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リプロダクティブ ・ライツとは?定義や課題、日本・海外の取り組み事例も

「子どもを産むかどうか」、「産むならいつにするか?」といった選択は、本人やパートナーとの意思によって決められるべきことです。

しかし、国や地域によっては「女性は早く結婚して子供をうむべき」「中絶は許されない」「同意がなく安全で快適な性生活を送れない」など、法律やステレオタイプが存在し、守られない人々がいることも事実です。

こうした、いわば「人権」を保障するのが、リプロダクティブ・ライツです。この言葉の誕生からおよそ30年が経った今、その注目度が再燃しています。

この記事では、リプロダクティブ・ライツと関連する言葉の定義に始まり、日本や海外の現状・取り組み事例などを紹介します。

みなさんも一緒に、性と生殖に関する権利を紐解き、理解を深めていきましょう。

リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは

リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、性と生殖においてすべての人が保障されるべき健康・権利のことです。

1994年にエジプト・カイロで行われた国際人口開発会議において初めて登場しました。

英語ではSexual and Reproductive Health and Rights(セクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルス・アンド・ライツ)と表記され、主に女性の身体に起こりうる妊娠や出産・中絶といった問題のほか、性的な自認や生殖機能に関わらない健康の保障なども当てはまります。

このリプロダクティブ・ヘルス/ライツは、英語の頭文字であるSRHRから4つの要素が含まれ、それぞれの定義から成り立っています。

①セクシュアル・ヘルス

②セクシュアル・ライツ

③リプロダクティブ・ヘルス

④リプロダクティブ・ライツ

まずは、この4つの言葉を確認し、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの定義と範囲を知っておきましょう。

セクシュアル・ヘルス

セクシュアル・ヘルス(Sexual Health)とは、性行動に関する健康のことで、身体、感情、精神、社会の面において健全な状態を指します。

セクシュアル・ヘルスでは、病気や障害の有無にとどまらず、差別・暴力を受ける心配なく安全で快適な性的関係を築けることも定義づけられています。

ここでいう性(Sex)は、単に生物学的な男性/女性だけではなく、自身の性自認にもとづくジェンダーや社会における性的な役割を含みます。自分の「性」に関して、心身共に満たされていて幸せを感じられると同時に、社会がそれを認めている状態を表しているのです。

どんなジェンダー・アイデンティティーを持つ人も、すべての人が平等に保障されるべきなのがセクシュアル・ヘルスです。

セクシュアル・ライツ

セクシュアル・ライツ(Sexual Rights)は。セクシュアル・ヘルスに関わるあらゆる権利を指し、基本的な人権のひとつに含まれます。

セクシュアル・ライツには、例えば以下のような項目が当てはまります。

  • 平等、非差別の権利
  • 性別にかかわらない婚姻の権利
  • 子どもの数と間隔を決める権利
  • 拷問や残虐で非人道的な行為・扱いを受けない権利
  • 性に関する情報や教育を受ける権利

このように、どれをとっても、セクシュアル・ライツは基本的人権の範囲に含まれる権利であることが分かります。

リプロダクティブ・ヘルス

リプロダクティブ・ヘルス(Reproductive Health)とは、性や生殖に関する健康を保障することを意味する言葉です。

性や生殖と聞くと、女性の妊娠や出産を想像する人も多いかもしれません。しかし実際は、すべての人が子どもを産む/産まないの選択をでき、本人やカップルの意思が尊重される社会を含めてリプロダクティブ・ヘルスが成立するものです。

リプロダクティブ・ヘルスは、子どもを産みたい人は安心して妊娠・出産でき、そうでない場合は避妊や中絶が選択できるほか、子どもの有無に興味を持たない人やアセクシャル(無性愛者・非性愛者)の人も含め、誰もが心身ともに健康でいられることをいいます。

リプロダクティブ ・ライツ

リプロダクティブ・ライツ(Reproductive Rights)とは、性と生殖に関わるあらゆる範囲を含む、基本的な人権のひとつです。

例えば、妊娠や出産だけでなく、避妊・中絶・母体と胎児の健康を守るための医療アクセスといった権利が当てはまります。

周りの人に強要されたり、社会のプレッシャーに抑圧されたりするのではなく、性と生殖に関する問題について、本人およびカップルが自分たちの意思で決断できる状況が大切です。

また、誰もが平等に適切なサポートやカウンセリングを得られる権利も、リプロダクティブ・ライツのひとつといえます。

今回の記事では、主にこの「リプロダクティブ・ライツ」について深堀りしていきますが、前提として、ほかの3つの要素があって成り立っている概念ということを頭に入れておきましょう。

次では、リプロダクティブ・ライツの具体例について見ていきます。

リプロダクティブ ・ライツの具体例

ここまでの内容をまとめると、リプロダクティブ・ライツは、例えば以下のような事例が当てはまります。

・妊娠できる身体を持つすべての人が、自分の意思で子どもを産む/産まないを決断でき、子どもを産む間隔を決められる

・安全な環境で妊娠・出産ができる

・妊娠を望まない場合は、性交時に避妊できる(相手にも避妊を求め、応じてもらえる)

・同意のない性行為や性的暴行による望まない妊娠をした場合、適切な医療サービスを(無料もしくは手ごろな値段で)受けられる

・妊娠の意思にかかわらず、すべての人が安全で快適な性生活を送れる

誰もが正しい知識を得る必要がある

ここで大切なのは、リプロダクティブ・ライツは女性だけの権利というわけではなく、すべての人に関係がある権利だということです。

例えば最後の項目「妊娠の意思にかかわらず、すべての人が安全で快適な性生活を送れる」ためには、女性だけでなくパートナー側のリプロダクティブ・ライツへの認知が必要であり、性に関する正しい知識や情報が求められます。

リプロダクティブ・ライツは、性と生殖という広大な範囲を含む権利だからこそ、誰もが性・生殖に関する知識を得る必要があり、適切な情報やサービスにアクセスできる状態が大切なのです。

リプロダクティブ ・ライツが注目される背景

先述したように、リプロダクティブ・ライツは、1994年にエジプト・カイロで開催された国際人口開発会議で初めて登場した言葉です。

当時は、単純に人口を「数」として捉えるのではなく、子どもを産める身体を持つ女性が妊娠・出産の決断を、本人の意思で出来ることを「人権」として定義づけされました。

そのリプロダクティブ・ライツが、近年また注目されているのはなぜでしょうか。社会の背景に着目し、理由を見ていきましょう。

ジェンダー平等を目指す動きが後押し

リプロダクティブ・ライツが注目される背景には、ジェンダー平等の意識が社会全体に芽生えたことが大きな理由だといえます。

2015年、国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にもある通り、性別によって社会的な役割を押し付ることなく、誰もが本人の意思によって活躍できる社会づくりを目指す動きが、世界中に広まってきています。

従来の社会で女性は「家で子どもや家族のケアをし、男性を支える存在」として決めつけられることが多くありました。しかし現代では、性別にかかわらず、本人が望めば誰でも社会に出て活躍できる時代になってきています。

こうした動きの中で、仕事や学び・その他の理由によって子どもを生むという選択肢を持たない女性もいます。

リプロダクティブ・ライツは、子どもを持つ/持たないの選択肢や、子どもを持つ間隔といった家族計画を本人とパートナーが決められる権利です。

多様な働き方・家族の在り方が見られる現代社会において、リプロダクティブ・ライツの注目度が高まってきているのです。

リプロダクティブ ・ライツに関する課題

次に、リプロダクティブ・ライツに関する課題について、世界と日本の事情をそれぞれ見ていきましょう。

中絶を巡る世界の事情とは

性と生殖の権利を考えるうえで欠かせない要素のひとつが「中絶」です。

リプロダクティブ・ライツにおいて、女性が子どもを生む自由が保障されていると同時に、望まない妊娠や出産のリスクを負う場合には、安全な中絶へのアクセスも保障されることが述べられています。

なぜなら、妊娠する女性の中には、同意のない性交や性的暴行などによって強制的に妊娠させられた場合があるほか、障害や病気によって安全に出産できない場合があるためです。

しかし世界では、すべての国が中絶を容認しているわけではありません。

世界全体では、77か国が中絶を合法化しており、中絶を認めていないのは21か国となっています。

残りの国や地域では、日本のように経済的な理由などで中絶を認めるほか、母体の健康や生存リスクによってのみ合法としています。

下の世界地図では、「過去30年間で中絶が自由化された国(青色)と、中絶の自由を後退させた国(赤色)」が示されています。

過去30年間で、60以上の国と地域が中絶を合法化する一方、アメリカの一部の州とポーランド、ニカラグア、エルサルバドルの4か国が、中絶の非合法化・中絶アクセスへの厳格化を行っています。

つまり、世界では約40%の女性が、法律によって中絶にアクセスできない状態にあります。

数にするとおよそ7億5,300万人になり、人権を奪われた状態にある女性の多さがうかがえます。

日本のリプロダクティブ・ライツに関する課題とは

では、日本におけるリプロダクティブ・ライツは、現在どのような状況なのでしょうか。

先ほど中絶の話でも触れたように、残念ながら日本でもリプロダクティブ・ライツにおける法整備が完全に整っているとはいえない状態にあります。

具体的には、避妊や中絶に関する法律が整わず、適切な医療やサービスへのアクセスが容易でないことが挙げられます。

例えば、緊急避妊薬を購入できる場所や条件が限られていたり、購入できるとしても高額だったり、中絶をするにしても心身に負担のかかるものだったりと、女性へのリスクが大きなことも、社会全体でのリプロダクティブ・ライツへの認知がまだまだ低いといえます。

加えて、義務教育で妊娠の過程が詳しく取り上げられないことや、避妊・中絶への情報が限られていることも後押しし、そもそも正しい知識や情報が十分でない点も問題です。

さらに、共同親権のように女性と子どもの権利を制限する法律の審議入りなど、多くの女性にとって結婚・出産のハードルはまだまだ高く、人口増加に歯止めをかけているといえそうです。

こうした状況を踏まえ、日本は批准している「国際女性差別撤廃条約」の委員会から是正勧告を受けています。

それほど、日本におけるリプロダクティブ・ライツへの認識の低さは、社会において大きな課題なのです。

データから、日本のリプロダクティブ・ライツを知る

もう少し踏み込んで、現時点で、日本ではどのようなことが起きているのかを見ていきます。

かねてから深刻な問題として指摘されている少子高齢化は、結婚や出生率の減少が原因のひとつといわれてきました。

下の図は、2022年に連合総研が発表した「1947年から2021年の出生率と、合計特殊出生率」をあらわしています。

※合計特殊出生率:その年における15歳~ 49歳の女性の年齢別の出生率の合計で表し、1人の女性が一生のうちに出産する子どもの平均数で示しています。

2021年の合計特殊出生率は1.30となり、6年連続の減少率となりました。

合計特殊出生率に関しても、人口維持には2.07~2.08が理想とされている中、2021年の1.30は驚異的に低い数値といえます。

また、2021年の結婚件数は2020年よりも2万件ほど少ない50万1,116組で、戦後最少となっていました。

このように、さまざまな社会的要因はあるものの、現在の状況を打開するには、第一にリプロダクティブ・ライツについて見直し、誰でも性と生殖の権利が保障される法整備を整えることが急務ではないでしょうか。

日本におけるリプロダクティブ ・ライツに関する取り組み

次に、日本におけるリプロダクティブ・ライツへの取り組みを見ていきましょう。

国や自治体といった大きな枠組みでの取り組みの一例としては、愛知県江南市の「こうなん男女共同参画プラン」が挙げられます。

令和4年度から進めている「第3次こうなん男女共同参画プラン」では、妊娠・出産移管する情報を積極的に公開し、市がサポートするサービスについての周知を強化しています。

また市民団体の活動も近年は活発になっています。例えば、リプロダクティブ・ライツに大きく関わる女性の「生理」にフォーカスした市民団体「#みんなの生理」では、生理に関して誰もが知る機会を作れるように情報発信やオンラインカフェを精力的に行っています。

ほかにも、多くの女性にとってトイレットペーパーと同じ日用品である生理用品について、従来かかる消費税10%から軽減税率8%への引き下げを求めた署名活動なども実施中です。

このような市民や・自治体の活動の輪が広がっていき、国の法整備を動かす第一歩になることが期待されます。

海外におけるリプロダクティブ ・ライツに関する取り組み

次に、海外での取り組みについてご紹介します。

ヨーロッパをはじめ多くの国では、妊娠や出産に対する手厚いサービスを設けるだけでなく、リプロダクティブ・ライツを重視した避妊・中絶へのアクセスをしやすい制度を整えています。

2024年3月には、フランスの憲法で人工妊娠中絶への自由が保障され、世界ではじめて「中絶する権利」が記載されました。

現在、フランスでは中絶に関する治療費は無料とし、フランス市民のリプロダクティブ・ライツを保障しています。

近年、アメリカをはじめとするラテンアメリカ地域では、多くの市民団体が声を上げ、中絶の合法化を求めてきました。

その成功例として、2023年にはメキシコで、リプロダクティブ・ライツに関する運動を続ける組織GIRE(生殖の権利に関する情報グループ)が、中絶は違法であると申し立てた裁判について、最高裁が議会に対し、違法との判決が下りました。

さらに最高裁は、議会に対し「2023年末までに連邦警報から中絶への刑罰を削除する」ように求めています。

このように、世界では市民側の声が届き、法を変える動きにまで発展しているのです。

リプロダクティブ ・ライツとSDGs

最後に、リプロダクティブ・ライツとSDGsの関連性について確認しておきましょう。

リプロダクティブ・ライツは、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の前にできた概念であり、女性の健康やジェンダー平等の解決が今も最優先課題として引き継がれています。

主に目標3「すべての人に健康と福祉を」と、目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の2つに、リプロダクティブ・ライツに関する要項が盛り込まれています。

具体的には、妊婦死亡率の減少や性感染症の撲滅を目標3で掲げており、目標5では女性差別の撤廃をはじめ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの普遍的なアクセスを求めています。

このように、リプロダクティブ・ライツは幅広い範囲をカバーする概念だからこそ、幅広い視点を持ち、社会全体が協力して動いていく必要があります。

まとめ

今回は「リプロダクティブ・ライツ」について、ほかの概念とあわせた言葉の意味や、日本・海外での課題と取り組みをお伝えしました。

リプロダクティブ・ライツは、単純に子どもを産む/産まないの選択だけでなく、すべての人が安全で快適な性生活を送れるようにすることや、性と生殖に関して正しい知識と適切なサービスが受けられる社会を保障しています。

そのような社会を実現するためにも、まずは一歩、知ることからはじめましょう。リプロダクティブ・ライツは、女性だけの問題ではないからです。

参考リスト
Sexual and reproductive health and rights | OHCHR
国際人口・開発会議行動計画要|UNFPA
Sexual and Reproductive Health and Research (SRH)
セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)とは | SRHRのアドボカシー | 知る | 国際協力NGOジョイセフ(JOICFP)
Reproductive Rights and Abortion | Human Rights Watch
基本知識 – リプラ(リプロダクティブライツ情報発信チーム)
DIO_No379(9月号).indd|連合総研
リプロダクティブ・ヘルス/ライツ|江南市公式ホームページ
#プロジェクト | #みんなの生理
フランスが中絶権を憲法に明記へ 世界初 – BBCニュース
Voluntary Termination of Pregnancy (IVG) | Service-Public.fr
Mexico’s Supreme Court Orders Federal Decriminalization of Abortion | Human Rights Watch
SEXUALANDREPRODUCTIVE HEALTHANDRIGHTS: ANESSENTIALELEMENTOF UNIVERSALHEALTHCOVERAGE|United Nations Population Fund