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一般財団法人筑波麓仁会  筑波学園病院|「地域医療にイノベーションを」

一般財団法人筑波麓仁会 筑波学園病院 清水一夫さん インタビュー

清水 一夫

茨城県土浦市出身。1982年(昭和57年)財団法人(当時)筑波麓仁会入職。管理部門を歴任し、会計システムや自動受付機の導入で利便性を高め、業務効率化を推進する。診療情報管理士、簿記検定、宅地建物取引士、ボイラー技士など多様な資格取得と経験を生かし事業経営に尽力。2011年3月の東日本大震災時には近隣医療機関からの患者さんの受け入れや免震棟への避難誘導、計画停電に備えた各所設備整備、薬剤や医療機器・医療材料・食材の運搬など的確な判断で現場の指揮を執る。2015年財団理事に就任、一般財団法人への移行に伴う組織改編を行い現在に至る。

introduction

茨城県つくば市にて医療・介護事業を運営する一般財団法人筑波麓仁会。同法人が運営している筑波学園病院は、地域の基幹病院として24時間365日体制で地域の医療と福祉に貢献しています。

予防医療から救急医療までを提供する一企業として、SDGsに照らし合わせてどのような取り組みをしているのか、財団理事の清水さんにお話をお伺いしました。

総合的な医療・介護サービスを提供し、地域の健康を守る

–早速ですが、まずは筑波麓仁会について教えてください。

清水さん:

当財団は、筑波学園病院をはじめ、健診センター、介護事業、保育所、看護専門学校等を運営しています。地域の医療と介護、福祉が連携する拠点として、予防医療から救急医療まで総合的に地域の皆様の健康を守るよう努めています。

–筑波学園病院は、どのような特長があるのでしょうか。

清水さん:

筑波学園病院は、入院・手術が必要な患者さんを24時間体制で受け入れを行う二次救急指定病院です。27の診療科がある総合病院で、年間延20万人以上の外来患者さんが訪れています。

また、各分野において専門医療を提供する医療機関であることも特徴です。特にラグビーやサッカーの日本代表チームドクターが在籍しており、整形分野が強みです。また、県内唯一の男性不妊専門の外来があることも特徴の一つだと思います。

–救急受入病院であり、専門性も高い総合病院なんですね。施設や設備の特徴はありますか。

清水さん:

災害に強い施設を目指しており、1999年に北関東地区では初めて入院病棟に免震構造を取り入れ、地下1階地上9階建て高層棟を建築しました。東日本大震災の際には、国内最大規模の揺れにもかかわらず建物はほぼ無傷でした。

また、敷地内には自家井戸を保有しており非常用電源を整備していることから、断水時や停電時にも持続可能な水の供給を続けることができます。実際に東日本大震災や関東豪雨の際には透析を必要とする患者さんを中心に、県内外から多くの患者さんを受け入れることができました。

そのほか、2020年5月にリニューアルした新外来棟や既存棟(病棟)などの全館にWiFi環境も整備し、外来の待ち状況をスマートフォンで確認できるシステムも導入しています。どのような時でも患者さんや施設利用者に対して、安心・安全・快適に過ごしていただけるような工夫をしています。

2020年5月にリニューアルされた新外来棟のエントランスホール。災害時に多くの患者さんの受け入れやトリアージスペースとして活用できるようゆったりとした空間に

みんなのために、なかまのために、みらいのために

–SDGsについては、どのような取り組みをなさっているのでしょうか。

清水さん:

当財団として2022年4月にSDGs宣言書を作成しました。

経営計画を策定する中で、財団のビジョンや各事業計画とSDGsの目指すゴールやターゲットに照らし合わせてみると、進むべき方向性が合致していることが明確であった為、経営層から「組織としてSDGsに取り組むべき」との結論に至りました。

どのような取り組みができるのか検討する中で、まずは患者さんや施設利用者さん、職員などのステークホルダーに、当財団としてSDGsに賛同する旨、SDGsのゴールと紐づく取り組みについて周知することから始めました。

–SDGs宣言書の内容について、詳しく教えてください。

清水さん:

患者さんをはじめ地域を対象として「みんなのために(地域医療・介護への貢献)」、職員を対象として「なかまのために(働きがいのある職場づくり)」そして、私たちの生活の土台となる地球環境を対象に「みらいのために(環境への配慮)」という3つの軸で重点的な取り組みテーマを設定しました。

各テーマに対して、現在当財団で取り組んでいることと、対象となるSDGsのゴールをマッピングしてまとめたものが、以下の「SDGs宣言書」となります。

さらに、同年6月には、「つくばSDGsパートナーズ」にも加入しました。

実際にSDGsを事業運営に取り込み、進めていくためには地域との連携が必要です。医療・介護分野において、これまでも地域連携に取り組んで参りましたが、特に環境やそのほかの地域貢献の分野における連携を深める目的で加入させていただきました。

–宣言書を発行してから、ステークホルダーや職員の方に変化はありましたか。

清水さん:

職員に対して、組織の中長期的な取り組みについて体系的に発信できたことで、意識づけができたと感じています。宣言書の発行後、職員がSDGsホイールバッジをつけて業務をしていることから、患者さんや利用者さんからSDGsについて声を掛けられることも多くなったようです。

また、宣言書があることで双方向のコミュニケーションにも役立っていると感じます。SDGsについて知らない方に内容を説明したり、当院の取り組みを周知することで幅広く啓蒙できるメリットを感じます。

宣言書を作成するプロセスで当財団の立ち位置を明確にできましたし、明文化することで今後何をしなければいけないかなどの課題も見え、進むべきビジョンも明確になりました。

1.みんなのために 〜新しい医療の形に挑戦し、地域に貢献〜

–重点取り組みテーマの1つである「地域医療・介護への貢献」の分野で、特徴的な取り組みはありますか。

清水さん:

筑波学園病院がつくばスーパーサイエンスシティ構想の推進主体である「つくばスマートシティ協議会」の実証実験に参画していることが挙げられます。

現在、茨城県では「茨城県地域医療構想」という医療提供の体制構築を進めています。深刻な医師不足を背景に、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、今後増大する高齢患者の医療需要に対応すべく患者さんの状態に則した医療を提供し、県内各地域の中で完結できるよう医療提供体制の構築をめざすものです。

地域医療構想の具現化が進む中、地域における当院の立ち位置を明確にし、地域との連携を深め適切な医療サービスの提供が今後さらに求められると感じ、近隣医療機関と共に実証実験への参加を決めました。

–つくばスマートシティ協議会が進める「つくば医療MaaS(マース)」の実証実験について教えてください。

清水さん:

同協議会の取り組みの中で、地域の新たな試みとして高齢者や障がい者が安全・快適に移動できる街づくりに向け次世代交通サービス「つくば医療MaaS(マース)」の運用を目指しています。

2022年2月、オンデマンドタクシーを使った実証実験が当院で行われました。患者さんが病院に向かうタクシーに搭載されたタブレットで顔認証を行い、本人確認と受付を車内で済ませ、電子カルテとの連携を図ることができるシステムで、受付時の事務手続きを効率化するなど一定の成果を挙げることができました。

「つくば医療MaaS(マース)」で、患者さんが外来受付時の到着確認を行う様子

–新しい技術を活用した面白い取り組みですね。実験の結果はいかがでしたか。

清水さん:

三密回避による患者さんや職員の感染防止だけではなく、面会時の入退室や救急搬送時の本人確認や個人情報の共有でも使えるのではないか、という新しい「気づき」もありました。アイディアを広げていくことで、患者さんの負担軽減はもとより職員の業務負担の改善にも繋がっていくと感じています。 

2.なかまのために 〜働きやすさと働きがいの追求〜

–続いて、2つ目のテーマである「働きがいのある職場づくり」についてはいかがですか。

清水さん:

医師の働き方改革に関する法律が、2024年4月に施行される予定になっています。そのため当院では、ワーキンググループを立ち上げて有給休暇の取得向上や時間外勤務の削減等の改善計画を立て、改革の準備をしているところです。

また、全職員を対象とした人事制度改革の見直しや医療スタッフの業務拡大などを検討し、働きやすく働きがいのある職場を目指しています。

「働きがいのある職場」を目指すためには、適正な労働時間だけではなく、勤務環境の改善も大事なポイントです。環境整備の一つとして医師の事務作業や休憩に使えるよう、プライベートに配慮した個人ブースを館内に設置しました。また既存棟の改修を行い、当直室やミーティングルーム、休憩室の拡充を図っています。

そのほか、福利厚生にも力を入れています。医療や介護の認定資格の取得支援制度として取得費用の補助がありますし、研修費等の補助も充実していると思います。

プライベートに配慮した個人ブース
眺望のひらけた洗濯室を改修し、解放感のあるラウンジとして憩いの場に

3.みらいのために 〜人にも環境にも優しい病院に〜

–最後に、環境についてはどのような取り組みをなさっているのでしょうか。

清水さん:

院内の使用電力の削減としてLED照明計画の推進をしています。前述の新外来棟では棟内全ての照明をLED化し、既存棟においても順次切り替え予定です。そのほか、環境に優しい空調エネルギーの導入や屋上に太陽光パネルを設置した再生可能エネルギーによる電力供給も検討しています。

目や環境に優しいLED照明を採用した新外来棟の待合フロア

また、フードロス削減にも取り組んでいます。入院食では随時メニュー改善を行うことで、食べ残しを減らす努力をしています。また職員食堂でも月単位で選択食を予約するオーダーシステムを導入し、事前に注文数を把握することで、1食単位で必要な分だけ材料を用意するなど、工夫を凝らしながら取り組みを続けています。

                                職員数に応じて昼食予約をシステム管理し、事前に注文数を把握している

医療の質以外でも「選ばれる」病院であり続けるために

–今後の展望をお願いします。

清水さん:

今後は職員一人一人がやりがいをもって働き続けられる職場環境をさらに整備し、地域の医師不足と医療需要への対応ができるよう、国や県が推進する地域医療構想の具現化に貢献していきます。

新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、病院は患者さんから「選ばれる」フェーズに入ってきたと感じています。患者さんの目線に立って適切で有益な情報発信を行い、職員一人一人のモチベーションアップにより医療、介護の質を向上させることで、どのような世代の方でも安心して医療を受けられる信頼のある病院を目指していきたいです。

–貴重なお話をありがとうございました。

関連リンク

筑波学園病院:https://www.gakuen-hospital.or.jp/index.html

SDGs宣言書:https://gakuen-hospital.or.jp/data/media/gakuen-hospital/index/img/sdgs.pdf

つくばSDGsパートナーズ:https://www.tsukuba-sdgs.jp/index.html