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ワークシェアリングとは?メリット・デメリットを事例をもとに解説!

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近年、世界中でワークシェアリングという働き方が再び注目されるようになっています。かつては失業と長時間労働対策の代名詞だったこの方法は、ニューノーマルの時期を経て新しい働き方のひとつとされています。ワークシェアリングは、本当にこれからの働き方の主流になるのでしょうか。

ワークシェアリングとは

ワークシェアリングとは、一人当たりの労働時間を短縮して雇用を増やし、仕事を分け合うことを言います。日本においては、厚生労働省の定義によると

「雇用機会、労働時間、賃金という3つの要素の組み合わせを変化させることを通じて、一定の雇用量を、より多くの労働者の間で分かち合うこと」

としています。

ワークシェアリングが生まれた背景

ワークシェアリングという考え方は意外と古く、その背景には経済不況による雇用の悪化失業者の増加があります。

1960〜70年代にドイツで始まった労働時間短縮とシェアによる雇用維持を求める動きは、90年代に入ってフォルクスワーゲン社でのワークシェアリング導入につながります。

また、1980年代に高い失業率と危機的な経済不況に見舞われていたオランダでは、政府・労働者・事業者の話し合いによるワッセナー合意とワークシェアリングの導入により、失業率の大幅な改善を成し遂げました。

日本での動き

日本でも1990年代後半に高い失業率が問題となりました。それに加え長時間労働に代表される日本の労働環境もまた大きな社会問題となり、ワークライフバランスの改善を目指すべきだという声が高まっていきます。

こうした流れを受け、2002年に「ワークシェアリングに関する政労使合意」が発表されました。その後の景気悪化に伴い、2009年には改めて日本型ワークシェアリング推進に向けた合意文書が発表されています。

ワークシェアリングの種類

ワークシェアリングは、その目的によっていくつかの種類に分けられます。日本で行われているワークシェアリングで分類されるのは、以下の4つの種類です。

雇用維持型(緊急避難型)

ワークシェアリングの中でも昔からよく行われた方法です。一時的な景気悪化を乗り越える緊急措置として、従業員1人当たりの労働時間を短縮し、その分の賃金を減らすことで社内の雇用を維持する方法です。最近ではコロナ禍に対応した一時休業や短縮営業などもこのやり方に含まれます。

雇用維持型(中高年対策型)

主に定年退職後の中高年層を短い就業時間で雇用するものです。現在政府は高齢者雇用安定法によって、事業者に70歳までの就業機会確保のための選択肢を整備する努力義務を課しています。こうした措置への必要性もあり、取り入れられているのが中高年対策型のワークシェアリングです。

雇用創出型

この方法は、失業者への就業機会の提供を目的として、国または企業が労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与えるものです。ただ、現在の日本ではこうした形のワークシェアリングはあまり多くはありません。

多様就業型

この方法は主に正社員が対象であり、時短勤務や勤務日数の調整など働く時間帯を多様化し、より多くの労働者に雇用機会を与えるものです。育児や介護、あるいは本人の健康面の問題など、さまざまな理由でフルタイムが難しい労働者のニーズを満たす方法として、中長期のスパンで取り組むことが求められています。

なぜ今ワークシェアリングが注目されているのか

前述のように、ワークシェアリング自体は決して新しいものではありません。

2000年代からワークシェアリング導入に向けた政策が掲げられ、採用する企業も増えていったものの、近年では表立って話題に上がることもなくなっていきました。

しかし現在、再びワークシェアリングが注目されるようになっています。

働き方改革の推進

現在ワークシェアリングが注目される背景には、政府が推進している「働き方改革」があります。

これは2019年から施行した改正労働基準法に盛り込まれたもので、働く人が自分の事情に合わせた多様で柔軟な働き方を選びやすくするための改革です。この改革では

  • 時間外労働の規制
  • 年次有給休暇の確実な取得
  • 月60時間以上の残業代率の引き上げ
  • フレックスタイム制の拡充

などが法で明文化されました。こうした働き方改革の一環としてワークシェアリングが再び取り上げられるようになっています。

働き方の多様化

働き方改革の課題である働く人のニーズの多様化とワークライフバランスの充実も、ワークシェアリングが見直されている理由です。

日本ではワークシェアリングの推進が唱えられたにも関わらず、長時間労働や過労死の問題、育児や介護、家庭と仕事の両立を困難にする就労形態などは一向に改善されませんでした。

近年、こうした働き方に異を唱え、時間も場所もより自分に合った働き方を望む人、仕事とプライベートの良好な関係を模索するワークライフバランスを重視する人が増えてきています。

こうした背景から、より多様で実態に即したワークシェアリングが今求められているのです。

少子高齢化による労働人口減少対策

ワークシェアリングが求められる切実な問題としては、少子高齢化に伴う日本の労働人口(生産年齢人口)の急減です。国内の全人口に対する生産年齢人口の人数と比率は

  • 2021年:7,450万人/59.4%
  • 2030年:6,875万人/57.7%
  • 2050年:5,275万人/51.7%

にまで減少し、逆に75歳以上の高齢者が増えていきます。当然あらゆる産業で人手不足が深刻になっていくので、不足分を補うためには65歳以上でも働ける人には働いてもらわなければ、社会が成り立ちません。中高年の雇用維持型ワークシェアリングはもはや不可欠といっていいでしょう。

新型コロナウィルス禍による雇用状況の悪化

もうひとつ背景にあるのが、新型コロナウィルスのパンデミックによる雇用状況の悪化です。約3年にも及ぶコロナ禍で世界中の経済活動はストップし、企業は大幅な収益悪化を強いられた結果、多くの雇用が失われました。この危機を乗り切るために採られた手段が、緊急避難型の雇用維持型ワークシェアリングでした。

ワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングは、事業者にも労働者にもさまざまなメリットがあります。

それぞれの立場から見ていきましょう。

事業者のメリット

  • 雇用を維持しながら需要の変動に合わせた雇用体制を構築できる
  • 熟練労働者の雇用を維持して新しい従業員の教育や訓練のコストを削減できる
  • 従業員の負担軽減による作業効率の向上
  • 多様な人材の確保

など、ワークシェアリングを効果的に活用することで、従業員が働きやすく、企業にとっても生産性の高い環境がつくりやすくなります。

労働者のメリット

  • 好不況に関わらず雇用が保障される
  • 失業による技能の喪失やキャリアの空白を回避できる
  • ワークライフバランスの改善による心身の健康
  • 会社以外での活動を充実させられる

労働者が受ける恩恵で大きいのは、長時間労働から解放されることです。空いた時間を介護や育児、趣味や学習などに充てられるだけでなく、ストレスが軽減されることで、仕事へのモチベーションが高まるという好循環も期待できます。

ワークシェアリングのデメリット

一方、ワークシェアリングのデメリットには以下のようなものがあります。

事業者のデメリット

  • 人事管理での調整労力が求められる
  • 人材採用や手続きなどの労務コスト増
  • 業務のシェアや引き継ぎによる生産性の低下

ワークシェアリングによって雇用者が増えれば、その分社会保険料や雇用保険などを負担しなければなりません。採用に伴う人事面の負担や、新しい雇用者への教育コストなどもかかります。

また、一人で行っていた仕事を複数でシェアする場合、引き継ぎや業務の進め方、留意点などのすり合わせのために多くの時間がかかります。これは日本企業によく見られる属人性の高い働き方によって起こる問題です。

労働者のデメリット

ワークシェアリングによって労働者が最も困るのは賃金の低下です。

ごく単純に言えば、1日8時間勤務から6時間に労働時間を減らすことで賃金は25%減ります。

物価上昇に比べて実質賃金が低下しつつある日本の現状では、給与の減少は生活の基盤に影響してくる重要な問題です。

ワークシェアリングに取り組む企業事例

ここでは、ワークシェアリングに取り組む3社の例を紹介します。

国内事例①サイボウズ

今や多くの組織で不可欠なグループウェア開発。その代表的な企業がサイボウズです。

創業時の同社は、ベンチャー企業にありがちな長時間労働で古い価値観を払拭できず、28%という高い離職率に悩まされていました。また社員が全体的に若く、女性の割合が多いこともあり、ワークライフバランスの必要性に迫られます。

2007年に、同社は選択型人事制度を導入し、以下の3通りの働き方を選べる制度を設けます。

  • PS2:時間に関係なく働く仕事重視型
  • PS:少しの残業はできるワークライフバランス型
  • DS:定時または短時間で働くライフ重視型

同社ではここで短時間正社員制度を取り入れ、ワークシェアリングを進めたことで優秀な社員の離職を防ぎ、女性社員の離職率も大幅に改善しました。またこれらの選択は毎年ライフステージの変化によって自由に変更ができるのもユニークな点です。

現在では、社員一人ひとりが希望する働き方を自由記述で申告できることで、100人100通りの働き方を可能にしています。

国内事例②株式会社エー・ピーカンパニー&まいばすけっと株式会社

エー・ピーカンパニーは「塚田牧場」などの飲食店を運営する企業で、コロナ禍により多くの店舗で休業を余儀なくされました。従業員の雇用を守るために同社が行ったのが、首都圏を中心とするイオングループのミニスーパーマーケットチェーン、まいばすけっとへの従業員の出向でした。

まいばすけっと側も留学生や学生、主婦アルバイトをコロナ禍で確保できず、人手不足に悩んでいたことから、全く無関係の企業同士であったにも関わらず受け入れを決めます。

この異業種他社同士のワークシェアリングによって、雇用の安定だけではなく、人材交流や仕事の進め方に対する新しい気づきを得られるなど、両社にとって大きなメリットがもたらされました。

海外事例①フォード

自動車メーカーのフォード社は、2023年にヨーロッパでJobShare Connectアプリを導入し、ワークシェアリングへの取り組みを開始しました。

従業員は、作成したプロフィールを使って社内外で自分の仕事を分担してくれる人を検索できます。

相手が見つかったら連絡を取り、作業量や勤務時間などの条件を相談して仕事を分け合う仕組みです。

このシステムは時給制の製造職を除くすべての仕事に適用され、出産後にパートタイム勤務を希望する人、育児に力を入れたい人などを結び付け、従業員の維持と新しい労働力の獲得に役立っています。

ワークシェアリングを導入する際のポイント

ワークシェアリングの導入で生産性の向上と働きやすい環境を両立させるためには、さまざまな点に注意して取り組む必要があります。

ポイント①業務内容や流れを明確にする

ワークシェアリングで生産性が低下する原因のひとつは、前述の通り複数人で業務を進めることで引き継ぎや話し合いが煩雑になり、本来の作業が滞ることです。こうした事態を防ぐために

  • 業務フローの作成や詳細なマニュアル化
  • 必要な時間、コスト、重要度や難易度の把握
  • ICT技術で効率化が図れる業務を検討する

などの取り組みを行うことが大事です。日本のフルタイムの正社員は、メンバーシップ型雇用に基づいた、働く範囲、任される範囲が明確でないことが、働き方改革が進まない要因ともなっています。ワークシェアリングを進めるためには、曖昧で属人的になりやすい日本の会社の働き方を改善させることが大事です。

ポイント②時間と賃金に関する十分な検討と合意

ワークシェアリングは、労働時間と賃金のバランスに関する事業者と労働者双方の合意が不可欠です。

日本では正社員のほとんどが月給制で、時間を考慮した賃金設定がされていません。特に作業の成果が定量化しにくいホワイトカラーでは、時間を考慮した賃金設定はさらに困難になり、ワークシェアリングを進める上での障害となります。

職種内容による差などを考慮して基準を設定し、労使間で十分に検討を行い、双方が納得できる形で進めていかなければ、ワークシェアリングは成功にはつながりません。

ポイント③同一労働同一賃金の遵守

上記と関連して、パートタイム社員とフルタイム社員との間、正社員と非正規社員との間の処遇の仕方や水準についても公平なバランスが必要となります。

2021年から、働き方改革の一環として「同一労働同一賃金」がすべての企業に努力義務として課されるようになりました。ワークシェアリングに必要な明確な賃金設定の基準を定めるには、同一労働同一賃金の遵守がより重要性を増してくることは間違いありません。

ワークシェアリングに関してよくある疑問

ワークシェアリングについては、雇用だけでなく、収入面や家庭との両立など、いくつかの点で不安や疑問も少なくありません。

給料はどうなる?

ワークシェアリングでは、労働時間の削減に伴う賃金減額は避けられない事案です。

一時休業や労働時間短縮などによる賃金減額については、雇用調整助成金ワークシェアリングに係る緊急雇用創出特別奨励金などで助成されるケースもあります。

ただし適用には条件があり、すべてのワークシェアリングで補助の対象になるわけではありません。

繰り返しになりますが、ワークシェアリングでは労使間での時間と賃金の話し合いと合意は不可欠です。自分の求める働き方、希望する給料の額、折り合いがつかない場合には副業や兼業の可否など、双方ができる限り歩み寄れる話し合いができるのが理想です。

失敗例はある?

どの企業がワークシェアリングに失敗したか、という具体的な例ははっきりしません。

ただ、ワークシェアリングが日本の企業で導入された当初は、ワークシェアリングというものに対する定義や考え方の違いによって、導入した経営者が期待したような結果にならなかった例もあります。

それらの例で見られた傾向としては

  • 賃下げによる雇用維持」に重点を置き過ぎたこと
  • 役職者や中堅の男性社員を避け、女性や高齢社員を賃金カットの対象にしたこと
  • 非正規を正規にするのではなく、正規を非正規に下げていく

などがありました。これは果たして昔の話と言えるでしょうか。今や労働者に占める非正規の割合が4割にも上り、その多くがワーキングプアとなっている現状を見ると、ワークシェアリングの導入に失敗している企業は、意外と少なくないのかもしれません。

ワークシェアリングとSDGs

ワークシェアリングは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成とも関連してきます。

対象となる達成目標は、目標8「働きがいも 経済成長もです。

目標8「働きがいも 経済成長も」

この目標8では「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」ことを目指しています。

ワークシェアリングは、より幅広い層が仕事を分け合い、雇用と働きやすい環境を保障することで

  • ターゲット8.5「若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する」
  • ターゲット8.8「すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」

の実現を目指す取り組みであると言えます。

まとめ

ワークシェアリングは、雇用の維持とワークライフバランスの両立を目指した、古くて新しい働き方改革と言えます。その考え方や運用にはいくつかの種類があり、採用する企業の事情によっても変わってくるため、さまざまな効果も問題もあります。それでも、労働力も資源の分配も限られてくるこれからの日本にとっては、労使や政府が知恵を絞り、互いの立場を尊重し合ってより一層ワークシェアリングを進めることが必要になってくるでしょう。

参考文献・資料
日本型ワークシェアリングのしくみ-30分でわかる!:島田 隆司/中経出版 2009年
ワークシェアリングの実像-雇用の分配か、分断か:竹信 三恵子/岩波書店  2002年
「働き方改革」の不都合な真実:常見陽平,おおたとしまさ/イースト・プレス 2017年
ワークシェアリングとは? オランダの事例やメリット・デメリットについて紹介 – さくマガ (sakura.ad.jp)
「働き方改革」の実現に向けて-政省令告示・通達 – 厚生労働省
働き方改革関連法のあらまし (改正労働基準法編) – 厚生労働省
高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保 – 厚生労働省
令和4年版 情報通信白書|生産年齢人口の減少 – 総務省
ワークシェアリングに関する調査研究報告書 – 厚生労働省
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