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気候正義とは?世界や日本の取り組み事例や私たちにできること

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ここ数年、気候変動によって、大雨や洪水、熱波といった異常気象が急増してきました。

「人為的な災害」といわれる気候変動は、先進国よりも途上国に住む人々のほうが深刻な影響を受けています。

近年では、このような現状から「気候正義」という言葉も生まれました。

本記事では、気候正義の基本的な知識から、企業や個人のレベルでできる気候正義への取り組みについてご紹介します。

気候正義とは

気候正義(Climate justice)とは、気候変動によって生じた不平等・不公正に対し、責任を持って取り組んでいこうという動きをいいます。

では、不平等・不公平とは、どのようなことを指すのでしょうか。

気候変動の原因となる二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスは、ほとんどが先進国によって排出されています。

一方、深刻なレベルで気候変動の影響を受けるのは、途上国に住む人々です。

彼らは先進国に比べて少ない二酸化炭素しか出していないにも関わらず、生活に支障が生じています。

こうした気候変動による不平等・不公正を解消するため、先進国に住む人々を中心とした「気候正義」に関する活動が広がっています。

各地で起こる異常気象

気候正義について詳しく見ていく前に、気候変動によってどのような事態が発生しているのかについて確認しておきましょう。

豪雨

気候変動の影響によって、「数十年に一度」といわれているような豪雨に見舞われる地域が急増しています。

2023年6月に発生した台風カヌーン(Khanun)は、中国・北京において過去140年の中で降水量が最も多い大雨をもたらしました。たった40時間で、例年7月の降水量とほぼ同程度の雨が降ったのです。

その際、北京に大量の雨がもたらす洪水を緩和するために、隣接する河北省へ水路を解放したことから、「異常気象を引き起こしたのは先進国(地域)にもかかわらず、損害を受けるのは関係のない人々である」という議論が巻き起こりました。

熱波

熱波による人々の影響も計り知れません。

EUの気象情報機関によると、観測が始まった1800年代中盤からのデータの中で、2024年は史上最も暑い年になる確率が95%にのぼり、2023年の高温記録を13カ月連続で上回っています。(2024年7月時点)

また過去12カ月のデータからは、産業革命以前の1850~1900年ごろに比べ、地球の平均気温が1.64度も上昇しました。これは、地球温暖化による気候変動の影響を最小限に抑えるために守るべきといわれてきた1.5度目標を上回ってしまっているのです。

2024年6月には、インド・デリーで行われた巡礼中に1,000人が熱波が原因で死亡しました。また、ギリシャでは、観光客が熱中症によって命を落としたケースが報告されています。

森林火災

オーストラリア、アメリカ・カリフォルニア州などで発生した森林火災も、気候変動による異常気象が原因だといわれています。

特に、2019年に発生したオーストラリアでの大規模な森林火災では、従来なら多湿のため焼けないといわれる地域にまで火災が広がり、少なくとも34人が死亡、10億以上の動物の命が犠牲になったといわれています。

これまでにはなかった高温や雨不足による乾燥といった異常気象により、こうした森林火災の発生が深刻になっているのです。

なぜ気候正義が叫ばれ出したのか

次に、なぜ気候正義が叫ばれるようになったのかについて見ていきましょう。

気候変動は人為的な原因である

前提として、気候変動はIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が発表した報告書によって、「人為的な原因によるもの」と断定されています。

19世紀後半からはじまったとされる産業革命以降、わたしたちは工業化による大量生産や大量消費など、さまざまな形で大量の温室効果ガスを排出してきました。

その結果、気候変動の原因となる地球温暖化が加速し、特にこの数年は「異常気象」と呼ばれる現象が多く発生するようになりました。

しかし、問題は単純に「気候変動が進み、異常気象が増えている」というだけには留まりません。

気候難民の増加

気候変動による問題が深刻化していく中で、その影響を最も受けやすいといわれているのが、途上国の多い南半球(グローバルサウス)に住む人々です。

世界で排出される温室効果ガスの90%以上は、先進国が多く位置する北半球(グローバルサウス)によるものです。

一方、グローバルサウスからは全体の9%程度しか温室効果ガスを排出していません。

それでも、インフラや住環境が異常気象に対応しきれていない途上国の多くは、異常気象による影響を受けやすく、人々の生活により深刻な支障が出てしまうのです。

実際に、近年の干ばつや洪水・森林火災といった異常気象によって、多くの人々が住処を失っています。具体的には年間2,000万人の人々が気候難民となり、自国の内外への強制移住をしているのです。

以下の図は、2008年から2020年までの間に発生した、紛争・自然災害による難民の数を示しています。

(赤色が自然災害による気候難民の数)

年によって数の前後はありますが、2018年以降は増加傾向にあることが分かります。

また別のデータでは、2015年に起きた自然災害によって気候難民となった人々を国別にみると、インドが400万人近くと最多、以下も日本(約50万人)を含むアジアの国々で気候難民が出ていることが示されています。

住む場所を変えるのは、簡単なことではありません。沢山の労力とお金が必要ですし、安定した引っ越し先がすぐに見つかるとも限りません。

日本でも地震や豪雨が発生した際、避難先での住環境や復興といったさまざまな問題が見られますが、世界に目を向けてみると、同じような苦悩を抱えている人がたくさんいることに気づかされます。

こうした異常気象による気候難民は、年々その数を増していくだろうと予測されており、2050年までには12億人もの人々が気候変動・自然災害によって住処を追われる可能性が出ています。

貧困層・マイノリティへの不公正

気候変動による影響を受ける人々のうち、特に深刻な影響を受けやすいのは、貧困層や女性・先住民のようなマイノリティの人々だといわれています。

グローバルサウスをはじめとした途上国を中心に、低所得層や自宅での家事・子育てに従事する人の多くは女性です。こうした人々は社会的な地位が低く、国や社会の意思決定の場面においても声を届けにくいのが現状です。

また、先住民など社会的なマイノリティの場合も同様です。長年の暮らしの中で大切に共生してきた自然を、先進国や資本主義社会によって破壊されるリスクと常に闘っています。

こうした状況は、異常気象の発生時や気候変動対策の際にも影響が見られます。例えば、災害発生時に経済・社会的に地位のない女性のほうが命を落とすリスクが高くなります。理由としては、男性中心の社会の中で、女性は家族や子どものケアを優先しなければならない状況で避難できなかったり、泳ぎや運転といった技術を学ぶ機会がなかったりするためです。

【世界】気候正義を果たすための取り組み事例

ここまで、気候正義の基本知識について説明してきました。

次は、気候正義を果たすために世界ではどのような取り組みがなされているのかを見ていきましょう。

気候変動訴訟

気候変動訴訟(Climate Change Litigation)とは、市民やNPO団体が被告となり、気候変動に関する温室効果ガスを規制・削減する「緩和」や、気候変動に備え、国や自治体が示したルールの不備などを指摘したうえで、新たな気候条件に順応していく「適応」を求めて訴訟を起こすことです。

訴訟を審理するのは、国内の裁判所および国際的な行政・司法機関で、2022年現在で2,180件もの気候訴訟が世界中で起きています。

具体的な内容としては、

  • 温室効果ガスを大量に発生し気候変動を加速させる一大要因である化石燃料の採掘の差し止め
  • 化石燃料を原料として稼働する発電所の建設・運転の阻止

を求めるものが多くあります。

また、政府や自治体の気候変動対策に関して、

  • 目標に至るまでのシュミレーションが不明確であること
  • そもそもの目標値が現状の気候変動対策としてふさわしくないこと

を指摘したうえで、より厳格なルール設定を求める訴訟も増えています。

長年の戦いが結実したスイスの画期的な判決

最近では、2016年スイスで起きた、平均年齢73歳のシニア女性たちによる「スイス国の気候変動対策は不十分」とし、厳格な対策を求める集団訴訟の判決が、2024年春に言い渡されました。

真理を行った欧州人権裁判所の判決では、「気候変動は、個人の幸福や健康、生活の質に影響を及ぼすものであり、人権の損害に当たる」とし、女性たちが所属する団体はスイス国により厳格な気候変動対策を求める地位に値することを認めました。

今回の判決では、「国による気候変動対策の不十分さが、国民の健康や幸福度・生活の質を脅かしており、人権を損害している」という点が認められたことで、今後より加速するであろう気候変動に備え、スイスのみならず世界中の国や地域で、厳格な対策を講じていく必要性が強調されています。

【日本】気候正義を果たすための企業の取り組み事例

続いて、日本の企業がどのような気候正義への取り組みを行っているのかについて見ていきましょう。

多くの日本企業が賛同する「1%  for the planet」

1% for the planetは、2002年にパタゴニア社の創始者イヴォン・シュイナード氏と、ブルー・リボン・プライズの創始者クレイグ・マシューズ氏によって作られたNPO団体です。

商品・サービスの売り上げの1%を自然保護活動へ寄付することにより、気候正義を少しでも果たそうとする取り組みとして、近年注目を浴びています。

世界中で5,200を超えるビジネスパートナーを有する1% for the planetですが、時計を扱う企業CITIZENや、アパレル企業のユナイテッドアローズをはじめとした、日本の企業92社もビジネスパートナーとして賛同しています。

企業によって集められたお金は、同団体と連携して環境保護活動を行う団体に寄付され、植林や気候変動対策といった活動に回されていく仕組みです。

再生可能エネルギーの推進

近年、より温室効果ガスを排出しない形での発電を可能にする再生可能エネルギーの存在が注目を集めています。一方で、中には原料の調達に関する問題や、供給の際の安全面から、本当にクリーンなエネルギーとは言いがたいものも見られるようになりました。

その中で、京都・丹波に拠点を置く企業・たんたんエナジー株式会社では、コミットメントに「気候正義の実現」を明記しており、地域の特性を活かし、木質バイオマス燃料を中心としたエネルギー調達を行っています。

より地球にやさしいエネルギーを地域の中で回すことで、地域の活性化につなげるだけでなく、供給する電気の選択を通して気候正義を果たす目標を掲げるたんたんエナジー株式会社。このような企業は、これから日本でも増えていくのではないでしょうか。

気候正義を果たすために私たちができること

ここでは、わたしたちが個人として気候正義を果たすために出来るヒントをいくつか取り上げてみました。

パワーシフト

わたしたちの暮らしの中で、最も多く温室効果ガスを排出している分野といえば、電気です。

普段、何気なく利用している電気ですが、みなさんがお使いの電力はどこから来ているか知っていますか?

2021年度の日本における電力構成は、石油と石炭を合わせて38%となっています。

対する再生可能エネルギー(地力、水力など)は21%にとどまっており、2050年までにカーボンニュートラル(脱炭素)を実現するにはまだまだ努力が必要です。

そこで個人で出来るアクションとして、パワーシフトが挙げられます。具体的には、現在使用している電力会社から、再生可能エネルギーを供給する会社に切り替えるというものです。

オンラインで簡単に切り替えができるだけでなく、電気料金が大きく変動する心配もありません。

まずはインターネットで「再生可能エネルギー」「パワーシフト」と検索し、電力会社で見積もり・料金シミュレーションをしてみましょう。

声を上げる

もうひとつ、個人のアクションとして重要なのは、国や自治体・企業に対し「声を上げる」ことです。

わたしたちの暮らしを大きく左右するのは、社会の仕組みを整える国や自治体のほか、商品やサービスによって生活の質を変え得られる企業だといえます。

手軽にできるアクションとしては、

  • 企業の問い合わせやアンケートに気候正義の取り組みをお願いする
  • 住んでいる地域の議員さんに気候変動の政策について聞いてみる

などが挙げられます。

もちろん、始めはひとりで行動するのには大変な勇気が要るものです。そんなときは、同じ地域や都道府県で活動している気候変動に関する団体を探し、ボランティアとして参加してみるのも良いでしょう。

自分たちの未来を良い方向に変えるために、社会に向けてより具体的な気候変動対策を求めていくことが、実は一番の近道かもしれません。

気候正義とSDGsの関わり

最後に、気候正義とSDGsとの関わりについて確認しておきましょう。

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、環境に関する項目が複数あります。

中でも気候正義と最もかかわりが深いと言える目標は、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策をです。

SDGsと同じ2015年、パリで締結された「パリ協定」では、気候変動を抑えるための具体的な対策を各国に求め、日本を含む先進国に定期的な目標値の見直しと実行を促しています。

しかし現実では、温室効果ガスの削減にあまり大きな効果が見られず、より急進的かつ早急な改善が必要です。

SDGs目標13の中では、途上国など自然災害に対するインフラが整っていない地域では、先進国と比べて災害による死亡率が15倍高いというデータを示しています。そして、先進国が途上国を支援する「緑の気候基金」の本格的な立ち上げを促しています。

住んでいる国や地域に関係なく、誰もが快適な暮らしを送るためにも、気候変動への対策を常に認識し、気候正義に立ち向かうことが求められています。

まとめ

今回は「気候正義(Climate justice)」について、基本的な知識や国内外での取り組み、個人でも出来るアクションのヒントについてお伝えしました。

気候変動による異常気象の増加は、今や世界中の人々を脅かしています。とりわけ先進国で暮らすわたしたちは、深刻な被害を受けている人々に対する責任を持ち、行動していかなくてはなりません。

社会における、あらゆる不公正・不公平をなくし、みんなが快適に暮らせる地球を目指して、まずは気候正義を果たすために出来ることから取り組んでいきましょう。

<参考リスト>
Typhoons and climate change: what’s causing the floods in East Asia? – NCAS
2024 could be world’s hottest year as June breaks records | Reuters
気候変動アクションマップ「System Change not Climate Change!」|FoE Japan
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第 6 次評価報告書第 1 作業部会報告書(自然科学的根拠)政策決定者向け要約(SPM)の概要(ヘッドライン・ステートメント)|気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
気候変動訴訟の世界的動向 国際法学会エキスパートコメント No.2022-6 | 神戸大学人間発達環境学研究科 助教 阿部 紀恵
Global Climate Litigation Report 2023 Status Review\| UN environment programme
【解説】スイス女性たちの温暖化を止める長い挑戦―欧州人権裁判所の判決をよみとく | 気候ネットワーク
1% for the Planet | Accelerating Environmental Giving
私たちが目指すもの | たんたんエナジー株式会社
気候正義 Climate Justice NOW!日本でシステム・チェンジが必要なわけ|Foe Japan
発電設備と発電電力量|電気事業連合会
SDGs報告2023:特別版 | 国連広報センター