スウェーデンは環境先進国や福祉国家と呼ばれて久しい国です。スウェーデンに興味のある方ならば、自然やデザイン大国と呼ばれる以外にも、環境活動家のグレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)の名や、脱炭素問題など、環境問題について耳にしたことがあるのではないでしょうか。
スウェーデンは先進国の中でも、SDGs達成率の高い国のひとつです。スウェーデンのSDGs達成率の高さには、いったいどのような理由があるのでしょうか。
また、スウェーデンが今後おこなうべき課題や取り組みには、どのようなことが考えられるでしょうか。実際にスウェーデンに暮らして感じることを、世間で知られているよい面だけではなく、多方面から考えてみていきましょう。
目次
SDGsとは
近年耳にする機会の多くなった、SDGsというワード。Sustainable Development Goals(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ)の略です。これは国連で定められた、持続可能な社会を目指す指標で、17個の異なる項目が掲げられています。
たとえば、地球環境や気候変動に関して、ジェンダーの平等に関して、貧困やゼロハンガー、健康と福祉など、環境だけではなく教育や人権、社会や働き方に関しての項目もあります。
この中でも日本は、とくにジェンダーイクオリティやカーボンニュートラルなどを含む、6項目(具体的には項目番号5.12.13.14.15.17)について大きな課題が指摘されているのは、耳の痛い話でしょう。
SDGs達成度ランキングとは?
毎年、国連の研究組織(SDSN/持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)により、SDGsの目標が各国でどれくらい達成されているか、ランキング形式で発表されます。
基本的に世界193か国(2015年時の国連加盟国)が取り組んでいる努力目標ですが、達成度はポイント制で国ごと、地域ごとに表されます。これは、2030年までに達成したい目標として、各国が取り組むべき課題だからです。
2030年までを目標にしていますが、もちろん2030年を迎えたら、終了というわけではありません。先の世界的感染症のパンデミックにはじまり、長引く戦争の影響を受けての飢餓の増大・経済の混乱、回収できない海洋プラスチック汚染の増加、貧困問題など、2030年を迎えても解決されていない問題はきっと世界中にあるでしょう。
また、2030年までに達成できなかった場合にも、罰則や法的処置がとられることもありません。
2030年を目標に、各国や企業、個人が現状打破のために最大限の努力をし、その結果を受けて2030年以降も引き続き、世界中で地球環境について考えていくことが大切になっていくのです。
スウェーデンは2022年度世界ランキング第3位の国
2020年にSDGs世界ランキング1位だったスウェーデン。2022年には、ほかの北欧諸国の台頭もあり、世界第3位(85.2ポイント)にランキングしています。
実際に、ランキング上位はすべて北欧の国々に占められています。また、上位国にヨーロッパの国々が名を連ねているのは見逃せません。
対して日本は前年からダウンし、2022年の世界ランキングは19位となっています。
スウェーデン以外の北欧諸国のSDGs達成度
1位フィンランド(86.5ポイント)(2021年度1位→)
2位デンマーク(85,ポイント)(2021年度3位↑)
3位スウェーデン(85.2ポイント) (2021年度2位↓)
4位ノルウェー(82.3ポイント) (2021年度7位↑)
「暮らしやすい国ランキング」や「幸福度ランキング」では、常に上位に名前があがる北欧の国々。SDGs達成目標には、人権や働き方、貧困や教育問題の項目もあります。スウェーデンのSDGsの達成率の高さは、住みやすさや幸福度にも密接に関係しています。SDGs反対国の主張もある!
世界には先進国もあり、発展途上国もあります。SDGsは持続可能な目標なため、先の感染症パンデミックや、今も世界の各地で続く戦争や紛争などの混乱があると、SDGsの取り組みや達成度には、どうしても国ごとに温度差が出てきてしまいます。
SDGsは先進国にリードされており、おもに先進国での達成率も高くなっているため、途上国の経済成長の後押しをしないと主張する人もいます。なぜなら現在の先進国の多くは、自国の経済成長のために、多くの環境破壊や、人権無視をしてきたうえに成り立っているからです。
また、SDGsの項目の中には、実現すると矛盾が生じてしまう項目があるのも事実です。たとえば、すべての人間の健康と福祉を考えて(項目3.)タバコを禁止すると、タバコ農家で生計を立てている人たちの生活を脅かすことになります。(項目8.働きがいと経済成長)
海の豊かさ(項目14)や陸の豊かさ(項目15)を守るというのもやはり、漁業や林業を収入源としている人々の生活を圧迫すると考える人もいます。
しかしながら、SDGsはそのような極論を唱えているわけではありません。すべての産業を規制するとは誰もいっておらず、動植物の乱獲をせずにうまく調整をし、計画的に地球規模で持続性を考えていくという取り組みなのです。
これは一国間のみの経済事情で解決できる問題ではありません。地球規模で各国が互いに協力しあい、実現していく大きな課題です。ですから、スウェーデンなどの北欧諸国の国々は、「自分たちは目標達成しているから大丈夫」などと、のんびりあぐらをかいているわけにはかないというわけです。
北欧諸国のSDGs達成度が高い理由は?
世界でも税金が高く、それゆえに福祉国家と言われるスウェーデンは、(住んでみると医療制度には多々問題を感じますが)SDGs3「すべての人に健康と福祉を」をクリアしているといえます。
SDGs達成率の高い先進国のなかには、そもそもスウェーデンのように、もともと水資源が豊富(安全な水とトイレ・項目6)な国であったり、飢餓や貧困が少ない(項目1と2)国が多いのも事実です。
これらの恵まれた自然環境や、近代に定められた制度は、北欧の国々でSDGsの達成率が高い理由のひとつにもなっています。
ほかにも、スウェーデンがSDGsの達成度の高い理由として考えられる事柄を、さまざまな角度から探してみましょう。
早い段階からの取り組み
スウェーデンが環境問題に危機感をもち、問題解決に向けて取り組み始めたのは、実際に1960~1970年代初頭のことで、日本と比べてもかなり早い段階です。
水質資源の豊富なスウェーデンは、酸性雨が問題視されたときに、河川の酸性化で魚が被害を受けたり、土壌汚染が問題になったりしました。化石燃料による被害を軽減させるため、バイオエネルギーの研究開発がはじめられたのも、同じころです。
森林資源も豊かで自然の多い国と言うことや、極地に近い地理上の条件などもあり、気候変動への取り組みが身近なこととして受け止められたと考えられます。
1980年代初めには、空き缶や空きビン、ペットボトルなどのプラスチック類のリサイクルの仕組みが、民間レベルで整えられました。
どの国よりも先駆けで対策を取ったために、現時点での達成率が、世界でも群を抜いてトップになっているのです。
教育環境の良さ
スウェーデンをはじめとした北欧諸国は、軒なべて教育水準が高いことで知られています。
私立の学校を除けば、大学まで進んでも教育費がかからないので、いつでも好きなときに学業にうち込めます。また、社会人になったあとでも働きながら学校へ行ったり、新しい資格やスキル、キャリアを積むために大学へ戻ったりする人もたくさんいます。
転職のためにまず大学へ入り直し、新たな専門知識をつける人や、文系から理系に転向し、新しい仕事を探す人もいます。学びや教育の自由度は、どの国よりも高いでしょう。自分の専門がひとつというわけではありません。
高校生になる16歳からは、Studiebidrag(ストゥディエビドラグ)といって、CSN(Centrala Studiestödsnämnden)という組織から、毎月給付金が支給されます。学校への80%出席率が条件ではありますが、自宅から通う高校生の場合、月に1250kr(約15,900円)です。
大学生になると、自宅通学とアパート暮らしで金額も変わり、返済型の給付金の申請も可能です。また、海外留学をする場合にも支給されます。
これは私たちのように、外国からの移民がスウェーデンの学校に通う場合にも同様です。つまりスウェーデンでは、誰にでも平等に教育を受ける機会があります。その気になれば、何歳になっても大学に戻り、新しいことを勉強できるのです。
スウェーデンでは、日本のように「学費が高いから進学をあきらめる」必要も、「母(父)子家庭だから進学が困難」なこともありません。税金の高いことでも有名なスウェーデンですが、このように目に見える形で還元されているので、払い惜しむ気持ちはなくなりますね。
教育環境とは、決してよい大学で勉強をしたり、有名な教授のもとについたりすることだけではありません。スウェーデンでは国を挙げて、教育を受ける権利のバックアップがされているので、安心して学業に打ち込めるといえます。(SDGs項目4、全員への質の良い教育の達成)
小学生からSDGsについて学習
スウェーデンではSDGsの17項目について、小学生のころから学校の授業で教えられています。
たとえば、貧困問題についてのビデオを見たり、教育について考えたりする機会があります。ジェンダー問題に関しても、小学生のころから習いますし、異なるジェンダーの先生方の話を聞いたり、ディスカッションをしたりします。
環境問題に関しては、グループワークで調べたり、実際に浄水場の社会見学へ行き、川の水に入ってみたり、周辺地域のゴミ拾いをしたりします。
ごみの分別に関しても、家庭や地域で当たり前のように徹底しているため、日ごろの習慣になっています。
SDGsについて机上で学ぶだけでなく、グループワークやディスカッションを通じて、パネル制作やエキシビションを定期的に行い、親や他学年の子供たちが展示を見に訪れる機会も多くあります。
教育によって「現在世界で起こっていること」や「自分たちと異なる生活レベルの国があること」、「地球環境をよりよくするためにできること」を幼いうちから学びます。学習や体験によってくり返し学び、身につけることは、今ある問題に関心を持つ意味でも重要です。
徹底した個人主義
日本語で「個人主義」と表現すると、日本人の考える「和を以て貴しとなす」の精神に反した、”協調性のない人たち”と言うような印象を受けるかも知れません。しかしながら、北欧人の性質としてよく表現される「個人主義」というのは、それとはかなり違った感覚です。
あえて表現をするのならば、「自己肯定感の高さ」という表現がしっくりくるでしょうか。基本的にスウェーデンの人たち(北欧の人々含む)は、自己主張がきちんとでき、相手の意見を受け入れる懐の深さがあります。「人は全員違う」ことをよく分かっているからです。
自己肯定感が高く(自分で自分を認めている)、他人との違いも理解していると「人は人」と考えられるようになります。つまり実際に、他人のしていることがほとんど気にならないのです。
スウェーデンでは「他人に無関心」というよりは、「他人のしていることを尊重しているので、人に迷惑を掛けない限りは誰が何をしていても気にならない」という意味で、個人主義といえます。住んでみると感じますが、非常に暮らしやすいものです。
また、スウェーデンでは、幼いころから感情のコントロールが大切と教えられます。たとえば、公園で大声で騒いでいる子供たちが、母親や祖父母に怒られるという光景を目にすることがあります。日本人の目には、子供が公園で大きな声をあげて楽しんでいるのは、普通の光景ですが、スウェーデンではよくないとされる場面のひとつです。
このようなバックグラウンドあっての「個人主義」なため、ジェンダーの平等やLGBTなどのセクシャルマイノリティに対しても寛容です。
身近なところでは、子供たちの通う学校には、かなりの確率でLGBTの教員が在籍しています。学童でも多く働いていますので、子供たちは常に自然なかたちで、あらゆるジェンダーの大人と過ごすことになります。
大人が他人の親を目にする最も多い機会のひとつとして、毎日各家庭の親たちの出入りのある保育園を例に出しますが、保育園に行けば、「母親ふたりの家庭」や「父親ふたりの家庭」も普通に目にします。スウェーデンでは同棲結婚はもちろんのこと、養子縁組で子供を持つのも可能です。
誰も隠さないので、めずらしくないというのもありますが、正直「誰も気にしていない」という表現がぴったりです。これは、SDGsの5番目の項目にある、ジェンダーの平等に貢献しています。
スウェーデンのSDGsについて今後の課題やアプローチ
スウェーデンがSDGs達成率が高いのは、もともとの恵まれた資源や、先進国というベースあってのことです。しかしながら、現実のスウェーデンのエネルギー消費率はアメリカ同様に世界でも高いのは、先進国たるゆえんです。
世界の全ての国々が、スウェーデンと同レベルのエネルギー消費をした場合、今後どうなるでしょうか。当然ながら、世界のエネルギー源は短期間で枯渇してしまうでしょう。
この考察にはカラクリがあります。エネルギー問題に特化して考えた場合、エネルギー消費率自体が非常に高いスウェーデンですが、再生可能エネルギー率も高いため、エネルギーに関するSDGs項目は相殺という形で達成されているのです。
SDGs各項目の達成に関し、スウェーデンに課せられた今後の課題や、対策についても考えてみましょう。
▶︎関連記事:「スウェーデンは再生可能エネルギー先進国!身近なクリーンエネルギーの課題」
コロナ後のクリーンなエネルギー回復について
環境問題を考えるに当たって、2019年から続いた世界的な感染症のパンデミックが、スウェーデンに与えた影響は考慮する必要があります。
このパンデミック期間中、実はスウェーデンではストックホルムの一部を除いて、大規模なロックダウンや隔離政策などは、ほとんど行われませんでした。
暮らしに大きな変化が起きないというのは、スウェーデンに暮らすものとしてはある意味、ありがたいことでした。
もちろん学校や仕事がリモートワークになったり、レストランやカフェでの営業方法や時間が、一時的に変更になったりすることはありました。また、ショッピングモールでの店内入場制限や、消毒の徹底など、変化した部分もありましたが、平常に戻るのも早いものでした。
このパンデミックの間に、世界のエネルギー需要量は約8%落ち込みました。しかしながら、これによって大気汚染が回復するなど、環境にプラスに働いた事実は見逃せません。
2015年パリ協定で定められた、2030年までの「温室効果ガス削減目標」である1.5度以下に抑えるためには、1年間にこのパンデミック時と同じだけのエネルギーの削減をする必要があります。
今後10年間を、同じように削減し続けて初めて、パリ協定の努力目標が達成できるといえるのです。(SDGs11.持続可能な街づくり)
ここ20年で起こったスウェーデンの日常の変化
北欧の国々に長く暮らしていますが、実は人々の生活の中で、20年前と大きく変わったところがあります。
それは、スーパーマーケットやショッピングモールなどの営業時間です。
北欧で暮らし始めた1990年代は、スーパーですらも土曜は14時か15時まで、日曜日は完全に休業でした。そう、北欧の人々にとって「週末は家で休む」が当たり前だったのです。
当時週末にも営業をしている店は、駅のキオスクや、外国人の営業している食料品店など、個人経営の一部の店舗のみでした。当然ながら、24時間営業の店舗などは皆無です。
ところが現在では、クリスマス・イブですらショッピングモールは夕方まで営業しており、新年も当然のように午前中から開いています。もちろん通常に比べると短縮営業ではありますが、ほぼ全てのお店が営業をしています。
以前はスーパーすら閉まっているという現実を、不便だなと感じていました。しかし現在は逆に「あそこのモールはお正月から営業してるの!」と驚いてしまうこともあります。
ショッピングセンターが開いていれば、当然ながら買い物に出る人が出てきます。経済活動はまわりますが、エネルギー消費も増えますね。(SDGs7.8クリーンなエネルギー、働きがいと経済成長)
スウェーデンのように人口の少ない国で努力するより、もっと世界で多くのエネルギーを使用し、工場などを稼働させ、大気汚染の原因になっている国を取り締まった方がよいという意見もあります。
しかしながら、スウェーデンや日本のような、先進国に輸入されている多くの生活用品は、それらの国や途上国で安く生産され、輸出されているのが現実です。作る責任と使う責任を、今後どのように考えていくかは、大きな課題です。(SDGs12.つくる責任と使う責任)
だからこそ地球環境を守るのは、世界規模の問題であり、国と国・企業同士などが共同で取り組んでいく必要があるのです。(SDGs17.パートナーシップで目標を達成)
移民の多い多民族の国
スウェーデンは多くの移民を受け入れている国でもあります。先のシリアの紛争では、多くの移民の受け入れをしました。また、日本では「国際結婚」と呼ばれる婚姻も、広義では移民であり、世界中から大勢の外国人が結婚を機にスウェーデンへ移住しています。
ジェンダー問題に関して、スウェーデンは先進国と言われていますが、スウェーデンで暮らす全ての人が、同じ考えをもって生活しているわけではありません。
たとえば、欧米人など比較的ジェンダーを気にしない人もいれば、日本人のように郷に入ればの精神で容易に受け入れる人もいます。しかしながら、多くのイスラム系の移民のように、ジェンダー問題というものはそもそも「存在しない」ものの対象と考えている人も、たくさん暮らしています。
スウェーデンのように多くの移民の暮らす国では、すべての人々の考えかたを「スウェーデン風に」画一化できるわけではありません。また、移民世代・移民2世と3世の考え方には、当然ですが、世代間や育った国のバックグラウンドの違いから生まれるギャップもあります。
このように異なった文化的背景を持つ人々が、スウェーデンという国で、いかに互いを理解し、暮らしていくかも大きな課題です。(SDGs5.ジェンダーの平等の実現、10.人や国の不平等をなくす取り組み)
まとめ
日本で暮らしていると、おもにスウェーデンをはじめとする北欧諸国の「よい面」ばかりを見聞きする機会が多いのではないでしょうか。実際に住んでみると、スウェーデンの社会や制度の恩恵を受けありがたく感じる反面、日本と比べて住みにくく感じる面もあります。
スウェーデンに暮らしていると、「成熟した社会」という表現がぴったりだと思うことがあります。すべての社会的な取り組みや、環境を見据えた試み、人権に関する問題点は、人間が基本となっています。つまり、人々の考え方や社会が成熟をしない限り、SDGsに代表されるような広範囲にわたる社会的な取り組みは、達成不可能であるといえます。
それでは成熟した社会とは、どのような社会を指すのでしょうか。たとえば、他人を知ることや、違いを認め、平等意識を持つことです。社会や福祉制度が安定し、自由な選択肢が与えられることです。権利が正しく機能し、協調性や社会生活を保ちつつも、個人を表現できることです。
とくにヨーロッパのような地続きの国では、国境は有ってないようなものです。世界は小さくなり、地域差も狭まってきます。
自分たちに起きていることは、世界でも起きているという認識をあらたに、当事者意識を持って取り組むことが大切なのではないでしょうか。
※本文中にある給付金の月額および日本円換算は、2023年1月現在の現状および為替レートに基づいて換算されています。