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SDGs先進国デンマークの食品ロス・ジェンダー・教育分野の取り組みと今後の課題

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2022年に発表されたSDGs達成度ランキングで、北欧デンマークが2位を獲得したことはご存じでしょうか。国民の幸福度が高く、福祉国家のイメージが強いデンマークですが、環境問題やジェンダーへの関心もあり、SDGsの目標達成に向けた取り組みが盛んな国でもあります。

そんなデンマークのSDGs事情について、今回はフードロスから海洋ごみ問題・教育など幅広い視点から実際の事例を集めてみました。

デンマークはどんな国?

まずは、デンマークの基本的な情報をおさらいしてみましょう。

デンマーク王国は、430万平方キロメートルの面積を持ち、人口およそ587万人が暮らしています。例えるなら、九州と同じくらいの広さに兵庫県の人口が住んでいる、といったイメージでしょうか。

デンマーク本土には山がなく平坦で、北欧の中でも比較的温暖な気候が特徴です。そのほかに、グリーンランドとフェロー諸島を有しており、それぞれの島は自治領となっています。

公用語はデンマーク語ですが、かつてデンマークの支配下にあった近隣のノルウェー・スウェーデンとは、お互いの言語を理解できる人がいるほど似ています。ただしデンマーク語は「ふかしたじゃがいもを口の中に入れながら喋っている」と揶揄されることもあるほど、独特な発音が特徴です。

EUの中でも環境意識の高い国民が多い

環境への意識が高いイメージが根強いデンマークですが、実際にデンマーク市民の間ではすでに気候変動への危機感が共有され、解決に取り組む動きが市民の中からも出てきています。

そうした環境への意識の高さは、欧州投資銀行(EIB)の調査結果から垣間見ることができます。

たとえば、79%のデンマーク市民が「気候変動とその結果は、21世紀の人類において最も大きな挑戦」だと考えており、EU圏の中で最も高い割合となっています。

またパリ協定でデンマーク政府が掲げた目標数値については、半数以下の47%が「達成できない可能性がある」と考えており、逆に半数以上の55%は「気候変動による影響は自分たちの暮らしに関わってくる」と考えていました。

このように、デンマークは気候変動に関する意識が非常に高い人が多く、欧州の中でもSDGs目標に対する取り組みがさかんに行われている国といえます。

多くの優秀アイテムを輩出するデザイン大国!

北欧といえば、スタイリッシュでオシャレなデザインを思い浮かべる人もいるかもしれません。実際に日本でも人気を集めている「Flying Tiger(フライング・タイガー)」や、有名なジュエリーブランド「Georg Jensen(ジョージ・イェンセン)」、おもちゃの「LEGO(レゴ)」など、さまざまなブランドを世に送り出してきました。

その影響もあってか、日本からもデザインや建築を学ぶため、留学・視察に行く人が後を絶ちません。のどかな自然の中でのびのびと過ごし、豊かな創造力を備えたデンマーク人が生み出すデザインは、スタイリッシュながら遊び心も忘れない、個性の光るものばかりです。

デンマークのSDGsランキング

では、いよいよデンマークのSDGsについて掘り下げてみていきましょう。

毎年SDGs目標の取り組み度合いを評価する「SDGs達成度ランキング」では、デンマークは常に上位に位置しています。2023年は、スウェーデンに次ぐ3位となっており、100点中85点以上と非常に高い評価を得ました(日本は同年21位)。

なお、SDGsが国連で採択された2015年から2023年までの間、毎年85点以上をキープしています。

このように、SDGs達成度合いの高いデンマークですが、具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。次の章で詳しくご紹介します。

デンマークのSDGsに関する取り組みの特徴

今回は、

  • 食品ロス
  • 海洋問題
  • ジェンダー教育
  • 再生可能エネルギー
  • サスティナブルな町づくり

の5点に絞って取り組み事例を取り上げます。

食品ロス

まずはじめにご紹介するのが、デンマークの食品ロスに対する取り組みです。

現在デンマークで大きな取り組みは、主に3つあります。

①FOOD SHARING COPENHAGEN(フード・シェアリング・コペンハーゲン)

フード・シェアリング・コペンハーゲン

フード・シェアリング・コペンハーゲンとは、ボランティア団体が立ち上げたサービスです。

仕組みはとてもシンプルで、飲食店を中心に余ってしまったものを無料で提供してもらい、さまざまな消費者・コミュニティに届けています。

ドイツで行われていたフードシェアリングのアイディアから始まり、今では首都コペンハーゲンの中でも、フードロスに取り組む最大のボランティア団体となっています。

登録しているボランティアは約600人で、町の中にある収集ポイントには、提携先からの野菜や果物・パンなどさまざまな食品が集まってきます。

集まった食材は、個人だけでなく自治体・飲食店・フェスティバル主催者などと協力し、イベントやワークショップを開くなど精力的に活動をしています。

フードロス問題の解決だけでなく、楽しくオープンな形にし、ひとりでも多くの人が食を通じてコミュニティの輪に参加できるような提供方法を行っている点では、SDGsのスローガン「誰ひとり取り残さない」にも則している取り組みです。

②WEFOOD(ウィ・フード)

ウィ・フード

現在デンマークに3店舗ある「WEFOOD」は、ただのスーパーマーケットではありません。

通常の店舗では販売できない、ラベルの貼り間違えや賞味期限切れの食品を集め、通常の30~50%の価格で販売する、余剰品だけを扱うスーパーマーケットです。

WEFOODを運営するデンマークのNPO団体・DanChurchAidは、設立当初の1922年から飢饉やフードロス問題の解決を掲げています。

販売している商品はすべてデンマークの食品安全の基準に沿っているため、誰でも安心して食べることができます。

純粋に「もったいない」と感じる人だけでなく、さまざまな事情で食費を抑えなければならない人々もアクセスしやすく、開店から大きな支持を集めている取り組みです。

③TOO GOOD TO GO(トゥー・グッド・トゥ・ゴー)

トゥー・グッド・トゥ・ゴー

最後にご紹介するフードロスの取り組みは、TOO GOOD TO GOです。こちらはデンマーク発のサービスで、現在はノルウェーやスウェーデンのほか、アメリカ・カナダ・欧州の一部の国にまで広がっています。

具体的な取り組み内容は、レストランやベーカリーで売れ残った商品を、消費者が低価格で買い取れるアプリの開発です。

特にベーカリーのように、当日しか販売できないパンやペーストリーを売る店舗では、その日のうちに売りきれなかったものを廃棄する量が多く、大量のフードロスが発生します。

そこでTOO GOOD TO GOに登録しておくと、近隣で受け取り可能なユーザーが買い取ってくれるため、通常価格ではないものの販売でき、またフードロスを削減することが可能になります。

実際に、筆者の友人がこのアプリを使っていましたが、夕方ごろになるとベーカリーのおいしいパンを大量に買い取れるうえ、日によってはさらにおまけを付けてくれることもあったそう。気になる店舗や近所で馴染みの場所なら、ユーザーにとってもうれしい機会となるはずです。

海の豊かさを守ろう

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複数の島から成り立つデンマークに暮らす人々にとって、海はとても身近な存在です。その中で、世界中で海洋汚染特に「海洋プラスチックごみ」は話題となっていますが、デンマークでも深刻な問題として取り扱われています。

デンマーク・ユトランド島では、毎年1,000トンものごみが漂着し、観光業や漁業への悪影響だけでなく、海洋生物の生態系をも蝕んでいます。

このような海洋ごみを解決するための取り組みとして、ここではデンマークの団体が行っているプロジェクトをご紹介します。

海洋ごみを使ってアップサイクルを実現!

プラスチックス

2017年に設立された団体・Ocean Plastic Forum(オーシャン・プラスチック・フォーラム)は、デンマークの企業や大学・NPOなどが集まってできたグループです。

海洋ごみ問題の解決に向けて、各自が得意分野で補い合いながら、さまざまな取り組みを行っています。

そのひとつとして、ユトランド島を中心に集めた海洋ごみから、別のプラスチック製品をつくるプロジェクトが行われています。

毎年大量に流れてくる海洋ごみと、家庭から出されるごみを掛けあわせる技術によって、プラスチックのペレットが出来上がります。そこからペットボトルなどリサイクル可能な製品に、再度アップサイクルするのです。

このOcean Plastic Forumと提携して商品を作っているのが、デンマーク企業・Plastix(プラスチックス)です。海洋ごみの中でも大きな割合を占める漁業用の網を回収し、車の部品やメガネ・インテリア用品などにアップサイクルしています。

わたしたち消費者としても、新たに作られたプラスチック製品より、アップサイクルされたペレットを使用した製品のほうが環境にやさしいと知っていれば、後者を選びたくなりますよね。

このように、すでに漂流してしまった海洋ごみを上手に活用し、海の生態系に配慮しつつ新しいものづくりを行えるOcean Plastic ForumとPlastixの取り組みは、SDGs目標14「海の豊かさを守ろう」の達成につながります。

ジェンダー|LGBTQ

現在、首相が女性であるなど、女性の活躍が目覚ましいデンマークでは、ジェンダー平等や性教育にも力を入れています。

例えばジェンダー平等の面では、男女間の給与の差をなくす・家事の労働時間の差をなくす、といった取り組みがさかんに行われています。

国内の統計では、2021年時点で「子どもがいる家庭での男女間の家事労働時間の差」は2.5時間となっており、日本に比べてずいぶん差が少ない印象です。しかし、より公正な暮らし方ができるよう、更なる向上を目指しており、ジェンダー平等に積極的な国だといえます。

また、ジェンダー平等を長期的な視点で達成するには、子どもたちへの教育も大きなポイントです。今回は「性教育」の視点から、デンマーク独自の取り組みについて見ていきましょう。

子どもたちが深く、楽しく学べる「性教育週間」

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教育の面でも先進的な動きを見せるデンマークですが、近年で特に注目を集めているのが「性教育」です。

たとえば、デンマークの小学校では包括的な性教育が法律で義務付けられています。ここで学ぶのは身体的な仕組みだけでなく、性交渉の際のコミュニケーション方法や、性に関する権利についても含まれています。

デンマークのNPO団体・SEX&SUMFUND(Sex &Society:性と社会)では、小学校の授業が始まって6週目に性教育に力を入れる「性教育週間(Sex Week)」というキャンペーンを行っています。

デンマーク語で6を意味するSeksと、英語で性を表すSexをかけたこの活動では、毎年テーマを制定し、学年ごとに見合った形で掘り下げながら小学生たちに教えています。

現在、国内のおよそ2/3の子どもたちが性教育週間に参加する形となっているこのキャンペーン。過去には「デジタル・セーフティ」をテーマに、以下のような授業が行われました。

  • テキストメッセージ上で、性的な表現や写真・動画を載せることについて
  • SNS上で性的な要素を含む投稿をシェアすること、またその際の約束事について

こうした話題は、身近ながらも流動的であるため、教育の現場に落とし込むにはなかなか時間がかかるものです。しかしNPO団体が主催し、若者にとって身近なテーマを積極的に扱うことで、子どもたちが自らの身を守り、また他者に被害を与えないための知識を与える場として役立っています。

低学年ならテーマに沿った絵本の読み聞かせ、高学年ならグループディスカッションといった形で、生徒みんなが理解を深められる方法を取っています。

ほかにも、性自認や性の多様性といったトピックについても取り扱うなど、LGBTQ+の教育にも力を入れています。自分や他者のセクシュアリティはそれぞれであり、個々が自由に生きる権利があるという教えを通して、子どもたちや若者にとって希望ある社会づくりを目指しています。

また子どもたちだけではなく、教える側である先生や親たちの知識・理解も必要です。SEX&SUMFUNDでは、こうした大人たちへの教育の機会も設けています。

すべての世代がジェンダーへの理解を深め、お互いを寛容に認め合える社会づくりには、こうした先進的な教育が必要なのではないでしょうか。

エネルギー

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近年、気候変動の原因とされる化石燃料を使った石炭・石油を燃やす火力発電の撤廃が世界中で議論されていますが、デンマークでは世界初の「エネルギー島」を建設する計画が進んでいます。

デンマークのエネルギー省が舵をとるこの計画では、バルト海に面したボルンホルム島と、北海に近いユトランド島での風力発電施設の建設が進んでいます。どちらも慎重に選定されたエリアで、年間を通して強い風が吹くため、安定した電力を市民に供給できるとされています。

具体的にいえば、ボルンホルム島には沿岸沿いに風力発電機が並び、最大で3GW(=300万KW)の電力が供給できる見込みです。

日本の一般的な住宅に設置される太陽光ソーラーパネルは、約4KWの電力を作るといわれているので、いかにこの風力発電が多くの量を生産できるかが想像できるのではないでしょうか。

一部では既に風力電力の利用が進んでいるデンマーク。2019年時点で国内の発電自給のうち47%を、風力を含む再生利用可能エネルギーで調達できるようになっていますこれに加えて2つのエネルギー島が完成すれば、デンマークでの電力自給率はさらに高くなるということです。

将来はデンマーク国内だけでなく、近隣諸国にも風力で発電した電力を配給する予定で、再生可能エネルギーへの期待がますます高まるばかりです。

つくる責任つかう責任|UN17 Village

UN17 Village

最後に、デンマークの首都・コペンハーゲンの一画オーレスタッドに建設予定の「UN17 Village」をご紹介します。

2019年に発足したこのプロジェクトは、2024年の完成を目指して進行中です。

住宅は5棟あり、単身者や若者向けの小さなアパートから、家族にぴったりの広い部屋、さらに高齢者が暮らしやすいよう設計された部屋もつくられています。目的に合わせて誰にでも住みやすいように設計されている点がポイントです。

名前に「Village(村)」とあるように、UN17 Villageはコミュニティとしての機能を重視しています。

それぞれのアパートメントには共同エリアがあり、住人や訪ねてきた人たちが一緒に過ごし、コミュニケーションを取りあえる空間を設けています。また住人の健康ケアをするためのクリニックが併設され、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」への配慮も見られます。

設計の際には、すべての部屋に太陽光と風が通るよう、綿密にデザインされています。加えて石炭・石油を使用するガスではなく、電気を使って生活できるスタイルです。

建設時には、どうしても排出されるCO2を極限まで抑える工夫として、建物に使用する材料を厳選しました。5階建てのアパートメントをつくるのに、最大で40%のCO2を減らすことに成功しています。

自然のリソースを上手に活用した、持続可能な住環境づくり

それぞれの建物の周辺には、生態系に配慮した植物を配置しています。これにより、住人の憩いの場としてだけでなく、CO2を吸収する場として活用できる点も特徴と言えるでしょう。またコンクリートでなく緑があることで住居エリアのヒートアイランド現象を防ぎ、樹木の根が張った土壌に保水機能を持たせることで災害時にも強い住環境づくりを目指しています。

水の面では、雨水を再利用するシステムを備えています。屋根から蓄えられた雨水は、ヴィレッジ内の植物やグリーンハウス・貸し農園への水やりに再利用されます。自然の恵みを余すことなく利用し、最終的に住人の健やかな暮らしに還元されるのはうれしいポイントです。

このように、コミュニティを重視した住環境づくりと、自然を尊重しつつ住みやすいデザイン設計が、UN 17 Villageの総合的な特徴といえます。

設計時から、住み始めた後もずっと、持続可能な形で人々のコミュニティを創造できる場所として、これからもUN 17 Villageはコペンハーゲンの一画に在り続けるでしょう。

デンマークのSDGsに関する課題や問題点

これまで、デンマークの取り組みをいくつか紹介してきましたが、やはりこれほどの先進国でも課題はあるようです。具体的にどのような問題があるのでしょうか。

世界的に見て先進的な取り組みが多い印象のあるデンマークですが、まだ先例がないために試行錯誤する部分が多いのも事実です。

たとえば、ジェンダーの分野で見てきた「性教育習慣(Sex Week)」では、デンマーク国外から見ると高評価を得ることが多いですが、実際はまだプロジェクトが始まって10年ほどしか経っていません。

現在も、子どもたちに教える側である先生の中には、十分な知識・スキルが身に付いていないこともあります。そのため、子どもと同時進行で大人にも性教育プログラムを実施する必要性に迫られています。

まだまだ試行錯誤が続きますが、それでも前に進みつづけるデンマークの姿勢は、ほかの国でも見習う必要がありそうです。

まとめ

今回は、北欧デンマークが行っているSDGsへの取り組み事例について、5つの視点からご紹介しました。

市民が自ら行動してつくり上げたフードロス問題への解決方法から、政府が積極的に推進する再生可能エネルギー政策まで、国と市民の双方の意識の高さが窺えると同時に、行動力の大切さも学べたと思います。

わたしたちも個人として、または企業や団体・市民の一員として、できることを考えて行動に移していくのが、SDGs目標の達成への第一歩になるはずです。デンマークの事例を見習いながら、自分が力になれることから始めてみませんか。

参考文献
デンマーク基礎データ|外務省
Denmark Population (2023) – Worldometer
デンマークとデザインブランド|北欧デザイン | イマジンインテリア
79% of Danish people think that climate change and its consequences are the biggest challenge for humanity in the 21st century
Sustainable Development Report 2022
The Best Ways to Reduce Food Waste in Denmark
Home – Foodsharing Copenhagen
Wefood | Food Waste Shopping | VisitCopenhagen
Wefood – DanChurchAid
Save Food – Help The Planet
Ocean Plastic Forum – Oceanplasticforum.dk
What we enable – Plastix
LIGEFI5: Gender equality indicator on working hours for salary earners (average) by age and family type|Statistiks Dansk Banken
Denmark’s ‘Sex Week’ helps kids navigate their sexuality
The Danish Family Planning Association (DFPA)
Denmark’s Energy Islands | Energistyrelsen
How Denmark’s energy island could make history | World Economic Forum
「キロワット」「メガワット」などワットの単位がわかりません – よくある質問 | 太陽生活ドットコム
Denmark sources record 47% of power from wind in 2019 | Reuter
Village – UN17
NREP – UN17 Village

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