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マラリアとは?症状と致死率・原因、世界の感染現状、私たちにできること

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「マラリア」という感染症を聞いたことがありますか?先進国では聞かなくなった感染症のひとつですが、未だに世界には多くの感染者と死亡者が存在します。この記事では、マラリアの感染症と世界の現状について紹介します。記事の最後では、日本企業の貢献や私たちにできることを紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

マラリアとは

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マラリアとは、マラリア原虫を持ったハマダラカという蚊によって媒介される感染症です。蚊が血を吸うときに出す唾液と一緒にマラリア原虫が人間の体内に入ることで、感染します。

マラリアは世界3大感染症のひとつ

マラリアは世界3大感染症のひとつで、世界保健機関(WHO)の「世界マラリア報告書」によれば、2020年の感染者数は2億4,100万人、死亡者数は62万人以上と推定されています。つまり、世界で2分に1人の命がマラリアによって奪われているのです。

5種類のマラリア

一言にマラリアといっても、種類は様々です。現在確認されているものでは、

  • 熱帯熱マラリア
  • 三日熱マラリア
  • 四日熱マラリア
  • 卵形マラリア
  • サルマラリア

の5種類があります。

熱帯熱マラリアは最も重症化しやすく、発症から直ちに治療しないと後遺症が残り、最悪死に至ります。サルマラリアは以前は猿にのみ感染すると言われていました。しかし、近年人間にも感染することが分かり、5種類目のマラリアと呼ばれるようになりました。

マラリアの症状

マラリアの典型的な症状には、発熱や頭痛、震えや悪寒などが挙げられます。周期があるのがマラリアの特徴で、三日熱と卵形は48時間、四日熱は72時間の周期で症状が繰り返されます。治療が遅れ症状が悪化すると、脳症、意識障害や多臓器不全、といった合併症を引き起こします。これらの合併症は致死的となることもあるため、迅速な治療が必要です。

また、マラリアにはやや長い潜伏期間があるのも特徴的です。通常マラリアに感染すると、潜伏期間が数週間あり、その後症状が出てきます。そのため、海外旅行帰国後に症状が出ることもあり、風邪やインフルエンザと誤診されてしまうケースもあります。

それではマラリアに感染する危険性がある地域はどこなのでしょうか。次の章で見ていきましょう。

【関連記事】顧みられない熱帯病とは|現状・種類と原因・対策・SDGsとの関係まで

マラリアの主な流行地域

マラリアの症例は、アフリカやアジア、中南米の熱帯・亜熱帯地域を中心に発生しています。特に死亡者が多く発生しているのはサハラ以南のアフリカで、乳幼児や5最未満の子どもも危険に侵されていることが分かります。

世界の5歳未満児の死亡原因
引用:ユニセフ

ユニセフによると、世界の5歳未満児の死亡原因の約7%をマラリアが占めています。アフリカ地域では、30秒に1人の割合で子どもがマラリアで命を落としていると言われているほどです。

主に開発途上国で流行

厚生労働省検疫所によると、マラリア死亡者の9割以上が世界保健機関アフリカ事務局が管轄する開発途上国で発生しています。特にナイジェリア(25%)、コンゴ民主共和国(11%)、モザンビーク(5%)の順で症例が多く見られます。

マラリアの感染には気候条件も関係しています。アフリカでは蚊の寿命が長く、活発的であるため、他の地域よりもマラリアが蔓延しやすいのです。

日本にもマラリアはあった

開発途上国で流行しているマラリアは、先進国ではほぼ撲滅された状態です。しかし、元々存在しなかったわけではなく、日本でも戦後にマラリアが全国的に流行していました。1946年のマラリア患者数は2万人を超えたと統計に記録されており、当時の伝染病28種類のうち5番目に多くの患者数がいたと言われています。

1950年代に医療の発展により日本国内のマラリアはほぼ撲滅し、現在は日本で年に60人ほどの感染者が見られますが、その多くは輸入感染症として届け出られています。

このようにマラリアは、現代の医療をもってすれば治る病です。それではなぜマラリアは、未だに開発途上国で流行しているのでしょうか。

マラリアが開発途上国で流行している原因

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マラリアが開発途上国で流行している理由には、主に

  • 貧困
  • 医療整備の遅れ
  • 知識不足

が挙げられます。より詳しく見ていきましょう。

貧困

貧困とマラリアの関係
引用:住友化学

住友化学がまとめている図のように、マラリアは「貧困の病(Desease of Poverty)」とも呼ばれています。具体的には、国が財政難のために積極的な対策が取れず、国民がマラリアに感染することで教育や就業の機会を失い、貧困から脱却できないという悪循環に陥っているのです。

実際に、内閣府の発表によると、貧困家庭は年収の約4分の1をマラリアの予防や治療に費やしていると言われています。

医療整備の遅れ

開発途上国では医療整備が整っておらず、マラリアにかかった際に治療が受けられないケースも少なくありません。医師や看護師が慢性的に不足しており、JICAの報告によると高所得国では人口1,000人当たり2.9人の医師がいますが、中所得国では1.3人、低所得国ではわずか0.2人となっています。

つまり医療を受けたくても受けられる機会がなく、症状が悪化してしまい命を失う人々がいるのです。医師になるためには膨大な時間と費用がかかるため、開発途上国の中だけでこれらの問題を直ちに解決することは非常に困難です。

政府による教育への資金配分や、先進国による医療サポートが求められます。

知識不足

ユニセフの発表によると、2018年時点で世界には学校に通えない5歳から17歳の子供の数は3億を超えています。これらの子供たちは、十分な教育が受けられず、マラリアや感染病への知識を身につけることができません。

そのため、マラリアに対する住民の知識不足で、蚊への対策が十分に成されていないことがあります。また、文字が読めずに薬や予防のための情報を手に入れられないなども、開発途上国でマラリアが蔓延する理由のひとつです。

マラリアにかからないようにするためには

それでは、マラリアにかからないようにするためにできることを確認していきましょう。

蚊に刺されないようにする

マラリアにかからないようにする最も有効な方法は、蚊に刺されないように工夫をすることです。長時間持続性殺虫ネットと呼ばれる殺虫剤処理された蚊帳を活用したり、外に出るときはできるだけ肌を露出しないようにしたりなど、個人レベルでもできることはたくさんあります。

また、虫除けスプレーやローションを使用する場合、効果時間に合わせて小まめに塗り直すといった工夫をしましょう。

媒介する蚊の駆除

WHOは、媒介する蚊を可能な限り駆除することを推奨しています。殺虫剤をうまく活用し、蚊を駆除することで、マラリアに感染する可能性を下げることができます。

比較的強いとされるDDT(殺虫剤・農薬)は、環境への懸念から1960年代から使用が禁止されてきました。しかし、2006年に世界保健機関ではマラリア感染対策として室内に限定し、DDTの使用を推奨する方針を打ち出しました。

マラリアにかかってしまったら

免疫力を持たない旅行者や移住民は、マラリアに感染すると症状が悪化する可能性が高くなります。そのため、万が一マラリアにかかってしまった際にどのような行動を取るかを紹介します。

速やかに治療を受ける

マラリアに感染したかなと感じたら、すみやかに医療機関を受診しましょう。血液検査でマラリアと診断された場合、抗マラリア薬を投与することで、症状を抑えることができます。旅行中であればその国の医療機関、帰国後であれば近くの病院や感染症センターに足を運び、マラリア感染地域に旅行に出かけたと伝えましょう。

また、咳や鼻水から人と人の間で感染することはないので、基本的に隔離などをする必要はありません。

予防も重要

かからないように気をつけていても、蚊に刺されてしまうことはあるでしょう。そのため、感染地域に長期間滞在する予定の場合、「抗マラリア薬」の内服を視野に入れることも重要です。抗マラリア薬を事前に内服することで、万が一マラリアに感染しても症状を抑えることができます。

筆者撮影:実際に内服した抗マラリア薬
筆者撮影:実際に内服した抗マラリア薬

日本国内では医師の処方が必要なので、渡航先や期間を伝えた上で事前に相談し服用しましょう。また、感染する可能性をゼロにするものではないので、内服した場合でも防蚊対策は必要です。

マラリアの撲滅に向けた国の取り組み

続いては、マラリアの撲滅に向けた国の取り組みを見ていきましょう。

世界保健機関は、2030年までにマラリア患者の発生率と死亡率をを90%減少させることを目標としています。そのために、2002年には世界規模でマラリアを含む世界3大感染症の撲滅に取り組むための資金調達を行う「グローバルファンド」が設立されました。

この目標には70加盟国が協力をすると同意し、日本も積極的に対策支援に参加しています。

日本のマラリア対策支援

2000年に開催された「G8九州・沖縄サミット」では、日本主導で感染症について議論し、マラリア対策基金の設立に繋げることができました。以降、日本は約116億円をマラリアの治療薬やワクチン開発のために投資してきました。

さらに2005年に日本政府は、エチオピアのマラリアの蔓延防止のために500万アメリカドルをユニセフに寄付しています。日本はユニセフが実施している感染症予防のプログラムに大きく貢献している国のひとつです。

マラリアの撲滅に向けた企業の取り組み

次に、マラリア撲滅に大きく貢献している「住友化学」の事例を見ていきましょう。

防虫剤処理蚊帳を開発「住友化学」

防虫剤処理蚊帳を開発「住友化学」
引用:住友化学

住友化学」は、「自利利他公私一如」をスローガンに国際協力に取り組んでいます。元々工場の虫除けの網戸として使っていた技術を活かし、防虫剤処理蚊帳「オリセット®ネット」を開発しました。

従来の蚊帳は繊維に薬剤を浸していたため、洗濯をすると効果が薄れてしまう課題がありました。住友化学は、独自の技術で繊維にペルメトリン製剤を練り込み、最大5年間防虫効果を持続させることに成功しました。住友化学の発明は、2001年に世界保健機関からその効果を認められ、約100カ国の国々に提供しています。

また、2003年にはタンザニアに工場を設けて製造技術を無償提供し、現地生産を開始しました。より身近に蚊帳を製造できるようになり、現地の雇用機会も創出しています。

マラリアの撲滅に向けて私たちができること

最後に、マラリア撲滅に向けて私たちができることを紹介します。

日本は幸いにも、マラリアの脅威にさらされにくい国です。しかし、感染地域への出張や旅行先で感染するかもしれない身近な感染症だということを忘れてはいけません。まずは感染地域へ出かける際には危機意識を持ち、予防や対策を行いましょう。

その後マラリアについて正しい知識を身につけ、マラリア撲滅に向けて活動している企業や団体に寄付をするといった活動を起こすのも、私たちにできることのひとつです。個人で支援できる団体には、

などがあります。

世界の現状やマラリアに対する理解を深め、世界で苦しむ人々を少しでも減らすためにアクションを起こしたいですね。

まとめ

マラリアは、主にアフリカや熱帯地帯で発生している感染症です。蚊に刺されることで感染し、頭痛や発熱を引き起こします。正しい診断と治療が受けられれば助かるはずの感染症ですが、低中所得国の人々の中には治療が受けられず、毎年多くの人々が亡くなっています。

マラリア感染によって命を落とす人々を少しでも減らすために、先進国の国々や企業が協力をして支援を行っています。

私たちにできることは、正しい情報を得て寄付といったアクションを起こすことです。そうすることで、マラリア撲滅達成に貢献することが出来ます。

<参照>
厚生労働省検疫所「マラリアについて」
世界マラリア報告書
JICA「感染症の恐怖」
内閣府「マラリアについて」
Malaria No More Japa「マラリアとは?」
橋本雅一『世界史の中のマラリア:一生物学者の視点から』