オーストラリアの固有種・ブライデルネイルテールワラビーは、絶滅から約30年後に偶然生き残りが発見されたという特殊な歴史を持つ野生動物です。
オーストラリアでは、絶滅から復活したブライデルネイルテールワラビーの個体数を安定させるために色々な取り組みが行われてきました。
この記事では、ブライデルネイルテールワラビーの基本情報、歴史、繫殖計画、復活劇がオーストラリアに与えた影響についてご紹介していきます。
1937年に絶滅した動物・ブライデルネイルテールワラビー
ブライデルネイルテールワラビーは、カンガルーと同じ巨足類に分類される動物です。
オーストラリアの固有種となっており、オスは最大で体長1メートル、体重8キロ程度に育ちます。
体毛はグレーや淡い茶色で、黒と白のストライプ模様が入っているのが特徴です。
ブライデルネイルテールワラビーは、主にオーストラリア東部のクイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州で生息していました。
しかし、1937年を最後にブライデルネイルテールワラビーの目撃情報は途絶えてしまいます。
野生下・飼育可ともに生息している個体が長期間にわたって発見されなかったため、オーストラリアはブライデルネイルテールワラビーを1937年に絶滅したと認定しました。
ブライデルネイルテールワラビーはオーストラリアの絶滅動物図鑑などにも掲載されており、永久に地球から姿を消したと考えられていました。
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絶滅からの復活
絶滅したと考えられていたブライデルネイルテールワラビーですが、1973年にクイーンズランド州で生き延びている個体が発見されました。
偶然ブライデルネイルテールワラビーを目撃した業者が政府に連絡し、調査した後に正式にブライデルネイルテールワラビーの生き残りであることが判明します。
1937年に絶滅したと思われていたブライデルネイルテールワラビーは、絶滅から30年以上経って公式に復活を果たしたのです。
国立公園の設置
オーストラリア政府は、ブライデルネイルテールワラビーが発見された地域一帯を買収しました。
買収した土地はタウントン国立公園と名付けられ、ブライデルネイルテールワラビーの保護区に認定されました。
ブライデルネイルテールワラビーの個体数が脅かされた主な理由には、生息地の減少や天敵の存在が挙げられます。
そのため、ブライデルネイルワラビーをキツネや野犬から守るためにフェンスが設置されたほか、トンビ、ワシ、タカといった空からの侵略者がアクセスできないようにネットなども張られました。
天敵との接触を徹底的に遮断することで、オーストラリアは国立公園内での繫殖計画を実施・成功させたのです。
政府運営の動物園での繁殖
国立公園での繁殖が成功したことを受けて、その他のエリアでもブライデルネイルテールワラビーの繁殖計画を実施していきます。
オーストラリア・ゴールドコーストに位置するデイビッドフレー野生動物公園(David Fleay Wildlife Park)は、現在進行形でブライデルネイルテールワラビーの繁殖を行っている動物園です。
クイーンズランド州政府が管理する国営の施設であり、ブライデルネイルテールワラビーを見られる唯一の動物園として知られています。
尚、ブライデルネイルテールワラビーの繁殖をさまざまなエリアで行うメリットについては、以下で詳しくお話ししていきます。
繁殖地を増やすメリット①
繁殖地を増やすことにより、事故やトラブルが起きてもブライデルネイルテールワラビーが全滅するリスクを回避できます。
ブライデルネイルテールワラビーの繫殖計画を実施するクイーンズランド州は、サイクロン(台風)、山火事、洪水などの災害が頻繁に発生する地域です。
もし繁殖地のそばで災害が発生した場合、管理しているブライデルネイルテールワラビーが全滅してしまう可能性も考えられます。
そのため、オーストラリアはブライデルネイルテールワラビーの繁殖地を離れた場所に複数設置し、いざという時でも生存している個体を保持できるように努めているのです。
また、保護区内や動物園で生息しているブライデルネイルテールワラビーですが、フェンスやネットの破損が原因でエリア内に天敵が入り込む恐れもあります。
野犬、野良猫、キツネ、猛禽類といった動物がエリア内に侵入すると、多くのブライデルネイルテールワラビーが命を落としかねません。
災害と天敵の両方からブライデルネイルワラビーを守るために、オーストラリアでは複数箇所で飼育及び繁殖を進めています。
繁殖地を増やすメリット②
繁殖地を複数個所に設置することは、ブライデルネイルテールワラビーの遺伝子の多様性を保つ上でも非常に大切です。
一箇所で繁殖を進めると、エリア内での近親交配が進んでしまいます。健康な個体数が減ったり、遺伝子異常が見つかったりするリスクが高まるため、ブライデルネイルテールワラビーの繁殖地を複数に設置し、必要に応じてブライデルネイルテールワラビーの入れ替えを行っているのです。
異なる遺伝子のブライデルネイルテールワラビー同士を繁殖させることで、心身ともに健康な個体の増加を図っています。
現在は絶滅危惧種に認定
ブライデルネイルテールワラビーは、環境保護および生物多様性保全法(Environment Protection and Biodiversity Conservation Act 1999)という法律で守られています。
オーストラリアとクイーンズランド州政府による繫殖計画が進められた結果、2023年時におけるブライデルネイルワラビーのカテゴリーは「絶滅危惧」にまで回復しました。
生物の個体数をカテゴライズするにあたって、レッドリスト(IUCN Red List)では大きく7段階のレベルに分類します。
ブライデルネイルテールワラビーは、元々は最下層の「絶滅」に分類されていた動物です。
しかし、繁殖計画の実行に伴い、「野生下では絶滅」「絶滅寸前」の枠を超えて「絶滅危惧」にまで個体数が回復しました。
レッドリストでは中間地点にあたるレベルにまで回復したことから、ブライデルネイルテールワラビーの繫殖計画は着実に成功への道を歩んでいることが分かります。
ブライデルネイルテールワラビーの由来
ブライデルネイルテールワラビーは、元々は「フラッシュジャック」という愛称で親しまれてきました。
繫殖計画の名称としても使われたことがある「フラッシュジャック」ですが、現在ではブライデルネイルテールワラビーの呼び名が定着しています。
ブライデルネイルテールワラビーという名称の由来は、尻尾の先にあるケラチン質の突起です。
通常、カンガルー・ワラビーの尻尾の先は、犬や猫のように皮ふと体毛で覆われています。
しかし、ブライデルネイルテールワラビーの尻尾の先には、爪に似たケラチン質の突起が付いています。
尻尾(tail)の先から爪(nail)が飛び出ているように見えるため、ブライデルネイルテールワラビー(bridled nail-tail wallaby)という名称が定着しました。
復活劇が国に与えた影響とは?
ブライデルネイルテールワラビーの絶滅からの復活は、オーストラリアにとって大きな教訓となりました。
絶滅したはずの動物が野生下で発見されたことから、実はブライデルネイルテールワラビー以外にもひっそりと生き残っている野生動物がいるのではないかと考えられています。
野生動物の生息地である森、湖、熱帯雨林、海、湿地、草原などを守ることは、野生動物の個体数を守る上でとても大切です。
そのため、野生動物が絶滅したからといって自然保護を軽視するのではなく、ブライデルネイルテールワラビーのように人間から隠れながら生存している野生動物がいる可能性も忘れてはならないという認識が広まっています。
自然環境と野生動物の両方を保護するためには、長期的な目線で環境保全に努めることが必要不可欠であるとオーストラリアでは考えられているのです。
まとめ
一度は絶滅したはずのブライデルネイルテールワラビーですが、生き残った個体の繫殖計画により生息数の増加を実現させました。
日本においても、絶滅動物が人間から隠れて生息している可能性は十分に考えられます。
今残されている野生動物たちを守る上でも、自然環境を保護していくことは重要です。
現在、そして未来の自然と野生動物を失わないためにも、エコに優しい生活を始めてみてはいかがでしょうか?