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マンスプレイニングとは?特徴や具体事例、直し方も

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他人に対して上から目線で話す人というのは、いつ、どこにでもいるものです。しかしそこに男性から女性への偏見や思い込みが入る場合には、問題の根はさらに深くなります。そんな男性の「上から目線」を表す言葉がマンスプレイニングです。ジェンダーの問題を取り上げるうえでも無視できないこのマンスプレイニングについて、男性である筆者も考察してみたいと思います。

マンスプレイニングとは?

マンスプレイニング(mansplaining)とは、主に男性が女性に対し、自分の知識や意見を一方的に説明することで優越感を得ようとする行為のことです。そのほとんどに横柄で相手を見下すような態度が見られるため、近年では望ましくない失礼な振る舞いだとして批判されています。

このマンスプレイニングという言葉は「man(男性)+explaining(説明する)」という単語を合わせた造語で、アメリカの作家レベッカ・ソルニットが、自身の経験を記した2008年発表のエッセイ「説教したがる男たち」へのネット上でのコメントから、自然発生的に生み出された言葉です。

2010年にニューヨークタイムズの「今年の言葉」に選ばれて以来、日本でも知られるようになり、「マンスプ」と略されて使われることもあります。

マンスプレイニングの特徴

人が誰かに何かを教え、説明すること自体は決して悪いことではありません。しかし、その言動や態度によっては、それがマンスプレイニングであると見なされることがあります。

特徴①偉そう・説教じみている

マンスプレイニングを行う人間、いわゆる「マンスプレイナー」に一番よく見られる特徴がこの「偉そうにする」「説教じみている」態度です。

明らかに自分が相手より立場が上であるという確信のもと「相手に教えてあげている」という様子がうかがえます。その態度は一見自信があり堂々としていますが、一方で相手への敬意を欠いた、いわゆる「上から目線」な姿勢が目立ちます。

特徴②自慢げ

マンスプレイニングのもう一つの特徴は、話し手が(少なくとも話す相手に対しては)とても自慢げな様子で語ることです。そこには自分がどれだけ多くの知識や経験を持っているか、どれだけ優れているかをアピールしたい様子が見て取れます。そこでは相手が自分より多くの知識を持っているかもしれない、という可能性は全く考慮されていません。

特徴③一方的

典型的なマンスプレイニングは非常に一方的です。自分の言いたいことをひたすら話し続け、相手に意見や反論をする余地を与えません。ひどい時には相手の発言を遮って話の主導権を奪い、相手に話をさせないマンタラプション(man+interruption:遮る)と呼ばれる行為をする人もいます。

特徴④男性→女性に対する行為が多い

上記のような行為が行われるのは、ほとんどの場合が男性から女性に対してです。マンスプレイニングをしがちな男性の例として特に多いのが

  • 社会的地位が高い、あるいは知的水準が高いとされる立場にいる
  • 年配、比較的年齢が高い
  • 男性の割合が多い業種で働いている

という傾向を持つ人です。

もちろん女性でもマンスプレイニングをする人もいれば、男性に対して行われるケースもあります。しかし全体的な傾向を見ると、上記のような条件を満たす男性がマンスプレイニングをより行いがちであることは確かです。

マンスプレイニングを行う人の心理

このような、マンスプレイニングを行う人の心理状態には非常に多くの共通点があります。

心理①自分のプライドを保ちたい

マンスプレイニングを行う人の多くは、会社や組織での地位が高い人や高学歴な人が多く、プライドが高い傾向にあります。そのため、自分の自尊心を満たし、高める機会があれば乗りたくなるのです。たとえ実際には詳しくなくとも自分の持つ知識を人に話さないと気がすまず、「自分はこんなにいろいろなことを知っている」という姿を見せることで、自分のプライドを手軽に高めたいという意図が透けて見えます。

心理②相手より上に立ちたい

マンスプレイナーが自分のプライドを高めるためには「相手より上に立ちたい/上でいたい」という心理が働きます。ただし、そのための行動が年齢や地位、知識量で自分より上とみなされた人間に向かうことは多くありません。手っ取り早く自分が上に立とうとするなら、自分より立場が低く、知識量が少なさそうな人間を標的にする方が簡単です。そのため多くのマンスプレイナーは女性にターゲットを定めます。

心理③女性は下という思い込み

しかし、女性でも豊富な専門知識や経験を有し、若くとも優れた業績を上げている人はたくさんいます。ターゲットが女性でなければならない理由はありません。

それは男性たちが「そう思っていない」からです。マンスプレイナーの心理に根強く巣食うのは「女性が自分たち(男)より優れているわけがない」という偏った思い込みです。

たとえ表向きにはそう思っていなくても、心のどこかで「女のくせに」「女には無理だろう」「女はこんなこと知ってるはずはない」という無意識のジェンダーバイアスが、上記のような「プライドを保ちたい」「自分を上に見せたい」という言動に現れます。

すべての根源は「男らしさ」

このようなマンスプレイニング男性の心理的背景には、長い歴史の中で培われた、競争を強く意識する男性の「男らしさ」にあります。その要因としては

  • 生得的な要因:競争心と自尊心が強くなる男性ホルモン=テストステロン
  • 環境的な要因:封建的・家父長的な社会構造で「男は強くあるべき」という価値観が刷り込まれ続けてきた

の両方があげられます。

その結果、富や業績、成功といった対外的なプライドを満たすこと、競争心や攻撃性が高く、常に相手と自分との間に上下関係を意識することが「男らしい」とされてきました。

「自分を立ててくれる」偏った女性観

一方でこの強い競争心は、失うことへの強い不安、損失を避けたいと思う感情をも生み出します。プライドを保ちたい、失いたくないという不安の矛先は、無条件で自分を肯定・理解し、自分を上に見てくれる、都合の良い存在(と見なす)女性に向かいます。

そうした偏見に基づく言動が、いかに相手への配慮を欠き、尊厳を損なうものであるかを、当の男性たちは考えることすらできていないのです。

マンスプレイニングの具体事例

私たちの生活の中でも、実際に「これはマンスプレイニングなのでは?」と思う出来事があふれています。では、これまで取り沙汰されたマンスプレイニングの事例とは、具体的にどのような行為や言動を指すのでしょうか。

事例①レベッカ・ソルニットの場合

「マンスプレイニング」の事例として最も知られているのが、この語が世に出るきっかけとなった前述のレベッカ・ソルニット自身の経験です。

ある富裕層のパーティに招かれたソルニットが、とある人物について本を書いたと言った時、屋敷の主人である男性が彼女の話を遮り「その人物についてなら重要な本を知っている」と滔々と知識をひけらかし続けます。しかし途中で彼は、その本を書いたのは目の前にいるソルニット自身だと指摘されて困惑してしまいます。この男性は

  • 自分の高い財力・地位に自信を持っている
  • 目の前にいるのが自分よりだいぶ若い女性である
  • 相手の話を遮り一方的に話し続ける
  • 彼女が自分の持つ以上の知識があるはずがないという思い込み
  • 彼女の女性の友人が指摘しても、なかなか聞く耳を持たなかった

など、マンスプレイナーの条件を全て備えた典型的な例と言えるでしょう。

事例②ポテサラ事件

最近日本で話題となったマンスプレイニングの例としてあげられるのが、Twitter(現X)で取り上げられたいわゆる「ポテサラ論争」と呼ばれた出来事です。

これは、スーパーの総菜コーナーでポテトサラダを買おうとした子連れの女性が、見知らぬ高齢の男性から突然「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」などと難癖をつけられる様子を見ていた人が投稿したものです。これがマンスプレイニングだとして問題視されたのは

  • 話し手が高齢男性で相手がずっと若い女性
  • 物言いが一方的である
  • 母親なら買わずに料理を作るものだという思い込み
  • ポテトサラダを作る手間を知らずに「ポテトサラダくらい」と見なす見識の低さ

などの要素が「年配の男性が女性に上から目線で説教した」と認識されたためです。こうした例の他にも、家事や子育てに対し、実際には行わない男性の立場から「こうするべき」などと意見を押し付ける例は少なくありません。

事例③「美術館にいる女性」をめぐる問題

マンスプレイニングについて議論になったのが「美術館にいる女性」に関する2つの事例です。

一つはアメリカの週刊誌「The New Yorker」2017年2月に掲載された一コマ漫画で、そこでは美術館で抽象画を見ている女性と男性の姿が描かれています。しかし女性は困惑したような表情を浮かべ、そばにいる男性は腰に手を当ててふんぞり返っているようです。そしてこの漫画の下には、こう説明されています。

「私は『これは何を意味しているんだろう』とは言ったけど、あなたに『その意味を教えて』とは言っていないの」

もう一つは、日本の5〜60代男性向け雑誌の編集長が、美術館で鑑賞している女性に対しガイドのように知識を披露して会話を試みることを勧め、「美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が多いので(食事に誘うのに)特に狙い目」などと話した記事です。

こちらはあからさまにナンパ目的だということで炎上しましたが、これら2つの例に共通する背景には、女性に対し

  • 知的水準が低い、無知というレッテルを貼り見下す
  • 年齢や地位でマウントをとり、知識をひけらかせば好意を持たれる

という不遜な態度が見て取れます。いずれも実際に実害を被ったケースではありませんが、こうした考えを持つ男性が一定数存在することを示す一例と言えるでしょう。

事例④上級者マウント

同じ趣味の世界で(自称)上級者がマンスプレイニングを行う事例はよく見られます。

特にカメラや釣り、ロードバイク、ゴルフなど男性が多い趣味で、女性や初心者に対し知識や技量をひけらかし煙たがられる「教えたがり」な人は少なくありません。

筆者(男性)自身も、ロードバイクで信号待ちをしていたところ、見ず知らずの男性から突然機材のセッティングの間違いを指摘され、勝手に自転車を直されるという経験をしたことがあります。

単なる親切心かと思いきや、彼は無関係なタイヤの話についてご高説を垂れたうえ、人を見下したように「まぁ初心者だろうから」「まだ分かんないかもしれないけど」などと終始失礼な態度でした。非常に不愉快ではありますが、こういう人はまだ一定数いるのです。

マンスプレイニングは何が問題なのか

こうしたマンスプレイニングという言動に対し、近年批判する声は高まっています。しかし、それは小うるさいおじさんが説教して人を困らせているだけ、という認識にとどまり、その背後により大きな問題が横たわっていることは意識されにくいのが現状です。

女性の権利と安全を脅かす

マンスプレイニングの本質は、自己を主張する女性を黙らせたい、男の言うことを聞かせたいという心理です。これは近年の女性の権利を勝ち取る運動に対する、強い嫌悪と反発に結びつきます。ソルニットはこのマンスプレイニングに関するエッセイを記すうちに、そうした男性の無意識の偏見が女性蔑視や女性嫌悪をエスカレートさせ、誹謗中傷やDV、レイプといった最悪の事例を助長させていることに気づきます。

マンスプレイニングは単に男が偉そうな態度を取るだけの行為ではなく、女性の権利と安全を脅かす風潮に容易に結びつくのです。

社会の不平等を助長する

男女問わず全ての市民が意見を述べ、投票などの政治活動を行うのは健全な民主主義社会の基本です。

しかし、男性が一方的に女性に自分の意見を押し付け、その逆を許さないような考えを当たり前だと思うことは、法的には平等でも実質的な男女不平等の容認と言えます。

特に日本ではいまだジェンダー規範と家父長制が根強く、社会的な男女不平等は残っています。

現在の日本で政治の腐敗が叫ばれ、経済が長く停滞している背景には、企業の女性役員や女性政治家の割合の低さ、ケア労働に対する男女格差などの不平等が一因となっているのかもしれません。

マンスプレイニングに関してよくある疑問

マンスプレイニング、と言われても、まだ今ひとつピンとこない方も多いかもしれません。特に「説明したがり」な男性にとってはなおさらです。マンスプレイニングについて気になる疑問のいくつかをあげていきましょう。

マンスプレイニングの直し方は?

マンスプレイニングを直すには、女性側の「耐える」「避ける」「距離を取る」などの努力や工夫に甘えてはいけません。組織内に女性の割合を増やすなど社会的な制度も必要ですが、まずは男性側の意識を変えることが求められます。

直し方①ステレオタイプや偏った価値観を押しつけない

最も重要なのは、相手に対して偏った価値観を押し付けないことです。女性は黙って男の話を聞くもの、女性は自分の意見を言うものではないなど、世間の「こうあるべき」を無意識に相手に求める男性はまだ少なくありません。まずはステレオタイプの脱却を図りましょう。

直し方②他人への先入観や固定観念を持たない

同様に、年齢や性別・役職などで他人に対し勝手な思い込みをするのをやめましょう。自分は目の前にいる相手のことを何も知らないという気持ちで接すれば、「どうせ…だろう」などという決めつけをすることもなくなるでしょう。

直し方③話す内容や話し方を意識する

話をするうえで気を付けるべきは、無意識に高圧的な物言いをしていないか自分自身を振り返ることです。また会話では相手や他人の視点を意識し、「僕は…だ」「自分は…だ」など、自分を主語にした断定的な言い方は避けましょう。

マンスプレイニングはうざい?

ジェンダーをめぐる運動は、必ずと言っていいほど指摘される側、つまり男性からの反発を受けます。マンスプレイニングも例外ではなく、何でもかんでも「マンスプレイニングだ」と指摘することが「過剰反応」「うざい」「男性蔑視」と受け止められることも少なくありません。こうした反発が起こる理由としては

  • 何をどこまで言うとマンスプレイニングと感じるかが明確でない
  • 男性の発言=全てマンスプレイニングと見なすステレオタイプへの反発
  • 本来の定義を外れ、気に食わない男性を糾弾する道具として使われる

などがあります。これについてはソルニット自身も、本来のマンスプレイニング的言動よりも男性本来の欠陥への指摘が少し重いと感じる、と記しています。

こうした問題については男女とも冷静になって、双方の言い分をしっかり分析する必要があります。

マンスプおじさんって何?

近年ネット上のスラングでは「マンスプおじさん」という言葉が見受けられます。

これについては定まった定義はありませんが、若者、特に女性にマンスプレイニングをすることで、尊敬されたい、相手にしてもらいたいと望む中高年男性への蔑称として使われがちです。

前述のような趣味の世界では昔からこの手の「教えたがりおじさん」は珍しくありませんが、現在ではそうした男性も「マンスプおじさん」と呼ばれるようです。

マンスプレイニングとSDGs

マンスプレイニングは偏った性差別意識と女性蔑視を助長するものとして、ジェンダー平等や女性の尊厳を脅かす行為と言えます。これはSDGsの目標5が掲げる「ジェンダー平等を実現しよう」達成への障害ともなります。

ジェンダーによる差別をなくし、誰もが自分の能力を発揮するためには、女性がみな臆することなく自由に発言できることが何より大事なことです。

【関連ターゲット】

5.1 あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する
5.2 人身売買や性的、その他の種類の搾取など、すべての女性及び女児に対する、公共・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する

【関連記事】ジェンダーバイアスとは?身近な例や問題点と解決策を簡単に解説

まとめ

マンスプレイニングという行為は、昔から男性のプライドを満たす手段として行われてきました。

しかしそれが女性や弱い立場の人間を精神的に抑圧するものだと分かった以上、慎むべき行為となっていくのは当然のことです。マンスプレイニングをめぐっては個々の認識や受け止め方の違いで反発や軋轢もありますが、男性も女性も、互いの意見を忌憚なく平等に話せることが大事だということは間違いありません。私たちみな、特に男性が少しずつ意識を変えていけば、きっと男女ともに暮らしやすい社会が実現するでしょう。

参考文献・資料
説教したがる男たち  Men Explain Things to Me/レベッカ・ソルニット;ハーン小路恭子 訳:左右社 2018年
男子系企業の失敗/ルディー和子:日経BP・日本経済新聞出版 2023年
女性のいない民主主義/前田健太郎:岩波新書 2019年
【3分解説】マンスプレイニングとは?その意味をわかりやすく解説!|Sports for Social (sports-for-social.com)
男たちはなぜ「上から目線の説教癖」を指摘されるとうろたえるのか(北村 紗衣) | 現代新書 | 講談社(1/4) (gendai.media)
マンスプレイニング|女性に説明したがる男性の心理と具体例を解説 (exidea.co.jp)
「ポテサラ論争」が示す深い闇 怒鳴る高齢男性の孤独 – 日本経済新聞
おじさん目線マーケティングが炎上する必然 サントリーと宮城県の動画、何が問題なのか | 「コミュ力」は鍛えられる! | 東洋経済オンライン (toyokeizai.net)
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