです。そして、露出させた皮膚に水をかけたり、扇風機で風を当てたりして体を冷やします。下着の上から水をかけることも効果的です。
体の内部の体温(深部体温)が40℃を超えると、Ⅲ度の症状である全身けいれんや血液が固まらない血液凝固障害などの症状も現れますので、体温を落とすことが何よりも大切です。救急車を呼ぶ事態になったとしても、それ以前に体を冷やしておくことはとても大事です。
水を飲める状態であれば水分や塩分を補給します。冷たい飲み物は、体の内部の温度を落とし、脱水状態の緩和もできます。塩分を補充するにはスポーツドリンクや経口補水液が効果的です。食塩があれば、水に混ぜて摂取させてもよいでしょう。
自力で水分を摂取出来ないときはⅡ度の症状に近いですので、できるだけ早く医療機関で診察を受ける段取りを整えましょう。
どこを冷やせばいい?
体温をできるだけ早く落とすには、体表近くある太い静脈を冷やすのが効果的です。大量の血液がゆっくりと心臓に戻っていく血管ですので、そこを冷やすと体温が低下しやすくなります。*12)
具体的には、首の前(前頸部)の両脇、脇の下、足の付け根(鼠径部:そけいぶ)を冷やすとよいでしょう。保冷剤、氷嚢、冷えたジュースなどをタオルにくるんで冷やす場所に当てます。市販のジェルタイプのシートには熱を下げる効果がないため、熱中症対策としてはあまり適切ではありません。
熱中症の予防策は?
熱中症の原因や応急措置については理解できました。ですが、最もよいのは熱中症にならないことです。ここでは、熱中症を予防するためのポイントを3つの観点から解説します。
体のコンディションを整える
1つ目の予防策は熱中症にならないよう、体のコンディションを整えることです。大事なことは以下の3点です。
- こまめに水分を補給
- 適度な塩分摂取
- 快適な睡眠
*13)
忙しかったり、何かに気を取られていたりすると水分補給をせずに長い時間過ごしてしまうかもしれません。のどが渇いたと思わなくても、こまめに水分をとるようにしましょう。汗をたくさんかいたときは、スポーツドリンクを飲むのも効果的です。ただし、運動をしない状態で糖分が多いスポーツドリンクを飲むと、体重増加の原因になるので注意しましょう。
たくさん汗をかいた日などは塩分補給も必要です。しかし、あまり意識しすぎて過剰に塩分を取ってしまうと高血圧の原因となってしまうため、うまく調整しましょう。
睡眠が不足すると体調を崩す確率が上がってしまいます。寝苦しい夜でも十分な睡眠をとれるよう、エアコンや扇風機などを上手に使用するようにしましょう。
暑さ対策をする
暑さについて認識し、十分対策することも重要です。暑さの認識とは、その日の気温や湿度を気にかけることです。自分がいる環境が熱中症になりやすいか否かについて認識し、それに備えて対策を進めることが肝心です。
エアコンをつかって室温を下げる、綿や麻など通気性の良い素材を使った衣服を身につけるなどして、体に熱がたまらないようにしましょう。下着は吸水性や速乾性に優れたものを着用するのが効果的です。
直射日光を避けることも重要です。日陰を選んで歩いたり、日傘をさしたりするなどして直射日光に当たらないよう工夫しましょう。氷枕やスカーフといった冷却グッズを使うのもよいでしょう。
暑さへの備えをして外出する
暑い日はなるべくエアコンなどが効いた部屋で過ごすとよいのですが、炎天下に外出しなければならないときもあるでしょう。そんなときは暑さから身を守るための備えをして出かけましょう。
ここでも大事なのは水分補給と休憩です。出かけるときに水筒を持っていき、いつでも冷たい水分を飲めるようにしておくと、外が暑くても安心です。汗をたくさんかくときは水だけではなく塩分などミネラルも補給できるスポーツドリンクなどが効果的です。
水筒にスポーツドリンクを入れるのに抵抗がある人は、水1リットルに1〜2グラム程度の食塩を入れた食塩水を入れても差し支えありません。街なかを移動するのであれば自販機でスポーツドリンクを購入してもよいでしょう。
炎天下の中で歩き続けると、水分がどんどん失われてしまいます。日差しの中で移動したり作業したりするときは適度の休憩を入れましょう。土木工事の現場のように暑さにさらされる屋外作業ではさらにこまめな休憩が重要です。
「こまめ」の基準は作業現場で異なりますが、1時間に1度の休憩と水分補給を取ることが多いようです。*14)
熱中症に関してよくある疑問
ここまで、熱中症の基本知識や症状の段階、原因、応急措置、予防策などについて解説してきました。ここからは、熱中症に関するよくある質問のうち3つを取り上げ、Q&A形式で解答していきます。
初期症状は?
熱中症の初期症状には以下のようなものがあります。
- めまい
- たちくらみ
- 一時的な失神
このうち、一時的な失神は熱失神とよばれます。熱失神は脳の血流が減少することで発生します。
体温が上昇すると体は体温を下げようと皮膚の血管を広げます。立ったままの姿勢でいると、血液が足の方に溜まり、脳の血液が不足してしまいます。その結果発生するのが熱失神です。*15)
熱失神の場合、立っている人が突然倒れるといった場合もありますので注意が必要です。
また、呼吸回数の増加や唇のしびれ、全身のだるさ、吐き気といった症状を伴うこともあります。*16)
熱中症で頭痛が発生することもある?
熱中症の症状の一つに頭痛があります。軽度な症状とされるⅠ度のときに頭痛が起きることがあります。Ⅱ度ではよくみられる症状です。Ⅱ度では頭痛のほかに吐き気や嘔吐、倦怠感、虚脱感など前進のだるさを感じます。
この状態を熱疲労、あるいは熱疲弊などといいます。頭痛以外に全身症状が出ていたら医療機関で診察を受けたほうがよいでしょう。
何日で治る?
熱中症からの回復は症状の度合いによって決まります。軽症であるⅠ度であれば、休憩して症状が回復することが多いので、その日のうちに回復するでしょう。
Ⅱ度であっても、点滴などで症状が改善すれば、その日のうちに治療が終わります。翌日にふらつきや食欲低下などの症状が見られた場合、念のため翌日も安静にした方がよいですが、概ね1日以内に回復します。
Ⅲ度の場合は個々の状態によって回復までの見通しが決まります。ただ、重症化していない場合は1日以内で症状が回復しますので、回復後は普通の行動をしても問題ありません。(不安がある場合は医師に相談するようにしてください。)
熱中症予防はSDGsとも関係する!
熱中症の原因の一つが夏の高温です。2023年は観測史上最も暑い年になる可能性も指摘されているほど暑い夏でした。その原因の一つとして指摘されているのが地球温暖化による気候変動です。
目標13「気候変動に具体的な対策を」との関わり
【SDGs目標13の概要】
SDGs目標13は気候変動に対して具体的な対策を打つことを求めています。気候変動とは、気温の極端な上昇・低下や降水量の偏りなどの変化のことです。その原因として考えられているのが地球温暖化です。
私たちがこれまで排出してきた二酸化炭素により地球温暖化が進んでいると考えられています。
気象庁が発表した1876年からの猛暑日日数を見てみると、明らかに日数が増加していることがわかります。
【東京の年間猛暑日日数】
特に、2000年以降の日数増加は顕著です。これだけ猛暑日が増えると、熱中症が増加しても全く不思議ではありません。実際、熱中症の患者数は2010年以降大きく増加しています。
【熱中症による救急搬送数(6~9月)】
猛暑日の増加と熱中症の救急搬送数にある程度の関連性があり、猛暑日の原因の一つとして地球温暖化があるといえます。
まとめ
今回は熱中症について解説してきました。年々猛暑日が増えている中、以前よりも熱中症に備える必要性が増しています。熱中症は環境・身体・行動の3つの要素が絡み合って発症します。
熱中症にかかっている人に対しては体を冷やすための応急措置を施しましょう。その後、症状が収まらなければ、医療機関で診察を受ける必要があります。
熱中症が増加している背景には夏の気温上昇があります。都市特有のヒートアイランド現象も大きな理由の一つですが、地球温暖化による気温上昇も要因の一つとして考えられます。
現段階で私たちができることは、地球温暖化を遅らせるため二酸化炭素排出量を減らし、脱炭素社会実現のために努力することではないでしょうか。
参考
*1)デジタル大辞泉「熱中症(ねっちゅうしょう)とは?」
*2)デジタル大辞泉「電解質(でんかいしつ)とは?」
*3)ナース専科「痙攣とは?痙攣の種類と原因、アセスメントのポイント」
*4)鹿児島県医師会「日射病と熱射病」
*5)日本気象協会「熱中症のメカニズム | 熱中症ゼロへ」
*6)日本気象協会「医師が教える熱中症の基礎知識 | 熱中症ゼロへ」
*7)熱中症予防サイト「熱中症になったときには」
*8)熱中症予防サイト「暑さ指数(WBGT)について学ぼう」
*9)日本スポーツ協会「熱中症予防のための 運動指針」
*10)熱中症予防サイト「熱中症の基礎知識」
*11)高齢者のための熱中症対策「高齢者のための熱中症対策」
*12)熱中症予防サイト「3.熱中症を疑ったときには何をするべきか」
*13)日本気象協会「医師が教える熱中症の基礎知識 | 熱中症ゼロへ」
*14)厚生労働省「建設現場における熱中症対策事例集」
*15)熱中症予防サイト「2.熱中症はどのようにして起こるのか」
*16)日本気象協会「めまい、立ちくらみ、失神…熱中症の初期症状に気を付けましょう!」
*17)スペースシップアース「SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の現状と私たちにできることを徹底解説 – SDGsメディア『Spaceship Earth(スペースシップ・アース)』」
*18)気象庁「大都市における猛暑日日数の長期変化傾向」
*19)熱中症予防サイト「3.熱中症はどれくらい起こっているのか」