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社会的養護とは?必要とされる背景や現状をわかりやすく!

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家庭における子育ては、子どもが心身ともに健康で豊かな人生を送るための土台となります。しかし中には、複雑な環境や事情によって、家庭での子育てが難しい状況も少なくありません。そうした問題を抱えている子どもを救うためにあるのが社会的養護という制度です。

言葉では今ひとつなじみのない社会的養護とはどのようなもので、今現在どのような取り組みがなされているのでしょうか。

社会的養護とは

社会的養護とは、さまざまな事情により家庭での子育てが難しい場合に、国や地方公共団体が公的責任に基づいて家庭での育児を補完し代替する制度です。

こども家庭庁では、社会的養護を以下のように定義しています。

「社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うこと」

引用:社会的養護|こども家庭庁 (cfa.go.jp)

社会的養護が必要なケースとは?

社会的養護を必要とするような「家庭での養育が難しい児童」とは、具体的には以下のような状態におかれた児童のことを言います。

  • 親がいない児童:親が亡くなった/親が行方不明になった/生まれてすぐ親に遺棄された
  • 親が育てるのに不適当:虐待や育児放棄経済的困窮で養育が難しい/親が病気や障害を抱え、養育ができない
  • 児童に心身の障害があり、親による養育だけでは支えきれない

またこの他にも、父親によるDV(家庭内暴力)をされている母親も社会的養護の対象となる場合があります。

社会的養護の目的

国や自治体が社会的養護を行う目的は、児童福祉法児童の権利に関する条約に則って子どもの権利を守ることと、状況や環境に関わらずすべての子どもを心身ともに健康に育てることです。

この目的を明確に定めているのが

  • 子どもの最善の利益のため
  • 社会全体で子どもを育む

という2つを掲げる社会的養護の基本理念です。

社会的養護ではこの理念に基づき

  • すべての子どもに当たり前の生活を保障
  • 健全な心身の発達と愛着関係や信頼関係の形成
  • 自立した社会生活に必要な能力の形成
  • 心身に被害を受けた子どもの安心感と自己肯定感の回復
  • 虐待や貧困の世代間連鎖を断ち切れる支援

などの実現を目指しています。

施設養護とは

社会的養護のうち、子どもや母子が公的な施設に入居して生活あるいは通って養育を受けることを施設養護といいます。施設養護は、戦後日本の児童福祉で中心的な役割を担ってきました。

施設の種別

子どもやその親が抱える問題は多岐にわたり、個人によって状況も異なります。こうしたニーズに対応するために、社会的養護を担う施設もさまざまな種類があります。ここではその代表的なものを取り上げていきましょう。

児童養護施設

児童養護施設は、保護者がいない児童や、養育・家庭環境に問題のある家庭の児童を保護者に代わって養育する施設です。児童養護施設では、児童の生活環境を整えて、生活指導や学習指導、家庭環境の調整などを行って児童の健全な成長と自立を支援しています。

乳児院

乳児院は、さまざまな事情で保護者の養育を受けられない満1歳未満(必要に応じ小学校就学前まで)の乳児を保護し養育する施設です。

乳幼児の基本的な養育に加え、虐待を受けた乳児や病気児・虚弱児・障害のある乳児をケアし援助する機能を有します。

児童心理治療施設

児童心理治療施設は、心理的・精神的問題で日常生活に支障をきたしている子どもたちに、生活支援を基盤とした医療的な心理治療を行い、学校教育と緊密な連携をとり総合的な治療・支援を行う施設です。

在所期間は比較的短く、家庭復帰や他の社会的養護につなぐ役割を果たします。

児童自立支援施設

児童自立支援施設はかつては教護院と呼ばれ、不良行為をなし、またそのおそれのある児童を入所させて保護、教育を行い、健全な育成をする施設でした。平成9年の法改正で現在の名称に改められ、家庭環境や環境上の理由により生活指導などが必要な児童も対象になっています。

母子生活支援施設

母子生活支援施設は、生活に困窮する母子家庭に住む場所を提供する施設で、平成9年の法改正以前は母子寮と呼ばれていました。母子が一緒に生活し、共に保護と自立支援を受けられるのが特徴です。

近年では、DV(家庭内暴力)の被害者や何らかの障害を抱える母親の入居が増加しています。

家庭養護とは

家庭養護(または家庭的養護)とは、施設養護ではなく一般の家庭の中で養護対象児を養育することです。1994年に日本が児童の権利に関する条約に批准し、さらに2009年には、子どもの代替的養護に関する国連指針に沿うかたちで家庭養護の枠組みが整備されました。

そして2016年の児童福祉法改正で、政府が社会的養護において家庭養護を優先する、という方針を打ち出したことにより、家庭養護の重要性が高まっています。

家庭養護は大別すると里親ファミリーホームの2つの種類があります。

里親

里親は、一般の人が社会的養護を必要とする子どもを自分の家庭に迎え入れ、家族の一員として育てる制度です。里親になるには自治体が定めた条件を満たし、必要な研修を受けることなどで都道府県知事の認定を受けて登録をする必要があります。この里親制度は2008年の児童福祉法改正を受け、以下の4種類が規定されました。

  • 養育里親:要保護児童を養育することを希望する者
  • 専門里親:養育里親のうち、心身に障害や問題を抱え、特別な支援が必要な児童を養育する者
  • 親族里親:要保護児童の親族が里親として養育を希望する者
  • 養子縁組里親:要保護児童と養子縁組をして養親となることを希望する者

【関連記事】里親とは?日本の現状や制度、種類、なるための条件

ファミリーホーム

ファミリーホームは、2009年に小規模住居型児童養育事業として設けられた新しい制度です。

里親と同じように養育を希望する者の住居で児童を引き取り、要保護児童を育てる形態で、制度的にも里親のひとつに位置付けられています。ただし、

  • 自営型と法人型の2つの事業形態
  • 里親手当を受けておらず、委託児童の数に応じた措置費で運営
  • 最多で6人までの委託児童を養育できる(里親は最大4人)
  • 専業の養育者の他に、補助者をつけることができる

などの点が、里親制度とは異なります。

社会的養護が必要とされる背景

世界的にも先進国であるはずの現在の日本ですが、一方で社会的養護の必要性はますます高まっています。その背景には、近年になって目立つようになってきた、子育てをめぐるさまざまな問題があります。

家庭の養育能力の低下

子育てに大きな影響を与えたのが家族構成の変化です。戦後から高度経済成長期ごろの家庭は三世代世帯が多く、子育ては義母や実母から教えられたり、祖父母も子育ての役割を担ったりすることが普通でした。

しかし、第一次産業から第三次産業への発展で人口が都市部に移り、核家族化、共働き家庭、さらにはひとり親家庭が増えていきます。その結果、家庭において子育てを担える力が弱ってきました。

経済的困難と子どもの貧困の増加

社会的養護が必要とされる背景には、景気の悪化と非正規雇用の増大に伴う、貧困家庭の増加という要因があります。

特に母子家庭などのひとり親は、非正規で賃金の低い仕事にしか就けないことが多く、必要な衣食住や医療、教育などを子どもに十分に与えられないことも少なくありません。

こうした日本での子どもの貧困率は現在、OECD加盟国の中で最悪の13%を超え、7人に1人の子どもが貧困状態にあるとされます。

親が児童を養育するのに適切ではない環境が生み出されるのは、こうした貧困家庭の増加も大きく関わってきます。

【関連記事】子どもの貧困とは?原因と日本の実態から考える私たちにできること・地域の取り組み事例

被虐待児と障害児の増加

現在の社会的養護をめぐる問題で深刻化しているのが、虐待を受けた児童や心身に障害を抱える児童の増加です。その実態は

  • 児童虐待の相談件数:平成11年度の6,932件から令和2年度には205,044件と、18倍も増加
  • 虐待が理由の養護措置:平成4年の4,268件から平成30年には12,210件に増加

となっています。そして現在では、里親に預けられた子どもや乳児院にいる子どもの約4割、児童養護施設に入っている子どものうち約7割が虐待を経験しているとされています。

また、養護が必要な児童の総数に対し、何らかの障害のある児童の割合は平成10年度には全体の11.7%でしたが、平成30年には36.2%にまで増えています。身体的障害のある児童の割合はほぼ変化はないものの、知的障害やPTSD、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害や広範性発達障害などがある児童の割合は、年を追うごとに増加しています。

虐待やDVを見たり受けたりした子どもは、発達障害や情緒面の問題行動を起こしやすいともされており、こうした児童は今後も増えていくと思われます。

格差の拡大と次世代への負の連鎖

保護者の問題や貧困、虐待など、困難な状況におかれた児童は、心身の異常や低学歴・低学力を強いられ、将来への可能性と選択肢が制限されます。

例えば大学への進学率も、令和2年の全国平均が52.7%なのに対し、児童養護施設出身者は17.8%、里親委託児童でも30.3%と、一般家庭との差は歴然です。

また社会に出た後も、就職後の離職率の高さ、ホームレスに占める施設出身者の割合の高さなど、社会的養護が終わった後の暮らしも、総じて厳しい状態にあります。そしてこうした格差の拡大貧困の連鎖は、次の世代へと続いていきます。

社会的養護の現状

このような困難を抱え、公的な養護を必要とする「社会的養護対象児童」の数は、令和5年4月現在約42,000人に上ります。その大多数が施設養護であり、最も多いのが児童養護施設です。

種類施設数児童数
児童養護施設610か所23,008人
乳児院145か所2,351人
児童心理治療施設53か所1,343人
児童自立支援施設58か所1,162人
母子生活支援施設215ヵ所児童5,293人(3,135世帯)
里親4,844世帯(委託数)6,080人
ファミリーホーム446か所1,718人

養護対象児童は平成13年には約45,500人なので、数としては横ばいかわずかずつ減っています。

過去10年ほどで、里親などへの委託児童数は約1.6倍増えているのに対し、児童養護施設へ入所する児童の数と、乳児院に入る乳児の数はいずれも約2割ほど減っています。

しかし養護対象児童の数は減っている反面、前述のように虐待の相談件数や障害を持つ児童の数は飛躍的に増えています。

家庭養護優先への転換

2008年の児童福祉法改正は、施設養護に偏っていた日本の社会的養護を大きく変えるものになりました。ここでは子どもの代替的養育に関する国連指針に基づき、

  • 児童の家族養護からの離脱は最終手段(可能なら一時的、できる限り短期間)
  • 幼い児童、特に3歳未満の代替養護は家庭を基本とした環境で提供されるべき
  • 脱施設化方針に照らした上で代替策は発展すべき
  • 施設養護施設は、児童の権利とニーズが考慮された小規模で可能な限り家庭や少人数のグループに近い環境にあるべき

など、施設養護依存からの脱却と家庭養護重視へと転換することになります。

その傾向は平成28年に改正された児童福祉法の理念を具体化する「新しい社会的養育ビジョン」でより鮮明に示されます。ここでは

  • 市区町村中心の支援体制構築
  • 児童相談所の機能強化
  • 「家庭と同様の養育環境」原則による施設養育の小規模化・地域分散化・高機能化

を進めながら、

  • 里親委託率を3歳未満は概ね5年以内、それ以外の就学前児童は7年以内に75%以上、学童期以降は概ね10年以内に50%以上を実現する
  • 施設での滞在期間は原則乳幼児は数か月以内、学童期以降は1年以内(特別なケアが必要な学童期以降も3年以内が原則)
  • 概ね5年以内に現状の約2倍、年間1000人以上の特別養子縁組成立が目標

などの、大きな目標を掲げています。

社会的養護の課題

社会的養護の充実には国や自治体も力を入れて取り組んでいるものの、まだ課題は多く残ります。

施設職員の専門性向上

社会的養護において家庭養護が優先するとはいえ、施設養護が不要になるわけではありません。今後の施設は「家庭と同様の養育環境」が求められるとされるため、より小規模、地域分散型で、児童の権利とニーズがより細かく考慮された高機能化になるとされます。より専門性の高いケアを児童に行うならば、必然的に適切な人材配置や職員研修システムの充実などによって、職員の専門性を高める対策が必要と言えるでしょう。

自立後の支援不足

社会的養護の問題で多いのが、施設養護を終えた後の支援の不十分さです。特に高校を卒業して施設を出た元養護児童が、大学進学や就職などの際に住居の契約や医療費で困難に直面するケースは少なくありません。学費や生活費の支援制度の拡充や、金銭面を含めた専門のアドバイザーなど、知識や情報の面でもより手厚いサポートが必要であるという意見が、社会的養護の経験者からも寄せられています。

里親・ファミリーホーム世帯数の不足

国が家庭養護優先の方針を打ち出したとはいえ、その受け皿である里親世帯とファミリーホームはまだまだ不足しています。「新しい社会的養育ビジョン」では里親等委託率50〜75%という意欲的な目標をしたものの、現実には令和3年時点で22.8%と、目標の達成には程遠い状況です。

その理由としては

  • 里親そのものの認知度が低い
  • 実親が里親委託を了承しない
  • 里親と児童のマッチングに時間を要する
  • 経験の浅い里親が多く受け入れに不安がある
  • 養育里親認定研修が短く専門性が保証できない

などの問題があげられ、ファミリーホームについても

  • 最大6人を受け入れられる大きな住宅が必要で、運営費も含め費用負担が大きい
  • 運営が閉鎖的になる可能性が高く、事務量が煩雑
  • 養育里親認定研修が短く専門性が保証できない

などの問題が指摘されており、いずれも期待されているほど拡充はしていません。

家庭養護での治療的支援の難しさ

里親とファミリーホームでは、心理療法を担当する職員を置く必要がないため、困難を抱える児童の治療的支援にあたっては、児童相談所との連携が必要となります。

里親自身が心理治療などの専門性を身につけるケースは極めて少なく、心身に障害を抱える児童の養育でも困難に直面することが課題となっています。

社会的養護に関して私たちができること

社会的養護が必要な児童の力になるために、私たちに何ができるでしょうか。ここでは、社会的養護を市民の立場から支えるための取り組みについて見ていきましょう。

支援団体への寄付・協力

最も取り組みやすいのが、児童養護施設や乳児院、里親・ファミリーホームなど、社会的養護を支援する団体に寄付を行うことです。前述のように児童養護施設出身者は衣食住のほか学費や生活費に苦労するケースも多く、里親やファミリーホームの運営にも多くの予算がかかります。私たちが積極的に寄付を行うことで、彼ら彼女らの力になることができます。

また継続して支援を続ける意思があるなら、ボランティアという形で協力することもできます。人的な支援を積極的に募っている団体もありますので、希望する方は申し込んでみるのもいいでしょう。

里親への登録

より真剣に養護対象児童を救いたいと思う方には、里親登録をするという選択肢もあります。

里親になるには特に資格はいらないものの、引き取った児童の日々の生活だけでなく、人間形成や成長に大きな責任を持つことになります。そうした点を踏まえた上で、本気で里親になりたいと考えるならば、最寄りの児童相談所や里親支援機関などに問い合わせてみましょう。

ファミリーホームの開設

養護児童たちの個室など広い住宅を持ち、持続可能な運営費用や事務作業を負担できる相応の条件を備えている場合、新たにファミリーホームの開設をすることもできます。開設にはある程度の養育経験や養護施設などでの勤務経験も必要となりますが、児童福祉への関心が強く、条件を満たす方にとっては取り組む価値があると言えるでしょう。

社会的養護とSDGs

社会的養護は、SDGsが掲げる誰一人取り残さない社会の実現に大きな役割を果たします。

特に関連が強い達成目標としては

  • 目標1.「貧困をなくそう」
  • 目標4.「質の高い教育をみんなに」
  • 目標10.「人や国の不平等をなくそう」
  • 目標16.「平和と公正をすべての人に」

があります。すべての子どもが生まれや環境に左右されず、生活する権利、教育を受ける権利が保障されることは、人間として生きるうえで当然のことだと言えるでしょう。

>>各目標に関する詳しい記事はこちらから

まとめ

現在の私たちの社会は、必ずしも子育てがしやすいとは言えない環境を生み出しています。そんな中、さまざまな理由で社会の枠組みからこぼれ落ち、困難を抱える子どもたちを救ってきたのが社会的養護です。

社会的養護を充実させ、負の連鎖を断ち切ることは、すべての児童が人間らしく生きる権利を守るために必要であり、ひいては私たちみなが暮らしやすい社会を築くためにも必要不可欠な取り組みでもあるのです。

参考文献・資料
基礎から学ぶ社会的養護:加藤孝正,小川英彦編著/ミネルヴァ書房,2012
社会的養護|こども家庭庁 (cfa.go.jp)
社会的養護の施設等について|こども家庭庁 (cfa.go.jp)
社会的養育の推進にむけて(令和5年4月5日) (cfa.go.jp)
全国児童心理治療施設協議会
里親になるには – 東京都福祉局
上田, 裕美 ケアリーバーである大学生の学生生活に関する調査 大阪教育大学紀要. 総合教育科学 72,2024 (osaka-kyoiku.ac.jp)
藪一裕,社会的養護における家庭養護の促進とファミリーホームの役割 2023年度 こども教育学部研究紀要 第3集 京都文教大学学術機関リポジトリ (nii.ac.jp)
子どもの貧困対策 | 日本財団 (nippon-foundation.or.jp)
社会的養護の課題と将来像.pdf (mhlw.go.jp)