マグロやタイなどのお寿司、焼き魚、ムニエルなど、魚料理は美味しいですよね。
しかし近年、「サンマなどの大衆魚が不漁」「全体の漁獲量も年々減少」「乱獲による生態系の減少」などの問題がニュースで報じられるようになり、これらの問題をそのままにしておくと、近い将来、魚が食べられない日が来るかもしれません。
解決に向けて取り組みを進めていかなければならない中で、これからも持続的に魚を食べていくために注目されているのが「未利用魚」の活用です。
本記事では、未利用魚について注目されている理由やサステナブルとの関係などを詳しく解説していきます。また、未利用魚を購入できるサイトやレシピも紹介しているので、ぜひ生活の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。
目次
未利用魚とは?読み方は?
未利用魚とは、「サイズが不揃い」「漁獲量が少ない」「鮮度が落ちやすい」などの理由で、市場に出回らずに利用されない魚のことを指します。読み方は「みりようぎょ」です。
使われることがあっても頻度が低いという意味で「低利用魚」、目的のものに混じって獲れてしまうしまうため「混獲魚(こんかくぎょ)」とも呼ばれています。特定の地域でしか獲れず、他の場所では食べられていないことから「地魚」と呼ばれることもあります。
未利用魚はどうなる?活用方法は?
これらの未利用魚は、一般的には漁の時点で獲らない、もしくは獲れても逃がすなどの対応がされているそうですが、それでも漁獲されたものについては、
- 鮮度が落ちやすいスケトウダラをカマボコ、ちくわに
- 小魚はすり身にしてさつま揚げや練りものに
- 脱皮直後の柔らかいエビを「ソフトシェルシュリンプ」(皮ごと食べられるエビ)として販売
- 肥料や飼料
- 頭や内臓などからはDHAやEPAなどサプリメントの原料となる魚油
などとして活用されています。
とはいえ、活用しきれないものは廃棄されているのが現状です。正確な数値は出されていないものの、2020年のFAO(国際連合食糧農業機関)の報告から計算すると、日本においては年間100万トンが廃棄されていることになります。
未利用魚である理由
では、なぜ未利用魚になってしまうのでしょうか。ここではその理由を詳しく解説していきます。
知られていない
例えばスーパーで、ニザダイ、オジサン、アイゴといった知らない名前の魚を見つけても、なかなか手が伸びないと思います。味の想像がつかず、どう食べたら美味しいのかも分かりません。つまり、あまり知られていない種類の魚は購入されにくく売れないため、市場に出回らずに未利用魚となります。
毒・トゲが危険
毒やトゲが危険という理由で未利用魚になるケースもあります。
例えば、毒のトゲを持つアイゴという魚は、一部の地域においてその美味しさから高級魚とされていますが、他では「毒の処理に関する知識を持つ家庭が少ない」「トゲを取り除くのが手間」といった理由から、あまり利用されていません。
量を確保できない
たまにしか獲れなかったり、獲れても少量であったりする場合も利用されにくくなります。飲食店では定番のメニューにしにくく、スーパーなどの小売店でもラベルを新しく用意したり価格を考えたりと、不定期な商品には手間がかかってしまうため、敬遠されがちです。
大量に獲れすぎた
反対に、たくさん獲れすぎた場合は、
- 漁船に積みきれない
- 売れ残りが発生する
などの理由により未利用魚となるケースがあります。
サイズが大きすぎる・小さすぎる
「規格外野菜」が店頭に並びにくいことと同様に、魚も規格に合わない場合は値段がつけにくいため、利用されにくいとされています。
例えばタイ。タイは市場で「2kgのタイを5匹で10kg」をひとつの単位として取り引きされるケースが多く見受けられます。しかし、この単位に入れられない大きさのものは「はんぱもの」とされ、安く取り引きされる、もしくはなかなか買い手がつきません。
見た目やイメージが悪い
魚の見た目やイメージが悪い場合も、利用されにくくなっています。
例えば、サメの一種であるドチザメは、本来、鮮度がよければ匂いは気にならないと言われているものの、「サメは臭い」というイメージが強いことから敬遠されてしまうのです。
また、上品な白身でどんな料理にも合うイラという魚は、ウロコが固くて加工しづらいことに加えて、頭が大きく見た目がよくないという理由で売れないため、市場にはあまり出回りません。
他にも、魚に噛まれた傷などがあれば、流通できない場合もあります。
部位による未利用もある
頭や内臓などの部位による未利用も目立ちます。「苦い」「見た目が苦手」「加工方法がわからない」といった理由で廃棄されてしまいがちですが、技術の進歩や新たな調理法が定着すれば解決できることもあります。
例えば、現在は高級食材である大トロは、江戸時代には保存技術がなくすぐに痛んでしまうため、大部分が食用にはならずに肥料などに利用されていました。技術の進歩が未利用部位を減らした例と言えるでしょう。
なぜ未利用魚が注目されているのか?
さまざまな原因から未利用魚となってしまうことが分かりました。ではなぜ今、未利用魚の活用が注目されているのでしょうか。その理由を見ていきましょう。
漁獲量が年々減少している
大きな理由として、漁獲量が年々減少していることが挙げられます。
上の図は日本の漁獲量を示しています。1990年をピークに漁獲量が減少していることが分かります。2021年にはさらに減っておよそ319万トンとなりました。
なぜ漁獲量が減っているのかを考えていきましょう。
原因1:乱獲
海の中の生態系は、図のようにさまざまな要素が循環することで成り立っています。このうち食用にしている魚だけを多く獲りすぎてしまうと、生態系バランスが崩れる原因となってしまいます。
実際、FAO(国際連合食糧農業機関)発表の資料によると、乱獲が進んでいることが分かります。
青色のアンダーフィッシュ(まだ余裕がある資源の割合)が年々減少しており、オレンジ色の乱獲の割合が増えています。日本でも、不漁の年は稚魚まで根こそぎ獲ってしまうような漁が行なわれたこともあり、現在において漁獲できる魚の量が少なくなっているのです。
原因2:気候変動
地球温暖化などの気候変動も漁獲量が減っている原因のひとつです。
※図の青丸は各年の平年差を、青の太い実線は5年移動平均値を示す。赤の太い実線は長期変化傾向を示す。
図からも分かるように現在地球温暖化によって、日本近海の水温は上昇傾向にあります。これにより、魚の生育地域にも変化が見られるようになりました。下の図は、マサバの産卵場の変化を表したものです。
1980年から2010年の間に、おおよそ北上してきていることが分かります。また、他にも北海道でブリが豊漁となったり、サワラの分布域が北上したりと、これまででは考えられないような事態が発生するようになりました。
その結果、漁において予測が立てにくくなり、漁獲量も不安定になる可能性が高まることが考えられます。漁獲量が不安定であれば、安定した収入も得られなくなります。現在、漁業人口の高齢化により担い手が減っている中で、稼げないとなれば漁業従事者の増加は期待できません。
これらの背景から、未利用魚を利用することで
- 漁獲量の安定確保
- 漁業の活性化
ができるのではないかと期待が集まっているのです。加えて、近年のサステナブル意識の高まりが、未利用魚活用の追い風となっています。
サステナブル意識の高まりにより、未利用魚の活用が漁業活性化の鍵に
未利用魚を利用することは、少ない資源を最大限に利用し、生態系に負担をかけずに供給を増やすことにつながります。また、使い道がなかった魚から利益が発生することで、収入も増えて漁業経済の活性化にもなります。
とはいえ、未利用魚をどう消費者に伝えていくかが課題でした。その中で近年、SDGsの認知が広まってきたことにより、サステナブルへの意識も高まりつつあります。これまで、おいしくても日の目を見なかった未利用魚を、サステナブルの潮流の中においては、「社会課題の解決になるなら」と試しに食べてみる人も増えるかもしれません。その結果、おいしさに気づいてリピートするようになれば、漁業地域でも新たな販路を確保することができるのです。
未利用魚を活用するための取り組み
では、具体的に未利用魚を活用するためにどのような取り組みが行われているのでしょうか。
認知度を高める工夫
現在の流通では、漁船で獲れた魚をすぐに冷凍できるなど、鮮度を保ったまま消費者に届けるシステムが確立しています。そのため、次に必要なのが多くの人に未利用魚の存在を知ってもらうことです。
そこで、水産庁や自治体など公的機関では消費者の認知度向上に努めています。給食のメニューに取り入れたり、高校や大学と共同で未利用魚を使った特産品を開発したりと、さまざまな取り組みが行なわれています。また、水産庁の補助金制度では約40事業が対象となっており、未利用魚となっている深海魚のせんべいや、小魚のハンバーグなどが開発・販売されています。
未利用魚サブスクも登場

他にも民間では、漁師から直接購入できるサービス・アプリや、サブスクリプションなどが登場するなど、未利用魚の露出を増やそうと努力しています。ここでは2つほど、未利用魚のサブスクリプションサービスを紹介します。
Fishlle!(フィシュル)
Fishlle!(フィシュル)は、福岡発のベンチャー企業が提供するサービスです。下処理済み・下味付きの冷凍パックでの販売です。焼くだけ、解凍するだけですぐに食べられるものばかりなので、忙しい人でも手軽に旬の魚を利用できます。味付けもバリエーション豊かで、着色料・保存料が無添加なのも嬉しいポイントです。骨取り済みなのでお子さんのいるご家庭でも活躍すること間違いなし。魚に関する情報誌も一緒に届くので理解が深まります。
月に1回、6パックおまかせ便で2,940円(税込み、送料別)、他にもコースがあります。
らでぃっしゅぼーや
らでぃっしゅぼーやでは、「海のふぞろいレスキューコース」で未利用魚の販売があります。未利用魚の他、不揃いになってしまった海産物とのセットです。未利用魚は未加工の丸ごとが届きますが、レシピ付きで美味しい食べ方を紹介しているので安心です。魚に関する豆知識も盛り込まれており、理解が深まること間違いなしですよ。
送料込みで3,450円(税込み)。毎週届く「ふぞろいセット」と4週に1回届く「未利用魚レスキューセット」(3〜4匹)が一緒になっています。
サブスクリプション以外にも、
などで、未利用魚の直販もされるようになっているので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
私たち個人が未利用魚を活用するには
とはいえ、「サブスクリプションを利用する前に、一度未利用魚を試してみたい」という方もいると思います。
そこでここからは、おすすめの未利用魚やレシピを紹介します。
美味しい!おすすめ未利用魚一覧
おすすめの未利用魚を、未利用になってしまう理由と美味しいポイントをまとめました。
魚の名前 | 未利用の理由 | 美味しいポイント |
アイゴ | 毒のトゲがある鮮度落ちが早い | 旨味が強い |
イラ | 見た目が悪いウロコが固い | 淡白な白身 |
ニザダイ | 内臓が磯臭い皮が固い | 脂がのった白身和食に合う |
オジサン | 名前のイメージが悪い鮮度落ちが早い | フレンチ食材上品な白身 |
ボラ | 臭いイメージがある | 脂がのっている |
マトウダイ | 頭が大きい骨の入り方が独特 | 旨味、甘みがあるフレンチの高級食材 |
未利用魚レシピ
これらの未利用魚の活用法として、おすすめのレシピを紹介します。ここではどの魚でも美味しく食べられるレシピとなっており、すべて簡単なものなので、ぜひお試しください。
刺身
鮮度のいいものが手に入ったときは、刺身にしてみてはいかがでしょうか。捌く技術が必要ですが、覚えてしまえばいろいろな魚に応用できるのでチャレンジしてみてください。(刺し身に向かない種類もあるので必ず確認してくださいね。)
湯煮
魚をおいしく食べる伝道師、上田勝彦(元漁師、元水産庁職員)さんのイチオシの食べ方が、湯煮です。丸ごと調理できる手軽さに加えて、どの魚でも美味しく魚本来の味を楽しめます。材料は、魚の他に酒と塩のみであるのもポイントです。
作り方
- 魚はウロコを取り、内臓を出しておく
- 手に塩をつけ、魚の表面をなでるように薄く塩をつける
- 鍋やフライパンに水を入れて沸かし、酒を盃1杯ほど入れる
- 魚を入れ、沸騰させないように火加減し、灰汁を取りながら5分ほど煮る
- しっぽの身がはがれ始めたり、煮汁が透明になってきたら茹で上がり
- ポン酢や、オリーブオイルと塩こしょうなど、お好みの味付けでどうぞ!
未利用魚の他、市販の干物や切り身でも美味しくできますよ。
(参考:ウエカツ流 カナガシラの湯煮 | 知っトク東北|NHK)
未利用魚とSDGsの関係
最後に、未利用魚とSDGsの関係を見ておきましょう。
特に目標14「海の豊かさを守ろう」と関係

目標14「海の豊かさを守ろう」では、人間活動による海の汚染を防ぐことや、海洋資源の回復、資源を持続的に利用するための漁の仕方について提言しています。
未利用魚を減らす取り組みは、海洋資源の無駄遣いを防ぐことが期待されます。また、色々な種類の魚を利用することで漁の幅が広がり、マグロなどの人気の魚種に集中せず、海の多様性が守られるでしょう。
【関連記事】SDGs14「海の豊かさを守ろう」現状と課題、日本の取り組み事例、私たちにできること
まとめ
未利用魚が発生してしまう理由として、知られていない種類であることや、毒の扱い、量や大きさによる流通のしづらさなどがありました。
近年はさまざまな要因から漁獲量も年々減少しており、未利用魚の活用は漁業の活性化の鍵として期待されています。
未利用魚を減らす取り組み、活用方法も紹介しました。私たちにできることとしては、産直サイトやサブスクで実際に購入して味わってみたり、理解を深めるたりすることが大切です。海の資源を持続的に利用していくために、行動してみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
魚食普及推進センター
魚食普及推進センター:未利用魚・低利用魚とは? 海の資源を上手に食べよう!
特集1 ニッポンの漁!(5):農林水産省
NHK:未利用魚とは 行き場のない魚をサブスクで有効活用
NHK:未利用魚・低利用魚 季節ごとのおすすめ&レシピ
FAO:Towards blue transformation
Fishlle!(フィシュル)
らでぃっしゅぼーや
未利用魚って結局何なの?
三省堂:第36回 【未利用魚】みりようぎょ | ニュースを読む 新四字熟語辞典(小林 肇) | ことばのコラム