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過重労働とは?企業が取るべき対策をわかりやすく解説

バブル全盛期だった1989年、「24時間戦えますか」という歌詞で知られるCMソングが大ヒットしました。この言葉はその年の流行語としても知られています。それから35年以上経過した令和の時代、労働に関する常識は大きく変化しました。

しかし、労働者が減少し一人当たりの仕事量が増大していることや仕事の効率が改善していないことを原因とする過重労働が今でも問題になっています。なぜ、社会が大きく変化しているにも関わらず過重労働がなくならないのでしょうか。

本記事では過重労働の現状やリスク、原因等を掘り下げつつどうすれば過重労働を防げるのかという視点で書かれています。過重労働について知りたい方はぜひ参考にしてください。

過重労働とは

過重労働とは、時間外や休日の労働時間が月100時間を超えるか、2〜6か月平均で月80時間を超えることです。*1)

過重労働の状態が長期間続くと肉体的にも精神的にも疲労が蓄積し、脳や心臓に大きな負担をあたえ、最悪の場合は死に至ります。

心身に悪影響が出るのは時間外・休日の労働時間が月45時間を超えたあたりであるため、過重労働の基準に達する前に何らかの方法で長時間労働を見直さなければなりません。

具体例

過重労働の状態になるとどのようなことが起きるのでしょうか。

厚生労働省の働く人のメンタルヘルスポータルサイトである「こころの耳」から事例を紹介します。

年齢・性別38歳・男性
職業システムエンジニア
職種プロジェクトリーダー
既往症高血圧
帰宅時間0時
睡眠時間3~4時間
残業時間月100~200時間
診断重度のうつ病
主訴仕事への意欲無くなり生きるのがむなしい部下に迷惑をかけている自分はいなくなったほうがよい

*2)

仕事ぶりのまじめさが上司や同僚から評価されていた方です。

35歳のときにシステムエンジニアとして仕事をするようになりました。37歳でプロジェクトリーダーに昇格したものの、過重労働やリストラにより人員が補充されない状態で過重労働が続きました。帰宅時間は0時を回ることも少なくなく、睡眠時間は3〜4時間程度まで減っていました。

過重労働の基準を超える月100~200時間の残業で、意欲や集中力が低下するなど体の不調を自覚するようになり、昇進5ヶ月後から欠勤が目立つようになりました。そして、昇格6ヶ月後のある日に医師から処方された抗不安薬を大量に服用して自殺を図ります。

処置が比較的早かったため3か月間の治療で退院出来ましたが、危うく亡くなるところまで追いつめられたのです。

過重労働の現状

過重労働は年々減少してるといいますが、現状はどうなっているのでしょうか。厚生労働省の「令和5年版過労死等防止対策白書」をもとに過重労働の現状を探ります。

労働者一人当たりの年間総労働時間は減少傾向

日本の労働者1人あたりの年間総労働時間は緩やかな減少傾向にあります。

【年間総労働時間の推移】

出典:厚生労働省*3)

平成初期と比較すると15%ほど減少していることがわかります。

月末1週間の就業時間が60時間以上の割合は横ばい

労働時間の減少にともない、長時間労働も長期的に見れば減少傾向で、ここ数年は横ばいとなっています。

【月末1週間の就業時間が60時間以上の就業者の割合】

出典:厚生労働省*3)

男性の就業時間60時間以上の割合は全体の8.2%、女性は全体の2.2%です。週40時間以上勤務するフルタイムの場合、数字が若干異なります。

【月末1週間の就業時間が60時間以上の就業者の割合(週間就業時間40時間以上の就業者に占める割合)】

出典:厚生労働省*3)

これを見ると、男女とも3%ほど60時間以上労働者の割合が増加していることがわかります。職種によってもばらつきが見られます。

【月末1週間の就業時間が60時間以上の就業者の割合(週間就業時間40時間以上の就業者に占める割合)(業種別)】

出典:厚生労働省*3)

運輸・郵便業や宿泊業、飲食サービス業、教育、学習支援産業などで割合が高いことがわかりました。これらを総合すると、以前に比べて過重労働につながる長時間労働は減少傾向にありますが、職種によってはまだ過重労働が残っていることがわかりました。

ただし、タイムカードや出勤簿では長時間労働になっていなくても実際は労働している「サービス残業」なども行われています。令和3年度の「監督指導による賃金不払残業の是正結果」をみると、1,069企業で64,968人のサービス残業が不払いとなっていたことがわかっています。*4)

しかも、この事例は1企業で合計100万円以上の事案だけを取り上げているため、さらに多い可能性もあります。長時間労働は減っているものの、必ずしもその数値を鵜呑みにできないことに注意しなければなりません。

過重労働のリスク

過重労働を行うことでどのようなリスクが想定されるのでしょうか。3つのリスクを取り上げます。

睡眠不足で日々の生活に悪影響が出てしまう

過重労働の状態になると睡眠時間を削って仕事をせざるを得なくなります。先ほど紹介した事例では3〜4時間しか睡眠時間が取れていませんでした。そうなると、かなりの頻度で昼間に眠気や疲労を感じます。

【週労働時間と昼間の過度の眠気、疲労回復不全、短時間睡眠】

これを見ると、週労働時間が50時間を超えたあたりから昼間の眠気や疲労回復不全を感じる人の割合が増えていることがわかります。睡眠不足が続くと作業効率が低下し、たとえ週末にまとめて睡眠をとったとしても疲労を完全回復できるわけではありません。

脳や心臓疾患の危険を高めてしまう

脳や心臓の疾患は加齢や生活習慣、生活環境などによって進行します。しかし、過重労働が続くと、何もない状態に比べて血管の病変が著しく悪化し脳や心臓の疾患を引き起こすことが知られています。*6)

過重労働によって引き起こされる可能性が高い疾患として、脳出血やくも膜下出血、脳梗塞などの脳血管疾患や心筋梗塞、狭心症、大動脈解離などの心臓疾患があげられます。

精神障害や自殺の危険を高めてしまう

過重労働は精神障害や自殺のリスクを高めてしまうため、労災を認める基準の一つとなっています。過重労働をしていると精神的に余裕がなくなり、ストレスを発散する時間を取りにくくなるからです。

精神的なバランスをとるための睡眠や休息、友人や家族と過ごすといった気分転換も難しくなり、どんどん追い詰められてしまうのです。令和4年度に労災として認められた精神障害の件数は710件もあり、決して他人事ではありません。*9)

過重労働に関する法律

企業が労働者に過重労働をさせた場合、労働基準法違反に問われる可能性があります。ここでは、過重労働と労働基準法の関係について解説します。

労働基準法

2019年4月から働き方改革の一環として改正労働基準法が施行されました。この改正により、はじめて罰則付きで時間外労働の上限時間が設定されました。*9)

従来も法定の上限時間は月45時間、年間360時間と決められていましたが、違反しても行政指導のみで罰則がありませんでした。改正後、労働時間の上限が原則として月45時間、年間360時間となり違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。*10)

過重労働に陥る原因

日本企業において過重労働や過労死は長い間問題となってきました。なぜ、過重労働がなくならないのでしょうか。原因を2つを取り上げます。

従業員の数に比べて仕事の量が多いから

1つ目の原因は、従業員の数に比べて仕事が多いことです。労働人口の減少で働き手を確保しにくくなっていることや、賃金の上昇により従業員を雇えない企業では、一人あたりに過大な仕事が割り振られてしまいます。その結果、有休をとるどころか休みを取ることも難しく、休日出勤や長時間の過重労働をせざるを得ない状況が生まれています。

仕事の効率が悪いから

2つ目の原因が仕事の効率の悪さです。日本企業は欧米企業に比べて労働生産性が低いということはよく指摘されています。労働生産性とは、従業員一人当たりができる仕事量と考えるとよいでしょう。労働生産性が低いと、一人が一定時間に処理できる仕事量が減ってしまい、長時間働かざるを得なくなります。

短時間で集中して仕事ができる仕組みづくりや、仕事のプロセスを見直して効率化する動き、労働者の仕事の仕方や能力を向上させる仕組みづくりを行って労働生産性を上げなければなりません。

過重労働を防ぐために企業が取れる対策

企業は労働基準法で定められた範囲内での労働時間になるよう工夫しなければなりません。そうしなければ、安全配慮義務をはたしていないとして社会的な批判にさらされる可能性があるからです。企業ができる2つの施策を紹介します。

時間外・休日労働時間を削減する

企業は時間外・休日の労働時間の削減に努めなければなりません。具体的には、時間外や休日労働に関する協定である36協定の限度時間などに適合した労働時間になるようにしなければなりません。

※36協定

労働基準法36条で定める時間外労働に関する協定。通称、36(さぶろく)協定。36協定で定められている限度時間は1か月で45時間、1年間で360時間となっており、それを超えると罰則が科せられる。

月45時間以上の時間外労働や休日出勤は労働者の健康被害を防止する観点から、削減に努めなければなりません。同時に、年5日の年次有給休暇以外にも有給の取得を促進し、労働時間を減らす施策を行う必要があります。

健康診断を実施する

企業は、従業員の健康診断を確実に実施する必要があります。すくなくとも1年以内に1回、定期的に健康診断を実施しましょう。特に脳や心臓の疾患に関する血圧などの項目で異常が見つかった労働者に対しては、1年に1回無料で受けられる特定保健指導の受診を促しましょう。

過重労働に陥らないために私たちができること

私たちが過重労働に陥らないために自主的にできることはあるのでしょうか。自分で実行できる対策を解説します。

休息時間を十分にとる

真っ先に行うことは十分な休息をとることです。疲れを感じた際に睡眠時間を長めにとることはもちろんのこと、気分転換するため仕事以外でストレスを発散できるような時間を意識して設けることが大切です。

身体面での異常にすぐ対処する

身体の異常に敏感になることも大切です。社会人の場合、仕事を休めないという責任感から何らかの体の不調があっても、「このくらいなら大丈夫」「我慢すればいける」というように無理をすることも少なくありません。

しかし、その我慢が命取りになることもあります。頭痛、吐き気、手足のしびれ、めまいといった症状があれば、心臓や脳の疾患の前触れかもしれません。仕事の忙しさで自分のことを後回しにすることなく、できるだけ早く診察を受ける必要があります。

労働に関する法律や制度ついて学ぶ

労働に関する法律や制度について自分で勉強することも大事です。現在は減ってきているとはいえ、長時間労働が常態化している企業も存在します。そうした会社にいると過重労働が当たり前と思ってしまいがちです。

しかし、実際には36協定を結んでいたとしても月45時間、年間360時間以上の過重労働は違法行為です。週休2日・勤務日22日で計算した場合、月45時間は1日2時間以上の残業で到達する可能性があります。自分の働き方が合法的なのか、自分の身を守るためにもしっかり学んでおいた方がよいでしょう。

過重労働に関してよくある疑問

ここからは過重労働に関するよくある質問を3つ取り上げます。

過重労働と36協定の関係は?

過重労働と36協定の関係は以下のとおりです。

36協定過重労働
時間外労働月45時間まで月100時間以上2~6カ月平均

36協定では時間外労働を月45時間までとしていますが、過重労働は月100時間以上、または2〜6カ月平均で月80時間以上の労働となっています。36協定を超えているからといって直ちに過重労働となるわけではありませんが、改正労働基準法により処罰の対象となります。

過重労働で訴えることはできる?

過重労働が行われ労働基準法に違反しているケースでは、労働者は企業を訴えることができます。ただし、労働時間のカウントは厳密に行わなければなりません。労働時間の定義や休息時間などは一律に決められているわけではないからです。個別のケースについては弁護士などの専門家に相談しましょう。

過重労働はパワハラ?

過重労働とパワハラ(パワーハラスメント)は全く同じものではありませんが、密接な関係を持っています。パワハラは地位や権限を利用したハラスメントのことです。定時で帰ろうとしている部下に対して上司が無理やり過重労働をさせようとするとパワハラになります。

しかし、全ての過重労働がパワハラと認定されるわけではありませんので、こちらも個別ケースは弁護士などに相談しましょう。

過重労働とSDGs

日本の過労死は「karoushi」という用語で知られるほど悪名高いものです。過労死につながる働き方である過重労働はSDGsとどのような関連があるのでしょうか。過重労働とSDGsの関わりについてみていきます。

SDGs目標8「働きがいも 経済成長も」との関わり

日本では長い間、過労死や過重労働が大きな社会問題でした。近年は過重労働の割合が低下しているとはいえ、いまだに「ブラック企業」についての話が取り上げられています。

2008年に起きた大手外食チェーン「ワタミ」の過労死事件は世間を大きく揺るがしましたが、こうした長時間労働のあり方は表面的な過重労働が減ったとしてもそう簡単に変わりません。

SDGsが目指す「誰一人取り残さない」社会の実現のためには、表面的な過重労働の削減だけではなく、一人ひとりの労働者が働きやすい会社を作るための根本的な対策が必要です。

従業員一人ひとりの労働生産性を上げることも大切ですが、それだけでは労働者に過度な精神的ストレスを与えかねません。企業は適切な人員を配置し、労働者がいつでも休める環境を整える必要があるのではないでしょうか。

【関連記事】SDGs8「働きがいも経済成長も」現状と日本企業の取り組み事例、私たちにできること

まとめ

今回は過重労働について取り上げました。長年「働きすぎ」と言われてきた日本人の働き方も労働基準法の改正などによって変化するべき時期を迎えています。しかし、労働力不足などにより代わりがいないことなどが原因で、少ない人員で業務を回している企業も少なくないでしょう。

根本的な問題を解決するには労働生産性のみならず適切な人員配置やシステム面での負担軽減などを行い、一人ひとりの労働者が働きやすい環境を整えなければならないのです。

参考
*1)厚生労働省「過重労働とは? 業務方法を見直し、労働時間の削減につなげる 「働き方改革」に取り組むこと
*2)こころの耳「プロジェクトリーダー昇格後に過重労働と責任感からうつ病になり自殺未遂に至った事例
*3)厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書
*4)厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)
*5)労働安全衛生総合研究所「長時間労働者の 健康ガイド
*6)厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定
*7)厚生労働省「過労死等をめぐる調査・分析結果
*8)厚生労働省「令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します
*9)厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし (改正労働基準法編)
*10)厚生労働省「時間外労働の上限規制が – 大企業 : 2019年4月から 中小企業